リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される   作:ロシアよ永遠に

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第十二話『年明け』

元日未明 身延山久遠寺

未だ夜が明けずに周囲は暗く、日も差さずに身を刺す寒さの時間帯。

にもかかわらず、その参道や境内、そしてそこへ向かうロープウェイの中や乗降場は、身延山から初日の出を拝もうと人混みにあふれていた。

 

「あけましておめでとうございます~。皆さんお久しぶりです〜」

 

そして例に漏れず、初日の出を拝もうとここに集まった顔馴染みの中に、また懐かしい顔があった。

オマセな感じがあふれるかつてのツインテールは何処へやら。肩口で短く切り揃えた髪の女性は、元野クル+1の面々に深々と頭を下げて新年の挨拶。

 

「あけましておめでとう!あかりちゃん」

 

「おぉ〜、チビイヌコもちゃんと挨拶できるようになったじゃね〜か」

 

「もう成人なんだよな。あの悪ガキだった犬山妹が……なんか泣けてくるぜ」

 

東京の美大に通うあおいの妹のあかりだった。かつての幼さはどこへやら。今や大人の女性としてしっかりと成長して……

 

「せやろ!?やから〜♪お年玉頂っ戴♪アキちゃん♪ケン君♪」

 

「……全然変わってねぇな」

 

「さっきのちょっぴり感動、返しやがれ」

 

なんだかんだ成長しても悪戯好きなところは変わってないようで、あかりらしいといえばあかりらしい。

近況としては、東京の美大で課題にまみれながらも、キャンパスライフを堪能しているらしい。

 

「皆さん、あけましておめでとうございます。遅れてしまってすいません」

 

そしてもう一人、野クルに欠かせない人物がここに。

 

「鳥羽先生!」

 

変わらぬ静かで優しい笑みを浮かべた皆の恩師が合流したのだ。

積もる話は話しながら、ということでロープウェイを経て、境内を目指して登山することとなった。

 

「あおいちゃんから聞いとるで〜、噂のキャンプ場はどうなん?どのくらい進んでるん?」

 

「県庁の許可も降りて、年明けから本格始動だよ」

 

「仕事の合間にバリバリやってくぜぃ」

 

「へぇ〜!私にもなにか手伝わせて?」

 

「勿論だよ!」

 

やはりキャンプ場を作る!ということに興味が湧くらしく、流石に連日の作業は難しくとも、何かしらやってみたいらしい。

 

「キャンプ場のロゴとかデザインしてもらったら?」

 

「いいね〜!」

 

「美大生の本領発揮やな!材料費は……アキちゃんとケン君のポケットマネーでえぇな!」

 

「こ、こいつ、しれっと人をATMや経費か何かと勘違いしてやがる……!」

 

「犬山あかり……おそろしい子!」

 

相変わらずの小悪魔っぷりを発揮するあかりを中心として盛り上がる元気組から少し遅れ、鳥羽先生とあおいは並んで近況報告していく。どうやら教職同士、話すことがあるらしい。

 

「犬山さん、勤め先は鰍沢富士見小でしたよね。確か3月で……」

 

「あ……ご存知でしたか」

 

「大変な時期でしょう……お疲れ様です」

 

「ありがとうございます」

 

労いににっこりと返すあおい。だがその表情はどこか悲しげで。

2人の話の内容にあったあおいの勤める小学校は後三ヶ月後……本年度を以て廃校となる事が決まっていた。あおいからしてみれば、勤めていた学校がなくなる、というのはやはり思うところがあるらしく、何処かしらさみしげだった。時代の流れ……少子高齢化……そして過疎化。その煽りでもあるのだろう。

11月の蟹パーティーの日。土曜日なのに出勤していたのは、そういった手続きや片付け、諸々の業務があったというのも理由なのだろう。

そんな何処かしらしんみり、となった2人の空気をブチ壊す人間が1人。

 

「先生!今度呑みませんか!?日本酒がめっちゃ揃ってる店、見つけたんすよ!」

 

「えっ!?是非行きましょう!」

 

「甲府の店なんスけど、ツマミも美味くて!」

 

「いいですね〜!」

 

二代目の話題に目を輝かせ、めっちゃ食い気味なる初代グビ姉。

千明も千明で、あおいと鳥羽先生の空気を察してなのか、話題を明るく面白い方へと向きを変えていく。

千明も変わらず、悲しい空気や気持ちを察してなのかわからないが明るく振る舞って元気付けてくれる。

そんな昔から変わらぬ親友の気遣い?に、あおいの少し曇った心は晴れやかになっていた。

 

 

 

 

 

 

「まだ日の出まで時間あるし、串団子食ってこうぜ?」

 

確かに夜中に起きてから何も食べずに過ごしていたため、心做しか腹に寂しさを覚えていた(特になでしこ)皆は、千明の提案に異を唱えるものはおらず、早速土産屋店内にて販売されている串団子を購入する。

相変わらずのダジャレで『苦死』を切るために『串』を切ってもらい、嘗てのように配られていた甘酒も持って適当な石椅子で腹を満たしていく。

そして、食事といえば……

 

「ケン君ケン君!草団子一つ頂戴?」

 

「はいはい。あ〜ん」

 

「あ〜ん!」

 

なでしこのおねだりにケンは嫌な顔一つせず自身の串を差し出すと、これまた躊躇いなくそれを頬張って団子を一つ咀嚼する。

 

「!ん〜!薬草の香りが爽やかだよぅ〜!くるみの味噌ダレがあうねぃ〜!」

 

「ん、ヨモギ団子とは一味違って美味いよな。薬膳だから身体にもいいみたいだし」

 

「じゃあケン君も、あ〜ん!」

 

「あ〜……ん。ん、湯葉の素朴な味に、これまた味噌ダレが合うな!」

 

「でしょ!?この分だと竹炭団子も……!」

 

「美味いんだろな……!お、なでしこ。ほっぺたに味噌ダレ、付いてるぞ?ちょっと待ってろ」

 

「ん〜……ありがと〜」

 

「よし、取れたぞ。ん〜、やっぱりくるみの味噌はコクがあって旨いな」

 

そしてなでしこからのお返し団子に、これまた躊躇いなくパクリといくケン。

高校時代にあったケンの初さはどこへやら。

さらになでしこの頬についた味噌を指で拭い、それを躊躇いなくペロリ……

 

「完全にバカップルやんか……」

 

胸焼けを起こしかけたかのようなゲンナリした顔で2人のやり取りを見るのはあかりだった。

2人と出会った10年前から時を経て、しっかりと感性を育んだ事が仇となり、こうしてバカップルの甘々な空気の直撃を食らっていたのである。

そしてそれは道行く人々もおなじで、中には血糖値がヤバくなったのかふらつく人すらいたほどだ。

 

「そ〜いや、この前なでしこん家で鍋食った時もしれっとやってたんだよな〜。自然過ぎて突っ込む隙もなかったぜ……」

 

「甘酒が練乳入れたみたいに滅茶甘ねんけど〜」

 

「これ、2人が結婚してもずっと続きそうだよね〜」

 

もはや結婚は人生の墓場などという言葉は2人には無く、お菓子工場か何かと化しそうな勢いだ。

 

「お2人はもう婚約を?」

 

「いや〜、それがまだなんスよ。主に男がヘタれて女が待ってる……みたいな?」

 

「なんやケン君、ヘタレなん?」

 

「そんなあかりちゃんと鳥羽先生に特ダネがあるんだよね〜。なんとケンは近い内に……!」

 

「「おぉ〜!!」」

 

「もしかしたらリンちゃんからグイグイ後押しあったんかもな〜」

 

「結婚となったら御目出度いですね。その時はお祝いとして酒樽を贈ろうかしら?」

 

「先生、鏡開きの御神酒を呑みたいだけでは?」

 

「あ、あら?そんな事無いわ。2人を祝福したいというのは、嘗ての顧問として……」

 

女性というものはいつになっても恋バナが好きらしく。

目の前で甘ったるい空間を作り出してくれたお返しとばかりに、2人をネタにしてしばらくの間、女子会的な何かが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

境内に到着し、早速賽銭箱に小銭を投げ入れて手を合わせ、各々の願いを念じる。これで叶うか?と言われればアレだが、それでも初詣という年始ならではの物だからこそ、祈らずにはいられない。一年の計は元旦にありと言われるように。

 

「アキちゃんが沢山お年玉をくれますように!」

 

「お前、前もそんな願い事してたよな……」

 

「せやから願いの重ね掛けで力が強うなったぶん、ようさん貰えるんやで」

 

「こいつ……」

 

嘗ての初詣での応酬が繰り広げられる中、皆が目を開ける最中に未だ念を入れる人物が1人。

 

「な、なんやエラい念押ししとるな、ケン君……」

 

「もしかして煩悩にまみれてる?」

 

「さ、寒いのに汗かいてるよ……!?」

 

余程熱が入ってるらしい。寒さではない理由で顔が赤くなっており、それに伴ってなでしこが言うように彼の頬をタラリと汗が伝う。

 

「……よしっ!願い事がデカイけど、まぁよしっ!」

 

「な、なに願ったんだよお前……」

 

「ふっ……俺にとっては世界征服よりもデカい願いかな」

 

「なんやそれ……」

 

そんな彼の願い。

それは初日の出の後に書いた久遠寺の絵馬にしっかりと記されていた。

だがそれは表ではなく、裏に。

自身が願う物ではなく望む物。

『彼女に伝えるためのしっかりとした勇気を持てますように』

そんな彼だけの大きくもささやかな願いを。

番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!

  • 未来の子供達のほのぼの生活
  • ケンとなでしこのいちゃいちゃ
  • お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
  • いつメンのキャンプ
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