リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
黄金崎、馬ロックを経由し、今日のメインジオスポットとも言える堂ヶ島に辿り着いた野クル。見る角度によって三つや四つに島の数が変わることから、三四郎島とも呼ばれる島々だ。
堂ヶ島に近付くに連れて、『トンボロ』という魅力的な響きに釣られてか、テンションが見る見るあがり、目を輝かせていくあかり。
あおい曰く、早朝に地元の料理人が船で食材を持って島に渡り、干潮で島への道が開けている間だけ屋台を開く。その屋台で出される料理こそ、三四郎島のトンボロと呼ばれる西伊豆B級グルメなのだとか。
「今食べに行くで!!待っとってなー!トンボロー!!」
「たのしみやなー」
『どーすんの?コレ……』
あおいの妙に練られた偽トンボロのエピソードに、最早引き返せないところまでトンボロへの期待感でウッハウハなあかり。トンボロの真実を知ったとき、一波乱起きるであろうことは想像に難くない……。
まだ少し到着が早かったのか、島への道が出来ていない様子なので、ベンチに座ってのんびりと潮が引くのを待つメンバー。
待つこと十数分……。
「ねぇ?だいぶ潮が引いてきたんじゃない?」
恵那が到着時に撮影した写真と照らし合わせて、今の引き具合を比べると、確かに写真よりも陸地の部分が大きくなっていた。
「そろそろ渡れるんやない!?アキちゃん!」
「そうだな!行くか!」
「真ん中とかまだ道が出来てないぞ?」
「でもぼちぼち渡り始めとるな〜」
「皆トンボロ食べるために渡り始めたんや!うちらも急がんと売り切れて食べ損なってまうで〜!!」
「行くぞ〜!お前ら〜!」
「「うぉぉぉお!!」」
「あいつら、マジで元気が有り余ってるな……」
「もう、しょうがないなあ〜」
何故かトンボロの真実を知るはずの千明もあかりのテンションに同調して一緒に駆け出して行く。こう言う時の彼女の謎に高いテンションは、もはや一種の才能と言っても過言ではない……かもしれない。
「ごめんなさい、近くの駐車場探すの手間取ってしまって」
よほど駐車場が混んでたのか、疲労困憊と行った様子で残ったメンバーのもとへ合流した鳥羽先生。辿り着くなり、ゆったりとベンチに座り込む。
「先生、お疲れ様です。今からトンボロ渡ってきますけど、先生はどうされますか?」
「私はここで見てますから、気を付けて行ってきてください」
「わかりました」
と、鳥羽先生と別れ、元気組二人に遅れて出発となった5人。
歩いて渡島出来る瀬に近付くに連れて、ゴロゴロとした岩の足場となり、とても不安定になっていく。
「めっちゃ歩きづらい……」
「ホントだねっ……!」
そんな岩を物ともせず、テンション爆上げな二人は瀬を走り抜けていくのが見える。
「二人共!走るとコケるで!!」
心配したあおいが二人を制そうとするが、手綱の外れた暴れ馬の如く駆け抜けていく。
「ホント、歩いてても転けそうになっ……わわっ!」
不安定な岩を踏んでしまったのか、バランスを崩すなでしこ。
後ろに仰け反り、このままでは硬い岩場に強かに尻餅をつくのは明白だ。下手をすれば怪我をしかねない。
だが……
「大丈夫か?」
その手を掴んで転ばぬように引き止める存在。
「あ、ありがと……ケン君」
「うむ、気をつけ給えよ、各務原隊員」
「お、おすっ」
「なんなら、手を繋いで歩く?」
「お、おぉっす……!」
少し桃色空間を形成し始めた二人。
その始終を見ていた三人は少し慣れてきたのか……
「いや〜、常夏やな〜」
「うんうん、お熱いですなぁ〜」
「ま、これくらいなら勘弁してやるか」
あおいと恵那に至っては、少し黒さの入った含み笑いである。
リンはというと、TPOを弁えずイチャコラし始めたら制止する腹積もりらしく、手を繋ぐくらいなら『まぁヨシ!』ということらしい。
「なぁアキ」
ようやく暴走二人組に追いついた矢先、あおいは口を開いた。
「流石に渡るの早かったんやない?めっちゃ水浸しやん……」
皆が送る視線の先。そこには未だ海水に浸った渡島への道。何人かの観光客は靴を脱いで海水に浸りながら渡り歩いているが、3月上旬とはいえまだまだ寒く、それに伴って海水温度も低い。流石に素足を着けて渡島するのは憚られる。
「そうだな〜、仕方ない……もう少し待って……」
「わ〜!あはは〜!!」
「って!もう行ってるし!!」
小学5年生犬山あかり。流石小学生のテンションというべきか、既に靴を脱いで未だ浅瀬である道を渡り歩いていた。
流石に最年少たるあかり一人を行かせるわけにもいかず、靴に加えて靴下やタイツも脱ぎ、ぞろぞろと続く高校生チーム。
「うぅ……まさか3月に海に入ることになるとは……!」
「流石に冷たいねぃ……!」
「サンダル持ってくればよかったわ〜……!」
「それな〜……!」
「ここではコケそうになるなよ、なでしこ……流石に両手塞がってるからな……」
「だ、大丈夫だよぅ……」
足を海に着け、予想以上の冷たさに身震いしながら渡り歩く。
途中、犬を抱いて渡る観光客に、人知れず恵那が少しチクワロスを発症仕掛けていたのは置いておくとして……
「到着〜!!トンボロの屋台やっとるかな〜!?」
冷たい海水の試練を乗り越え、ようやく陸に最寄りの三四郎島である象島へと渡りきることができたメンバー。着くやいなや、あちこちを駆け、目的のトンボロの屋台を探し回るあかり。
……しかし、
「あれ……?どこにも屋台あれへんで?」
そもそもB級グルメのトンボロなどないので、当然その屋台もあるはずもなく、探せども探せども見つからず、テンションが下がっていくあかり。
「あ、あかりちゃん?トンボロっていうのは食べ物じゃなくて、引き潮で道ができる自然現象のことなんだよ?」
「……!?!?」
犬山あかり、人生十一年最大の絶望を味わい、その顔は見る見るうちに青ざめていく。
「嘘やったんやな!あおいちゃん!!」
そしてこうして癇癪を起こすのは、小学生として至極当然なのだろう……。
「すまん……アンタがあまりにもトンボロを楽しみにしとんの見とったら、言い出せんかったんよ……!」
どこぞのドラマの追い詰められた犯人のごとく、海岸線の岩場で自供を始めるあおい。
「けどなあかり。これはキャベツとレタスと同じなんや……!」
「キャベツとレタス……?」
あおいの切り出した例えに、傍から見ていたリンが言葉にし、そして他のメンバーも疑問符を浮かべる。
「子供の頃、キャベツとレタスの区別が出来ひん子っておるやろ?せやけど大人になったらそれも無くなる。トンボロもそう……!トンボロが食べ物やないとわかるようになるなんて……!あかり!あんたも大人になったんやなぁ……!」
「大人にならんでえぇからトンボロ食べたい!」
「なんだ……この姉妹」
妹の成長を喜ぶ風な話の流れに持っていくあおい。だがしかし、そんなものは関係なく、子供というものは花より団子であって、あかりには通用せずに癇癪は収まらない。
結局、埋め合わせ兼ご機嫌取りとして焼き鳥を後に食べさせることになるのは余談である。
「でも凄いよね、海から道が現れて一時間だけ渡れるなんてさ」
「うむ。大自然の不思議ってやつだな」
ゴロゴロした足場を歩きながら、トンボロという自然現象の存在に感動するリンと恵那。
「グルグル先生によると、こう言う浜の両側からの波によって出来る海岸を砂州って言うらしい。有名所だと、京都の天橋立とか、博多の海の中道もそうらしいってさ」
「へぇ……一度見に行きたいなぁ……!」
「そのへんはいずれ、な。大人になってからでも遅くはないさ」
「そだねぃ。その時は、一緒に行けたらいいなっ」
「行けるさ。皆と一緒にさ」
「ん、皆ともだけど……ケン君と二人でも……」
「それはまぁ……そうだけど……」
「おいバカップル。そろそろ戻らないと、ズボンまでズブ濡れで渡ることになるぞ」
二人だけの世界に入っていたところをリンに引き戻される。彼女に言われて見れば、他のメンバーはボチボチと渡り戻ろうとトンボロへ向かっていくのが見えた。
「二人で仲良くするのはいいけど、置いてかれないようにしろよ」
そう言い残して先に歩いていくリンを追うように、二人もゆっくりと戻りの道を歩いていく。
「えへへ……怒られちゃったね……」
「ま、リンの言うことも尤もだ。気を付けるか」
「うんっ……でもケン君」
そう呼び止めたなでしこは、そっと再びケンの手を掴み、しっかりと握りしめる。
「帰りもコケないように、手を離さないでねっ」
「……わかったわかった」
きっといつか
二人で行きたい
そんな未来へのほのかな願望を胸に
皆に遅れて二人は三四郎島を後にした。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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