リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
だるま山高原を出立して一時間後
当初の予定通りに伊東市にある飯田さん親子が営む酒屋へと到着した御一行。
着くやいなやヘルメットを外したレボリューションな彼は、『スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜〜〜〜〜ッ』という台詞がピッタリの如く、まるで疲れを全く感じさせず、むしろ恍惚とした表情だった。
「不思議だ、この達成感……!!日常では到底味わえない!!余韻で心臓がこんなにも息吹を……!!たまらない……!!見知らぬ土地でのライディングが、ここまでの余韻を残すのか!!」
「いいから、早く行くぞ、このレボリューションバイク馬鹿」
再び叫びかねない兄の首裾を掴むと、店に入るメンバーに続くリン。今の彼女に容赦の二文字はなかった。
「こんにちは!」
「いらっしゃい!山梨からよう来たねぇ!」
「いらっしゃい!」
遥々訪ねてきた野クル達を、二人は暖かな笑顔で迎えてくれる。
「山中湖では、本当にお世話になりました!」
「いやいや!こっちも大勢で楽しかったで!今日は前より増えとるね?」
「同じ学校の友達と、その妹っす」
「へぇ!そりゃいい!私も若い頃は友達と旅行したでねぇ!」
「そうなんすね!」
山中湖のお礼に、と山梨銘菓のレーズンサンドと、鳥羽先生厳選の地酒を土産に談笑する中、話を聞き入っていたリンの服の裾をちょいちょいと引っ張るなでしこ。
「リンちゃんリンちゃん。あれ……」
振り向き、なでしこの示す先。そこには商品棚の影からこちらをじっと覗き込む、犬用パーカーを着用し、短足で耳がピンと立った愛くるしいその姿!
「あ、あれは!」
千明の写真で見せてもらった飯田さんの家族!
人懐っこく、その名の由来は、洋菓子のそれではなく、酒屋ゆえのもの!
「「
駆け出すチョコちゃんを二人が出迎えようと大手を広げて待つ。しかし、
現実は非情である。
その二人の間をすり抜け、
「お〜!お前がチョコちゃんか〜!よお~~~~しよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよし」
「チョコ〜!久しぶりだな〜!」
「元気そうやな〜!」
見知った千明やあおいはともかくとして、初対面のケンに向かって全力ダッシュするのは如何なものか。
飛び付くやいなや、全力で撫でくり回されていた。
「ち、チョコちゃぁぁん……」
(デジャヴだ……)
チョコがかつてクリキャンでのチクワが重なってしまった。
しかしなんだろう、兄は犬(♂)にやたら好かれるのは、天性の素質なのか?
もしくは、雄には雌に見えて……
(い、いやいやまさか……まさかな?)
想像したくもない考察に、寒気でリンは思わず身体を震わせる。
自身には『薔薇』とか、『ホとモ』とか、『腐食的思考』とか、そういったケはない!断じてないのだと、リンは言い聞かせる。
そうだ、そうなのだ!そうなるくらいなら、兄となでしこのイチャイチャ甘々を見ている方が何倍もマシ……
「ケンくぅん!チョコちゃんばっかりぃ〜!私も撫でてよぅ〜!」
「犬かお前は……!ったく……犬に嫉妬するなよ……」
「にゅふふ〜……」
現在進行系で繰り広げられる甘々。
説明するなら、ケンに撫でくり回されるチョコに嫉妬したなでしこが、何故か自身も同じように撫でろと抗議し、それを彼が照れながらもその頭を撫でている、ということだ。撫でてもらって御満悦ななでしこなわけだが……
(なんだろう……、マシだと思った直後にイチャコラするの、やめてもらっていいですか?)
「まぁ元気なワンちゃんなんは確かやな〜」
「いぬしこだもんな」
「この分だと、チクワにも嫉妬しかねないね、なでしこちゃん。……チクワ〜……」
「こっちはこっちで愛犬ロスに陥っとるわ……」
高校生組がラブコメやら修羅場やらを繰り広げている裏で、大人組はというと……
「そんで?これからどうすんの?もう山梨に帰るんけ?」
鳥羽先生が大量に買い込んだ銘酒『池池』を袋詰めする傍ら、飯田さんが尋ねる。どうやら山中湖で飲んで以来、ドハマリしているらしい。
「いえ、今から大室山に登って……」
「はい!温泉入るカピバラちゃん見に行きます!!」
「おぉ!そうけ〜!」
「大室山になら私も行こうかしら?チョコの散歩も兼ねて」
「是非行きましょう〜!!」
と、言うわけで、飯田さんの娘さんとチョコも同行した上で大室山に向かうことになったわけだが……
「シマケン!アタシらの先を走るんじゃあねぇーーーッ!!アタシらが前!貴様は後ろだ!!」
『うんうん!』
「なんじゃとて!?解せぬ!!」
満場一致で、ワインディングロードではケンに先頭を走らせてはならぬ。野クルの中で一つのルールが設けられた瞬間だった。
先導は地元人である飯田さんの娘さんにお願いし、結局ケンは殿として走ることで大室山へ向かうことになったのである。
「はむっ!ん〜!!!ツーンてきたー!!」
「んむ……!これはわさび丼とは違う爽やかさ……!ソフトがわさびのスッとするのを引き立てつつも、甘さで辛さを抑えてる……!」
「いや……伊豆で少し暖かいとはいえ、よくアイスを食えるよな、俺ら。……美味いけど」
大室山に到着し、麓の売店でわさびソフトを見つけたなでしこは、伊豆キャンでわさびデビューをしてないことを思い出し、食べていくことになった。わさびソフトはなでしこ以外の車組は実食済みで、バイク組もわさび丼は食せどもわさびソフトは未経験なので、どうせならということで購入。体験となる。
あっという間にわさびソフトを平らげたなでしこは、ふと眉毛をハの字にしてぼやく。
「私も食べたかったなぁ……わさび丼」
「また今度行けばいいさ。秋でもいいなら俺が連れててやるから」
「ほんと!?じゃあわさび丼デートだね!」
「なんだよ、そのデートプラン……」
やはりなでしこの食への食いつきは恐ろしい。食べ物だけに。
ケンの提案にテンションが再び上昇してきたなでしこ。だが彼女のデートへのネーミングセンスは如何なものかとリンが苦笑いを浮かべる。
「お〜い。食い終わったらリフトで登ろうぜ〜!」
「あ、うん!今いくよ!」
千明の呼び声に、やはり犬のように駆けていくなでしこ。尻尾や犬耳でも見えそうなものだが……
「いかん、それはそれで俺が保たんぞ……!」
「何がだよ」
兄の謎の悶絶に、理解できぬ妹は彼を置いていくことにした。
「いい眺めだねぃ!」
「うむ。絶景かな絶景かな」
「それ、桜のセリフじゃないの?」
なでしこと並んでリフトに座り、ゆっくり揺られながら大室山山頂を目指すケン。
何となく某江戸の大泥棒のセリフが浮かんだのだが、少し時期が外れたらしい。
「ここだと絶景は秋のススキの季節なのかな?」
「だろうな。今の焼け跡があるのも、それはそれで味があるけどもさ。なんとなく、これも大室山の顔って感じがして」
「それもそうだね。毎年2月の恒例行事らしいし」
さっき約束したわさび丼のデート?の際には、一緒にススキで覆われた大室山を見に来るのも悪くないのかも知れない。
「……それはそうとなでしこ」
「なぁに?」
「高いところは怖くないのか?」
「え?怖くないよ?どしたの?」
「いや、なでしこって怖いもの知らずなイメージがある割に結構怖がりだし、高いところはどうなのかなって」
暗所然り、
ホラー然り、
怪物然り、
猪突猛進な割に怖い対象が多い故に、ちょっと心配するのは恋人として当然の心境か。
「もうっ、ケン君てば!私だって普通に怖いものくらい一杯あるよっ!」
「わかった!わかったから動くなって!揺れる!揺れてる!」
「でもね、最近怖いもの、増えちゃったんだよね」
「へぇ?何に?」
「ケン君に嫌われるの、怖いんだ」
好きな人だからこそ、掛け替えがないからこそ、その人の中に自分が居なくなるその恐怖。好きになるからこそ、その逆もまた然り。故に恐れるのだろう。
「……俺だって、なでしこに嫌われるの怖いさ」
「じゃあ、お互い怖がらせないようにしなきゃ、だね!」
「そうだな、細心の注意を払わせていただきやす」
「ふふふっ」
「はははっ」
互いを好きでいるからこそ、嫌われ、そしていなくなることが怖くて仕方ない。
でも、こうして笑い合えているなら、きっとこの先は上手くやっていける。
どちらからともなく繋いだ互いの暖かな左手と右手。その力がほんの少しだけ強まった。
出来るなら、二人だけの、この暖かさな時間をもう少しだけ味わいたい。
ゆっくりと登るリフトに揺られながら、二人の時間は静かに流れ………
『は〜い!!撮りま〜す!!』
「「!?!?」」
てはくれなかった。
「ぷっ!あっははは!二人共顔真っ赤にして!目、丸くして!!」
「しかもしれっとなでしこ、ケンに抱き着いてるしな」
「だ、だって!びっくりしたんだもん!」
「うむ、あれは不意打ちもいいところだ」
突如撮られた写真が頂上で掲載され、その内容を盛大にからかわれることとなった。先の声は、どうやらそのシャッターを切る音声だったらしい。しっかりとそれらしいオブジェクト?があったにもかかわらず見逃していたということは、それだけ二人の世界にトリップしていたということだ。
「でもこれも大切な思い出ってことで、記念に買ってくよ私」
「……うむ、どうせなら俺も買っとくか」
大室山での大切な一枚。
二人が大切に保管していたこれが将来、とあるイベントにて大々的に経緯をバラされ、知り合い達から盛大に冷やかされるのは、まだ何年かあとのお話である。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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