リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「休憩入りま〜す」
「おう、ごゆっくりな〜」
テストキャンプを終えて数日。
普段どおりの日常に戻ったメンバーは、それぞれの業務に勤しんでいた。ケンもケンで営業書類を纏める傍ら、例の企画の記事編集や写真撮影に追われる中、休憩のチャイムが鳴った所で腹を満たそうと一旦切り上げることにした。
外に出て、今日の昼は近場の飯屋で……と思った矢先、
「うわ……降りそうな雲だな……」
見上げた空には、灰色掛かった雲がどんよりと青空を隠しており、見る者を……特にバイカーにとっては嫌な雲だった。
雨具はあるとは言え、雨の中走って帰るのはゴメンであるため、降ってくれるなよと内心願いながら飯屋へ……そんな時だった。
「……千明からグループ通話?」
珍しいこともあるもんだと思いつつ、今度は何やらかすんだ?という嫌な予感すら過る中、出ない訳にもいかず飯屋に向かいがてら通話ボタンをスワイプする。
リン『どうしたの?』
ケン『またどっかに集合か?』
千明『いや〜、実はキャンプ場の敷地に調査が入ることになってな〜』
リン・ケン『調査?』
申し訳なさそうで、そしてどこか真剣味を帯びた千明の声色に、どうやら茶化す内容ではないらしいと悟る。
千明『この前チクワが見つけた破片、念の為上司に報告したら、本物の土器の可能性が出てきたんよ〜』
あおい『土器?』
千明『山梨って結構そこかしこで土器が見付かるんだよ』
なでしこ『そうなんだ〜?』
千明『ま、調べるって言っても、1〜2週間らしいけどな』
なでしこ『じゃあそれが終わったら再開できるんだよね?』
千明『おうよ!』
恵那『再開するまでお休みだね』
千明『あぁ。とにかく詳細がわかったらすぐに連絡すっから、ちょっとの間だけどのんびりしてくれよな』
リン『うん、わかった』
ケン『千明も、あんま無理すんなよ?』
千明『なんだよ?妙に優しいじゃんかシマケン』
ケン『今だけのサービスタイムだからな。なんにせよ、皆休みの日はほとんど高下に詰めっ放しだったんだし、骨休めだと思うか』
リン『うむ』
そんな感じで通話を終えたケン。丁度行き付けの飯屋に辿り着いた所だった。千明からの話が無茶ぶりの話ではなかったことに一安心のため息を吐きながら飯屋の引き戸を開く。
店主の明るい声に迎えられ、さて何を食べようかと思案しながら席に着く。
今度の休みは空いた。
何をしようか?と計画を練るケン、他の面々も同様だろう。
だが、
そんなちょっとした休日の楽しみな期待と反するように、
空は未だ暗雲が立ち込めていた。
千明『あ……あのさ……あの土器、縄文時代の物だったらしくて……』
そんな千明の、気落ちし、申し訳無さそうな声色でグループ通話が掛かってきたのは、その週末の夜のことだった。
バイク走行中にヘルメットのブルートゥースで通話が入ったケンは、近くのコンビニ駐車場にバイクを停車して通話に専念する。
千明『遺跡発掘の為に何ヶ月も調査が入ることになったんだ……』
なでしこ『だったら、その後オープンすれば……』
千明『あ、いや……それが……結構な数の土器が出てるから、あそこを遺跡関連の施設にしようって案がでてきてさ……』
なでしこ『ぇ……?』
千明『キャンプ場作りを止めて、あの場所をどうするか再検討することになったんよ……』
恵那『ぁ……』
千明の口から飛び出す言葉の意味
それを聞かされて、
理解したくなくとも理解する度に、
現実を否が応でも突きつけられてくる。
あおい『キャンプ場の計画が復活する可能性はあるん……?』
千明『遺跡だってあの場所を盛り上げるにはいいネタだし、正直厳しいだろうな……』
あおい『ぁ……』
皆で描いて、
皆で計画して、
皆で作り上げようとした夢のキャンプ場。
それが終わる。
終わってしまうという現実を。
千明『皆にあそこまで手伝ってもらったのに……本当にスマン!!』
千明とて認めたくないだろう。
高校時代の友人達と作るキャンプ場を立案し、誘ってくれたのは彼女だ。その悔しさも、やりきれない思いは誰よりも強いかもしれない。
千明の申し訳ない、という気持ちの謝罪とともに、何も出来なかったという歯痒い思いが、スマホ越しにも痛いほど伝わってきた。
「………………」
誰からともなく切った通話。
何も喋らなくなったインカム。
ただただ押し寄せるのは現実の理不尽と、それに納得出来ない思い。そして何もできない歯痒さ。
それが頭の中をぐるぐる駆け巡り、何も考えられなくて。
ようやくケンが再び帰路についたのは、通話を終えてから数十分の後の事だった。
「そうか……遺跡発掘でキャンプ場作りは中止、ねぇ……」
週明け
無気力なまま過ごした土日を経て、どうにか気持ちが落ち着いたケンは、支店長にキャンプ場作り中止の旨の報告を入れることとした。
広報の仕事のネタとして報告を入れていたために、それが中止ともなれば一報入れなければならないのは已む無しだ。
「こればっかりは仕方ないね。運が無かった……としか」
「すいません支店長……」
「いや、志摩君が謝るものでもないだろう?それで、広報の仕事は引き続きやれそうかい?」
「はい。折角のご指名です。やれるだけやってみる心積もりですので続けさせてください」
別にキャンプ場でなくてもいいのだ。どうにか他に良い記事やネタを見つけてそれを完成させよう。
報告を終えて自分の事務席に戻り、PCを立ち上げる。その視界の傍らには、皆で練ったキャンプ場作りの企画と、殴り書きながらもそれを記事に纏めるためのコンセプトを記したメモ。ふと、再びあのやるせなさがこみ上げてくるが、それをぐっとこらえて、その紙束を引き出しの奥へと仕舞い込み、マウスとキーボードを操作して、新たなネタを探す。しかし探せど探せど、コレと言う記事が思い浮かばない。
だが書かないわけにも行かない、と言うことで、見つからないながらもネットや資料をあさり、藁をも掴む気持ちでネタ探しに勤しむしかなかった。
そして、
桜も舞い、月は4月1日。
名古屋市某所志摩リン宅
日々の疲れだろうか?襲ってきた睡魔に抗えずにソファでうたた寝していたリン。キャンプ場作りと、それによる取材予定も消えたリンは、その時間を仕事にスキルアップへ繋げるために、様々な業務を先輩から引き受けていた。只管仕事に打ち込む姿は、傍から見れば熱心に映るであろうものだが、彼女の内心は恐らく、キャンプ場作りへの思いを誤魔化すためのものだったのかもしれない。
若干そんな無茶が祟ったのか、疲労がここに来て響いたらしい。
そんな微睡みに沈む彼女を夢から覚ます音が一つ。
ピンポーン
「ん……、あれ……?寝ちゃってた……?」
いつの間にか寝てしまっていたことに驚きながら、ふぁ……っと背伸びと欠伸をひとつ。時刻を見れば十五時になる前といったところか。テーブルの上には昼ご飯の空食器がまだ並べられているのを見るに、昼ご飯の満腹感から来る眠気に抗えなかったらしい。
そんな現状を整理しながら、インターフォンがなっていたことを思い出し、ゆっくりと立ち上がって玄関へと歩き始める。
誰だろう?
そんな疑問符を浮かべていたら……
ピンポーン
ピンポーン
ピンポピンポピンポピンポーン
ピピピピピピピピピンポーン
インターフォンの嵐だ。
どんだけ急けているんだ?と言う疑問と共に、五月蝿いという怒りがリンの中に込み上げてくる。
どこのどいつだ?とムカムカしながら玄関を開ける。来訪者に文句の一つや二つや三つ言ってやろうかと思い切り息を吸い込んでその顔を見たとき、リンの表情は固まった。
「志摩リンさんにお届け物で〜す」
「……何やってんの?お兄ちゃん」
玄関先に立っていたのは、そこそこ大きなダンボールを抱えた兄が立っていたのだから。
「これ、母さんから非常食の差し入れ」
そう言って兄から渡されたダンボールの中には、インスタント食材がぎっしりと詰め込まれていた。どうやら咲に頼まれてケンが遥々身延から届けてくれたようである。
「宅配便使えばいいのに」
「俺が行きたいのもあったんだよ。愛する妹の顔を見に行くのも兄の仕事だろ?」
「なんだよそれ」
ソファでゆったりしているケンはと言うと、山梨から名古屋まで走り続けた疲れがあるらしい。曰く、途中に静岡で共通の友人が務めるバイクショップで、休憩がてら簡単にメンテしてきたらしいが。
しかし素っ気なくしながらも、リンにとってはこうして家族が遠路遥々会いに来てくれたことは嬉しいもので、胸の奥がほんのりと温かくなる。
「……どうよ志摩リンさん。最近は」
「まぁ前と変わらず程々にやってるよ?」
「程々、ねぇ……?」
兄を労うために、食器を片付ける傍ら、コーヒーを自分も含めて淹れ、ケンに提供する。熱々のコーヒーが、暖かくなったとは言え、4月といえど走行風で冷えた身体にジーンと染み渡ってくる。
「程々って割に、凄い顔になってるけどな?」
「なんだよ、凄い顔って……」
「隈、出来てっぞ?」
「え?嘘っ!?」
慌てて手鏡を取り出して自身の顔をチェックするリン。
確かに最近は仕事をこなす為に残業や泊まり込みも多く、睡眠時間を削りがちだったので、その可能性は否定できない。
「嘘だよ」
「ぐぬぬ……!」
「でも、なんか疲れた顔してるぞ?ちゃんと休んでんのか?」
「……それなりには」
「それなりかよ」
かく言うケンも、最近は少々仕事に打ち込み気味であり、残業も多めだった。彼も彼で、キャンプ場作りへの燻った思いを仕事で誤魔化していた。こういうところは兄妹らしくそっくりである。
「そんなお主には俺からこれを差し入れよう!」
ケンがバッグから取り出したるそれは、実家に帰ればたいてい置いてあるもの。彼が高校時代からハマり、今や常連と化した店の商品。
「お、ひめくらじゃん。寄ってきたんだ?」
「うむ、そのついでに抹茶ティラミスも食ってきたぞい」
「ぐぬぬ……!」
流石に名古屋から掛川にあるあのお茶屋さんへは、身延程ではないにせよ遠いもので、おいそれと足を運べるところではない。ケン程ではないにせよ、あそこのお茶と抹茶ティラミスを気に入っているリンからしてみれば羨ましいものであった。
「で、今日は泊まってくの?」
「うむ、そうしてもらえると助かるぞい」
話し込んでいたら、時間は十七時。流石に夕日が差してきたこの時間から身延まで帰ろうともなれば深夜だ。流石に看過できない。リンからしてみても、時折こうして家族や友人……主に咲とケンが泊まりに来たとき用に呼びの布団を用意しているので問題はない。
「明日はどうするの?」
「そうだな。ぶらっと名古屋観光でもして帰るよ」
「だったら味噌カツかひつまぶしでも食べに行かない?朝は小倉トーストでも食べてさ」
「いいねぇ!」
そうと決まれば、と夕飯の準備を始めようかとしたリンと、それを手伝うと名乗り出たケン。その2人のスマホに、なでしこからメッセージが届いた。
なでしこ『ケン君、リンちゃん。今度温泉、行かない?』
「「温泉?」」
なでしこからの突然のお誘いに、二人は揃って首を傾げるだけだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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