リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

67 / 117
第三話『進まない手』

「それではこれより!食い物の恨みが籠もりに籠もったこの特級呪物アルミ缶を用いたキャンプ道具を作ることとする!」

 

「それ、アキの缶だけやで」

 

場所を移して理科室。先程一悶着終えた放課後ティータイムの後に、部長の『初心に帰って創意工夫を行うぞ!』と半ばヤケクソじみた号令によってやってきたのだが……

先のお茶菓子を一つしか食べられなかった事を引きずっているらしく、彼女からは紫のような黒のようなオーラが滲み出ていた。そしてその主な原因たるなでしこは、悪かったと反省しているのか普段のハツラツさは鳴りを潜め、借りてきたネコ状態となっている。

 

「所で部長、理科室なんかにやってきたは良いけど、作るにしても何を作るんだ?」

 

「フッフッフッ……シマケン通信兵長、好奇心は猫を殺すともいう。がっつくのも命取りだということを覚えておきたまえ」

 

「アルミ缶を使ったキャンプ道具……アルコールストーブとか?」

 

「貴様―!それを今から説明すると言うに!!」

 

グダってたのでズバリ予想したケンだったが、彼女の焦り具合を見るに図星だったらしい。

気を取り直して黒板に作り方を記していく千明だが、その絵が妙に上手い。以前、あおいとあかりが作ったかまくらをバリ島遺跡へと作り替えた手腕もあり、彼女には芸術性が見え隠れしていた。

ということで早速製作に取り掛かる4人。ボトル缶の側面にぐるっとマスキングテープを貼り、それに沿ってカッターでなぞって切れ込みを入れていくわけだが……

 

パキャッ

 

「あっ」

 

………

 

パキャッ

 

「あぁっ!」

 

……

 

ドッギャZン

 

「あぁぁぁ!!何度やっても切るところでグシャってなっちゃうよぅ!!」

 

「序盤も序盤じゃねぇか」

 

「とんでもねぇパワーだ」

 

「なでしこちゃん、力み過ぎやで」

 

こういう作業は所謂『左手は添えるだけ』的なもので、動かないように押さえる程度の力を入れれば済むのだが、どうやらなでしこは加減が効かないらしい。

 

「こうなったら!!」

 

何を思ったのか全力ダッシュで理科室を飛び出していくなでしこ。何やら考えがあるのだろうか?

 

「相変わらずワンコみたいに元気やなぁ」

 

「うむ。野クルの鉄砲玉は伊達じゃないな」

 

「いやまぁ元気なのはわかるが、鉄砲玉て……」

 

ニシシ、と笑う千明を見て、ふと何かを思ったのかあおいが口を開いた。

 

「そう言えばアキ、髪随分伸びたんやない?」

 

「そういや俺が野クルに入った頃はバリバリにデコ出てたよな。今は目に掛かりそうなくらいにまで伸びてるし」

 

四ヶ月前は、前髪よりも額の肌の面積のほうが広かったのだが、今となっては黒の髪がその領地を拡大してきており、トレードマークだったデコはその勢いに飲まれてしまっていた。

 

「言われてみれば……しばらく切ってなかったしなぁ……」

 

「ちょうどここにええもんありまっせぇ?」

 

そう言ってケンがギラリと光らせるのは、手に持ったカッターナイフだ。これ見よがしにチキチキと刃を伸ばしている。 

 

「おまっシマケン!そんなもんで切ろうとすんな!乙女の髪をなんだと思ってんだ!」

 

「いや、乙女て……」

 

「まぁ乙女かどうかはともかく、アキの言う通り、ちゃんと髪切る用にハサミやないと髪痛めるでなぁ」

 

「いっそバリカンでサッパリする?」

 

「イメチェンにも程があんだろ」

 

だがそろそろ切り時だと千明も感じているらしい。前髪が目に入ったりしたら結構鬱陶しいし。

 

「今度は潰れない!スチール缶で勝負!!」

 

「あ、なでしこちゃんおかえり〜」

 

戻ってきたなでしこの手には、『マジウマぶどう牛乳』なる飲み物のスチール缶だった。どうやら握力で潰れないために、技術より素材を変える方に走ったようだ。

 

「……およ?なんの話ししてたの?」

 

「千明の髪をバリカン(アタッチメント無し)でごっそりやろうかって話」

 

「してねぇよ!まぁそろそろ切ろうかって話は確かだけどな」

 

「確かに随分伸びたよね〜。出会った頃のアキちゃんて、おデコがチャームポイントだったし」

 

「せやなぁ。中学の頃は髪短くておデコ割合多かったし……あ、写真あるけど見る?」

 

「見たい見たい!」

 

「貴様ら―!プライバシーの侵害だぞー!」

 

自身の若かりし頃(大袈裟)の写真を暴露しようとするあおいを全力で阻止しようとする千明。

そんな姦しい3人を見守る冷ややかな視線と、微笑ましい視線が『それぞれ一つずつ』。

 

「アルコールストーブ作りから脱線してグダってんな……」

 

「相変わらず賑やかだね〜、野クル。そんなアキちゃんの髪、私が切ってあげようか?」

 

『っ!?!?』

 

前者の冷ややかなのはケン。後者の微笑ましいのは、いつの間にか理科室に入って来ていた恵那だった。

 

「おま、気配消して入ってこないでくれ。心臓に悪い」

 

「ふっふっふっ、この程度の所作、私にとってはお昼寝前なのだよケン」

 

「なんだよ恵那、ヘアカットできんの?」

 

「出来るよ〜?いつもチクワのトリミングしてるし」

 

「チクワかい……でもまぁ、キャンプの度に邪魔くさいなぁって思ってたんだ。この際バッサリ短くすっかな」

 

これから少しずつ気候も暖かくなってくる。春の心機一転と言うことで丁度いいのかも知れないが。

 

「まぁチクワもだけど、私自分の髪も切ってるし、やったげるよ?」

 

「ん〜、どうすっかな〜」

 

「あ!今思ったんだけど、キャンプしながらヘアカットって良くない?広いキャンプ場で髪切ったら、開放感あっていいと思うんだよね!」

 

「おぉ!気持ちよさそうじゃん!」

 

「でしょ!」

 

広い芝生

澄み渡る空気

髪を撫でる風

晴れ渡る一面の青空

そんな中で髪を切るという贅沢空間……

至福と言えるだろう。

しかし

 

「いやいや、風吹いたら切った髪飛んでいってまうで?」

 

「そうだな〜、その髪が万が一他のキャンパーさんの飯に入ってみろ。大惨事だぞ?」

 

「「あ〜……」」

 

流石に短絡的過ぎたらしく、なでしこも千明も頬を掻く。開放感があるのはいいが、他のキャンパーに迷惑をかけてしまっては、キャンパーの名折れと言うもの。他者に迷惑を掛けないというのは、公共施設を使用する上での暗黙のルールなのだから。

 

「だったら、うちの庭でやらない?どうせならテントも張ってさ」

 

「え?いいの?」

 

「うん、皆が来てテント張ったら、チクワも大喜びするよ?」

 

「チクワ!!それにお庭でキャンプで庭キャン!!」

 

「しかもデイキャンプや」

 

「庭デイキャン!」

 

「更にヘアカットキャンプ」

 

「ヘアカットデイ庭キャン!」

 

「パッと聞いただけじゃ理解出来んくなってるぞ」

 

全く以て進まない手作りアルコールストーブ。このグダりっぷりが野クルらしいといえばらしい。そんな晩冬の放課後の一幕。

 

 

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。