リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
『ハッピバースデイトゥーユー!ハッピバースデイトゥーユー!』
温泉へ行ってきた四人がサイトへ戻ってきたのはすっかり日が沈んで真っ暗になってきた時だ。
きっとそろそろ焚き火の灯りが見えてくるだろうと想像して帰ってきたそこは、見事にパーティー風にデコレーションされたサイトだった。
車を降りると同時にバースデーソングを皆で合唱しながら、今日のメインたる二人を出迎える。
『ハッピバースデイディアいぬしこ〜!ハッピバースデイトゥーユー!』
「ほわぁ……!」
料理だけかと思いきや、しっかりとサイトまでデコレーションされており、予想以上のパーティー具合に思わずなでしこが喜びの声を漏らした。
「さぁ、あおいちゃん、なでしこちゃん!」
恵那が促すその先に、フルーツとホイップクリームで見事に彩られ、蝋燭が立てられたバースデーケーキ。
これからやることといえば……ということで互いに頷きあったなでしことあおいは……
『せーのっ、ふぅぅ……!!』
二人で息を吹きかけ、見事にすべての蝋燭の火を消すに至った。
『おめでと〜う!!』
盛大に拍手喝采を受け、なでしこもあおいも喜色満面である。この地点で既にパーティーは大成功間違いなしだろう。
「お次はこっちの蠟燭もふぅ〜っと!!」
「消せるかい!」
次に千明が消させようとするのは、木こりのろうそく……つまりウッドキャンドル。その太さは人の胴程はあり、パチパチと音を立てて燃えるそれは、蝋燭の火と言うにはあまりにも大きかった。
「あれ?そう言えばケン君は?」
一番祝ってほしい人が居ないことに気付いたなでしこはキョロキョロとその姿を探し始める。彼なら千明とともに盛り上げてくれそうなものなのだが……
「お兄ちゃんなら……あっち」
リンの示すその先。
テントの裏側だ。
気になったなでしこがどうしたものなのかと気になってテントを回り込んで覗くと……
「………」
チェアに座り、
ニット帽を目深く被り、
ブランケットにくるまり、
口元を愛用のマフラーで隠して、
ただただ虚ろな目で一点を見詰めている。
「黒魔術か悪魔の儀式……?」
かつてなでしこがソロキャンプの時に言われたセリフがそのまま彼女の口から飛び出した。
そして彼の視線の先。
そこには一箱の段ボール。
しっかりと本来の形?たる直方体になり、ちょこんとそこに立てられ、彼はそれをただただ見詰めていた。よく見れば、段ボールの組み立てた隙間から白い煙が漏れている……。
「け、ケンく……」
ピピピピ!!
「っ!!」
アラームがなった瞬間。
とんでもない反応速度でダンボールに駆け寄ったケンは、そっと持ち上げて中の具合を確認している。
ニオイ
温度
見た目
その他諸々
「うむ……!できた……!上々!!」
「ケンくん?」
「ふぉっ!?な、なななでしこ!?」
今の今まで気付かなかったのか、声をかけた瞬間に漫画かと言わんばかりに飛び上がる。
人間てあんなに飛ぶものなんだ、となでしこの中で人間のポテンシャルが一つ更新された。
「いいいいつのまに帰ってたの!?」
「ん〜、2〜3分前かな?」
「なん……だと……間に合わなかった……!」
がっくりと膝をついて落ち込むケン。なんかどよどよと暗い空気が漏れ始めた。
「ところで何作ってたの?煙が出てたみたいだけど……」
「あ、それな?今から盛り付けて持ってくから、先に戻っててくれないか?ちょっとしたサプライズだから」
「え?う、うん。わかったよ」
彼がそういうのなら、ということで、後ろ髪を引かれるような思いを残しながらも皆のいる側へと戻るなでしこ。
一体全体何を作っていたのだろうか……?
「お、戻ってきたな?じゃ……はい、これ」
なでしこが戻ってきたのを確認したリンが取り出したのは、カリブーのマークが入った袋でラッピングされた包みだった。
「プレゼントまで用意しとったん?」
「まぁな〜」
「ねぇねぇ!開けてみてもいい!?」
「うむ」
許可を得たところで早速開封する二人。
出てきたのは、まるでスキレットのように取っ手のついた木の食器。それぞれ色違いに茶色とグレーで塗装されている。
「木の繊維と樹脂を混ぜたもので出来てるから、熱い飲み物とかでもオッケーで、手入れが楽なんだって」
「ありがとうな!これからのキャンプで使わせてもらうわ〜!」
「大事に使うね!」
「そう言えばアキ、前から思っとったんやけど……」
「ん?」
「クリキャンの前にコーティング剥がしした木皿、キャンプで使てへんけど、あれどうしたん?」
なんだかんだで自身もテス勉時間を使って手伝っていたのだから気になるのは仕方ない。のだが……
「あ〜……あれな?」
その話題を聞いた途端、遠くを見つめる千明。
「アイツ、今はサボテンの鉢植えやってるよ」
「???」
コーティング剥がしを終えた日
家に帰って早速その器でスープを飲もうとした千明だが。
塗料を剥がしたアカシア製木皿には独特の匂いがあり、脱臭せずに使った彼女はその匂いに悶絶していたのだ。
今回熱いものオッケーの食器を選ぶにあたり、その教訓を活かしたと言うのは、彼女のみが知るところである。
「待たせたな!」
千明の黒歴史が闇に葬られる中、テントの裏側からやってきた黒魔術師……もといケン。
「お、シマケン出来たのか?結局何作ったんだ?」
「私達にも秘密って言ってたもんね」
「うむ、段ボール持っていったときは段ボールを材料にするかと思ったけど」
「失礼な!流石の俺でもそんな邪道はしねぇよ!俺が作ってたのは……こいつだ!」
コトリとテーブルの空いた一角に置いた皿。
その上に並べられたのは、大小形様々に茶色くなった何か。
「な、なんやの?これ……」
初めて見るあかりが、まるでゲテモノを見るような目で料理を見つめる。
だが仕方ない。確かに見た目は彩りもなく、ただただ茶色のものばかりなのだから。
「これこそ俺がじいちゃんに教えてもらった段ボール料理の燻製だ!」
『燻製……?』
所謂火に掛けたスモークウッドチップから出た煙で燻して香り付けする料理だ。
言われてよくよく見れば、三角のようなものはチーズ。
楕円形に見えるのはチキン。
平たく薄く四角いのはベーコン。
丸く長いのはソーセージであることが何とかわかる。
「これは!ワインが合うわね!」
「と言うと思いました」
さて、これで料理が出揃った。食べようか?と言う前に記念写真を、ということで……
「それじゃ撮りますよ!」
『はーい!』
「ほらケンくん!もっと寄らないとはみ出ちゃうよ?」
「う、うむ、そうなんだが……」
彼の悩むところ。
やはり黒一点であることだ。
集合写真ともなれば、出来るだけ大きく皆が映るように密着するのが普通だ。
だが男一人であり、同年代の女子と密着する。と言うのはやはり慣れないもので、自然と少し距離を開けていた。
だがそこは見逃さないのがなでしこさん。
離れていた彼の手を引き寄せ、逃げられないように腕を絡めて抱き着いた。
「にがさないよ〜?」
「な、なでしこさん!?その……抱き着かれたら……!」
「ひゅーひゅーお熱いねー」
「あんまりいちゃつくとレッドカードだかんな」
「こーゆーの、爆発しろ言うんやでー」
「お、お前ら……!」
なでしこはともかく、他の面々からからかわれて顔を真っ赤に染め上げるケン。
だが離れようにもフィジカル強めのなでしこの拘束に何もできないわけで……
「と、撮りますよ?」
パシャリ
見兼ねた鳥羽先生が撮った写真。
その中には満面の女子の中に、顔が真っ赤に染まった男子が一人が収められていた。
「そんじゃ!」
『いただきま〜す!!』
祝うのもそこそこに、せっかく出来上がった料理が冷めてしまうので、食事開始となった。
まずは土鍋で作られたリゾット。それを一口口に運べば……
「んまっ!」
「めっちゃ海老の味する!!」
「この海老とトマトのリゾットすっごく美味しいよ!」
『よ〜し!!』
三人で作ったメイン料理が成功したことで、ハイタッチを交わすシェフ達。
曰く、昨日残った伊勢海老の殻で出汁を取り、良いチーズを使ったからというのもあるらしい。
「ここらで味変で、このエクストラデリシャススペシャルデラックス海老ソースを掛けて食べると……!」
千明が掛けた黄金色のソース。それを絡めて更に口へ運べば……!
『海老ぃ!!』
口の中を支配する伊勢海老の暴力!!
「海老が強すぎるよぉ!」
「口ん中海老やぁ!」
「海老だらけや〜!!」
海老の容赦ないラッシュは、三人を容易く沈めるに至った。
「じゃあ次は、ケン君の作ってくれたスモークチキンを……」
爪楊枝で切り分けられた鶏むね肉を刺して口に運べば、口いっぱいに広がる香ばしい味わい。程よい塩気に、程よく燻されて付けられた香りが鼻を抜けていく。
「美味しい!焼いたのとも煮たのとも違うよコレ!」
「ほんまや。海老リゾットの味は強めやけど、これはまた違う味わいやな。味も濃いすぎひんし」
「今回は3人の料理がメインだからな。少し味付けを控えめにして、香草と燻したんだ」
「これは炭酸に合うぜ〜!!」
そんなやいのやいのと料理で盛り上がる生徒達を離れたところで見守りながら晩酌をする鳥羽先生。今日も今日とて、昨日ほどではないにせよ長距離を走り、疲れた身体を労るためにアルコールで喉を焼く。お預けを食らったこともあり、心做しか旨く感じる。
そんな一時の彼女の携帯に、よく知る人物から電話が着信した。
『もしもしお姉ちゃん?そっちはどう?』
「楽しくやってるわよ」
火起こしのお姉さんこと、妹の涼子だ。
『その様子だと飲みすぎてはいないみたいだね』
「最近控えめにしてるって言ったじゃない」
なんだかんだでラフェスタを借りに行った時に、あんまり飲みすぎないように釘を差されていた鳥羽先生。その際禁酒していることを豪語していたが、酒癖の悪い姉がやはり心配だったようである。
『よかった、ちゃんと顧問してるみたいで』
「ちゃんとしてるかどうかは何ともわからないけど……私、始めは部活の顧問をやったら時間がなくなるし、あまりやりたくないって思ってたんだけど……生徒達の成長をこうやって近くで見ていられて、今は引き受けてよかったと思ってるのよね」
『まだ本当は大変な目にあっていないだけだったりして』
「そうならないようにするのも顧問でしょ?」
『ははっ、確かにね』
こうして生徒との思い出作りも、きっと顧問の醍醐味なのだろう。
改めて自身が思っている以上に楽しんでいたことに上機嫌で傍らに取り分けて置いてあるカプレーゼをトマトとチーズを合わせて口に頬張る。
「ゥンまああ~いっ!」
『お、お姉ちゃん……!?どうしたの?』
いきなり叫び声を電話越しに聞けば混乱するのも仕方ないだろうが、件の彼女はお構いなしだ。
「さっぱりとしたチーズにトマトのジューシー部分が絡みつくうまさね!チーズがトマトを、トマトがチーズを引き立てる!ハーモニーって言うのかしら?味の調和って言うのかしら?例えるならビッ○ボスに対するカズ○ラ・ミラー!春○に対する若○!私へのお酒!!!」
「せ、先生!?」
かくいう現場にいる生徒たちも混乱しきりであり。
鳥羽先生の酒癖以外で奇怪な一面を見させられた面々だった。
カプレーゼ君。君が食卓の上にいた地点でこのネタは決まっていたよ。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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