リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
下山し、大室山を後にした野クル伊豆半島ツアー御一行様は、伊豆キャン最後にしてある意味最大の目的地である伊東サボテンパークへと足を運ぶ。
ついに温泉カピバラに会えるとテンションマックスなあかり。彼女程ではないにせよ、他の皆も楽しみにしていたスポットであることには変わりなく、気持ちが高揚ぎみでいた。
車とバイクで走る傍ら、おそらくサボテンパーク敷地内に入れば、ペリカンや孔雀、リスザルといった飼育されている動物が放し飼いにされており、開放的な飼育方法に新鮮さを覚える。
が、その傍ら
(何かさっきから頭が重いな……やっぱ全力疾走したのが響いているのか?)
バイクで車を追いながらも、何となく頭がずっしりとした感覚に見舞われ、疲れが出てきたのかと危惧するケン。
もうすぐ到着するのだ。カピバラを見終えたら、少し休憩も兼ねてのんびりするか、と自身の体力の無さを恨みながらバイクを走らせる。
目の前を見れば、何やらラフェスタに乗ってる奴等がやたらとこっちを見て写真を取りまくっている。
(人が頭の重さに耐えているというのに、それをパシャパシャと……何やってんだアイツら)
そんなに人がしんどいのを我慢して走っているのが物珍しいのか。連中の謎の興味の矛先に疑問を覚えていれば、ようやく駐車場へと辿り着いた。
門番をしていた職員さんがケンの方を見て、まるで度肝を抜かれたかのように驚いていたがなんなのだろうか?と見られる本人に謎は深まるばかりで。
「ケン君ケン君!ちょっとまだヘルメット取らないでね!」
駐輪スペースに停めるやいなや、先にラフェスタを停めて降りてきていたなでしこが慌てて駆け寄ってくる。
そして駆け寄るやいなや、再びスマホで撮影してくる始末。
全く、さっきから何事か?と謎が深まるばかりのケンだが、何かの羽撃く音とともに頭が揺れれば、先程までの頭の重さが嘘のようになくなったのだ。
「なんだ?今の」
見上げれば、それはそれは立派な尾羽根を持った一羽の孔雀が、その大きな羽を広げて飛び去っていった。
「……孔雀?」
しかも雄の。
「ケン君ケン君!すごいよ!ベストショットだよ!」
孔雀に呆けていたケンに興奮気味でスマホを見せてくるなでしこ。どうやらさっきから撮っていた写真らしく、何をあんなに興味津々で撮っていたのか?とその疑問を払拭すべく画面を覗き込む。
果たしてそこに写っていたのは……
「なんじゃこりゃぁ……!」
「ね?正に衝撃映像ってやつだよ!」
ラフェスタの後ろを走るケン。彼が被っているヘルメットの上に、先程見た立派な孔雀が見事に止まっていたのである。走行中こそ大人しく羽を閉じていたが、駐輪スペースに停めたときの写真は、その美しい尾羽根を盛大に広げ、求愛行動をしていたのだ。
流石に人の頭の上に乗るだけでも珍しいのに、更にその上で尾羽根を広げるなどと、一生に一度見れるか否かのものなのだから写真に収めたいというのも分からなくもない。
「なるほど、それでさっきから頭が重かったのか」
特に疲れからくるものでもなく、ただ頭に孔雀が乗っていたことから来る頭の重さなだけであって一安心する。
安堵のため息とともに興奮が止みきらないなでしこの手を取って、皆が待つ受付けへと向かう。流石に時間に余裕があるとはいえ、話は道中ででもできる。時間は少し巻いていくのが理想だろう。
が、しかし。ここで危機感を覚える少女が一人。
(確か雄の孔雀が尾羽根を広げるのは雌への求愛行動の一部……だったよな?まさか……いやまさかな……?)
妹として、動物から兄へ向けられる愛情表現に、再び仮説が立てられる。だが今の所判断材料が3つだけ。まだ、まだ断定には早い。まだ希望はあるのだ。
そんなリンの危惧など露知らず。
鳥羽先生が受付で入場手続きをする傍ら、動物を放し飼いにしていることに感心したことを話したところ、どうやら放し飼いではなく脱走だったらしく、受付職員の連絡によって担当職員がぞろぞろと外へと駆け出して行った。なるほど、門番の人に頭に孔雀を乗せたライダーを化け物でも見たかのような顔をされたのは、それが原因だったらしい。
ということで……
案内板を見るに、お目当てのカピバラ温泉はそこそこ奥にあるらしく、道中の動物に触れ合いながら目指すこととなった野クルサボテンパークツアー御一行様。
アルパカ、ハシビロコウなど、普段触れ合うことのできない珍しい動物に加え、施設名称にもあるサボテンを見て回っていれば、あっという間にカピバラ温泉の近くまでやって来ていた。
「アキちゃん!」
「よし!行くぞ!」
「「うぉぉぉお!!」」
トンボロの時のように二人して駆け出していく。
「二人共〜、走るとコケるで〜!!」
(どこかで見たシチュエーション……!は!?もしや!)
デジャヴ、とでも言うのか。第六感からケンは咄嗟になでしこの手を摑む!
「ど、どしたの?ケン君。もしかして、手を繋ぎたいの?」
「え?あ……いや、トンボロの時みたいにコケるんじゃないかと……」
「あはは、あの時は足場が不安定だったからだけど、流石にアスファルトでコケたりは……」
「うぎゅ!」
しないよ。と言いかけた傍らで、如何ともし難い声が。
恐る恐るそちらを見れば、これまた如何ともし難い表情で地面に座り込むリンの姿。
「……コケたのか?」
「……うむ」
事象というものは、巡り巡って他人に起こりうるもの……なのかもしれない。
チョロチョロと湧き出る暖かな温泉
その湯船に浮かぶ柚子の果実
そしてその湯をのほほんと堪能する茶色い生物
そう、こここそが名物たるカピバラ露天風呂
「温泉浸かって、気持ちよさそうな顔してるね〜……」
「むっちゃ癒やされるわ〜……」
「ほんまやな〜……あの寝とんのか起きとんのかわからんまったり顔が……」
「なんとも言えないよね〜……」
「こっちまで和むね〜……」
「俺も一緒に温泉入りてぇなぁ〜……」
「そんなことしたら、先生として止めないとですね〜……」
「和むわ〜……」
「癒やされるわ〜……」
「コレが……カピバラ……なるほど、確かにかわいい……か?なんだろうか……何だあの顔……無の境地にあるかのような……見ていて不思議な気持ちに……時間の流れまで緩やかになっているような……見ているだけで自分が湯に浸かってるかのように……くつろぐ……和む……癒される……あぁ……イイ……!そんな感覚が……じんわり……身体に……染み込んでいく……!」
「リザちゃん!?」
はっ!?
ただただ流れるゆる〜い時間。
のほほんと温泉に浸かるカピバラに感化されたのか、見ている誰しもが彼ら?と同じようにのほほんとし、語尾がやたら伸びている。
見物客のうちの銀髪の女性が、カピバラに呑まれているのをその連れが起こす声で、同じく呑まれ掛けた見物客が正気を取り戻した。
「意識が飛んでいたのか……?」
「大丈夫?意識、飛んでたみたいだけど……」
「あぁ、浸かっていたよ。カピバラという名の温泉に、な」
「いよいよを以て意味がわからん」
だが銀髪の女性の言葉も言い得て妙なもので。
存外的を得ていた事に誰しもが納得する。
そう、ここは見ているだけで温泉に浸かることが出来る場所。
掛川のお茶が飲む温泉であるように。
本懐のカピバラ温泉を見終えたところで、ここからは自由行動にしよう。ということになり、各々好きな動物を見て回る事になったわけで……
「おぉ!ケン君ケン君!フラミンゴ!フラミンゴだよ!」
「わかったわかった!わかったからすこし落ち着けぃ!」
二人はちょっとしたデート気分を味わっていた。
二人きりでこうしたアクティビティというか観光的なお出掛けをしたことがなかったため、謀らずも初デートと相成ったのである。
「レッサーパンダだぁ!かわいいねぃ〜」
「カピバラとは違う意味で、なんとも言えん愛嬌があるな……お、立った」
「テレビで見たことあるけど、生で見るの初めてかも!」
終始テンションが高いなでしこに、文字通り振り回されながら、サボテンパークのあちらからこちらまで歩き回る。落ち着く暇もあったものではないが、不思議と疲れず、むしろ体力が幾らでも湧き出る感覚。
きっとこれがデートたる所以なのか。好きな人と一緒にめいいっぱい楽しむ掛け替えのない時間がそうさせてくるのだろう。
元気いっぱいのなでしこがはぐれぬよう、しっかりと手を握り、そして園内を駆けていく。
伊豆キャン最終日の最後に、
ケンは忘れられぬ初デートを味わっていた。
が……
グゥゥゥゥ!!
二人でリスザルにおやつをあげていたら、盛大な腹の虫が鳴り響き、先程までのおやつに群がっていたリスザルたちはまるで蜘蛛の子散らすかのように逃げ去ってしまった。
「え、えへへ……?」
照れ隠しの笑みを浮かべるなでしこ。どうやら彼女の胃の中の猛獣が、そろそろ食い物を寄越せとお冠らしい。
加えて美味しそうにおやつを食べるリスザルに触発でもされたのか、普段よりもなお盛大な音だった。
「俺も小腹が空いたし、近くのレストランでなんか食べるか?」
「オーキードーキー!!」
「色々限定メニューがあるから、せっかくだしな」
というわけで、
園内にあるレストランへと足を運んだ二人。昼食のピークは過ぎているらしく、座席も空席がそこそこ目立っていたのですんなりと入ることができた。
「おぉ!なんかすっごいかわいいメニューばっかりだぁ〜!」
メニューには看板動物となったカピバラをモチーフにしたカピバラハンバーガーを筆頭に、レッサーパンダのテールパン、アヒルのとろとろオムハヤシ、フラミンゴのスパゲティなど、飼育されている動物の名前がついたものがズラリと。
可愛くて美味しそうなメニューの羅列に、なでしこの目は今までにないくらいにランランと輝いている。
「これがいいなぁ〜……!あっ!こっちも美味しそう〜!」
「悩んでますなぁ」
「だってどれもこれも捨てがたいんだもん!ケン君は決めたの?」
「まぁな」
「早いよぅ〜、私も早く決めなきゃ」
「ゆっくり決めな。時間に間に合う範囲でだけど」
時計を見れば、まだ余裕はある。注文してゆっくり食べて集合場所へ向かっても充分なくらいにだ。
「む〜〜……………………………決めた!」
「おまたせしました!カピバラハンバーガーと、大室山インフェルノです」
「おぉ!きたきた!」
なでしこが頼んだのは、おそらく一番人気の目玉商品であろうカピバラハンバーガー。ケンが頼んだのは大室山インフェルノ。ネーミングはあれだが、ライスをドーナツ状に盛り付けて、真ん中を大室山火口に見立てたタコミート。そしてライスの上にはススキに見立てた野菜とチーズを散りばめ、文字通り大室山に見立てたタコライスだ。
「ケン君の、凄いボリュームだね」
「なでしこの方こそ、カピバラのバンズなんて可愛くて食べれないんじゃないのか?」
「そ、そうなんだよぅ……可愛くて食べれない……でも美味しそうだから食べたい!じいさんや、あたしゃどっちを選べばいいんじゃろうか?」
「食べればいいと思うよ」
「……それもそっか!」
嗚呼、花の女子高生とは……
目の前にいる女子は、まさしく花より団子を具現化したのかと思しき少女。
(まぁでも)
「いただきまーす!」
正大に音頭を取ると、ナイフとフォークで切り分けたハンバーガーをパクリと一口。瞬間、実に幸せそうな表情が花を咲かせる。
「おいひ〜!てりやきだ〜!」
(なでしこが美味しそうに食べるんなら、俺も幸せなんだよな)
そんな一人満足に浸りながらも。味調整のサルサソースをたっぷりかけ、しっかりと混ぜ合わせたタコライスを一口。
(ん、美味い。レタスの甘みとトマトの酸味、チーズのまろやかさが三位一体となってタコミートの辛味を受け止め、しっかり調和してる……)
「ケン君、美味しい?」
「うん、美味いよ。いかにもタコライス然としていて」
「……?タコライス然?」
「うむ、THE・タコライス。といえばわかるかな」
「ん〜、わかったような……わからないような……?」
ケンの謎かけ染みた答えに首を傾げるなでしこ。
「一口食べればわかる」
「え?いいの?」
「うむ、一口食べればタコライスの世界にご招待だ」
「よ、よくわかんないけど、じゃ一口もらおうかな〜」
と、テーブルに備えられたスプーンで掬い取るかと思いきや、ケンの方を向いたまま口を開けて待つなでしこ。
「えと……なでしこさん」
「あーー……ん」
「こ、これはまさか……」
「あーー……ん」
笛吹のときのように間接キスを……!?
だがしかし、あの時はただの友人であった二人。しかし今は彼氏彼女の間柄だ。何を恥ずかしがる必要があるのか?
と、思うだろう。
だがこのケン少年、ここぞというときはへタれることがままあり、今現在も戸惑っている。
だが時間が経てばなでしこをがっかりさせるだろうことは明白。ならば意を決して彼女を喜ばせるべきなのだ。
「ほら、なでしこ」
「あーー……むっ!ん〜!ちょっと辛いけど、美味し〜!」
意を決して口に運べば、一足早い満開の笑顔を咲かせるなでしこ。どうやらお気に召したのと、なんとか希望に添えたことで一安心のケン。
内心一息ついていると、目の前に切り分けてフォークに刺したカピバラハンバーガーが差し出されていた。
「私もお返し!はい、あーー……んして?」
「ま、マジなの?」
「うん、マジもマジだよ?あーー……ん!」
先ほどと逆の立場になれど緊張は変わらず、どうしたものかと思案する。
だがまぁ、せっかくのなでしこの厚意を無下には出来ない。
「あーー……ん」
「どう?美味しい?」
「ん、美味しいよ?」
正直なところ……緊張感で味がしなかったというのが現実だった。
それから、皿の料理がなくなるまで、時折食べさせ合いをしながら、二人の時間はゆっくりと過ぎて行っていた。
周囲の客の糖分摂取量を犠牲にして。
ほんの少しだけ甘み成分
はい、というわけでゲストはカワイスギクライシスの三人娘でした。
主人公のリザとなでしこ、おんなじ声優さんと聞いて最初まじで驚きました。あんなに声って変えれるんだな〜って。
この声はこの人!っていう唯一無二の声色を持つ声優さんもすごいですが、ここまで声を変えれる声優さんもすごいと思う今日このごろです。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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