リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第四話『カニ鍋と元野クル緊急会議』

まずはそのまま、少ししっかり目の味が付いた出汁と具材を器に移す。

白菜。肉や魚介に比べれば目立たないが鍋物に欠かせない裏の主役で、出汁に加えて蟹のエキスを含んだそれは絶にして妙。

豆腐。相変わらずの豆腐は中まで熱々で、口に含んではふはふと口の中で冷ましつつ飲み込むと、喉を通る温かさが鍋の醍醐味を味合わせてくれる。

白瀧。透明かつ出汁の色に染まったそれは、しっかり味と共に、心地よい喉越しを与えてくれる。

白ネギ。熱を加えられたことで辛味は抑えられ、熱々でトロリとした食感とともに甘みが生まれて絶品。

そして……

蟹!!

寒い北海道の海で育まれた蟹の身は程よく締まり、それでいて出汁の旨味成分に加えて蟹の身本来の甘みが口いっぱいに広がる。

 

「うま……っ!」

 

久しぶりに料理で泣きそうになった。

ある程度出汁を吸った蟹身を味わったところで、蟹の胴体を取り出して甲殻を引き剥がす。その内側には珍味たるカニ味噌が……!

そいつに蟹身を付けて……

 

「クラブ・イン・ヘブン……!」

 

蟹の甘みに加えてカニ味噌の苦味とコクが合わさることで、口の中を蟹が蹂躙していく……!

千明は甘酢につけて酸味を加え、

リンはご飯に蟹身を乗せて、カニ味噌と醤油を掛けてかきこむ。

それぞれ美味いと思う蟹の食べ方を堪能しているようだ。

一方で……

 

「む〜………いたぁっ!」

 

殻を剥こうとして蟹の棘が指に食い込み、変な悲鳴を上げるなでしこ。変なところでドジなところは昔から変わっていない。

 

「全く……ほれ、なでしこ」

 

「あ〜……む!ありがとケン君!」

 

隣で食べていたケンが蟹のむき身を差し出せば、流れるようにそれをパクつくなでしこ。

高校時代なら、『あーん』し合うのも恥ずかしがっていたケンであるが、今となっては慣れたもので。

寧ろなでしこの餌付けの仕方が上手くなっているようにさえ思えてくる。

周りの人間もその光景にある程度慣れているのか、はたまた蟹に集中しているからかあまり気にも留めず。

ひたすらに蟹をほぐして、頬張り、堪能する。

言葉は要らない。ただただ欲求のままに食らう。それだけだ。

蟹を食べる時、人は無言になるというが、この7人も例に漏れず。

 

『ハァ〜……』

 

だがその表情は満たされ、口元は綻び、幸せのため息が……

 

「いや、みんなむっちゃ無言やな」

 

『はっ!?』

 

ここで新たな来訪者の声に、誰もが蟹との戯れから引き戻される。

振り返れば、眉毛と八重歯と関西弁が特徴の友人が、皆の蟹の食いっぷりにドン引きと呆れがない混ぜになった表情で立ちつくしていた。

 

「遅れてゴメンな〜?」

 

「うぉっ!?イヌコ!?いつの間に!?」

 

「さっき着いたところや。ていうか蟹食べんのに集中しすぎやろ……」

 

「あら!あおいちゃんも久しぶり!良かったらあおいちゃんも一緒に蟹、どう?」

 

「えぇんですか?いただきます〜!」

 

こうして、一人蟹の世界へ旅立つ人間が増え、あおいも揃って無言の食卓に参列することになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「めっちゃ美味しかったわ〜!」

 

あれからさらに食べ進め、締めの雑炊も空になるまで堪能し、満腹感に満たされた元野クルメンバーはまったりとしていた。

 

「にしても、3人共久しぶりやねぇ!ケン君は何か髪伸びとるし」

 

「これはまぁ、多忙の結果なんだけどさ」

 

「あおいちゃん、今日も仕事だったの?」

 

「せやねぇ。最近小学校忙しくてなぁ〜、土曜日も大体出とるんよ。今日は昼までで終わったんやけどな」

 

近場の小学校で先生を務める犬山先生。美人で優しくて児童のみならず保護者にも人気の先生である。ただ、授業中に時々ホラを吹く悪癖が玉にキズだが。

 

「恵那ちゃんは今日来れんの?」

 

「あぁ、アイツは今日一日仕事らしくてよ。トリミングサロンなんて、土日がピークだもんな」

 

「サービス業は土日関係ねーもんな」

 

千明へのメッセージには、恵那の方から仕事で行けない旨の報告もあり、久々に全員集合!とまではならなかったらしい。

 

「よし、今から志摩リン隊員と事前打ち合わせをしたプランについて会議を行うぞ!皆の者!なでしこ隊員の部屋に集合!!」

 

「お、お〜?」

 

『事前打ち合わせ?会議?』

 

自室を使わせろと言われたなでしこは応答するが、話が全く見えないケンとあおいは瞼をしぱたかせて目を丸くする。

そんな2人の心境などつゆ知らず、我先にと突撃する千明に続いてなでしこ。そして

 

「ほんとにやるのか……!?」

 

とつぶやきながらリンも中へ入り、あっ気取られていたケンとあおいも流れに身を任せるように各務原邸へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各務原邸 元なでしこの部屋

高校時代に彼女の部屋として機能していたここは、主が東京で一人暮らしを始めたことで、その中に生活感はほとんどなく、本棚やクローゼットに本来あるはずのものは空。あとはテレビとベッド、あとは丸テーブルがあるだけで、昔のような華やかさは無く、物寂しくなっていた。

会議、ということで、丸テーブルにはなでしこが入れたほうじ茶が汲まれており、それを飲みながらの話し合いとなった。

ちなみにこのお茶は、以前ケンがふらっと買いに行った掛川のお茶屋の茶葉であり、お土産でもらったそれがまだあったので、それを仕出していた。豊かな香りと味わいがなんとも言えない。

 

「と、言うことで、キャンプ場作りなんだけどさ〜」

 

「偉い唐突やな」

 

「てか、話が見えん。何がどうあって『と言うことで』なのかわからん」

 

「キャンプ!?キャンプ場作るの!?」

 

「落ち着けなでしこ」

 

あおいの言うように、会議は唐突だった。

寝耳に水も良いところであり、ケンはどういうわけでキャンプ場作りなのかわからない。しかしなでしこはと言うと、キャンプ好きな彼女にしてみれば食いつかないわけもなく、やや食い気味なのをリンに制される。

 

「前に言うてたの、ホンマにやるんや?」

 

「あぁ!皆も一緒にどうだ?リンは是非ともやりたいと言ってくれている!」

 

「いや、私は別に」

 

「ちょっと待て!マジで待て!話が見えねぇって!ちゃんとした説明しろ部長!」

 

「っと、それもそうか。こん中でどういう事かなでしことシマケンは説明してなかったか。つまりだな?」

 

千明は説明する

やまなし観光推進機構に属する彼女が今メインで取り組んでいるのが、富士川町の高下地区の再開発計画。新しい施設を設立することで、山梨を盛り上げようというプロジェクトで、目を付けられたのが4人が集まった数年前に廃墟となった『富士川町青少年自然センター』。敷地も広く、建物もそこまで廃れていない。このまま放置は勿体ないと言うことで、地域を盛り上げる施設にどうにか再利用出来ないか?となり、知恵を求めて千明は名古屋へ行き、リンに絡みながら相談したのが昨夜のこと。そんな中でリンの呟いたキャンプ場にすればいい、という発言に食いついた千明が寄った勢いそのままにリンをタクシーに監禁……もとい、誘拐……もとい、連行して富士川町までやってきたのが、深夜から未明にかけての出来事。その最中での、あの召集メッセージだった。

何だかんだ、千明もキャンプ場への再利用は頭の片隅にあったらしく、どうせなら見知った仲間である元野クルでやってみないか?という案に行きついた。

大体こんな感じである。

 

「皆でキャンプ場作りなんてすっごく面白そう!」

 

「でも大変やないの?私とアキは地元やけど、なでしこちゃんは東京、恵那ちゃんは横浜、リンちゃんに至っては名古屋やし、ケン君もあっちこっち行きよるんやないん?」

 

「あ、それな?甲府の店に配置換えになったから、一応家からの通勤に切り替わるんだ。だから俺も地元〜」

 

「じゃ、これから休みに会える日が増えるんだ!」

 

「休みが合えばだけどな〜」

 

「しかしリン、名古屋からここまでって結構あるけど……大丈夫か?」

 

「え?ん〜……まぁ、何とかなると思う」

 

「よし、恵那も参加オッケーの返事が来た!これで役者は揃ったな!今日から皆で力を合わせてキャンプ場作りに取り組んでいく!そのために!アタシから皆に役職を授けよう!!」

 

『役職???』

 

「まず、なでしこは現場監督!

 

イヌコはスケジュール管理!

 

恵那は広報!

 

私は、諸々裏方担当!

 

シマケンは現場監督補佐!

 

そして映えある総合リーダーはリンだ!!」

 

「うぇぇっ!?」

 

「ケン君!補佐よろしくね!」

 

「仰せのままに、監督!」

 

「ちょ……ちょちょちょっとまって!なんで私がリーダーなんだよ!?」

 

「え?だってキャンプ歴一番長いし」

 

「適任だろ?」

 

「キャンプといえばリンちゃんだよ!」

 

「頼むぜリーダー!なるべく迷惑掛からないようにするからさ!」

 

「腹を括れ〜、満場一致だべ」

 

「…………はぁ」

 

リンの大きなため息がなでしこの部屋にこだまする。諦めのため息か、はたまた別の意味があるのか。キャンプ場作りなんて未知の作業だ。おそらくは探り探りのものになる。そんな作業チームのリーダー……思いも掛けぬ重大ポジションを頼まれ、もはや逃げ道を失ったことが一番の要因だったかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ場作りの話が纏まれば、後はゆっくりと積もる話を交わし合う時間だった。

近況報告

仕事のこと

キャンプのこと

数年間会えなかったのもあり、話題に尽きることはない。

時間を忘れて盛り上がる中、途中から一人話しに加わらず静かな人物がいた。

 

「……シマケンの奴、寝ちまったか」

 

座った状態で俯いて、すやすやと静かな寝息を立てるケン。

 

「なんやケン君疲れとったん?」

 

「ん、まぁ深夜までの仕事終わりに徹夜で大阪から山梨までバイクで走ったみたいだからね」

 

「……マジなん?」

 

「マジもマジ、大マジなんだよ。アタシの酔った勢いのメッセージが原因でさ〜」

 

「あれか〜……ケン君も災難やな〜……」

 

「でもその体制で寝てたら首痛くなっちゃうよ?」

 

「なでしこ、悪いけどベッド使わせてもらって良い?」

 

「うん!もちろん大丈夫……って言っても、枕も布団もないんだけどね」

 

リンとなでしこが両脇を抱えてベッドへ誘導する。軽く覚醒して弱々しくも歩こうとするものの、完全に起きないあたり余程疲れていたのだろう。なでしこのベッドに横たえると、完全熟睡に入っていた。

 

「なでしこちゃん、こーゆー時に彼氏にしてあげたら喜ぶことって知っとる?」

 

「なにかあるの?」

 

「こーゆー時はな?膝枕したげるんがええんよ?枕ないから尚の事御誂え向きやで?」

 

「そうなんだ?じゃあ失礼して……」

 

熟睡するケンの頭をそっと持ち上げ、正座した自身の太腿へ乗せるなでしこ。

程よい重量感と、より近く聞こえる静かな寝息に愛おしさがこみ上げてくる。

髪を撫でれば少し伸びたきれいな髪が指の間を抜けていく。

 

「でもよ、こうしてこいつの寝顔見てたら、ほっとけや温泉思い出すよな〜」

 

「せやなぁ?あの時もケン君寝てしもとったわ」

 

「あぁ……確か『良い子はお休みの時間です』だったっけ?」

 

「あれが野クル最初のキャンプやったんやね……懐かしいわ」

 

「そうそう!あん時はシマケンとなでしこは仲良く遅刻するし、スイーツショップでなでしこがシマケンに無意識で間接キスしかけるし、思えば付き合ってもないのに距離感近かったよな、お前ら」

 

「そ、それは!若気の至りと言うか何と言うか……!」

 

「いやまだ若いだろ」

 

ふとした拍子に始まる濃厚な高校生活の思い出。楽しくも恥ずかしいなでしこのハプニングの暴露。自身の太腿を枕に何も知らずスヤスヤと眠るもう一人の当事者たるケンに、ほんのちょっぴりの恨めしさが芽生えたなでしこだった。




多分コレが今年最後の更新になるかと思います。
連載開始から約半年。当初ここまで皆様から高評価いただけるとは夢にも思いませんでした。ここまで早いペースで執筆出来るのは、ひとえに皆様からの評価と感想、応援があってこそです。拙い小説ですが、これからもよろしくお願いします。
皆様良いお年を

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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