リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「次は恵那ん家で庭デイキャンだな」
「そう言えば庭キャンもデイキャンも初めてやな」
あれからアルコールストーブを完成させ、鳥羽先生同伴の元で試しに燃やした野クル+恵那。皆の力作とだけあって、問題なくアルコールストーブとしての力を発揮していた。
だが、鳥羽先生曰く、アルコールストーブはキャンプでおすすめしないとのこと。万一ひっくり返したら芝生などに燃え移って火事になりやすいし、燃料の保管や持ち運びにも気を遣うのが理由らしい。そして見た所大きさもそうだが、火力もそこまで高くはないので、料理にもあまり向かなさそうだった。
「あまり強くない火力で出来る料理なら使えそうなんだけどな」
「マシュマロとか焼けそうだね」
本栖高校前の坂を下りながら、恵那宅で行われる庭ヘアカットデイキャンに思いを馳せる五人。なでしこはと言うと、アルコールストーブで出来る料理なるものを思案している。
「弱火でじっくり焼く手軽なもの……」
「ソーセージでも焼くか?それならあたしがスキレット持っていくぞ?」
「「それだ!」」
料理を考えていたケンとなでしこが口を揃えて千明の案に目を光らせる。
「ア〇トバイエ〇とか!」
「香〇とか!」
「少し背伸びしてチョリソーとかもアリだね」
『いいねぇ!』
「自然に囲まれて、風を受けながら焼きたてのソーセージを頬張る……!」
「パリッと焼かれた皮……!」
「溢れる肉汁……!」
「そしてそれを炭酸で追っかけて……っくぅ〜!!」
少しお高い目のソーセージ達だが、この期に少し奮発してもいいかもしれない。
そんなアイデアやイメージ食レポを出し合っていると……
グゥゥゥウウ!!
5人の間に、とてつもなく大きな腹の虫が響いた。
「え、えへへ?」
その音の元を辿った先には、案の定というかなんというか、静岡の猛獣さんだった。
「みんなの食レポ聞いてたらお腹空いてきちゃった」
「まぁ時間的に分からんでもないけどさ。……てかあんだけ菓子食ってもう腹減ったのか、なでしこ」
「将来は食費が嵩みそうやなぁ、ケン君?」
「な、なんで俺に振るの?」
「だって、将来的にそうなるでしょ?」
「それに、二人に子供出来たら、遺伝子的にその子もよう食べるやろなぁ」
「双子だったりしたら尚の事だね」
「せやなぁ、案外お姉ちゃんのほうが弟の方よりよう食べて……」
「な、なんでそんなに具体的なの?二人共……」
突然、謎の未来予想図を語り始める二人に末恐ろしいものを感じたのか、尋ねるなでしこの声は若干震えている。ケンはケンで、なでしことの結婚、そしてその先を想像して、嬉し恥ずかしな様子である。
ともあれ、庭ヘアカットデイキャン改め、庭ヘアカットソーセージデイキャンのおおよその方針は決まったようで、ぐだ〜っと駄弁りながら、いつにするか?とか、集合は何時にするか?とかを議題に話す中、ふとなでしこが何かを気にして立ち止まり、パシャリとスマホで写真に収める。
「なでしこ〜、まだ咲いてないぞ〜?」
撮っていたのは未だ蕾があるかないかの桜の木。その枝木は彩りはなく、春はまだ来ていないことを告げているかのようだ。
「えへへ、ちょっとね?」
「花ではなく、枝に惹かれるとは……なでしこ、中々シブい趣向じゃん」
「そ、そんなんじゃないよぅ!ちょっと思いついたことがあってね」
「なんや、またおもろいこと?」
「それは秘密です!」
「え〜?教えてよ〜?」
「教えたら秘密じゃないもん〜、後のオタノシミダヨ〜!」
秘密にしたがるなでしこに迫る傍ら、ケンは未だその蕾すら見えない桜をじっと見上げてポツリ。
「花見キャンプもアリかもな」
そんな彼のつぶやきを、誰も彼もが聞き逃すことなく食いついてくる。
「花見キャン!えぇなぁ!」
「うんうん!花びらが舞う中でのキャンプご飯!」
「夜はライトアップされた桜を見ながらゆっくり過ごして……」
「そして愛を誓い合う一組の男女……ってか!」
花見キャンプと言う案に盛り上がるケンとなでしこに、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる千明。先程の恵那とあおいの子供の件と言い、めちゃくちゃイジってくる。
これは下手にはぐらかすと、先程のように全員でイジり倒してくるのは明白。
ならば、
「ふっ……愛など誓わずとも、俺となでしこの仲は最早がんじがらめに結ばれている!今更だぞ千明よ」
「こ、こいつ、ドヤ顔で開き直りやがった……!」
「が、がんじがらめって……束縛系みたいだねぇ」
「せ、攻めてきなぁケン君……」
「むしろ引き裂こうと言うものならば、バイクに轢かれて地獄に落ちろってもんだ!」
「ぶ、物騒すぎる……!」
そこは馬に蹴られてだろうが、バイクと言うあたりで彼らしいといえばらしい。
「……そういえばもう一人の当事者のなでしこちゃんは……」
「あひぃぃ……」
「刺激が強すぎたみたいやなぁ……」
顔を真っ赤にして茹でダコになっているなでしこを見て、今更ながら恥ずかしくなってきたケン。
まぁでも、花見キャンプというのも自分で言い出しておきながら悪くない案だ。これから春休みに入っていく傍ら、二年生に進級するにあたってのキャンプとして計画に値するのではないか?
真っ赤になるなでしこを宥めつつ、そんな考えを頭の片隅に、春を迎える帰り道。バイクを押しながら、どんなキャンプにしようかと考えるケンだった。
そして週末
「おまた〜」
「お、シマケンやっと来たな?」
時刻は十時を少し過ぎたあたり。恵那の家の最寄り駅の甲斐大島駅前に集合ということで、電車でやってきた千明、あおい、なでしこ。少し遅れてバイクを吹かしてやって来たケン。その背にはリュックが背負われており、いつもの泊りがけキャンプと違い、かなりの軽装だ。
「おはよっケン君!」
「あぁ、おはようなでしこ」
「ソーセージ、何持ってきたの?」
「それはその時になってのお楽しみってやつだよ」
「むぅ〜……」
3人と連れ立ってバイクを押しながら恵那の家を目指すケン。リンに無理やり連れられて何度か行ったことあるので、道なりは問題なかった。寧ろ駅から真っすぐ歩いたところにある。と言うか、駅から小さく見えている。
「にしても晴れてよかったなぁ」
「だなぁ、流石に雨の中でやるのは憚られるし」
「え?恵那には雨天決行ってメッセージしてたんだけど」
「なにィ!?貴様―!アタシに雨の降りしきる中で髪を切れと言うのか!?」
「ウソヤデー?」
「おぉ!なんかケン君、あおいちゃんっぽい!」
「いやいや、なでしこちゃん。まだまだやで?目の泳がし方の角度も甘々やし、特にウソヤデー?の発音が……」
「論点そこじゃねぇ!?」
などと千明をイジっているとあっという間に斎藤家に到着である。
恐らく駐車スペースだろうコンクリートの上にバイクを駐車してインターホンを、といったタイミングで…、
「あ、皆おはよう〜いらっしゃい」
寝巻き姿の恵那がリビングの窓からお出迎えだ。
「恵那ちゃんおはよう〜」
「てか、本当におはようって格好だな」
「いや〜、休みの日っていつまでも寝られちゃうんだよね〜」
「わかるわ〜寒い日に用事なかったら布団の中にずっと入ってたくなるんよね」
「相変わらずのぐうたらっぷりよ」
どこまでもマイペースでのんびりとしている恵那に呆れる傍ら、その彼女の足元に駆け寄る小動物の姿。愛くるしいその丸い目を輝かせながら、しばらく会えなかった野クルの面々を懐かしむかのように顔をのぞかせる。
「チクワ!久しぶり!」
「ワフッ」
感動の再会!と言わんばかりに窓縁に駆け寄るなでしこ。喜びのあまりチクワが飛び出してくるだろうと踏んで、ウェルカム体勢で構える彼女だが、開いた窓から吹き込む未だ寒い空気に身震いしたチクワは、床暖房でぬくぬくとした室内へと引っ込んでいってしまう。
「チ、チクワ〜……」
「流石にチワワにはまだ外の空気は寒いか」
「あはは、だねぇ。私も寒いからもう一回布団の中に引っ込んでくるよ」
「あ、おい待てぃ(江戸っ子)この家の人間のお前が一緒に庭に居ないと、俺等が不法侵入してるみたいに見えるだろ!?」
「それもそっか。しょうがないから私着替えてくるね〜」
「こ、こいつ……」
相変わらずのぽやぽやマイペースに振り回される4人。
本当に着替えてくるのか?また二度寝に洒落込んでくるんじゃないか?と一縷の不安が漂う。
「ま、まぁ設営してたらそのうち出てくんだろ。出てきたら始めれるようにタープとか張っとこうぜ?恵那が居なきゃ、あたしのヘアカット出来ないんだし」
『さんせ〜』
と言う事で、
各々持ってきたタープやローチェア、グランドシートをテキパキ展開し、ちょっとした庭のくつろぎスペースを作り上げていく。
「お、あおいちゃん新アイテム?」
皆が並べたチェアの真ん中に設置される4〜50センチ四方のテーブル。今まで見たことないタイプのギアに、なでしこは目を輝かせる。
「伊豆キャン終わってからポチってもうたんよ〜、ナマゾンでお手頃で、チェアとおそろいの色やったからな〜」
「おしゃれでいいねぃ〜」
確かにあおいの使っているハイチェアとほぼ同じような色合いである為、統一感があって、なでしこの言うようにおしゃれ感が増していた。
「これ、天板は布だけど中にアルミ板が入ってて頑丈な奴だぞ……!」
「おしゃれで実用性があって……サイドポケットもあるから小物も入れられるじゃん」
「せやろ?……まぁ白系やから食べ物こぼしてシミとかつきやすいし、大事に使ってかんとなぁ」
「今日だって油、つかないようにしないとね」
せっかくの新品キャンプギアなのだ。綺麗に末永く使って欲しいのは仲間から見ても同様だろう。これから使わせて貰うこともあるかもしれないのだから尚の事だ。
「皆、お待たせ〜」
と、ここでようやく普段着に着替えた恵那が、ヘアカット用具や何やを手に玄関から出てきた。犬用防寒着を着用したチクワも、その横を元気に駆け出してくる。
「布団の誘惑に負けずによく出てきたもんだ」
「駄目よケン!私はシュラフと結婚してるの!布団と浮気はできないワ!」
「お前、確か前は炬燵と結婚してなかったっけ?」
「存在しない記憶だねぇ」
いつものようにのらりくらりとしながら恵那は、ヘアカット用具をしゃがんだ傍らに置くと、もう一つ持ち出してきたものを庭の芝生部分で組み立て始める。
「恵那、何組み立ててんだ?」
「ふっふっふ〜、これが私が最近買ったキャンプギアだよ」
グランドシートを広げ、本体にポールを通して穴に固定。入口を開いて、中にコットを組み立てて入れて、さらにその上に寝袋を敷けば……
「テント、設営できたよ〜!」
「おぉ!すごい!」
「ええテント買ったんやね!」
「これ一式揃えるの、大変だっただろ!」
「すげぇ、コットまでとは底冷えとクッション性の両立が出来たテントじゃん!
犬用の」
そう、恵那が組み立てていたのは犬用テント。普段皆が使っているテントの半分以下の大きさで、完成と同時にすかさず入り込んだチクワが余裕を持って横になれるサイズだ。
最早テントや寝袋に慣れきっていたらしく、寝袋に入り込んだチクワは間もなくすやすやと寝息を立て始めた。
「かわええなぁ〜」
「うむ、これを見れただけでここに来た目的は達成せしめられた。以上で野クルの庭ヘアカットソーセージデイキャンを終了する」
「いや、まだ本懐達成してねえし。設営だって終わったばっかだろ?」
「そうだよ!私達のキャンプはここからだ〜!」
「なでしこちゃん、それも終わりそうなセリフだよ」
「……およよ?」
設営してものの十分ほどで終了仕掛けたが、無論冗談のため、誰も撤収しようとはしない。そんな中でも、恵那はマイペースに椅子やらヘアカット用のハサミ、ヘアエプロンを用意し、千明の伐採準備を進めていく。グダり気味な野クルと違い、こういう時は恵那のマイペースさが物事をスムーズに展開する要因となっていた。
「まぁそれはさておいて……アキちゃん。そろそろ断髪式、始めよっか?」
「ご、ごっつぁんです……?」
「明ノ山の引退や……」
「誰が明ノ山じゃい」
こうして、少しばかり寒さが残る青空の下、グダグダながらも野クルで初めてのデイキャンが開催となったのである。
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