リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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劇場版
第一話『未来を描いて』


夏の夜特有の涼しげな風。

昼間の暑さは鳴りを潜め、焚き火の音が静かな夜を支配する。

河口湖の向こう側には安定の富士山が聳え、どこか安心感すら与えてくれていた。

 

「ん〜。もうちょっとかな?」

 

なでしこが気にかけるのはキャンプスタッグに吊るされた鉄鍋。その蓋にもいこった竹輪炭が乗せられ、上からも下からも熱を均等に与えている。

よほど大きな何かに熱を入れているらしい。

他の女子メンバー達は色様々な野菜をスライスしている中、一人の少年は……

 

「ぐぬぬ……」

 

目の前に並べられた焚き火台やガスバーナー。その炎の上に鎮座するスキレットや分割したホットサンドメーカー。その中で焼かれる白い生地とにらめっこしていた。

じっと、ただただじっと、焼かれる生地と向き合い、目で対話する。

まだか?

まだなのか?

そんな問いに、生地は声を出して答えるわけもなく。

応じるのは匂い、色のみ。

 

「……今だっ」

 

表を向く生地の縁が色づき始めた瞬間を見計らい、フライ返しを用いて、焼かれる生地を手早くひっくり返していく。

裏返され、空気にさらされた生地は見事にキツネ色に色付いていた。

 

「おお!ええ感じやんケン君!」

 

「初めてにしちゃ上出来だよな〜、やるじゃん俺!」

 

「調子に乗って焦がさないようにしろよ、お兄ちゃん」

 

「任せ給え!我が妹よ!」

 

焼き加減を絶賛する皆の会話を遮るかの如く、甲高い笛の音を錯覚するかのような音の後、爆発音とともに周囲をまばゆい火の華が照らし出した。

 

「あ!始まったよ!」

 

河口湖向かいから打ち上げられるのは色とりどり、大小様々な花火。

距離は離れているのにも関わらず、耳を刺し、地を揺るがすかのような爆音に次ぐ爆音。花火に重ねて咲く次の花火は、絶え間なく空を彩り、照らし、明るく染めていく。

 

「綺麗だね〜」

 

「た〜まや〜!!」

 

「か〜ぎや〜!!」

 

花火の音に怯えたチクワをあやしながら、空に咲く大輪の花に見惚れる恵那。

千明はというと、定番の掛け声を叫び、釣られたあおいも彼女に続く。

 

「先生!花火始まりましたよ!」

 

「うにゃ……あらひ、はにゃび……むに……」

 

既に出来上がっていた野クルの顧問は、伊豆キャン以来ずっと愛飲している池池の一升瓶を抱えて眠りこけていた。これは当分目を覚ましそうにない。

 

「富士山と花火が一緒に見られるなんて最高だよぅ!」

 

「うむ」

 

お祭り事と富士山大好きななでしこもそうだが、そして物静かなのが好きなリンも、絶景はクる物があるらしく見惚れていた。

 

「……やっぱ、いいな」

 

空に広がる花火を見ながら、ふと呟くケン。

このメンバーで初めての夏キャン。今まで夏は祖父と過ごすことが多かったが、こうして皆で過ごす夏もまた、いいものだ。

 

「っと、焦げちまうな」

 

再びスキレット達の生地をひっくり返す。両面しっかり良い色に焼き上げられたことで大皿に盛り付けて、ボウルの中の生地を再び油の敷いたスキレットへ流し込んで次を焼いていく。

 

「あ、そろそろ焼けたみたい!」

 

頃合いと見て、鉄鍋の蓋に乗せた竹輪炭を取り除いて蓋を開ける。

中から現れたのは、まるでクリスマスかなにかの時に見るような見事な丸鶏だった。様々な香草や野菜を一緒に焼いたことで、湯気とともに何とも食欲をそそる香りが周囲に広がっていく。

早速鉄鍋ごとテーブルに移して、ナイフで鶏の身を切りほぐして更に並べ、切られた野菜と、チリソース、ヨーグルトソースにサルサソース、ケンの焼いた生地・トルティーヤを並べれば……

 

「うまそー!!」

 

メキシコ料理タコスの完成だ。

 

「早く食べようぜ!」

 

「ケン君!食べようよ!」

 

「いや、まだトルティーヤがあんまり焼けてないから、先に始めててくれ。どんどん焼いてくからさ!」

 

「そうか?……なんか悪いな?」

 

「気にすんなよ千明、冷めたら台無しだからな」

 

本人がこう言っているので、いただきますの音頭を取る千明。早速トルティーヤに様々な野菜や鶏肉、サルサソースを掛けて巻いて食べれば……

 

「うんま!!」

 

「サルサソースが効いてるね!」

 

「チキンの焼き加減もバッチリやね!」

 

「うまい……!」

 

「トルティーヤが焼き立てだから歯触りが最高だよ〜!!」

 

「そりゃ何よりだ。バシバシ焼いてくからな〜?」

 

再び皿に盛られるトルティーヤ。

早くも一枚目を食べ終えたなでしこは、二枚目を……と思ったが、

 

「ケン君」

 

「ん?」

 

「はい、あ〜んして?」

 

トルティーヤ焼きに専念していたケン。その彼を労ってか、二枚目に巻いたタコスを差し出すなでしこ。

 

「い、いや、自分で作って食べるし……!」

 

「いやいや〜?据え膳食わぬは男の恥といいますぞ?」

 

「……へんなところで知恵つけたな、なでしこ」

 

そんな二人に、

「ひゅーひゅー!」

だの

「夜やのに昼より暑う……いや、熱うなってきたわ〜」

だの

「いや〜若いですな〜」

だの

「やっぱりバカップルだ」

といった野次が掛けられる。

このまま食べずにいたら、きっと野次がヒートアップするだろう。

ならば

 

「あ〜……んむ!」

 

意を決して差し出されたタコスに齧りつくことにした。

香ばしく焼かれたトルティーヤが包むシャキシャキの野菜。

噛むほどに旨味が溢れるチキン。

それらを纏め上げるチリソース。

 

「うまい……!」

 

ただその一言が口から漏れ出た。

タコライスは以前に伊豆キャンで食べたが、タコスは未経験だったので、具材は似通うともここまで違う味わいになることは大きな発見だった。

 

「いや〜!やっぱ1番タコスに合うのはチリソースだよな〜!」

 

「何言うてるんアキ!ヨーグルトソースがダントツやで!」

 

「いやいや〜、サルサソースを私は推すよ!」

 

「ところがどっこい、ミックスも捨て難い」

 

何か他の四人は何のソースが合うか、一触即発じみているが、まあ放っておいてもいいだろう。

 

「何言い争ってんだが」

 

「あはは……。そだ、ケン君。隣座っても良い?」

 

「いいよ」

 

自身のローチェアをテント横から運んできたなでしこ。

ソース論争を横目に、色んなソースで巻いたタコスを作ってケンの横に座り込む。

 

「綺麗だね、花火」

 

「だな。夏の風物詩って感じだ」

 

「縁日とかあったら、また一緒に行って見たいね」

 

「だな。浴衣とか着るの?」

 

きっと淡いピンクの浴衣とか似合うのだろうな、と何となく妄想してしまう。いつもと違う雰囲気で、はんなりとした感じがして、きっと髪も結い上げてうなじが……

 

「ご、御所望とあらば、この各務原なでしこ、一肌脱ぎますよっ!」

 

「ハッ!?い、いやいや!無理にとは言わんから!ほ、ほら、次焼けたぞ?」

 

恥ずかしがりながらもケンの欲望に答えようとするなでしこ。そんな純粋な彼女に、欲望のままホイホイと言うとおりにさせていては理性が保たないのは明白。抑えなければ。

 

「でも、またケン君とキャンプもだけど、色んなとこに行きたいな」

 

「あと3ヶ月したらバイクの後ろに乗せて出掛けるか」

 

「あ、それもあったね!」

 

「今度夏休みの内にバイクグッズショップに行くか?富士宮にいい品揃えの店があるんだ」

 

「え?いいの?」

 

「今買うんじゃなくても、ヘルメットがどんな物がいいか見に行くのも良いかなって」

 

「わぁぁ……!うんっ!行く!行くよ!バイクショップデートだね!」

 

「なんだよそのデート」

 

目をキラキラ輝かせるなでしこに苦笑いしながらも、いずれは誘う予定だったのだから、その予定が前倒しになったと思えば問題ない。

何だかんだでデートとあらばこうして大層喜んでくれるのだから、恋人冥利に尽きるというものだ。

 

「そのためにも、今日のキャンプ!いっぱい楽しもうね!」

 

再び差し出されたタコス。こうやってケンに食べ物を食べさせるのも、彼女にとっては楽しいことらしい。

最早恥ずかしさが吹っ飛んでしまったケンは、

 

「だな」

 

そんな短い返事とともに差し出されたタコスに齧りついた。

 

「お、ヨーグルトソースも美味い」

 

その発言に目を光らせて、こちらを捕らえんと振り向くヨーグルトソース派閥のあおい。謀らずもタコスソース戦争に巻き込まれる形となったケンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オトナのキャンプかぁ……」

 

花火が終わり、タコスを食べ終えてゆったりとローチェアに座りながら、ふとなでしこが切り出したのは、大人になったらどんなキャンプがしたいか?という話題だ。

 

「確かに、大人になって働くようになったら使えるお金も増えるしなぁ」

 

「出来ることも増えてキャンプの仕方も変わるかもね」

 

社会人になれば、働くことで学生時代に比べて自由な時間が減るが、それに反比例して使えるお金も増えていく。そうすればギアは元より、移動手段やジャンルも変わってくるだろう。

 

「アタシは薪ストーブがほしいな〜。そうすりゃいつでもキャンプが出来るだろ?」

 

「それならチクワも一緒にキャンプが出来るかも!」

 

「私は免許取って、色んな所にキャンプ行きたいなぁ!現地の食材で美味しいキャンプごはん作ったり!」

 

『良いね〜!』

 

「リンちゃんは?」

 

「私は大きなバイクを買って、海外とかでキャンプしたいかな」

 

「それもえぇな〜!」

 

「そうか……リンはメジャーデビューしたいのか……!でっかい夢だ」

 

「いやなんでそうなる?てかなんで泣く?しかも何父親みたいな『立派になったなぁ』みたいな感銘受けた顔してるんだよ」

 

「大人になったら、また皆でいろんなキャンプ……してみたいな」

 

「……そうだな」

 

「ケン君は?」

 

「へ?」

 

「ケン君は、どんなキャンプ、してみたい?」

 

「そうだな、……俺は」

 

大人になって何をしてるだろう?

どんな仕事にして、

どんな所に住んで、

まだ朧気なヴィジョンしか浮かばない。

口ではきっとバイクで遠くに沢山キャンプへ行きたい。とか、そんな当たり障りのない夢を語っているだろう。

だがその時、隣にいて欲しい人が居てくれれば、どんなキャンプだろうとも新鮮で、鮮烈なものになる。

そんなまだ見えぬ未来。

遠く聞こえる河口湖の波の音を聞きながら、目を閉じて未来を描いてみる。

十年後

 

(俺は、どんなふうになでしこを好きでいるだろう?)

 

自分の恋人との未来を。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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