リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
それはそうと、皆様高評価ありがとうございます!
おかげさまでランキングに18位という信じられないとこに当小説が載ってて、嬉しいやら恐ろしいやらでした!第二期もあと少し!皆様お付き合いの程、よろしくおねがいします。
大室山山頂
「おぉっ!すっごい開放感!!」
「むっちゃえぇ眺めや!!」
下に見えるのが火口で、その周囲を円錐状に形成された丘によるとんでもない開放感があり、初見では息を呑むほどの大パノラマだ。火口をぐるっと歩いて一周できる綺麗な地形というのもなかなかに珍しい光景だ。
「むこうに見えるんが山頂みたいやな〜」
リフト降り場の対面に近いところ。人がまばらに集まり、こちらから見ただけで少し標高が高いと解る場所が山頂のようで、ここからそこそこ距離がある。
「よし!なでしこ!チビイヌコ!先にあっちの山頂についたほうが勝ちな!」
「おっ!望むところだよ!」
「せやせや!」
細野高原の惨劇再び。
敵わぬ相手と知りながら、それでも挑まにゃならぬのか?それでも勝負となるならば、挑まにゃ女が廃るもの!
「シマケン、お前も参加な」
「もうその手に乗らん、却下。俺は前は走らされたけどな、今日は走らねぇって信念持ってやってんだよ!」
志摩ケン、ここに心の誓いを立てる。
もう安い挑発に乗るものか。
今日こそはゆっくりと歩いて体力温存するんだ。
それを邪魔することは何人たりとも出来ないのである!
「…………ジー」
「…………」
「…………ジー」
「…………」
「…………ニヤリ」
「やってやろうじゃねぇかこの野郎!半端ないとこ見せてやるよ!」
嗚呼、信念というものは、かくもポッキーのようにすんなり折れるものなのだろうか?ケンの安い誓いが、ボロボロと音を立てて瓦解していくのが容易く想像できる。
ケンは修羅神の如き圧を放ちながらなでしこ、あかり、そして千明の横に並び、スターティング。もはや引き返せぬ所へとやってきてしまったのだ。あとは征くのみ。
「位置について〜……よ〜い……どん!!」
千明の音頭により、スターティングポジションに立っていたケン、なでしこ、あかりは全力で山頂目指して駆け抜けていく。
そんな三人の後ろ姿を見送るのは……
「はっはっは〜!な〜んてな!」
自身は参加する、とは一言も言っていなかった千明は、自分の口車に乗せられて全力疾走していく奴らを見てご満悦の様子である。
しかし、
そんな彼女の横を、あおい、リン、恵那が走り抜け、先ゆく三人を追うように駆けていく。
「お、おい!お前ら!置いてかないでくれよ〜!!」
一人置いてきぼりを食らった千明は焦って六人を追って走り出す。嵌めたつもりが全員による協力プレイで、文字通り千明を出し抜いたのであった。
「ふぅ……!とうちゃ〜く!」
案の定、細野高原と同じく一番乗りはなでしこ、二番手はケン、三番はあかりとなった。全力で駆けていたにもかかわらず、殆ど息が上がっていないなでしこ。安定の体力オバケである。
「あ〜チクショ〜!また負けた!」
「ほんまっ……なでしこちゃん……速すぎや……」
「ふっふっふ〜!まだまだ若いもんには負けんのじゃよ……っおお〜!!」
大室山山頂から望む景色。
相模湾とそれに沿った伊東市、その奥には僅かに熱海市までも見える絶景。振り返れば東伊豆町が見下ろせる。流石に標高はそこまで高くはないので、達磨山までは見えないが。
「ええ景色やな〜」
「そだねぃ〜」
「写真、撮ろうか?」
「ええのん!?なでしこちゃん!撮ってもらお!」
「うん!」
と言うことで、
山頂から相模湾を一望できる場所を背に、あかりとなでしこと並び立ち、ピースサイン。流石に背の差を考慮してなでしこが少し屈むことで、丁度よい背丈となった。
「ほい、撮るぞ〜?膝を英語で〜?」
「そんなんしらんで!」
「ニー!」
パシャリ
英語がわからず焦るあかりと、しっかりとにっこり笑ったなでしこを写真に収め、御満悦なケン。実に大人げない。
「君はいい友人の妹だったが、君の英語力の低さがいけないのだよ!フフフ……ハッハッハ!!」
「ケン君!謀ったなケン君!」
一泡吹かされたあかり。
もはや鬼畜の所業と言わんばかりのケンに何とか仕返しを、と小学生ながらその思考をフル回転させる。
(私やったって犬山家の人間や!やられっぱなしやない!)
そうだ。姉に、時々祖母に散々嵌められたことでメンタルと思考力が鍛え上げられているのだ。その経験をフル稼働させれば……!
いや、ここですぐに直接ケンに仕返しを試みてもそれを警戒し、失敗に終わるだろう可能性が高い。
では如何にして敵を仕留めるか?
昔の武将は言い、そして諺にヒントがあった。
『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』
と!
「そ、そや!なでしこちゃん!ケン君とツーショット撮ったげるで!」
「いいの!?じゃ、お願いしちゃおうかな?」
あかりの提案に嬉々として自身のスマホを渡すなでしこ。
(こ、こいつ……!何を企んでいるッ!?)
(乙女に恥かかして、タダで済むと思ったらアカンで……?)
未知の恐怖から来る戦慄の表情を浮かべるケン。
そしてなでしこからスマホを受け取る影で、ドス黒い笑みを浮かべるあかり。
なんとも不毛な応酬である。
「ほなら撮るで〜?二人共しっかり寄ってや?」
「お、おう……」
もはやまな板の上の鯉だ。
こいつは写真撮影で何かしらの仕返しを仕込んでくるとケンは踏む。だがここで写真撮影を拒めば、なでしこに寂しい思いをさせてしまう。なでしこに写真撮影を提案したのは、おそらくケンが彼女のお願いは拒めないと踏んでの算段の写真撮影だ。
「もっとやで〜」
ピッタリと肩と肩が当たっているのに、まだ寄れと言うのか?
「なでしこちゃんがケン君の腕に抱きついたらええんちゃう?せやったら寄れるで〜」
「んなっ!?」
「いいよ〜?」
むぎゅっ!と、そんな擬音が聞こえそうな感触の後、ケンの右腕になでしこが腕を絡めて抱き着いてくる。
女子特有の甘い香りと、二の腕に押し付けられる柔らかな二つの感触は、ケンの顔をあっという間に紅潮させるに至った。
「ええなええな〜!そのままやで〜?撮るよ〜?」
ニヤニヤとスマホの画面越しにこちらを見つめてくるあかり。
だが中々シャッター音が聞こえない。他人のスマホだから上手く操作できないのか?
否!
(こ、こいつ……時間稼ぎしてやがる!)
ケンがなでしこに抱き着かれて顔を赤くするというシチュエーション。それを少しでも長引かせてケンを辱めんとしているのだ。
顔を赤くして焦りを顔に出すケンは、先程嵌められたあかりにとって、いい酒の肴になるのだろう。未成年だけど。
「いくで〜?はいチーズ!」
パシャリ
数十秒?
数分?
時間の経過感覚が麻痺しそうなほどに緊張した写真撮影。
結局はあかりが焦らしたのは十秒程で、その十秒が恐ろしく長く感じていた。
「いや〜、ご馳走さんや〜!」
満足したあかりが撮れた写真をみてニマニマしている。
きっとコイツは大物になる。
そんな雰囲気すら感じられるほどに。
「ケン君」
腕に抱き着いているなでしこから腕を引かれて顔を向ける。
瞬間。
唇に柔らかな感触。
視界いっぱいのなでしこの顔。
そしてすぐに離れてしまった。
触れ合った唇と唇はほんの一瞬。
だがその一瞬で恥ずかしさを天元突破しかねないほどの外的刺激だった。
「な、なでしこさん……?」
「な、なんとなく、ケン君の顔が近くにあったから、ね?したくなっちゃったっ」
自分で言いながら顔を真っ赤に染め上げていくなでしこ。
幸いなのはあかりは撮った写真に夢中で気付かなかったのと、周囲に全く観光客がいなかったことか。
「全く……不意打ちにも程があるっての」
「だ、だって、こんなに一緒にいるのに、する機会がなかったんだもん……」
「狙ってたのか……。ん、まぁ俺も久々に出来て、何か嬉しかったし……」
「そだね、思えば唇にしたのはケン君がウチにお呼ばれされたとき以来かも」
「そんなになるのか……ん?唇にしたのは?」
「あ」
「唇以外にはいつした?ん?正直に答えてみ?」
「え、えと……ね?伊豆キャン初日の夕方に、ケン君が寝ちゃいそうだったから悪戯でほっぺたに……」
「……あの時か」
思い返せば、あの時ウトウトしていた頬に受けた感触はそれだったのかと納得する。なでしこが顔を真っ赤にしていたのも合点がいく。
「全く、悪戯するなんてなでしこも悪い子になったな〜?」
なでしこの腕の拘束から抜け出すと、むにぃ〜、となでしこの頬を摘んでこねくり回す。あいも変わらずの絶妙な柔らかさだ。
「うみゅ〜っ!」
「あんまり悪戯しすぎたら、俺が保たなくなるからな〜?ん〜?」
「
ケンの言葉の意図がわからないのか、頬を摘まれたまま首をかしげるなでしこ。
どうもこういうことにはかなり疎いらしい。
「うむ……俺も男だってこと、覚えとけよ?男は狼って昔から言うだろ?」
「???ケン君は男の子なのは知ってるよ?女の子の見た目だけど」
後半の言葉の一撃。
それがとてつもなく重く、ショックからケンは引き攣った笑みを浮かべる。
結局彼が立ち直ったのは、遅れてやってきた残りの四人が山頂に辿り着いたあたりだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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