リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
第一話『幼き思い出とソロキャンデビュー』
「すっ……げ……!」
少しばかり小さいヘルメットだからか頭が窮屈で、眼の前のシールドに視界の違和感を感じる。
だが眼の前を通り過ぎていく緑の景色が、
風を切る身体の感触が、
幼い少年の心をガッチリと掴んで離さない。
「怖くはないかい?」
そして自分がしがみついている祖父が少しばかり心配そうに尋ねてくる。
如何せん、今日は初めてのタンデムツーリング。ようやく安定してタンデムに座れる体格となった少年を乗せて、祖父の操るトライアンフは見事な緑の田園風景を突っ切っていく。
信号で止まれば夏の日差しが鋭く肌に突き刺さり、汗がじんわりとシャツを濡らしてくるが、走り出せばその濡れた部分を風が撫でて、清涼感とともに爽快感すらもたらしてくる。
「全然怖くない!むしろすっげぇって気持ちが大きすぎるくらい!」
「そうか、フフフ……やはり血は争えんな」
祖父の意味深な言葉に首を傾げながらも、少年はかつて経験したことのない感覚に夢中で、特に気にするまでもなくバイクの走りを堪能する。
今日の予定はタンデムツーリングをしながらのキャンプだ。年中結構な頻度でバイクを走らせ、そしてキャンプをしている祖父だからこそ知る、穴場中の穴場のキャンプ場。設備もそこそこ、料金もそこそこ。景観は素晴らしく、それでいてシーズンであってもそれほど混まないと、至れり尽くせりの場所らしい。
「先は長い。休憩を挟んでいっても余裕があるから、疲れたら遠慮なく言うんだよ?」
「うん、ありがとうじいちゃん!」
生まれて初めてのツーリング、そしてキャンプ。未知の経験が揃い踏みの今日という日を待ちわびた少年の返事は、初めてのタンデムと思えないくらいに元気なものだった。
「どうだった?バイクでのツーリングキャンプは」
キャンプ場について設営し、火を起こし、簡単ながらも祖父が作ってくれたキャンプ飯に舌鼓をうち、ゆっくりしていた所に少年は尋ねられた。
「すごかった……!なんか、言葉に出来ないけど、世界が違って見えた!キャンプも外でこうやって食べるの、すっごく美味しかったし!」
「そうか、楽しめたなら連れてきた甲斐があったよ」
孫……ケンのはしゃぎながらも精一杯の興奮を伝えようとする姿に、祖父はスキットルのウイスキーを口に含みつつも口元を緩める。
自分の趣味に孫が興味を持ってくれること。それがどことなくこそばゆくて、でも暖かくて。もう一人の孫は少しばかり自分に怖いイメージを持っているのは、関わる機会が少なかったのも要因だろう。だがこうして自分との『楽しい』を孫と共有出来ることが何よりの御褒美だ。
「機会があれば今度はリンも誘ってみるか」
「絶対リンもバイクとキャンプ、気にいると思う!」
「ふっ……ケンはすっかり虜になってしまったな。そんなによかったかい?」
「うん!特にバイクが!」
「そうか、大きくなったら自分のバイクが欲しくなっていそうだな」
もし最速で自分のバイクを持とうともなれば高校一年の誕生日を過ぎてから。あと6、7年といったところだ。その時自分もまだバイクに跨っているなら、願わくば共に走りたいと思うのはおかしな話ではないだろう。いつか来るかもしれないそんな日を思い浮かべ、頬を釣り上げる祖父……肇。
「よし、じゃあケンにバイクとキャンプの醍醐味を教えてやるか」
「醍醐味?」
「そうだ。もっともおじいちゃんがそう心掛けてる事なんだがな?まずは知らないところへ行くことを怖がらず楽しむことだ。全く土地勘もなく、知りもしない遠いところへ行くのは不安になるかもしれない。迷子になったらどうしよう?とか、そんな気持ちがあるだろう。だが逆に考えるんだ。知らないところだからこそ、見知らぬ発見や楽しみ、そして綺麗な景色があるかもしれない、と。それを楽しむのがバイクと、そしてキャンプだ」
「見知らぬ、景色……」
今日を目を閉じて振り返ってみる。
初めてのバイクに、見知らぬ土地へのキャンプ。
どちらをとってもケンにとっては経験したことのない出来事だったし、興奮のドキドキワクワクが常に頭を支配していた。
もし自分が一人でバイクに乗るようになって自分で行き先を定める時。見知らぬ土地への不安と共に楽しみすら湧いてくるのだろうか?
「難しく考える必要はない。道を間違えたりして失敗することも有るだろう。だがただその失敗すらも楽しんで、後々の思い出にしてやれば良い。無計画に……行き当たりばったり行くのも旅の楽しみ方だ」
「行き当たりばったり……」
今はまだ自分で旅をしたわけじゃない。
けれどいつか、祖父の言う言葉の意味を噛みしめる日が来るのだろう。
自分のバイクを持ち、遠くへ出かける。そんな日が来ればわかるのかもしれない。
その為にも、これからお小遣いを貯めていこう……そんな決意が浮かんだ小学三年生の夏休みだった。
「で、行き当たりばったりを実践した結果がこれだよ……」
眼の前に広がるのは大海原。
打ち寄せる波の向こうに浮かぶは佐渡ヶ島。
『よし、海を見に行こう』『どうせなら日本海を!』
と休みのテンションそのままに、思い立ったら吉日と言わんばかりに身延からバイクを走らせること6時間。ケンは日本海に面する新潟県の上越市まで来てしまっていたのだ。
リン『お兄ちゃん、今日は朝早くからどこ行ってるの?』
運転の暇を縫ってだろうか、リンがメッセージを飛ばしてきた。
ケン『ど こ だ と お も う?』
パシャリと海の写真を撮ってメッセージを送る。
リン『相模湾?』
ケン『ちがうんだなぁ!これが!』
なでしこ『東京湾!』
ケン『ぶっぶー!』
あおい『駿河湾?』
ケン『不正解!』
恵那『本栖湖でしょ?』
ケン『本栖湖こんなに広くねぇだろ』
千明『チェサピーク湾だろ?』
ケン『なんでいきなりアメリカに飛んだ?』
途中から大喜利めいた回答が飛び交う中、GPSから得た位置情報を添付してメッセージを送ると……
全員『新潟……!?』
一斉に、ほぼ同時に同じメッセージが画面を埋めてしまった。
ケン『じいちゃんの遺言のままに従って来たら、知らぬ間に新潟に来てた』
リン『おい、おじいちゃんまだ生きてるからな?バイクで元気に走り回ってキャンプしてるからな?』
千明『しかしまだ寒いってのに南じゃなくて北に行くとは……ヘンタイだな』
ケン『おい、うちの妹の悪口はやめてもらおうか』
リン『なんで私に飛び火!?』
あおい『まぁ確かにリンちゃんも寒い中であっちこっちキャンプ行っとるからなぁ……』
恵那『ヘンタイ兄妹だね』
リン『おい言い方』
ケン『……ん?となると、今の季節にあっちこっちキャンプ行ってるじいちゃんも……』
リン『おい馬鹿止めろ』
しれっと祖父まで巻き込みかねないケンだったが、リンの制止によって既のところで阻止された。新城肇、危うし。
ケン『とりあえず、近くのキャンプ場に移動するから、また後でメッセージ送るわ』
なでしこ『ケン君!写真も忘れないでね!』
ケン『はいよ』
と言うことで、自分の
(まさか俺のソロキャンプデビューが新潟とは……行き当たりばったりも大概だなぁ)
今まで肇や野クルのメンバー達とキャンプをする事はあったが、自分一人でのキャンプは未経験だった。
(ん〜……あんまり計画して来たわけじゃないけど、まぁなんとかなるっしょ)
なでしことは違い、気の向くままにたどり着いた場所でのソロキャンプデビューとなってしまったが、それはそれで後々いい経験になるだろう。
妙にポジティブな思考のままにケンは上越市市街を抜けて、高原に設けられたキャンプ場へとバイクを走らせるのだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
-
未来の子供達のほのぼの生活
-
ケンとなでしこのいちゃいちゃ
-
お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
-
いつメンのキャンプ