リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「えっ?広報の仕事……ですか?」
甲府のとある居酒屋。
週明けの就業後にケンの復帰祝、と言うことで、参加できる職員だけだが、ここの広めの座敷を貸し切ってのちょっとした飲み会が開かれていた。
「そうなんだよ。ま、とはいっても、バイクの魅力を引き出す記事を各支店で出して、本社で惹かれるものを選別するってだけの仕事なんだけどね」
隣に座らせたケンに、既にビールが入った海津支店長が赤ら顔で伝える仕事。それをケンに任せたいと言うのだ。
「とは言ってもそう固く考えなくても良い。自分の乗る相棒、それが映える景色、走り、何でも良い。自分のバイクの最大限を伝える物を見つけて纏めるのが目的だ」
こちらはウイスキーのロックをちびちびとやっている白川次長。なんだか様になってて渋く見える。
「でも俺、記事なんて書いたことないですよ?そんな俺の拙い記事を本社の人が見たら、支店の評価だって……」
「いや、そこは気にせんでも構わん。私達が求めるのは、今までの凝り固まったような型に嵌まった記事よりも、お前達のような若いヤツの新鮮な記事だ。未経験だからこそ見えるものもあるだろうからな」
「うぐ……!」
「営業も広報も大変だろうが、取材ともなれば仕事は工面するよ。引き受けてくれるなら協力は惜しまんからな」
確かにバイクでの取材ともなれば、実に魅力的だ。
だが幾ら気にするなと言われても、やはり支店を代表して行う仕事には変わりない。そうそう安請け合いしても良いものか?と、一考するためにケンは自身のグラスのジュースを一口含む。
2人が自分を買ってくれているからこその仕事なのはわかるが……
「少し……考えさせて下さい」
「構わんよ。……ただ、年内には代表を決めねばならんからな。仕事納めまでには意思を固めてくれよ?」
「はい、必ず」
よもや復帰祝の席で支店を代表する仕事が舞い込んでこようとは思いもせず、主役たるケンは呑み会が終わるまで緊張で食事が喉を通らなかった。
ケン『なんか、バイクの広報の仕事が舞い込んできたでござる』
千明『おぉ!まじか!やるなぁシマケン!』
あおい『ケン君もキャンプ場作りを記事にするん?』
ケン『いや、舞い込んだだけでまだ引き受けてないんだよ。あと、テーマがバイクの魅力が伝わる記事だから、キャンプ場作りに関わるかは微妙かな』
リン『じゃあお兄ちゃんや私がやってるツーリングキャンプでオススメのキャンプ場って銘打てば良くない?』
ケン『シマリン君、kwsk』
リン『ぶっちゃけ、お兄ちゃんが目指すキャンプ場のテーマって、初心者向けのサイトでしょ?だったらライダーが惹かれるバイクの記事を作れば、ツーリングからキャンプへ繋げてみようって人も出てくるんじゃない?それにキャンプって、存外バイクが映えるって私は思うけど』
なでしこ『おお!リンちゃん新聞社の編集者っぽい!』
リン『新聞社の編集者だよ』
恵那『これでケンまで広報の事に手を出してきたら、広報担当としてますます負けてられなくなりますなぁ!』
千明『もしシマケンがキャンプ場作りを記事にするってんなら、アタシは大歓迎だからな!』
なでしこ『映えるキャンプギアレンタルもウチでしてるから、遠慮なく言ってね!ケン君!』
あおい『私らも協力出来る事あったら言うてな〜』
ケン『……ありがとう、皆。すこし、前向きに考えてみるよ』
「記事……かぁ……」
飲み会から戻り、帰宅してバイクで冷えた身体を風呂で温めてベッドで寝転び、皆にメッセージでぼそっと呟けば、存外話に乗ってくれた。やはり持つべきものは友と言うべきか。中には妹や恋人も居るけど、誰しもが掛け替えのない存在だ。離れたとしても十年間の付き合いは大きいらしい。
「なんか帰ってきて早々にこんな話が舞い込んでくるとは思わなかったけど、これも挑戦かな」
皆の後押しもあり、新しい仕事にも前向きになってくる。
けれども写真を撮る、ということ自体、スマホ以外でしたことがなかったので、果たして自分に写真家としてのセンスがあるのかが問われる。
「……今度カメラ、買ってくるか」
一度試しに撮影をしてみるのも悪くない。幸いにして支店長からの期限までまだある。カメラを買い、バイクの撮影をして、その写真を見て向いているのかをまず判断してもらおう。記事の書き方はそれからだ。貯金もまぁ『後々に必要な貯え』も兼ねて、そこそこ溜まっているし、問題ないだろう。かと言って散財する気はないが、まずは試しだ。
と言うことで、早速スマホで撮影用カメラの目星をつけるべくサイトを開いたケンは、日付が変わるくらいまで吟味を重ねていた。
リン『取材、色々行ってきた』
日曜
山梨の馴染みあるキャンプ場の取材を終えたリンからのメッセージが皆に届く。
予定としては本栖湖、笛吹、四尾連湖に行くと話していた取材だ。
リン『それで考えてみたんだけどさ。ただ処分するんじゃなくて、あるものを活かすのはどうかな?この鳥籠とか、そのまんまの方が自然の景色と馴染む気がして』つ鳥籠の写真
あおい『せやね。あるものやったら予算的に助かるわ〜』
恵那『それなら、建物の裏にあったドラム缶とかどうかな?ドッグランの遊具に使えるかも』
あおい『あ〜、あれな〜』
千明『地域の人に声かけてみても良いかもな。使ってないものを提供してもらえるかもしんねーぞ!』
なでしこ『うん!良いと思う!』
ケン『俺も会社の人とかにも、何かしら断捨離で譲ってもらえる物がないか聞いてみるよ。……所でリンよ』
リン『なんだよ』
ケン『映える写真のとり方のコツ、教えてくれぃ!』
リン『藪から棒だな……』
あおい『なんやケン君、映えに目覚めたん?』
ケン『いやいや、違うんだよ。実はさ、前に広報の仕事が舞い込んで来たっていったろ?』
恵那『うんうん、言ってたね』
ケン『だからそれを引き受ける方向で見越して、カメラ……買っちった☆』つ写真
一同『おぉ〜っ!!』
ケン『値段もレビューもそれなりに良い奴なんだけどさ』
千明『おおおおお前!奮発したなオイ!』
あおい『アキ、鼻血拭いときや。出とるやろ?』
千明『な!なぜわかったイヌコ!』
あおい『何年の付き合いやと思ってるんよ』
リン『でも何だって私なんだよ?』
ケン『だって新聞社の編集者だろ?だったら撮り方とか詳しいんじゃないかって思って……』
リン『そりゃまぁ。そうだけど』
ケン『だからシマリンシッショー!是非とも俺にレクチャーをば!』
リン『シッショーって……』
なでしこ『すごいよリンちゃん!リンちゃんは私のキャンプシッショーだし、次はケン君のカメラマンシッショーなんだね!』
ケン『シッショー!』
なでしこ『シッショー!』
リン『やかましい……。わかったよ。今度の土日にそっち帰るから、その時でも写真撮りに行くか』
ケン『押忍!よろしくお願いしますシッショー!』
リン『もう好きに呼べよ……』
翌週明け
「へぇ……キャンプ場作りねぇ」
「はい。期限次第ですが、完成が間に合えば広報と宣伝も兼ねて記事に出来れば、と考えまして……」
リンと写真撮りで向かった伊豆土産の栗アンパンを頬張りながら、海津はケンがカメラで撮ってきた写真を眺める。
相模湾や大室山をバックに撮ったバイクが中心に撮られており、どれもピントのズレもなく、背景に溶け込むかのように自然体なバイクが写っており、初心者にしては上々といった出来の撮り具合だ。
「ん、これは……」
「あ、妹です」
そして昼食に訪れたわさび園で食べたわさび丼。そのわさびをいつかのように虚ろな目で擦り下ろすリンに懐かしさを覚え、思わずシャッターを切ってしまったのである。
「ダニィ!?志摩君の妹!?」
「見せろぃ!」
と、休憩中に海津と同じくアンパンを齧っていた女日照りの社員が、妹と聞いてがぞろぞろとリンの写真を見るべく押し掛けてくる。何とも現金な連中だ。中には既婚者も居るのだが。
「なんと!志摩君そっくり……だと!?」
「あれ?言ってませんでした?俺、双子って」
『聞いてない!』
今でこそケンのほうが若干髪は長いが、写真の中に映るリンは、虚ろな目ではあるものの、髪を短く揃えた『社会人の女性』として、しっかりとした魅力を放っていた。
「志摩君」
「なんすか?班長」
「お義兄さんと呼んでも?」
「奥さんにチクるぞこの既婚者」
最早上司だろうと構わずズケズケと毒を吐くケン。が、こんな冗談を言い合える職場だからこそ居心地が良く、リンを魅力的に受け入れてくれているのは兄として嬉しいものだ。かと言って早々簡単にリンを紹介するつもりもないが。
「でもまぁ上手く撮れてんじゃないの?志摩君、写真撮るセンスあるよ」
「だな。これは決まりでしょ」
リンの写真もそこそこに、撮ってきた写真を回し見する社員達はそれぞれに好評のようで、どんどん話が纏まって行く。
「ふっ、志摩。腹は括ったか?」
頬張ったアンパンをパックの牛乳で追っかけていた白川が、眼鏡を光らせてとどめを刺しに来た。
年貢の納め時……いや、意を決する時だ。
「はい!広報の仕事!やらせて頂きます!」
12月中旬
いよいよ冬本番、といったこの時期にケンの新たな仕事を引き受けるとともに、同日には千明も提出した企画書が通り、いよいよキャンプ場作りが本格始動し始める。
皆で作り上げる、皆の夢を盛り込んだキャンプ場。
そのスタートライン。
イメージCV
海津支店長……チョーさん
白川次長……津田健次郎さん
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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