リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第三十三話『伊豆キャン最終日 幕開け』

「あかり〜、着いたで〜?起きよ〜?」

 

「ん〜……やっぱり寝てるぅ……寒いから閉めてぇ……」

 

翌朝未明

なでしこの提案通りに達磨山へとやってきた一行。

あかりも行く前は何とか起きていたが、ラフェスタの中で暖房の温かさにやられたのか、二度寝に洒落込んでいた。

毛布に包まり、少し呂律の回らない声で再び寝ようとする妹に、あおいは困り顔でため息を一つ。

 

「もぅ……しゃぁないなぁ……」

 

「私が見てますので、登ってきてください。暗いので足元気をつけてくださいね?」

 

「すいません、先生。お願いします」

 

長時間の車旅が2日も続いて、知らず識らずのうちに疲れが溜まっていたのかもしれない。体力的な差もあるし、ここはゆっくり休ませてやるべきだろう。

鳥羽先生にあかりを任せ、一行は丸太で舗装された達磨山山頂への登山道を登り始めた。

のだが、

 

「結構……長いのな……」

 

登頂開始して十数分後

思ってた以上にキツい登山道に、最初こそ纏まっていた6人も、各々のペース差によって3つに分かれていた。

先頭はなでしことリン。

最後尾は恵那、あおい、千明。

その間という距離でケンだった。

三筋山のように競争をしているわけではないので、自然とゆっくりと登っているうちにこんな感じになってしまったのである。

前方を見ると、なでリンチームはあと物の数分で山頂に着きそうな所にランタンの明かりがぼんやりと見える。

後方を振り返れば、100メートルほど後方の尾根にランタンの明かりが。

現状、ボッチ状態である。

 

「寒いし、長いし、疲れるし……そこそこにハードだ……」

 

この分だと後ろ組の千明あたりは、今は大丈夫でも山頂に着く頃にはくたばってるだろう。体力があるのかないのか分からんやつである。

 

「う〜……さむさむ……!早いとこ山頂に行って、温かいものでも飲もう……」

 

リンが、きっと寒いだろうし、頂上で味噌汁を飲んで温まろう、ということでインスタントの味噌汁セットを持って上がっている。何とも気が利く奴だ。

 

「あえて寒い中に日の出を見に登山し、冷えた身体に温かい味噌汁……。これもマッチポンプなんだろうな」

 

だがマッチポンプだろうとなんだろうと、美味ければそれは正義で正解。きっと冷えた身体に味噌汁は染み入る美味さなのは確定だ。更にはなでしこもなでしこで、ちょっと豪華な味噌汁になるよ!とやや食い気味に言っていたので、更に期待が高まってくる。

 

「あと少し……!追い込みかけますか!」

 

彼も彼で、気付かぬ疲れからか、三筋山ほど足取りも軽くなかった。無理せぬ程度にゆっくり、またゆっくりと、1段1段踏み締めて。

まだゆっくりな理由があるならば、なでしこが昨日眠れなかったのと同じく、きっとどこかで伊豆キャンの終わりを惜しむ自分がいるのだろう。

ここから伊豆キャンの最終日が幕を開ける。

忘れられない思い出になるであろうとともに、名残惜しくもあって。

一歩一歩近づく頂上が、ケンにとってどこか恨めしくもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまぁ〜……」

 

「でしょ〜?」

 

口の中を、

喉を、

熱々の味噌汁が流れていく。

じんわり、またじんわりと、冷えた身体に広がってくる温もりが、味噌汁をいつも以上の逸品へとランクアップさせる。さらに味噌の風味を追うように広がるのは、『伊勢海老』の風味。

頂上についた彼を待っていたのは、リンとなでしこ。そして渡すその手には、熱々のインスタント味噌汁。それを啜ればもはや至福だったのだ。

 

「これ、伊勢海老の出汁?」

 

「うん!伊勢海老の殻を入れたお湯で作ったんだよ〜」

 

「すごいな……昨日リゾットとかスペシャルうんたらかんたら海老ソースで出汁を絞りきってたと思ってたのに」

 

「なでしこが、まだ乾燥させて殻を砕けば、粉末出汁に出来るんだってさ」

 

「まじか、伊勢海老の底力恐るべし。てか、主婦力半端ないな、なでしこ……」

 

「ふっふっふ……旦那さん、このなでしこ、貰い得ですよ?どうです?志摩家に一人」

 

「通販の特売か」

 

「ってか貰い得って……なんだ、二人共もう同棲するのか?」

 

「いやしねぇから」

 

「しれっとなでしこがケンに嫁入り宣言した件について」

 

「も、もう!リンちゃん!」

 

「最近リンが反撃能力を身に着けてきた……。成長したなぁ……お兄ちゃん、嬉しいやら悲しいやら……ギャンッ!」

 

ヨヨヨ……と嘘泣きする兄の脇腹に肘鉄を入れるのを忘れず。なんか効果がなくて恥ずかしがらないところに何となくムカついたようだ。

なんだかんだで事実なでしこが同じ屋根の下で暮らすことになれば、とリンは想像する……まぁそれも楽しいかもしれない。そう遠くない未来に実現しそうな未来。結婚も視野に入れているなら尚の事。

 

(あれ?そうなったらなでしこが私の義姉……?)

 

このふわふわほよほよした少女を義姉さんと呼ぶのを想像してみる……。

 

(うむ……どちらかといえば義妹だな)

 

変なところでマウントを取るリン。本心、妹が欲しいのかもしれない。

 

「や、やっと着いたぁ……!」

 

「な、長かったねぇ……!」

 

「グフッ……!」

 

最終組も到着したところでなでしこは我に返り、追加で三人分の海老出汁味噌汁を振る舞う。

三人が三人とも味噌汁にとろける。

 

「温まるぅ……!」

 

「染み入るぅ……!」

 

「生き返るぅ……!」

 

「頂上まで五百メートルって書いてあっから軽い気持ちで登ったけど、キツかったぜ〜!」

 

「せやなぁ〜、これは朝から中々ハードやわ……」

 

「だらしないぞ諸君。帰りもあるのだからな!」

 

「……考えないようにしてたのに、シマケンお前……!」

 

登山というものは登りが辛いものだと思われがちだが、存外下りの方がキツいものだ。ペースとバランス維持の負担は、登りのそれよりも高負荷になるのである。

 

「あ、標高981メートルってほぼ山中湖と同じ高さなんやなぁ」

 

「山中湖では寒さで死にかけたねぇ……」

 

山頂付近に標高が記された看板を見つけたあおいがぽそっと呟く。

そして山中湖というキーワードで蘇る、三人にとっての軽いトラウマ。

 

「あの時は……!本当に!」

 

『お世話になりました!』

 

三人による頭を下げたいきなりの謝礼に目を丸くするリン。

 

「い、いやいや、助けたのは飯田さんと先生だし!」

 

「今日は!その飯田さんにお礼を言いに!」

 

「そして!チョコちゃんをモフモフしに!」

 

「わふぅん!」

 

「目的が後半に集中してないか?お前ら……」

 

「きのせいやで〜」

 

こいつらの動物好きにも呆れたものだが、実際ウェルシュコーギーのチョコちゃんの写真を見せられたケンも、少しながらも今日会ってモフれるのを楽しみにしていたりする。

存外、この野クルは動物好きの集団であるのかもしれない。

 

「あ!そろそろ日の出だよ!」

 

なでしこの声に、皆が東の空へ視線を移す。

太平洋の水平線と空の境目。その白みが徐々に増していく。

ゆっくり、ただゆっくり。

夜の終わりを、そして朝の始まりを告げるように。

その光で水面は照らされ、空の暗闇で輝いていた星々は姿を消し、

伊豆を、

富士山を、

そして6人を照らしていく。

 

「わぁ……!」

 

「えぇ景色や〜」

 

「目に染みるぜ〜」

 

もしかしたらこうして日の出を見るのは正月の初日の出以来だろう。

変わらず息を呑む美しさは、正月や初春問わず、変わらないものだ。

約1名は日が高く登ってからの初日の出?となったのは余談だが。

 

「よし!最終日も伊豆ジオスポット巡り、頑張ろう!」

 

「うん!」

 

「カピバラもな」

 

「あと飯田さんとこもな」

 

『チョコちゃん!!』

 

「わかった、わかったから落ち着けお前ら」

 

伊豆キャン最終日

高校一年生最後のグルキャンの最終章が、こうして幕を開けた。

あと一日という名残惜しさと、

今日一日への期待を胸に膨らませて。

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