リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第三十二話『誕生パーティー(アフター)』

「ねぇ!明日の朝、達磨山の頂上で日の出見ない?」

 

夕飯もほとんど無くなり、ケーキを切り分けようかと言う時に、なでしこがそんな提案をしてきた。

確かに明日は伊豆キャン最終日。どうせなら朝にそんな催しをしてもいいだろうと、誰もが反対をせず、今日は早めに休んでおこう、と言うことになった。

のだが。

 

「……タイミング、完全に逃した……!」

 

自身のテント内でがっくりと膝をついて、絶望と共に、自身のタイミングを掴むことができなかった自己嫌悪に苛むケン。

眼の前には少し洒落た紙袋をリボンでラッピングした物がチョコンと鎮座しており、それが彼の落ち込みの原因である。

なんだかんだでバースデーパーティーは二人共喜んでくれたからそれはいい。同級生として喜ばしいことだ。

だが一人の女の子の彼としてはまだ義務というか使命を果たせていない。わさび園の御神籤の通り、焦らずにじっくり機を伺っていたらこれである。

 

「流石にもう寝てる……よな」

 

クリスマスのように最悪寝てる枕元に置いておくか?とシチュエーションも何もあったものではない答えを導き出し、それを実行に移す方へ意識が傾き始めてテントから一歩踏み出ようとした。

だがそこでピタリと止まる。

 

「いや、これは俺のヘタレが引き起こした結果だ……!明日謝って……」

 

「あれ?ケン君、どしたの?」

 

まさか誰か起きてるとは思わず、ビックゥ!と身体を跳ね上げるケン。声の先には、悶々としていた原因の少女がリンのテントから顔を覗かせていた。

 

「な、なでしここそ、どしたの?」

 

「え、えっとね?何だか眠れないんだぁ……。明日で伊豆キャンが終わっちゃうって思ったら、何だか寝るのが勿体ないって考えるようになってきちゃって……」

 

「なでしこらしいな」

 

ある意味、一番伊豆キャンを楽しみにしていたのは彼女だろう。だからこそ終わるのも人一倍名残惜しく感じているのかも知れない。

 

「ケン君も眠れないの?」

 

「ん?まぁ、な」

 

「だったら、ここから夜の富士山、見てみようって思ってたんだけど、一緒にどうかな?」

 

「そうだな……眠れずに悶々としてるよりはいいか。ランタン取ってくるから、ちょっと待ってて。何ならチェアも持っていくか?」

 

「ん、わかった。準備するね」

 

互いにテントに引っ込み、ケンはランタンをバッグから引っ張り出す中、ケンはこれをチャンスだと捉える。

二人きりになれたのだ。これこそ僥倖というものである。

目的のランタンと共に、ブランケットとローチェア、あとはラッピングした紙袋をしっかりと回収。後はオーバーを羽織って、なでしこの待つ外へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天気が良くて良かったね。夜でも富士山、しっかり見えるよ〜」

 

「空気が澄んでるっていうのもあるんだろな。まさかこの距離からでもここまで鮮明に見えるとは思わなかったけど」

 

「遠くから眺める富士山もまた乙なものですなぁ……」

 

二人並んでローチェアに座り、ブランケットに包まってのんびりと。

流石に高所なのと、まだまだ春と言うには早い時期でもあるため、夜は寒く、吐く息は白い。

だが不思議と、苦にはならない。ほんのりと二人を照らすランタンの光と、静かに流れる風の音。遠く見下ろす先に点々と光る車やビルの光と、その奥には見慣れた富士山。

かつて彼女と笛吹で見た夜景のような綺羅びやかさは控えめなものだが、これはこれで良いものだ。

 

「何だか2人でこうして夜景を眺めてたら、笛吹公園を思い出すね」

 

「俺もそう思ってた。あの時はなでしこがリンに夜景の写真を送りたいって言い出しっぺだったのに、道中ビクビクしてたなぁ……」

 

「あ、あんなの怖いに決まってるよ!真っ暗だし、ザワザワしてたし!」

 

「でも一緒に行けて良かったよ。なんだかんだで綺麗なものが見れたしさ」

 

「うん、怖い思いをしていった甲斐があったよね」

 

ケンの言う綺麗なもの。

それは夜景もそうだが、その景色とともに見たなでしこの夜景にも負けぬ綺羅びやかな笑顔が何故か脳裏に濃く焼き付いていた。

あれからその笑顔を思い浮かべると、ドキリと心臓が跳ね上がる事が度々あり、きっとそれが彼女に明確な恋心を抱いた瞬間だったのだろう。

だからこそ、恋人同士になれた事に高揚もしたし、そんな彼女を大切にしたいと思う気持ちも強い。

故に、

 

「なでしこ、これ……」

 

呼ばれて振り返った彼女に、意を決してそっと例の紙袋を渡す。

 

「紙袋?」

 

「その、渡すの遅くなったけど、俺からの誕生日プレゼント」

 

何故か妙にドキドキする。

プレゼント一つ渡すのに何でだろう?

普通に何かを渡したりするのは今まで何度もあったのに。

 

……あぁ、そうか。

恋人として渡す誕生日プレゼントという特別な物と、

笛吹公園のキッカケを思い出したことで、改めて彼女への思いを再認識したこと。

その2つが織り交ぜられて緊張が昂ぶっているのだろう。

 

「わぁ……!ありがとうケン君!ね、開けてみてもいい?」

 

「ん、いいよ」

 

ワクワクが止まらぬなでしこは、シュルリとラッピングされたリボンを解き、紙袋の中身を取り出す。

そこに入っていたのは……

 

「これ、ホットサンドメーカー?」

 

「うん。何となく、笛吹公園のキャンプの朝御飯を気に入ってたみたいだったのと、まだ持ってないみたいだったから……」

 

「ほぁぁ……!ありがとうケン君!大事に使うねっ!」

 

「うむ、そうしてくれるとプレゼントした甲斐があるよ」

 

きっとこれがあれば彼女はキャンプへの新しい一歩が踏み出せるはずだ。

これだけ喜んでくれているなら、少し奮発したのも報われるというもの。

 

「あれ?まだなにか入ってる……?」

 

紙袋の中でまだ何かの影があることで再びなでしこは手を突っ込んで取り出す。

それは、

 

「これって、シュシュ?可愛い〜!」

 

白を基調とし、淡い桃色の撫子の刺繍が入れられたシュシュだった。

 

「ん……まぁそれはおまけみたいなもの、かな」

 

「おまけじゃないよ!これもしっかりメインだよ!ありがとうケン君!」

 

「う、うむ」

 

相変わらずの眩しい笑顔に、やはり思わず見惚れてしまい、顔を赤らめて視線をそらすケン。どこまで行っても、変なところでシャイなやつである。

 

「ねぇねぇケン君!似合ってるかな?」

 

言われて見れば、先程のシュシュで長い桃色の髪をまとめ、ポニーテールにしたなでしこの姿。

やはり彼女の髪色には白が似合う。自身のセンスに自画自賛したくなるケンであるが、

 

「……ゴクッ……」

 

どっかの『のばらの人』のように思わず固唾を呑んでしまった。

なでしこがポニーテールにしたことにより、普段隠れている彼女のうなじが露わとなり、ケンは妙な色気に当てられていた。以前、風邪の看病してくれたときに一度だけこの髪型を見たが、その時は風邪のせいでだろうか、何も感じずにいた。

だが健康たる今、その色気に妙な高揚を覚えた自分がいる事に、ケンは驚きを隠せずにいた。

 

「ど、どしたの?ケン君。なんか変だよ?」

 

「え?あぁ、いや……似合ってる。髪型もシュシュも……」

 

「そ、そうかな……?えへへ……じゃあ時々ポニーテールにしてみようかなぁ〜」

 

「それは駄目。俺が保たない(意味深)」

 

「も、保たないって?」

 

「気にするな。あくまでも俺の心の問題だから」

 

「……?わ、わかったよぅ」

 

一時はどうなるかと思ったが、何とかプレゼントを渡すことが出来たケン。

だが代償に自身の色んな『(へき)』と、なでしこへの恋心を改めて強く実感させられることとなってしまった。

 

「……と、そろそろ休めるか?日付も変わってきたし」

 

「そだね、思えば少し……眠くなってきたかも……」

 

「明日……というか今日は達磨山で日の出見るんだから、流石にもう休まないとな」

 

「ん、そうするぅ……」

 

自覚をすれば自然と可愛らしいあくびをしながら立ち上がるなでしこ。互いに自身のチェアを片付け、ゆっくりとそれぞれのテントへ戻っていく。

 

「おやすみぃ……ケンくん……」

 

「ん、おやすみ、なでしこ」

 

テントのチャックを閉め、シュラフにしっかりと潜り込む。先程までの寒さがじっくり緩和され、暖かくなってきたことで自然と眠気が襲ってくる。

 

「あと一日か……」

 

ポソリとつぶやく。

あれだけ楽しみにしていた伊豆キャンももうあと一日。

 

「今日も、良き一日になりますように……」

 

そんな言葉を残して、ケンは微睡みに沈んでいく。

最後の一日。

伊豆キャンを締め括るに相応しい、最高の1日になることを望みながら。

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  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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