リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第二話『10 YEARS AFTER』

「ただいま」

 

名古屋市某所のアパートの一室

部屋の主である女性が帰宅する。一人暮らしなので誰の返事があるわけでもなく、静かで真っ暗だった室内に電灯のスイッチを入れ、着慣れたレディーススーツの上着を脱いでハンガーにかけて一息。

今日も今日とて疲れた。普段と変わらぬ日常。記事の企画を立ててプレゼンし、今日はそれをボツとされ。まぁよくあることなのだが、週末とだけあって月曜日からの疲労が蓄積して尚の事。

だがしかし、明日からは久しぶりの土日休み。折角だからしばらくご無沙汰だった趣味のキャンプに行こうかと密かに考えていた。スーツのパンツを普段着のジーンズに履き替えた辺りでスマホが振動した。

 

(誰からだろう?まさか編集長が明日出てこいとか言うんじゃ……?)

 

嫌な予感とともに、スマホを取り出して画面を開く。そこに映されたメッセージの差出人は、自身がよく知る……いわば腐れ縁に近い高校以来の友人だった。

 

千明『名古屋なう』

 

「……は?」

 

よもや関東にいるはずのそいつが自身の住む街へ来ているというのだ。それも今。

つまり、そういうことだ。

相変わらず謎の行動力を発揮する千明に大きなため息をつき、女性……志摩リンは出かける準備を始める。

ま、出迎えついでに呑みに行くのもアリか。

久しぶりに会う悪友とどんな話があるのだろうか?そんな躍る気持ちとともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜!久しぶりだなリン!いつぶりだっけ?」

 

でかいジョッキを傾け、煽るようにビールをグビグビ行く千明。

待ち合わせた先の居酒屋で、千明は既に三杯のジョッキを空けていた。

テーブルに広げられたツマミである名古屋名物の味噌カツや手羽先、味噌おでんを肴に、千明は更に加速する。

 

「3年前のキャンプだろ?それ、さっきも話したし」

 

「いや〜、やっぱ名古屋の手羽先はうめぇ!」

 

「いや聞けよ……、全く。ホントに面倒くさい酔い方するな、千明。二代目グビ姉は伊達じゃない、か」

 

「いやいや!まだまだ先代には勝てないズラ〜」

 

「聞こえてるじゃんか」

 

とはいえ、更にビールを追加注文する千明は、やはり二代目を名乗るに相応しい。

 

「ま、何だかんだ皆予定合わずに出会えずじまいな日々だしな」

 

「だな。何だかんだ近況報告しまくってんの、なでしこくらいじゃね?」

 

「相変わらず元気なやつだよ、アイツはさ」

 

「元気といえばさ、シマケンはど〜してんだ?ここ数週間、音沙汰なくね?」

 

「あぁ……お兄ちゃんなら大阪にね」

 

「大阪?関西?なんだってそんな?」

 

「ちょっとした出張兼研修兼助っ人なんだってさ。そっち方面が忙しいらしい」

 

「何だそりゃ?ま、何だかんだ、アイツも忙しいんだな。なでしこのやつ、寂しがってたけど」

 

おかわりのジョッキが来たことで再びビールを煽る千明。

思い返してみれば、兄であるケンが大阪に行く時に一度泊まりに来たが、それ以前に会ったといえば正月くらいだろうか?兄妹で家族なのに会えない。これも社会人としての性なのだろうか。

 

「リンの方こそ、最近ど〜よ?キャンプしてんの?」

 

「いや、異動になって編集部に入ってからはご無沙汰かな。中々忙しくてさ。千明はどうなの?東京のイベント会社、頑張ってるの?」

 

「アタシか?アタシは……」

 

言葉を止め、残ったビールを一気に胃へ流し込む。さっきから浴びるように飲んでるが、大丈夫なのだろうか?

 

「辞めたんだよ、その会社」

 

「へ?」

 

「てゆうか、結構前に辞めて山梨に……」

 

「戻ってるの?」

 

「ドーモ、シマリン=サン。やまなし観光推進機構の大垣です」

 

と、酔っぱらいの顔を捨てて名刺入れから取り出した名刺を差し出す千明。その顔は営業スマイルバッチリで、さっきまで呑兵衛だったやつとは思えないほどに愛嬌が良かった。

 

「かんこー……すいしん……?」

 

「とにかく!山梨を盛り上げる!!」

 

ということで、千明のスマホによる活動記録写真閲覧会が2人で急遽始まった訳だが……

 

「なに……これ……」

 

そこに映されたのはずんぐりむっくりした身体の着包みに身を包んで、行列整理の為に『最後尾』と書かれたプレートを掲げる千明の姿。

 

「物産展で着た着包み、その名もゆるキャラの土偶くんだ。そんで今メインでやってるのが、高下地区の再開発計画!!」

 

「高下?」

 

「この辺、数年前に潰れた施設があって敷地も結構広いんだけどさ」

 

リンが食いついたことでヒートアップしたのか、向かいから隣へ席を移してずいずいとリンに迫る。

 

「廃墟にしとくのも勿体無くて、そこで何かやれって。な〜んか面白そうなんだけどさ〜?」

 

絡み上戸なのか、仕舞には肩を組んで写メる始末。もはや絡みたいのか、今やってることの相談なのかわからなくなってきた。

 

「やるっつっても何すればいいの〜?って話じゃん?」

 

「そんなに広いなら、キャンプ場にでもすればいいじゃん」

 

「っ……!!」

 

リンの半ばヤケクソじみた発案に、何かしら思うことがあったのか、写メるのを止め、天啓を得たかのように至近距離でリンを見つめる千明。

近い

 

そして、おもむろにスマホを置くやいなや、目の前にあるリンの飲みかけのカシスオレンジのチューハイを、まさに怒涛の勢いで飲み干していく。

そして

 

「お会計っ!!志摩隊員!!その話、ちょっと詳しく聞かせてくれたまえぇぇ!!」

 

「うぇぇ!?」

 

そして手早く会計を済ませた千明は戸惑うリンの手を引き、これまた手早くタクシーを捕まえてリンを放り込んで自身も乗車。

怒濤の展開で戸惑うリンをよそに

 

「山梨の富士川町まで!!」

 

「えぇっ!?」

 

「はいよっ!!」

 

山梨県富士川町

ざっと見で約250キロの距離だ。

そんな長距離移動をタクシーなんかですればメーターがとんでもないことに……

 

「行くぞ!高下ぃ!!」

 

「うぇぇっ!?」

 

勢いよく走り出すタクシーはもう止まらない。

千明のとんでもない勢いに飲まれるばかりで、夜の深くなった名古屋市のビル街にリンの戸惑いの声が木霊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、リンのやつ千明といるのか」

 

諸々仕事が終わり、借りていた寮をその日の内に引き払ったのは日付が変わろうかという時間だった。バイクのフルフェイスヘルメットを被る傍ら、ふとスマホを取り出して眺める。

そこには送られてきたグループメッセージと、よく知る二人の女性が写った写真。

何だかんだ元気そうなようで、青年も一安心のため息を漏らす。最近の忙しさからあまり連絡が取れていないが、こうしてタイムラインで元気な姿を見れる。

次はグローブを、という時に、再びスマホが振動する。

 

千明『タクシーで山梨まで爆走中!!メーターがやばいぜ☆』

 

「何やってんだアイツら……」

 

この文章のテンションから見るに、2人で飲んでて、千明の酔った勢いそのままにリンが巻き込まれているのだろう。

あの謎のノリだけは高校時代から変わっていない。が、被害がデカくなってる気がする。

 

千明『野クル隊員!朝にここに集合だぁぁぁ!!』

 

立て続けに送られてきたのは、おそらくはタクシーで向かう先の地図。見る限りは富士川町であるのが見て取れる。

しかもグループメッセージで送られているので、他のメンバーにも送信されているらしい。

 

「……酔っ払うと厄介なやつだよ、あいつ」

 

ま、仕方ないか、とスマホを懐にしまいこみ、バイクのエンジンに火を入れると、直列4気筒エンジンから伝わる振動が、疲れた身体を昂ぶらせてくれるのがわかる。

 

「予定は明日中だったけど……いざ!山梨!!」

 

重厚なマフラーの排気音とともに、リッターバイクが市内を駆け始める。

今日は朝まで夜通しツーリング!

そんな未知の経験に存外ワクワクしながら、男性は新名神高速道路へ乗り込むべく、少し伸びた髪と愛用マフラーを靡かせながらバイクを走らせていった。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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