リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第六話『少しの別れ』

昨晩は間違いを犯しそうになったが何とか踏みとどまり、なでしこも逆に落ち着いて眠ることができたようだ。

昼寝に近い睡眠をとったが、それでも疲れは取りきれてなかったらしく、日付が変わる頃には眠りにつくことが出来たケン。

翌朝 5時30分

アラームの音で目を覚ましたケンは、思い瞼を擦りながらあくびを一つ。

久しぶりの我が家の布団とベッド。

やはり長年慣れ親しんだ寝具では寝心地が違った。寮の布団も良かったが、やはりこちらに身体が合っている気がする。

目を開いて起き上がろうとすると、身体が異常に重たかった。

金縛りとかそういうものではなく、自分の体を強い何かが抑えつけているような……

 

「……まさか」

 

布団をガバっと捲ってみる。

自身のベッド。そこで寝ていたのはケン一人だけではなかった。

 

「ん〜……富士山カレー……むにゃ……」

 

そこに居たのは、ケンの身体に抱き着くようにして寝ているなでしこの姿だった。

床に敷いてある布団はもぬけの殻で、何故かこっちに入り込んできていた。

トイレか何かから戻った時に間違えて入り込んだのだろうか?

 

「お〜い、なでしこさんや〜」

 

と言ってもまだ日が昇らない時間。それゆえ外は真っ黒なので起こすのは忍びないが、がっちりホールドされていてはどうにも出来ない。ましてや、ケンは結構鍛えているにも関わらず、彼女のフィジカルには勝てずにいるのだから。

だからこそ

 

「……ほい」

 

「んが……!」

 

桜に教えてもらった必勝法『鼻摘み』を使わざるを得なかった。

そしてその甲斐あってようやく目を覚ましたなでしこ。ぼんやりとケンの顔を眺めたかと思いきや、

 

「ん〜……あけましておめでとうございます……」

 

「早ぇよ。まだ11月だぞ?」

 

まだ盛大に寝ぼけていた。

 

「あれ……?ケン君だ〜……ど〜して私の部屋に〜……?」

 

「ここ、俺の部屋。なでしこ、昨日、泊まった」

 

「むふふ……そっかぁ……私がお泊りしてたんだぁ〜…………………………ぇ?」

 

全てを思い出し、今のこの状況を整理したなでしこの顔は、赤いやら青いやら、中々面白い色に変化する。

 

「ようやくホントの意味でお目覚めだな」

 

「あ、あわわ……!なんでケン君が隣で!?」

 

「なでしこがトイレの後にでも寝惚けて潜り込んできたと予想してるんだが?」

 

「う……そうだったような……気がする……!」

 

「ま、とにかく目が覚めたなら離れてもらってもいいか?起きないと」

 

「起きないとって……まだ真っ暗だよ?それにまだこんな時間……」

 

「リンの見送りにな。始発で帰るって言ってたから」

 

「あ!そうだった!ねぇケン君!私も見送り行ってもいいかな?」

 

「そうだな、折角だし」

 

「じゃ、着替えないとだね!」

 

言い終わるやいなや、なでしこはベッドを取り出し、本来寝ているはずの布団、その枕元に畳んである昨日の服の元へ行くと、パジャマの前ボタンを外していく。

咄嗟の行動力にケンはボーッとしていたが、ボタンを全て外し終えた辺りで目の前で起こっている事に気付いて思わず目を逸らす。

 

「あの、なでしこさん?」

 

「なぁに?」

 

「俺、部屋の外に出てようか?」

 

「なんで外に…………ぁ!」

 

上のパジャマをはだけさせたとき、ここでなでしこもようやく気付く。

一人暮らしに慣れた性か、何も考えずに堂々と着替えを始めていたのだから。

 

「そ、そだね……ちょっとだけ……いいかな?」

 

「りょ、了解です」

 

極力見ないように、なでしこに背を向けながらぎこちなく部屋の外へと脱出するケン。途中、自身の着替えも掻っ攫って行くことも忘れない。

部屋を出て扉を閉めると、ふぅ、と大きなため息を一つ。

昨晩と言いさっきと言い、なでしこからの刺激が強すぎる。

悶々とした気持ちが再燃する中、着替えねばと急ぎ脱衣場へと向かい、いそいそと服を脱ぎ始める。

服を着終え、ふと鏡を見れば、肩口まで無造作に伸びた髪。何とも不格好だ。

 

「後で毛先だけでも整えてもらうか」

 

とりあえず洗面台にあったヘアゴムで軽く纏めてみると、まぁそれなりにスッキリしたので良しとする。

脱いだパジャマと肌着を洗濯機に放り込んでリビングへ出れば、リンが朝食を食べているところだった。

 

「おはよ」

 

「おはよう、お兄ちゃん。昨夜はお楽しみだった?」

 

「……襲われかけた」

 

「おいまじか」

 

「でも、おんなじ部屋で寝て、少しは気持ちが前に向いたんじゃない?」

 

席に着いたケンの前とその隣に朝食を新たに二人前テーブルに出す咲は、普段の穏やかな顔付きとは違い、どこか真剣味が帯びている。

 

「結果的には、だけど」

 

「いい加減前に進まないと、他の人になでしこちゃん取られちゃうわよ?」

 

「そ、それは……嫌だ」

 

「だったら早いとこ踏ん切りつけろ、このヘタレ兄」

 

「……うむ」

 

どうやらなでしこが他の男と結婚したのを想像したらしく、かなりショックを受けているようだ。そこまで思うのなら行動に移せば良いものを。

 

「おはよう御座います!」

 

「おはよう」

 

「おはよう、なでしこちゃん。朝食出来てるから、食べちゃいなさい?」

 

「ありがとうございます!頂きます!」

 

と、相変わらずの食欲魔神はパクパクと凄い勢いで朝食を食べ始める。

釣られてケンも、早く食べねばとようやく食べ始めた。

 

「なでしこちゃんもリンの見送りしてくれるの?」

 

「はい!折角なので!」

 

「昨日は送ってくれたし、ホントにありがとね」

 

「いえ!お安い御用です!」

 

「にしても早いのに良く起きれたな?いつもなら結構粘らないとぐーすか寝てるのに」

 

「それな、桜さんから起こし方聞いてたんだ。鼻摘むと目を覚ますって」

 

「もう!お姉ちゃん、ケン君に変なこと教えないでよ〜」

 

と、プリプリ起こるなでしこのお皿は既に空っぽになっており、既に朝食を食べ終えていた。

同時に食べ始めたケンはともかく、先に食べ始めたリンですらまだ残ってると言うのに。

 

((やはり胃袋おばけ、恐るべしっ……!))

 

相変わらずの食の速さに同級生の2人は戦慄し、咲はなでしこの食べっぷりに満足そうに頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあリンちゃん、またね」

 

「うむ。また来週、県庁でな」

 

甲斐常葉駅

富士市行電車に乗り込むリンをケンとなでしこがホームから見送る。

無人駅の為、切符を買わなくてもこうして近くで見送りできるのは中々ありがたいものである。

来週県庁で、というのは、千明が計画案を県庁に提出しなければならないらしく、来週に県庁でキャンプ場の計画、その練り合わせを皆で行おう、ということになった。恵那も来週なら行ける、とのことで、謀らずもキャンプ仲間が一堂に会することになったのである。

 

「リン、アヤちゃんによろしくな。またメンテ出しに行くって言っといてくれ」

 

「わかったよ。ていうか、そっちのほうが遠いんだから、無理しないでよ?」

 

「おうともさ、安全は全てに優先ってな」

 

互いに別れの挨拶を済ませていると、発車前のベルが鳴り始める。

どうやら出発の時間だ。

置いて行かれないよう、リンは電車に乗り込むと、こちらの窓際の席へ着く。そんなに混んでないのは幸いか、はたまた寂しいと捉えるべきか。

 

「リンちゃん!気をつけてね〜!乗り換え間違えちゃだめだよ〜!」

 

「いや、間違えんし!」

 

大手を振って出発する電車を見送るなでしこ。心配性なのはいいが、子供を送り出す親みたいな言葉を大声で言うのは些か行き過ぎではないだろうか。

手をふるリンを乗せて徐々に遠ざかり、そして小さくなっていく電車を、なでしこは見えなくなるまで手を降って見送っていた。

 

「……行っちゃった」

 

「ま、来週にまた会えるさ。どうせこれからキャンプ場作りをするとなったら、会える機会も増えるんだしさ」

 

「そうだね……うん。みんなで会う切っ掛けが出来たんだもんね!」

 

「そのためにも、来週は皆でしっかり話を詰めて、キャンプ場作りを認めてもらえるようにしないと」

 

「うん!」

 

皆と作る新しいキャンプ場。

不安もあるが、新しく皆で何かを作り出すことが少しだけワクワクして。

きっと大切な仲間と一緒になら、きっと成し遂げられる。そんな確信があった。

なによりも

 

「あ、そういえばケン君、髪くくったんだ?」

 

「あぁ、長くて少し不格好だったからさ」

 

「尻尾みたいで、なんかかわいい〜!」

 

「こ、こら!お前は猫か!?」

 

この先なでしこが一緒なら、なんだって。そんな予感と共に。

それはともかく、くくった髪をいじるのは頂けないケンであった。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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