リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
日もすっかり落ち、既に夜の暗闇が街を包み込んだ時間。
伊豆に最も近い家のために日が西へ沈む時間に帰宅できていたなでしこは、次いで帰ってきた両親へお土産を渡す傍ら、常にスマホを気にしている状態だった。二人が帰ってきた辺りに、他のメンバーが帰宅したと相次いで通知が入り一安心のなでしこ。
だがまだ家に帰らぬ人がいる。
しかし待てども待てども、待っている人達からの通知は来ず、ただただ時間が過ぎていくばかり。近況を伺うメッセージを送れども、二人共既読マークすら付かない始末。
口を尖らせ、悶々とした気持ちばかりがつのる。
帰宅した他のメンバーも、二人の帰宅報告がないことを案じている。
「あら、なでしこ帰ってたの?」
「うん、ただいま〜」
最後に帰宅した桜の声にも生返事。ソファに寝そべりながらスマホの画面を食い入るように見つめているなでしこ。
「あんたどうしたの?」
「ケン君とリンちゃんから全然返事が来なくて……大丈夫かなぁ〜」
「運転中なんじゃないの?」
それは頭ではわかっている。
だがそれでも返事がない、というのは心配になるもので。
かれこれ最初にメッセージを送ってから一時間は経っていた。
千明『しまぁ〜ずはまだか!?』
恵那『そうみたいだね』
あおい『お笑い芸人みたいなん、やめぇや』
千明『と、いうことは我々の伊豆キャンはまだ終わってないということだな!』
あおい『せやなぁ』
恵那『ウチに帰るまでが伊豆キャンだもんね』
千明『そのとおりだ!隊員全員の帰還報告を以て、伊豆キャンは完了なのだ!』
「…………」
皆が二人を案じるメッセージ。
それを読むことで、なでしこの胸中に燻っていた思いが溢れ出てくる。
こうしちゃいられない!
「お姉ちゃん!」
「………ハァ」
妹の言わんとする事を察してか、深い溜め息をつく桜。
一服しようとした矢先の妹からの要請を断らないあたり、やはり何だかんだでなでしこに甘かった。
「身延に入った」
『やっとだな』
「うむ、あと少しズラ」
だるま山高原を発って約7時間。
途中で帰宅ラッシュの渋滞に巻き込まれたものの、何とか故郷たる町へと帰ってきた2人。ここまで休憩なくぶっ通しで走ってきたのは、一重に早く帰りたいという思いからか。なんにせよ家まであと一時間を切った。
少しずつ近付いてくる家の安心感。
それによって抑制されていた疲労感が少しずつ自覚できてくる。
伴って、夜の静かな景色がそう思わせるのか、旅が終わってしまうという寂しさも少しスパイスになり……。
だが不思議と悪くない感覚だ。
達成感……というのか、はたまた旅から戻った時の懐郷感とも言うべきか。
『やっぱ良いな。遠出キャンプ』
「お?お兄ちゃんも遠出の楽しさがわかってきた?」
『まぁな。お前みたいにホイホイ行く気にはならんがな』
「ふっ……いずれお兄ちゃんも遠出キャンプの沼に沈めてやる。ズブズブに」
『お前、じいちゃんの血、濃く受け継ぎすぎだろ』
きっと将来、バイクを乗り回して方方キャンプへ出掛けていくのだろう。
その活動力が頼もしかったり、少し心配だったり……
そんな兄心が出て来て本栖湖展望公園へ差し掛かった時だった。
「ケンく〜ん!!リンちゃ〜ん!!」
自身らを呼ぶよく知る声。
ハツラツとして、皆に元気をくれるそれに惹かれ、2人は駐車場にそれぞれの相棒を駐車する。
水色のラシーンから駆けてくるのは、修善寺で別れた桃色の髪の少女。
「どうしたの?」
「二人共返事がなかったから心配で……お姉ちゃんに頼んで連れてきてもらったんだぁ」
「返事?」
「うん、メッセージの」
二人共自身のスマホのメッセージアプリを見れば、野クルのグループラインもそうだが、それ以上に目の前の少女からの自身らを案じるメッセージをこれでもかと受信していた。
「めっちゃ来てたし」
「帰りはスマホ使わなくても帰れたから見てなかったわ。あれからぶっ通しで走ってたからさ」
「駄目だよ二人共!適度に休憩しなきゃ!」
「いや、そこまで心配しなくても…………ぁ」
そこまで言葉を吐き出して思い当たるフシがあったのか、2人揃って口を紡ぐ。
「……?どうしたの?」
「あ、いや…、」
「何となく似た者同士だなって思ってさ……」
「……???」
そう、あれは年明けて間もない頃。
目の前の少女が一人でキャンプしたいと言い出した時。
電波が悪いのが原因ではあったものの、近況メッセージが途中で止まった事で心配し、2人揃って何ともないか様子を見に行った事があったのを思い出した。
なんだかんだ、心配性なのはお互い様なようである。
「ねぇ?二人はどこが一番良かった?」
展望スペースから富士山を眺めながら。
三人は柵に身を預けながら伊豆キャンを振り返ってみる。
「ん〜……そうだな。黄金崎も良かったし、細野高原も良かったし、大室山も良かったし」
「大室山良かったよね〜、ね?ケン君?」
「まぁその……うむ。嬉し恥ずかしだったけど」
「あれは少し私も大胆だったかな〜?なんて……」
「お前ら、私の預かり知らんとこでイチャコラしてたのか?」
「そ、それは企業秘密ということで!」
「お、温泉も良かったし!それに、皆が誕生日祝ってくれて嬉しかったし」
楽しい思い出が、口を開くたびに出てくる。中には恥ずかしい物もあるが、それもまた一つの旅の記録。大切なものだ。
楽しそうに伊豆キャンを振り返って話していたなでしこ。だがその口調は少しずつトーンが落ちてきていた。
「でも……旅が終わっちゃうのって、寂しいね」
「……うん」
「じゃ、また計画立てて行こう?どこかにさ」
「でも……寂しいは寂しいよ。だって……すっごく楽しかったから」
「そうだな……いざ終わるってなると、なんかしんみりすると言うかなんというか……」
楽しみにしていて、その実楽しかったから。
その反動も大きい。
それが一番身に沁みているのはきっと、なでしこだろうから。
「だから、またやりたい!また行こう?キャンプ!」
「なんだよ、結局同じこと言ってるじゃん」
「え?えへへ……そうだねぃ」
だからこそ、次を楽しみにしたい。
それが終わったらまた次を楽しみにしたい。
寂しさを次の楽しみへと繋げて。
「はぁ……やっぱり綺麗だね。夜の富士山」
「だるま山高原で遠目に見たのも良いけど、こうして近くで見るとやっぱり違うなぁ……」
「うん。今度ソロキャンする時は本栖湖にしようかな?」
「そういえば本栖湖でまだ泊まったことなかったんだっけ?」
「うん、あの時はキャンプ始める前だったし。……そういえばケン君、前にキャンプデートしようって誘ってくれてたけど」
「え?あぁ。あの時のか」
「良かったら今度、ここでお泊りキャンプデートしようよ!」
「「お泊り!?」」
リンのみならず、遠巻きに聞いていた桜も反応して異口同音、2人揃って素っ頓狂な声を上げる。
「ど、どういう事かしらケン君?」
「い、いやその……デートに誘うように言われてキャンプデートを以前に画策して……」
ずいずいと迫りくる桜の圧に退くケン。
そりゃそうだ。
妹がお泊りデートなどとあればこういった反応もするだろう。
「まさかここで大人の階段登るつもりじゃ……!」
「へ?い、いやいや!そーゆーことは結婚してからって決めてて……!ていうかなでしことは清い付き合いを……って!何言わせんですか!」
「ど阿呆」
「ねぇねぇリンちゃん。オトナの階段って、ナニ?ケン君の言う、そーゆーことって?」
「まだなでしこにゃ早い。お前はまだピュアなままでいてくれ」
「???」
本栖湖展望公園を支配する問い詰める女性の低い声。そして必死に弁明する少年の声。
富士山が見下ろす静かな身延の夜は、ゆっくりと更けていく。
少年少女達の旅の終わりを告げるように。
予告
あれから10年
高校生活を終えた野クルのメンバーはそれぞれの道を歩み始めていた。
山梨を離れて暮らす者も居れば、地元で働くものも。
25という歳を迎えた彼、彼女らに、少しずつ転機が訪れる。
10年経てども変わらぬ想い、変わらぬ仲間。
けれども変わらなきゃならないこともある。
それは……
『リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 劇場編』
「なでしこ……俺は……!」
少年の……いや、元少年の決意は……
これにて第二期終了となります。
長々ダラダラお付き合いありがとうございました
予告はこんな感じのコンセプトです。二人の間柄はまぁわかるかと。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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