リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
年も明けて一週間
年末年始休暇も終えて、各々の業務が始まって正月ボケしていた人も本調子を取り戻しつつある今日このごろ。
玄関口に正月飾りを設けられて年始らしい装いを得た高下の青少年自然センター。
そこに3人の勇猛たる戦士が舞い降りる……!
「行くぞ!年明け一発目!平日戦隊!」
『作業着レンジャー!!』
「……週末と平日で少し変わるんだねぇ」
なでしこ、千明、恵那の3人が、先日と変わらず謎の決めポーズと共に、この場所へ整地するための作業に赴いていた。
基本的に平日休みがあるのは、サービス業の恵那となでしこがシフト制であるためであり、千明は業務の一環としてこうやって足を運んでいる。
「とりあえず今日も今日とて草刈りだな〜」
まだまだ一段目を刈り終えたばかりの状態。サイトや各種コンセプトを成すための整地に移るにはまだまだ作業が残っているので、気合いを入れていかねばならない。
「そういえばオープンっていつになったの?」
「おぉ!良い質問だな!今年の7月だ」
なでしこの素朴な問いに、しれっととんでもない応答を返す千明。
瞬間、恵那となでしこの時が止まってしまう。
…
……
………
「「えぇ〜っ!?」あと半年しか無いよ!?」
「お、オトナノジジョウってやつだ!これを呑んで何とか企画を通してもらったんだよ!」
「あ、アキちゃん……」
相変わらずリーダーシップはあるものの、変な所で抜けている我らがリーダーに、恵那もなでしこも半ば呆れてしまう。
「ん〜……!わかった!何とかするよ!」
とりあえずその日は鎌による草刈りで作業することとし、後にオープンの予定日を皆にメッセージで報告したことによって、今日休んでいる面々から再び千明が顰蹙を買ったのは言うまでもない……。
そして翌週末
高下に響き渡る轟音。
その身体は鉄。
そしてその足は無限軌道。
極めつけは重厚なボディから伸びゆく浪漫たるシリンダーが眩しいアーム。
「おぉ!ショベルカーや!!」
思わぬ重機の乱入に、あおいと恵那は感嘆の声を上げる。
まさかまさかの、である。
「さぁ!いっくよ〜!」
そしてそれを操るはなでしこだ。巧みにレバーを操作し、アームの先端についた
「おぉ!なでしこちゃん凄い!」
「バッチリ講習受けてきたから任せて!」
何とも頼もしいサムズアップに、これ以上なくなでしこが男前に見えたような気がした恵那とあおい。
「よ〜し、こっちもやるぞ!シマケン!」
「アラホラサッサー!」
なでしこに負けじと勢いよくスターターロープを引いて2つのエンジンが駆動する。
千明が持つのは草刈り機。以前柚子の差し入れをしてくれた岡崎さんから借り受け、彼のレクチャーで使用方法を学んだようだ。
そしてその背後は草刈り機よりも更に重厚な駆動音が周囲に響き渡る。
「ち、チェーンソー!?」
「フッフッフ!俺もバッチリ講習受けてきたから、これでバリバリ木を切ってくぜ!」
そこからは機械を持ち出してきた3人の独壇場だった。
なでしこがケンの伐採したあとの切り株を地を掘り起こして処理し、ショベルカーのキャタピラーで整地していくという流れとなり、千明も千明で草刈り機を駆使して見る見るうちに枯れ草を刈り取っていく。
年末の作業と比較して恐ろしいまでの効率上昇。その作業状態をしばらく来れてないリンに動画として送れば、
リン『私のやる分、残しとけよー』
何とも気の抜けた返信が返ってきた。
「はっはっはっ!環境破壊は気持ちいいZOY!」
1人トリガーハッピーならぬチェーンソーハッピーになりかけたやつがいたのは余談である。
そこからの作業は案の定驚くほどスムーズに進んだ。
整地や草刈りを終えたことで、次の工程たる管理棟の改修や階段などの整備へ移ることが出来た。
作業間の腹拵えも適度に挟みつつ……
スケージュールの管理やアクティビティの検討。水回りの修繕にもあっという間に移り……
まさに快進撃!といった具合だった。
しかし、
好事魔多し、という言葉があるように、順調のそばには邪魔が入りやすいもので……
そしてとある土曜日……
「あ、アキちゃん!!ケン君!!」
「大変や!二人共!」
「んぉ?」
「どした?ゴッキーでも出た?」
「いや、出てへんし出てほしくもないけど!ちょっと来て!!」
何やらただならぬ事態のようで、草刈りをしていた2人は、あおいと恵那の呼ぶ方……管理棟へと足を運ぶ。
そこには……
「私達の食料が!」
「ゴミ置き場が!!」
「んなっ!?なんじゃこりゃぁ!?」
「荒らされてる……!?」
そこに広がるのは各々の弁当や、廃棄物のゴミ袋が尽く食い荒らされ、見るも無残な姿へ変わり果てていたのだ。
「近くに住んでる動物かなぁ……?」
「この辺りの山には猪も猿も鹿も普通にいるぞ……!?」
「対策を立てようにも正体を突き止めんとやねぇ……」
「よし千明。お前に任せた」
「いやいや!普通にあぶねーだろ!?」
「そうだよ、猪とかだったら流石のアキちゃんも危ないんじゃ……」
「いやいや!アタシを見張らせること前提に話すなよ!?」
「でも、何もせんわけにもいかへんし……」
確かに相手の正体が分からぬ以上、下手に見回りをしようものなら、熊などの危険生物が相手だと命の危険すらある。
かと言って手をこまねいてるわけにもいかず……
どうしたものかと悩む中、
「居るぞ!適任者が!!」
何やら良いアイデアが浮かんだらしい。
千明が急ぎ適任者を連れてくると高下を後にし、今夜に泊まり込みで襲撃者に備える事となったのである。
同日深夜
暗がりのキャンプ場予定地を、何とも気の抜けた駆動音を発しながら突き進む純白の物体。
その目からはサーチライト。
その手にはリンゴ。
その人ならざる者の正体は……
「これがジンジャー君のカメラ映像?」
「うん」
管理棟で恵那のコントローラー操作を受けるジンジャー君だった。色々あって永き眠りについていた彼が今回の任務の適任者だと言うことで、あの倉庫から千明が引っ張り出してきたのだ。
これならば生身の人間が危険を犯して探索する必要がないので、まさにジンジャー君こそこの任務に相応しいのである。
探索を始めること10分。
少し開けた所に出たのでジンジャー君を停止させ、視点を周囲に向けて異常がないかを探す。
すると案の定、目の前の茂みに何が居るのかガサガサと揺れ動くではないか。
「何か、いる!?」
そちらへジンジャー君を向け、ゆっくりと前進させていく。
さて何が飛び出す?
猪か?
鹿か?
はたまた猿?
もしかして……熊?
飛び出してくるであろう驚異に固唾を呑みこんだ恵那の操作で、ゆっくり、ゆっくりと茂みへと近付く。
「ジャンケンシマショー!」
センサーが反応したのか、そんな緊張感をブチ壊すかのようにジャンケンを始めるジンジャー君。
「ジャン、ケン、ポ」
瞬間、茂みから飛び出してきたナニかによってジンジャー君は薙ぎ倒され、横倒しにされたその視点には、手に持っていたリンゴがコロコロ転がる虚しい映像。
「「ジンジャーくぅん!!」」
思わぬ事態に懐中電灯片手に飛び出す恵那と千明。
「危ないで!」
何に襲われたのかわからない現状で飛び出す二人を案じながらも、居ても立ってもいられずに続くあおい。
「お、おい!お前ら!」
万が一、ということもあるので、護身用にとあるモノを抱えて続くケン。
急ぎジンジャー君襲撃場所へ向かい、現状を確認する。
ジンジャー君が横たわるその先。
転がったリンゴ、それをモシャモシャと咀嚼する存在。
それは……
「た、狸……?」
ライトに照らされるは3匹の狸。
身体の大きいものが1匹と、小さいものが2匹。恐らくは親子だろうか?
夢中でリンゴを齧っていた3匹は照らしてくる懐中電灯に驚き、いそいそと茂みへと姿を消してしまった。
「「「「ハァァァ……!」」」」
どんな猛獣が出てくるのかとヒヤヒヤしていたが、よもや狸という現実に拍子抜けしてしまう4人。
「なんだよ狸か」
「猪や熊やのぅてよかったわ……」
「うん、これはゴミや食料の徹底した管理をしてもらうための注意書きしなきゃ、だね」
「肩透かしで良かった」
「ボクノマケデス-」
肩の力が抜けて座り込む4人をよそに、ジンジャー君の負け宣告が虚しく響き渡った土曜の夜であった。
「てかシマケン、なんでチェーンソー持ってきてんの?」
「いや、だって……危ないかもしれないだろ?」
「せやからいうてチェーンソー持ち出すケン君のほうが危ないわ」
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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