リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「「はふぅ……」」
寒空に顔と肩を冷しながら、胸から下は程よい温もりに包まれる。眼前には白銀の雪化粧をしたなだらかな山々と、そこから流れ出る渓流のせせらぎ。
ここは日本最高所の温泉である八ヶ岳本沢温泉。周囲には人工物などなにもない、大自然に囲まれた絶景『野天風呂』だ。
「が、頑張って登ってきた甲斐があったねぃ、『二人共』」
「う、うむ」
浴槽の縁へ前のめりに身を預けながら絶景と温泉を楽しむのはリンとなでしこ。だがその表情は堪能、と言うよりもどこかぎこちなさがあり、顔も温まってきたと言うには紅く染まっている。
(ど、どうしてこうなった)
そんな二人に背を向けて俯いて湯に浸かる三人目。その顔は先の二人に比べて更に紅く、そして気不味さがより濃く滲み出ている。
「おい、ケン」
リンが振り向くことなく後ろの『男性』である兄に、いつもよりドスの利いた声で呼び掛ける。今までお兄ちゃん呼びだったはずなのに、ここにきて名前呼びに戻った。
「ナ、ナンデショウカ」
「少しでもこっちを向いてみろ。ワタシハクサムヲムッコロス!!」
「ひ、ヒィッ!?」
何故良い年した異性の三人がこうして同じ湯に浸かっているのか?
そして何故ケンがクッソ情けない悲鳴を上げる事態に陥ったのか?
それは遡ること数時間前
「はぁ……はぁ……」
なだらかな斜面を、少し上がった息を吐きながら登っていくリン。少し前方には軽い足取りで斜面を歩いていくケンとなでしこ。
なでしこに温泉へ誘われるがままに彼女の車に乗ってやってきたシマシマ兄妹。それがよもや登山に繋がるなどと梅雨とも思わなかった二人だった。
暖かくて動きやすい服装と、水分、お風呂セットを持って来てね!というメッセージのまま、背負ったリュックには言われたとおりに準備してきたのだが……
「リンちゃんファイト〜!」
「おうおう、デスクワークばっかで訛ったのかぇ?」
「う、うるさい……はぁ……フィジカル……おばけと……はぁ……いっしょに……すんな……はぁ……」
先ゆく二人は相変わらずの体力オバケだ。高校の頃から変わってない……と言うよりもそこはかとなくパワーアップしている感じがしてならないリン。キャンプの延長で登山にも目覚めたなでしこは、それによる足腰の鍛錬は言わずもがな。デートと称してそれに付き合うケンもまた、歳を重ねてより体力をつけていたのである。その証拠に一時間は登ったであろうが、息一つ乱れていない。
雪がちらほらと積もっている高さまで来たあたりで休憩とし、軽く食事を摂ることにした。
そして取り出したるは、思い出深いカップ麺だ。湯を沸かしてカップ麺に定量注ぎ入れ、三分間待ってやろう!
ちなみにリンはカレー、なでしこはシーフード、ケンはトムヤムクンである。
「今日はシーフードなんだね」
「この前ね、お店に来た女子高生のお客さんが、どのカップ麺が美味しいか?って話ててね?たまにはちょっと違う味が良いかと思って」
「へぇ……」
「ちなみに何が良いって言ってたの?」
「んっとね?シーフードに、定番の醤油、あと豚骨って言ってる子が居たなぁ」
「豚骨!……むむむ、そやつ、中々のツウだな!高校生にして豚骨を……!いいセンスだ!」
「いや単に好みの問題だろ……てかお兄ちゃん、トムヤムクンて……」
「いや〜、一度食べてみたかったんだけど、中々機会がなくて。丁度いい機会だから食ってみることにした!」
「なんだそれ……」
「私、一度食べたことあるけど、好みが分かれそうだったよぅ……。リンちゃんはいつものカレーだね。やっぱり好きなんだ?」
「………うん」
カレー麺を見てると、ふと思い出が蘇ってくる。
ソロキャンでの元気一杯の友人との出会い。
その出会いが、まるでバタフライエフェクトと言わんばかりに、周りの色んな環境が変わって。
兄と恋人同士になるし、自分はソロキャンばかりだったはずが皆とのキャンプを楽しんだり……。
賑やかで騒がしかった。けれどそれらは大切な思い出で。
リンの口元は自然と緩んできていた。
談笑とともに思い出に浸っていると、時間が来たことを知らせるアラームが鳴り響く。
蓋を開け、襲い来るなんとも食欲をそそる香りを受け、
「「「頂きます!!」」」
麺をすする。
麺に絡んだ熱々のスープが口を、喉を抜け、空腹を訴えていた胃へと届き、そして登山で冷えた身体をじんわりと温めてくれる。
相変わらず美味い。
どうしてもたまに食べたくなる味で。
一口啜れば、一心不乱に麺を啜っていく三人。
途中、なでしこから追加で差し出されたおにぎりは拳大ほどの大きさだったと記しておく。
「トムヤムクン……俺には合わん……」
「おいまじか」
腹を満たしたことで体力を戻した三人(主にリン)は再びまだ見ぬ温泉を目指して登山を再開する。
いつの間にか周囲は一面雪で真っ白に染まっており、滑り止めのアイゼンを装着しながら登り続ける。
道中、この温泉はなでしこの姉である桜からの情報だと話してくれた。恐らくはキャンプ場作りがなくなったことで少し気落ちしていた妹への、桜なりの気遣いなのだろう。
更に数時間登り進めて、恐らくは受付であろう建物に辿り着いて料金を支払い、そこから更に山奥に絶景野天風呂があるということで、重たくなってきた足を引きずって奥へ奥へ。受付のおばちゃんが、三人の様相を見てニヨニヨしていたのが引っかかったが……。
そして……
「絶景だねぇ!!」
森の道を抜けて開けたところに出る。
そこは山の渓流に沿って木々が生えておらず、遙か先まで山の雪景色を望む絶景スポットだったのだ。
「うむ」
「これは中々……」
ようやくたどり着いた先の景色に、ケンも、そして疲れがピークに達してきていたリンも、思わず息を呑む。
途方も無い開放感と絶景に飲み込まれるかのような感覚に見舞われる。
「あ!あそこが温泉……ダヨ……?」
なでしこの指差す先。彼女の言うそこにある温泉とは……
「うぇ!?ちっさ!」
本当に必要最低限。
一つの浴槽と木の足場。それだけだ。
「……男湯と女湯は?」
「温泉は一つだけ、みたいだねぃ……」
男女の湯船の仕切りもなく。本当に最低限。端的に言えば混浴だ。
「だ、脱衣場すらねぇ!?」
「ど、どうすんだ?これ……」
よもやここまでとは思わず戸惑いを隠しきれない三人。
が、かと言って目の前にある温泉に入るためにこうしてきたのだから、折角なら入りたい。
だが自分が入れば、異性の同行者に気を遣わせてしまうだろう。
どうしたものかとウンウン唸るシマシマ兄妹。
ここで意を決して、おずおず手を挙げる人物が一人。
「じ、じゃあリンとなでしこ。二人で入りなよ。俺は……そのへんでゆっくり待つからさ」
「えっ!?それは……」
「いいんだよ。二人でゆっくり温まりな。身体、冷えてるだろ?」
「それは……そうだけどさ」
ケンが身を引いて解決か?と。それは正解ではないが、逆に間違いでもない答えだ。しかしだからといって自分が入りたいと主張するのもどうかと思うわけで。
踵を返し、彼女らに見えない位置へと足を進めようとしたケン。その肩にとんでもない握力で掴む影が一つ。
「そ、それなんだけどさ!皆で、入らない!?」
「「…………………へ?」」
なでしこのとんでもない提案に少し理解が及ばず、目を点にするリンとケンだった。
そして、冒頭に戻るわけである。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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未来の子供達のほのぼの生活
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お兄ちゃんはおしまい!(意味深)
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