リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第二話『初心忘るべからず』

「よし!ここをキャンプ地とする!」

 

受付を済ませ、どこか景観の良い所は……と彷徨った先に見つけたのは、上越市を眼下に一望できる見晴らしの良いサイトだった。視界の端には先程まで居た日本海に面した居多ヶ浜も見え、海と山両方を味わえる。

日も傾き始めて来たこともあり、少し急ぎ気味に設営を始めたが、最早幾度となくテントの組み立てなどをこなした彼は、サクサクと設営を終えるに至った。

 

「我ながらあっという間だったぜぃ」

 

ドヤッとしながら、忘れないうちに思いっきり背伸びをしながら、できるだけ高い所から上越市を見下ろすようにパシャリと撮影。写真をご所望だった御方に送信する。

 

なでしこ『ぉぉぉ!絶景だ〜!海も見える!』

 

ケン『上越市丸ごと一望ってね。山と海、両方味わえる欲張りスポット見つけた』

 

なでしこ『やりますねぇ』

 

ケン『おいそのセリフはその筋の人からツッコまれるぞ』

 

なでしこへの返信も片手間に、夕飯の支度を始めるケン。今日はシンプルでお手軽なご当地グルメを作ることにした。

とは言っても、本格的なものではなく、キャンプ飯に適した簡易版だが。

 

なでしこ『今日の御飯、何を作るの?』

 

ケン『ん、今日は上越市で購入した鯛の切り身を使った料理を作ります!』

 

なでしこ『おぉ!海鮮!シーフード!』

 

まずはインスタントの御飯を少し大きな鍋で湯煎していく。飯盒炊爨をすると言うのも考えたが飯盒を持っていないので断念。

御飯を待つ間にコッヘルに湯を沸かし、顆粒の鰹だしと昆布だしを投入し、即席の合わせだしを作る。本当はここに鯛のアラを入れたらもっと良いのだが、生憎とそこまで買う勇気と予算はなかったようだ。

次はメインたる鯛。流石に板前さんのように見事なスライスは無理なので、ナイフで不格好ながらも鯛を薄くスライスしていく。

そうこうしているとインスタント御飯が出来上がるので、持ってきた茶碗に盛り、その上に鯛、みょうが、刻みネギ、刻み海苔、ワサビを乗せて、熱々の出汁を回し掛ければ……

 

ケン『カンタン鯛茶漬けの完成』

 

全員『おぉ〜っ!!』

 

リン『飯テロじゃん』

 

なでしこ『おいしそ〜!』

 

恵那『何だかお茶漬け食べたくなってきたから、永◯園のやつ食べてくるね』

 

千明『くっ……バイト中なのが悔やまれるぜ……!』

 

あおい『アキ、バイトに集中せんと、また叱られるで』

 

一人はバイトをサボりながらだったらしいが、そんなやり取りを横目に早速実食と洒落込むケン。せっかくの熱々なのだから、冷めてしまっては意味がない。ましてや、日が暮れて少しずつ肌寒くなってきたのもあるのだから、熱いものを口にしたいというのは至極当然だろう。

 

「いただきます」

 

早速、出汁が絡んだご飯と共に、熱されて少し白くなった鯛の身を口に頬張る。熱々の御飯が口の中をあっという間に温め、そして広がるのはダシの濃厚な旨味と、鯛と海苔、みょうがとネギの風味。そして御飯の甘味がふわりと鼻を抜けていく。そして飲み込めば、喉からじんわりと上がってくる熱さが何とも心地よい。

 

「くぅ〜っ……!あったまるなぁ……」

 

得も言われぬ旨さに、じんわりと涙が浮かぶ。それはきっとワサビのせいではなく、襲い来る旨さが涙腺をも飲み込んでいるのだろう。一口目の旨さのままに一気に食べ勧め、あっという間に一杯完食だ。

だが鯛茶漬けはまだ終わらない。次なるインスタント御飯を盛り付け、鯛の切り身を再びライドオン。次はネギと共に市販の佃煮海苔『オラァ!』を乗せて。

 

「んっ、さっきは風味が強く感じたけど、今度のは佃煮海苔の甘じょっぱさがダシに溶け込んで……これもいけるっ」

 

食べ終えると少しずつ御飯を足し、いろんなトッピングを試していく。それぞれに違った味わいと風味があり、中には微妙な組み合わせもあったが、それもまた面白くて。

 

「今度は別の薬味を買って組み合わせても面白いかもな」

 

あれやこれやと組み合わせて次々と食べ勧めていくと、あっという間に完食してしまい、とんでもない満足感と満腹感でケンの心は満たされていた。

 

「結局4杯も食べてしまった……」

 

持ち運びしやすいよう、小さめの御椀だったので杯数は多いが、汁気込みの食事だったので存外腹が膨れた。

食べ終わる頃には日も暮れ、眼下の上越市には街の灯りがイルミネーションのように輝き、幻想的な風景を醸し出している。

 

「……静かだな」

 

パチパチと薪の爆ぜる音以外聞こえず、静寂だけがケンを支配する。口から吐く白い息がそれに拍車を掛け、今まで賑やかだったキャンプとは打って変わって、妙な孤独感と共に、この景色を独り占め出来ている少しばかりの愉悦感が突き抜けていく。

 

「リンの言ってた『寂しさも楽しむ』ってこういうことなのかな」

 

ぼんやりと上越市の灯りを眺めながら、正月キャンプに浜名湖を見下ろしながらリンが話していたことを思い出す。

誰も居ない、

知らなかった所で一人、

何もせず、

ゆったりと過ごす自分だけの時間。

思いつくままにたどり着いたこの場所で過ごす一晩。

新しい発見と共に味わう静かな時間。

 

「ソロキャンプ、か」

 

初めて経験してみて味わうこの感覚。

一人旅の果てに感じるこれは、やっぱり悪くない。悪くないが、皆と共に楽しむキャンプもまた別の楽しみがある。静かなソロキャンプと打って変わって賑やかなそれも、ケンにとっては馴染み深いもので。

パシャリと夜景の写真を送れば、いつもの奴らがワイワイとメッセージで盛り上がってくる。この前伊豆キャンに行ったばかりなのに、この賑やかさがどこか懐かしくも感じてしまって。

 

「次、皆でどこに行こうかな?」

 

次はグルキャンに行きたい。

そんな思いが浮かんだケンのソロキャンデビューは、静かな夜の帳と共にゆっくりと過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うことで、野クルは再び初心に帰ることとする!」

 

「いや、久々の部活やからって唐突すぎひん?」

 

ケンのソロキャンプから週が明けて月曜日。

何だかんだ伊豆キャン以来バイトで忙しくて日が合わなかった野クルは久しぶりにうなぎの寝床……もとい部室に集まっていた。

伊豆キャンを懐かしむ中、千明が先の言葉を発したわけだが、あおいの言うように唐突すぎて意味不明だった。

 

「初心に帰るって、どういうことなの?アキちゃん」

 

ポリポリ

 

「アキはいっつも話が唐突やからなぁ」

 

ポリポリ

 

「慣れたけど、話が見えんのは変わらんな」

 

ポリポリ

 

「えぇい!ポリポリポリポリやかましい!」

 

「だって美味しいんだもん」

 

3人がポリポリと食べているのは、『万代太鼓』と言う新潟の銘菓で、その歴史は五十年を越える。太鼓をイメージした形のそれは、真ん中がくり抜かれた形の年輪状に焼かれたソフトクッキーの中にクリームがたっぷり入れられたお菓子だ。季節によって限定のクリームがあり、春なので苺クリーム。ケンの買ってきた新潟土産を食べながら部活をしようという彼の案だった。

 

「アキも早う食べんと、なでしこちゃんに全部食べられてまうで?」

 

「そこまで食い意地張ってないよ!?」

 

「空き袋が着々と積み重ねている現状で言われてもなぁ……」

 

「はっ!?」

 

「えぇい!相変わらずのグダりっぷり!それでこそ野クルだ!そんなお前らにこれを進呈してやる!」

 

そして千明がカバンから取り出したるは350缶のカフェオレだ。

 

「何や、奢ってくれるん?」

 

「このお菓子とカフェオレ、すっごく合いそう!」

 

「気が利くじゃん、部長」

 

「当初の計画とは違ったが……まぁ飲みながら聞いてくれ!伊豆キャンを終えて思ったんだよ……アタシ達のキャンプは贅沢していると!」

 

『贅沢……』

 

「考えても見ろよ、野クルのキャンプを!金のないアタシ達は創意工夫を経て、何とかキャンプを成功させようと、協力して知恵を絞ってやり繰りしてきたハズだ!」

 

確かに最初こそ道具もなく金欠に近い状態だったので、代用品や何やで試行錯誤しながら熟してきたが、今となっては少しずつ道具も揃い、余裕を持ったキャンプをしている状態。そのうえでしっかりと金銭的余裕をもたせた伊豆キャンは、今までと比べ物にならないくらいに贅を尽くした二泊三日となった。

 

「でも……シュラフカバーの代用は失敗だったよね」

 

「しっ……!黙っといたげ」

 

「だからこそ!初心に帰って創意工夫と言う節約代用を思い出すことにしたのだよ!」

 

「まぁ趣旨はようやく何とか理解したけど……具体的には何すんだ?」

 

「フフフ……ヒントはお前らが今飲んでるカフェオレだ」

 

『???』

 

千明の言葉に、三人は口にしていたカフェオレ缶をじっと見つめる。これで何の創意工夫をしようというのか、全く想像がつかない。

 

「ま、その件に関しては追々……飲み終わってから説明するわ。ってことで、先ずは菓子を食いながら……」

 

「あ」

 

「あ……」

 

千明が気を取り直して新潟土産を口にしようと箱を見れば、その中身はすでにすっからかん。その虚しい空箱に、千明は呆然と固まってしまう。

 

「え、えへへ?」

 

そして苦笑いを浮かべるなでしこの傍らには空袋の山。ほとんど彼女の胃に消えて行ったようだ。

 

「……あの、部長?」

 

「ナニカネ」

 

「……これ、食う?」

 

ケンが空袋を開けて口に入れようとしていたラスイチをそっと千明に差し出す。

未だ口に入れていないから、ギリギリセーフだ。それを彼女が食べるかどうかは別問題だが……

 

「ガブッ!!」

 

「うぎゃぁぁぁ!!千明おまっ!!手ごと噛むなぁぁ!!」

 

食い物の恨みと言うものは恐ろしい。

本日の教訓はそれだった。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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