リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
『買い出しよし!!』
三四郎島を後にし、道中のスーパーで本日の夕飯の材料買い出しを終え、いざキャンプ場へ!となった時。
「先生」
ラフェスタの運転席へ乗り込もうとする鳥羽先生をリンが呼び止める。
「キャンプ場への道、私が前を走っても良いですか?」
「あぁ。志摩さん、西伊豆スカイラインを走りたいって言ってましたもんね」
年越しキャンプでやりたいこととして西伊豆スカイラインを走ることが上っていたが、年末年始のごった返しを危惧して泣く泣く断念したあの日。
約2ヶ月の時を経て、彼女の願望が成就の瞬間を迎えようとしている。
「わかりました。けど脇見運転になって事故をしないようにしてくださいね?」
「はいっ!」
「あれ?ケン君は前じゃなくていいの?」
「言い出しっぺはリンだからな。今回俺は殿を務めるよ」
なんだかんだでリンが走る楽しさをしっかりと実感して来ていることに、数日とはいえ先達として嬉しいもので。
そんな兄の心を知ってか知らずか、口角を上げて足取り軽くビーノへ向かうリン。
「説明しよう!志摩リンはビーノと合体することにより志摩リン完全体となって、時速30kmで高速移動が可能となるのだ!」
「いや、スクーターに乗ったら誰でもそうやろ」
「ちなみに!シマケンはバイクと合体することにより、シマケンデストロイモードとなるのだ!」
「人を赤い光を残して知覚的に追えない速度を出せるかのような存在にする命名やめろや。あと物騒」
「むっふふ……シマケン、お前も中々引き出しが多いじゃんか」
「合わせて突っ込む立場にもなれよ」
とか文句を言いつつも、こんな風に千明に突っ込むのも案外悪くなく。
なんだかんだで野クル内においてボケ役の千明時々なでしこ、あおいとケンはツッコミの構図が完成していたりする。時折ボケとツッコミが逆転するが。
と、言うわけで
今回キャンプ場へは、リンの原付き→ラフェスタ→ケンのバイクという順で走行となった。
思えば集団走行ではリンが先だって走ることはこれまでなく、なんだかんだでケンが前だったり、車組が前だった。そしてケンも殿はこれが初めてのこと。
(これも一つの経験かねぇ)
これからきっと何台かで走り、そして先頭や殿を務めることも出て来るだろう。先ゆく二台を追いながら、苦笑いを浮かべてGSXの速度を上げていく。
いまだかつてリンと法定速度で走ったことはないが、近い将来には叶う願いだ。その時はきっと、静岡で出会った彼女も共にいるかも知れない。
達麿山の高原へ至るために急な上りとカーブが繰り返され、リンの速度でなくとも自然と低速で走ることになる。
エンストせぬよう、クラッチやアクセル巧みに操り、何とか2台から突き放されぬように付いていく。今までここまで急ではないにせよ、坂道を登ることは何度があったが、ここは今までよりもかなりきついのを嫌でも実感する。こういうときにオートマチック車は便利なものだ。
何とか置いていかれずに走行して、少し平坦な道を走るさなかに前を見れば、あかりと席を変わってもらったのか、ラフェスタの後部座席の窓からなでしこがこちらを心配そうに覗いていた。
どうやら傍から見たら、かなり必死な様相だったようで。確かに前に置いていかれぬように走らせることに精一杯で、窓を見るなどという余裕もなかった程だ。
(ったく、俺もまだまだ下手っぴだな)
上手いバイク乗りならば、こんな坂道やカーブですら楽しめてしまうのだろうが、悲しいかな未だ乗り始めて半年未満のケンにはそんな余裕はなかった。
だが、だからといってなでしこを心配させたままというのもよろしくない。少しだけ余裕が生まれたことで左手でなでしこに手を振ってみると、表情は変えぬまま手を振り返してくれた。
そのさなか、隣に座っていたあおいに声をかけられ、左方向に視線を向けたなでしこ。何かに驚き、大きく口を開いたかと思えば、直様ケンにジェスチャーで左を指差して何かを伝えようとしてくる。
(……なんだ?左になにかあるの……か……?)
視線を移して、ケンは息を呑んだ。
木もなく、背丈の低い草が茂る道沿いの下り坂。
その先に見えるのは、西伊豆と共に広がる駿河湾を望む絶景。視界の中には、今まで走ってきた道も含まれ、ここまで登ってきたのだという達成感とともに、空の上を走っていると思わせるかのような開放感。
「すっ……げぇ……!」
それは思わず声に出してしまうほどに。
『だな。お父さん達も……バイクでここを走ったんだろうな……』
インカムを付けていたことを忘れていたことで、先頭を走るリンから応答があった。
なんだかんだでリンも両親達が走っていたスカイラインを自身が走ることに思うところがあったらしい。
「そう思うと、なんか感慨深いな。先祖の足跡を辿ってるみたいでさ」
『先祖っていうほど代跨いでないだろ。……でも、すっげぇ寒いけど、来てよかったな』
「だな。坂道は大変だったけど」
『そうなの?カーブが急以外は余裕だったけど……』
「畜生め……」
絶対にリンがマニュアルに乗り始めたら、もう一回ここに来る。彼の中で謎の決意が芽生えたのは本人だけが知るところである。
「え?みんな、もう夕飯作り始めるの?ちょっと早くない?」
だるま山高原のキャンプ場に着き、サイトに設営が終わるやいなや、購入した食材や調理器具を取り出して夕飯の準備に取り掛かる当番の面々に、なでしこは首を傾げた。それは当番ではないあおいやあかりも同じくとするところらしい。
「いや〜、アタシらの作る料理、2〜3時間かかるやつでさ〜」
「早メニ作ラナイト夜ニナッチャウンダヨ」
(リンよ、我が妹ながらその棒読みはどうかと思うぞ)
手の混んだ料理とサプライズの準備の時間を考えての早めの調理なのだろうが、それを誤魔化すために妙な棒読みになったリン。どうやら芝居を打つのが下手らしい。
「そっかぁ……じゃあ私達はどうしよっか?」
なでしこがこれからの予定を思案するさなか、恵那があかりに目配せする。
そこに『エビ作戦』の始動であると感じ取ったあかりは、それを遂行するための策を思い浮かべた。
「あ!お、お風呂行かへん?ちょっと早いけど!」
「お風呂かぁ……」
「そう言えば先生が受け付けで温泉のパンフ貰っとったなぁ」
「じゃ、温泉行く?」
「うんうん!しっかり温まってきなよ!」
『そうそう!』
ということで、サプライズのための時間稼ぎに温泉へと言うことになって、鳥羽先生にアシを頼もうとしたのだが……
「おっひるから〜おっさっけ〜♪」
などと嬉々として酒をコップに注ぐ姿が野クルの目に飛び込んできた。
すかさず料理班3人娘が拘束して飲酒を未然に防ぐことで、先日の温泉の失態を繰り返すことは避けられた。
そしてラフェスタに乗り込み、近場の温泉へ旅立った大塩コンビとあかり、そして鳥羽先生を見送った四人。
「よし!」
「やりますか!」
かくして、なでしことあおいの誕生日パーティーの準備がここに施工されることとなった。
「でも本当に良かったの?ケン。朝御飯作ってくれたのに晩御飯まで……」
「いいんだよ。俺がやりたいだけだし、3人の料理に華を添える程度だよ」
「そうか?……なんか悪いなシマケン」
「ま、失敗したら千明に食わせるから何の問題もないだろ」
「うむ。それは確かに」
「いや納得すんなよリン!」
「ほらほら、3人とも。準備しちゃおうよ。間に合わなかったら台無しだよ?」
「うむ」
「じゃ、始めますか!」
「ちゃんとしたのにしろよなシマケン」
「任せとけ!これが俺の……そしてじいちゃんに勧められた料理の秘密兵器……!」
そしてバイクの荷台にくくりつけていた取り出したるそれは……
「いいかケン」
思い出すのは数年前。
ケンがまだ免許を持っておらず、祖父の肇の後ろでバイクに乗ってキャンプへ連れてもらっていた頃。
とあるキャンプ場にていつもと変わらぬ夏キャンプのハズだった。設営を終えて夕飯の下準備を、というところで肇が冒頭の言葉を発した。
今日はいつもと違う雰囲気に、ケンも充てられて少し身構える。
「今日はお前に簡単にできる少しオシャレな料理を教えてやる」
「オシャレな……?」
ケンのオウム返しの問いに、うむ、とやや物々しく頷く肇。
「だがこの道具は扱いが難しい。火加減、気温、湿度、具材……その全てを
「お、おす……!」
「とにかくこれは大事に扱え。こいつは丁寧に扱えばきっとお前に応えてくれる。真心を込めて使うんだ。必要なのは道具に対する愛情!粗略な扱いは許さんぞ。いいな?」
「お……おす……!」
やや涼しくなってきた夏の夕方の気温なのに、たらりと緊張の汗が頬を伝ってくる。ここまで真剣な肇はなかなか見たことがない。
「果たしてその道具とは……!」
「その道具とは……?」
「段ボール!!」
早くも不安が3人の脳裏を過ぎったのは言うまでもない。
この間、初めて近場の高原へツーリングしてきました
クソ寒かったですまる
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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