リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第六話『猛獣、食らう』

「……赤いな」

 

「うむ、東方より赤く燃えてそうだ」

 

「担々餃子鍋!見た目は赤いけど、そこまで辛くないから安心して!」

 

グツグツ煮える煮汁に沈み、煮汁に染められた数多の餃子、豆腐、白菜、もやし、白ネギ、しめじ、そして緑のアクセントに入れられたニラ。そして鼻孔を擽るのは、豆板醤とゴマ油の香り。

 

「辛そうで辛くない、でも少し辛くて温まるお鍋だよ奥さん!美味しいよ〜?」

 

(スーパーの実演販売か)

 

ボケもそこそこに、お玉でお椀にすくい入れてリンに手渡す。

 

「さぁさ、たんとお上がり?」

 

(次は田舎のおばあちゃんか)

 

(引き出し多いな各務原)

 

「はい、ケン君。熱いから気をつけるのじゃよ」

 

「ありがと」

 

二人に行き渡ったのを確認し、自身の分もよそうと、壮大に甲高い音を鳴らして手を合わせ、

 

「じゃ、いただきまーす!」

 

「「い、いただきます」」

 

音頭を取った。

恐る恐る……といった具合にレンゲで餃子とともに煮汁をすくい上げるリン。どんな味なのだろうか。おっかなびっくりといった様子で煮汁を少し口に含む。

鶏ガラスープのしっかりとした味に豆板醤のコク、ゴマ油の豊かな香りに、最後は唐辛子のピリッとした刺激が口を満たしていく。

それで何かを察したのか、レンゲに掬われた物を一気に頬張る。

餃子の皮を噛めば、中からあふれる肉汁と、キャベツの甘み。これらが渾然一体となって味覚を襲ってきた。

ゆっくりと飲み込み、出てきた一言。

 

「……うまい」

 

「よしっ!ケン君は……」

 

「うっ……うぅ……!」

 

号泣。天を仰ぎながら大粒の涙をダラダラ流していた。

 

「ご、ごめんケン君!もしかして辛かった!?」

 

「そうじゃない……そうじゃないんだ各務原……!美味すぎるんだァ……!」

 

冷えた身体にただでさえ染み渡る熱々の鍋。その味がとびきり美味いものであれば、相乗効果として感動すら覚えるのも納得だろう。

 

「心配しないで。結構見る光景だから」

 

「そ、そうなんだ?」

 

「今のうちに慣れといたほうがいいよ」

 

「う、うん」

 

ケンの喜び方は意外だったが、何処かなでしこの心は暖かだった。美味いと言って二人共喜んで食べてくれる。その表現の大小や違いはあれど、こうして食べてくれるからこそ、作った本人からしてみれば至上の喜びだ。

 

「唐辛子がじんわり効いてきて、ポカポカしてくる」

 

「どうじゃ?暖まるじゃろ?」

 

寒いからこその熱々ポカポカ鍋は効果覿面。唐辛子のカプサイシンの効能により、血行改善され、体温の上昇がたしかに感じられる。寒い気温で冷えていた四肢の先も、じんわりと暖かくなるのがわかる。

食欲増進効果もあるため、気付けば三人は夢中で食べ進めていく。

 

「「「…………あっつい……!」」」

 

体温が上昇したため、厚着をしていれば温かいを通り越して熱くすらなってきたため、三人はそれぞれ上着を脱いでいく。流石に薄着、とまではならなかったため、ケンはリンによる目潰し攻撃を喰らわずに済んだのは余談。

そして目に入るのは鍋のメイン具材である餃子の空箱。

『丸寿餃子 50個入』

 

「これ…全部入れちゃったの?」

 

「うん!浜松餃子!美味しいでしょ!」

 

(ご、50個……三人で……?)

 

ラーメン屋とかで食べても一人前6個くらいが妥当だ。つまり一人あたり18個ほどのあたり分。他の具材もあるのでかなりのボリュームだ。

 

「あ!!シメのご飯忘れた!!」

 

「そんなに食えんし」

 

絶望に満ちたなでしこ。

だがそこに救世主現る。

 

「各務原よ。昔の人はこう言ったのだ。『ご飯がなければラーメンを食べればいいじゃない』と!」

 

「いや、言ってないだろ」

 

「ラーメン!?」

 

ケンにリンは突っ込み、なでしこは食いつく。

 

「まぁシメだからな。何人前も入れるわけにはいけないけど」

 

ゴソゴソと、自身の持参したリュックを探す。あれでもない、これでもないと、中からモノを引っ張り出す。まぁ出るわ出るわ。Swit○hやらP○Vやらゲ○ムボ○イやらコッヘルやらウォーターボトルやら。まるで青狸のポケットのように、質量保存の法則など無視した量である。

 

「お、あった!」

 

「「こ、これは!!」」

 

リンとなでしこにとって思い出深いもの。二人が知るのは黄色い、まさに味のイメージピッタリの色のパッケージ。

だがケンが取りだしたのは、その味の通り、青い文字のもの。

それは、海の味覚。母なる海の贈り物に相応しい、青の優しい色合いのパッケージ。

 

「じゃじゃーん!!まじうまシーフード麺!!」

 

「「おぉっ!」」

 

「こいつを煮汁に入れれば、魚介の旨味がプラスされて味変し、美味いこと間違いなし!」

 

「ほぉぉぉ!!」

 

まさかインスタント麺を入れるなどと言う発想がなかったなでしこは、目をキラキラ輝かせている。食いしん坊なのか、はたまた健啖家なのか。

 

「じゃ!食べ終わったら入れて第二ラウンドだね!」

 

「ほんとに食べ切れるのか……?」

 

一層雰囲気が温かくも明るくなった鍋パーティ。食べ進める中、ふとリンがレンゲを置く。

 

「あの、さ」

 

「ん……?」

 

最初の言葉が出るも、あとが続かず、再び訪れる沈黙。

ややあって、少し気まずそうにリンは再び言葉を紡いだ。

 

「あの、さ。この間は……ごめん」

 

「この間……何かあったっけ?」

 

「サークル、誘ってくれたのに……素っ気なく断っちゃって」

 

「あ……あぁ〜……」

 

すっかり忘れていたらしい。そこまで気にしていなかったようだ。

 

「私も変にテンション上がってて……。無理に誘っちゃってごめんなさい」

 

「えっ?」

 

よもや謝られるとは思っていなかったらしく、リンは目を丸くして驚きの声を上げる。

 

「あのあと、ケン君から教えてもらったの。リンちゃんはワイワイみんなでキャンプするよりも、一人で静かにキャンプするほうが好きで、その時間を脅かされたくないんだって」

 

「…………」

 

「おい、目線逸らすなバカ兄」

 

餃子をハフハフさせながら視線をそらし誤魔化しに入るが、時既に遅し。

 

「私、昔から結構グイグイ行っちゃう癖があって、それが今回ちょっと仇になっちゃったなぁ〜って」

 

えへへ……と困ったように笑みを浮かべるなでしこ。

 

「そんなことないよ。こうして一緒に鍋をつつけて、ちょっと楽しいなって……思ってるし」

 

「ホント?」

 

たしかに押しが強い所はある。けれども彼女は、押して壁を作られても、こうしてゆっくり近付いてその壁を無くしていく。そんな性格なのだと、リンは何となく感じる。

その優しい寄り添い方が、彼女の美点なのだろう。

 

「じゃ、またこうやって、まったりお鍋キャンプしようよ!みんなでのキャンプも、リンちゃんが気が向いたらでいいんだから」

 

「そうだな。わかったよ」

 

引っかかったものが取れ、スッキリとしたリンは、次なる餃子をよそおうと鍋を見る。

しかし、

 

「もう汁しかないじゃん……」

 

食べ盛りのケンはともかく、このなでしこという少女、結構な大飯食らいのようだ。

 

「じゃあ次はお色直しと行くか!」

 

「いよっ!待ってましたっ!」

 

じゃじゃ〜んと突き出したシーフード麺。その具材ごと担々餃子鍋の残り汁にぶち込む。担々餃子鍋の汁と、シーフード麺のエキスが混ざっては辛くなるので、ウォーターボトルの水を適量入れて少し薄めて蓋をする。

 

「3分間、待つのだぞ」

 

ドヤ顔する兄が微妙に腹立たしかったが、確かにもう少し食べたいくらいだったので、このシメは有り難かった。しかし、この坦々餃子鍋の汁にシーフード。この組み合わせは未だに食べたことがない。どちらも美味いから、2つが合わされればマジウマなのは期待できるが、互いの味が調和するか、はたまた戦争状態となるか。それが不安だった。

 

「ねぇケン君。こんなシメを知ってるのって、普段から料理するの?」

 

「それほど多くはしないかな。休みの日にたまに家で一人で食べるときとかに作るけど、基本的にズボラ飯が多い」

 

「ず、ズボラ飯?」

 

「極力手間を省いてウマい飯を作るんだ。こうやってインスタント麺もアレンジしたりな。動画サイトでも、マジウマ醤油麺を炒飯の具材と味付けにする動画もあるだろ?」

 

「あったよねぃ。あれ、作ってみたらほんとに美味しくてびっくりしたもん」

 

「色々やってみて、キャンプでも応用できる奴もあったら試したりとかも楽しいぞ」

 

「その失敗作を、何度か食わされた私の身にもなれよ」

 

「リンよ、失敗は成功の母という言葉があるように、それもまた充実への一歩だよ、覚えておきたまえ」

 

「うわ〜、ないわ〜」

 

「っと、そろそろ出来たんじゃない?」

 

「よし、オープン!!」

 

蓋を開ける。

広がる湯気と共に鼻孔を擽るのは、先程の坦々餃子鍋の香りに、魚介の濃厚な出汁が加わった芳醇な香り。加えてほんのり赤く染められた麺がなんとも悩ましいくらいに食欲を掻き立ててくる。

 

「ほい、割り箸」

 

「ありがと〜」

 

「どんだけ入ってんだよそのリュック」

 

しっかりと包装された長箸も取り出し、それを使って各々の小鉢に麺とスープをよそい入れる。

 

「あっ!!」

 

「どした?」

 

「薬味の刻みネギ忘れた!」

 

「それは流石にリュックにはいってなかったか」

 

デジャヴである。

 

「大丈夫。このままでも美味しそうだよ。ね?伸びないうちに食べよ?」

 

「そうだな。じゃ……」

 

「「「いただきます!」」」

 

ズルズル……と一斉に麺を啜り、咀嚼する。麺の硬さは丁度よいくらいで、食べ慣れた心地よい食感。続いてやってくるのは……

 

「ん〜っ!!おいひ〜!!」

 

(お兄ちゃんの言ってたとおり、担々麺の味と、魚介の旨味が、争うことなく、仲良く手を握り合って麺を連れてきてる。これは世界が望むべき完全平和の体現……ウマい……!)

 

「うめぇ……!!」

 

一人は盛大に喜び、

一人は静かに旨さを噛み締め、

一人は感動で号泣。

何ともにぎやかな鍋キャンプは大成功だったと、後になでしこは喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜はすでに21時。

周囲はすっかりと冷え込み、夜の静寂が麓キャンプ場を支配していた。

あっという間に担々シーフード麺を平らげた3人。近くの水道シンクで手分けして洗い、ペーパータオルで拭き取り、後片付けを終えた。

後はゆっくり過ごすだけ、という時、ケンはそろそろ御暇すると、プロテクターを付けて帰り支度を始めた。

 

「え〜?もうちょっと居ようよぅ」

 

「今日初めて自分のバイクに乗ったんだぞ?流石に遅くなりすぎるのも宜しくないよ」

 

「そっか……」

 

明らかにショボンとするなでしこ。ほんとにコロコロ表情が変わる子で心が和む。

何にせよ、これ以上帰宅が長引けば、父である渉はともかく、咲に折檻を食らってしまうだろう。いくらリンのところに寄って、そのまま一緒に夕飯を食べてから帰ると連絡しているとはいえ限度というものがある。

 

「リン、身体を冷やさないようにして寝ろよ」

 

「わかってるよ。ケンも、気を付けて」

 

「あぁ。じゃ、各務原もまたな」

 

そう別れの挨拶をするも、口をタコのようにして若干拗ねている。まだ帰ることに納得しきれていないのか?

 

「……どしたの?」

 

「なでしこ」

 

「はぇ?」

 

「なんか、各務原って、キョリがありそうでヤダ。私だってケン君て呼んでるもん」

 

「そりゃそうだけど」

 

「だから、名前で呼んで」

 

「ぉ……ぉぅ……」

 

まさかこんなことを言われるとは思いもしなかった。

馴れ馴れしくしないように名字で呼んでいたが、どうやら彼女にとってそれは他人行儀だったようだ。

 

「ケン」

 

「な、何だよ」

 

「男を見せろ」

 

訳の分からぬ妹の激励?に、ケンは腹をくくるしかなかった。

 

「な……」

 

「な?」

 

「なでし……こ……」

 

「うん!私、なでしこだよ!」

 

あぁ、名前を呼ぶだけなのにどうしてこうもこっ恥ずかしいのか。

変な羞恥心が止まぬ中、それに耐えきれなくなったケンは、手早くヘルメットを被り、バイクに跨がる。

 

「じゃ……、じゃあな、リン、……なでしこ。風邪引くなよ」

 

「うん」

 

「おやすみ、ケン君!」

 

そして発進する……かと思いきや、焦っていたのかクラッチ操作をミスってエンストさせていた。何とも絞まらない出発で自己嫌悪に陥りながら、ケンは再びエンジンをかけて、次こそは赤いテールランプを残してキャンプサイトを去っていったのだった。

 

「全く、そそっかしい兄だぜ」

 

そんな言葉を残してリンはチェアに座る。

 

残ったなでしこは、どこか寂しさと共に、ケンと仲良くなれた実感で、自然と口元がユルんでしまっていたことに気付かないでいた。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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