リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「えっ?この土日かい?」
とある月曜日
出社した早々にケンは白河と話す海津支店長の元へと出向き、とある土日予定の空きを確認する。
「はい。お二人共、何かご予定は……?」
「ん〜、こっちは家族と過ごす以外、特にはないが……」
「私もだ。何かあるのか?」
「実はコレを……」
そう言って仕事用のカバンから取り出したクリアファイル。それに挟まれていた一枚のA4の紙を二人に差し出す。
カラフルにデザインされたそれは、どうやらチラシのようであり、受け取った二人はまじまじと目を通していく。
「そうか。紆余曲折の末に完成したか」
「はい!つきましては、初日は知り合いや家族を招待しよう、ということになりまして……」
「それで私達、と?それは確かに光栄だが……いいのかい?」
「俺自身、お二人にはお世話になりっぱなしですから。せめてもの恩返しです」
「だが……私もそうだが、支店長もやったことないぞ?それに道具だって」
「未経験だからこそ、です。俺が目指したコンセプトはそこにありますので!」
意味深な笑みを浮かべるケン。そんな彼の笑顔に、海津も白河も揃って首を傾げるしかなかった。
「あかりから預かって来たで!」
『おぉ〜!!』
少しずつ寒さが肌を刺し、上着が必須となり始めた秋の週末。
皆が揃う日、という事で、あおいが妹のあかりから預かってきた物を愛車のトランクを開けてお披露目する。
青い包装に身を包み、後部座席まで支配していたそれは、このキャンプ場に欠かせない大切なもの。一人では少し重たそうなので、ケンが慎重にそれを車内から引き出していく。
取り出したそれと共に、電動ドライバーや脚立をそれぞれ分担して、設置予定地点へと運び出していく。
「お前ら、家族とか呼んだのか?」
「勿論!」
「思ったより楽しみにしてくれてるみたい!」
「私、お店の人にも声掛けたよ!勿論アヤちゃんも!」
「おぉ……遠路遥々浜松からか!アヤちゃんもフットワーク軽くなったもんだ!」
「うん!絶対行く!マジで行く!雨降っても行く!って」
「そ、そう……めっちゃ食い気味だな」
「あかりちゃんも来るんだよね?」
「もちろんや。鳥羽先生と一緒に来るって」
折角のイベントだ。どうせなら盛大に、という事で方方色んな人に声をかけておいた。どれだけ来れるかはまだわからないけど、電話予約もやっていたので、そこそこの人は来てくれるだろうと期待している。
「よいしょっと!」
やってきたのは施設の敷地と道を隔てる辺りの所。入口付近の茂みの前に建てられた木材製の何も書かれていない板が、意味ありげに設けられていた。
このままでは勿論意味をなさないコレだが、あおいがあかりから預かってきた物。それがコイツに意味と魂を吹き込む。
「もうちょっと右を上、かな?」
「このくらい?」
「うん」
青い包装から取り出したそれを板に添わせ、位置確認。これで少しでもズレていれば台無し。それだけに慎重かつ確実に。
そして位置が決まったところで……!
「よぉし!やろう!ケン君!」
「さぁ!最後の仕上げだ!」
手に持った電動ドライバー。
それを巧みに使って木の板にソレをネジ止めしていく。
あっという間に終わったものの、仕上げ、という大げさな言葉だが、それでも大切な工程に変わりなく、どこか緊張感が滲み出ていた皆。
だが固定し終えて出来上がったものを見上げて、六人は思わず感嘆の声を揃えて漏らす。
『おぉ〜……!』
板に取り付けられたのは、あかりが美大の仲間と作り上げたアクリル板の看板だった。
その表面にはデカデカと、
『ふじ川松ぼっくりキャンプ場』
と記されており、イメージとして描かれたダイヤモンド富士が印象的だった。
ついに完成したキャンプ場。
自分達の『楽しい』を広げる夢の場所。
たくさんの苦労と、そしてそれと変わらないくらいの笑顔を経て作り上げたキャンプ場。
あの廃れて草が生えまくっていた場所のほんの少しの面影を残しながら、しっかりと整地され、サイトもバッチリ。色んなニーズに答えられる多様性に富んだキャンプ場だ。
『出来た〜っ!!』
思わず溢れた6人の歓喜に満ちた声が、高下の青空の下に木霊した。
恵那『よし!オープン初日は今週土日。各方面抜かりなし!……で?アキちゃん、例の準備は?』
千明『抜かり無いぜぇ!クックックッ!アイツラの驚く顔が目に浮かぶっ!ケッケッケッ!』
あおい『せやけど意外やな〜、アキがこんなサプライズ考えつくなんて』
千明『うむ。まぁ岡崎さんと世間話してたときにチョロっとな?知り合いに作ってる人がいるってんでお願いしたらオッケーくれてよ。消防とか自治体には根回し済んでるぜ。オープニングセレモニーって建前でな』
リン『ま、こういう出費も悪くないかな』
千明『当日はアタシの合図一つで……ドカーン!!て寸法よ!』
恵那『タイミングを見計らって……ふっふっふ……!』
リン『あいつの行動パターンからすればこれくらい容易いぜ……!』
完成の裏で、とある陰謀が蠢いていることもつゆ知らず。
キャンプ場オープン初日を迎えることとなった。
そして
「じゃ、私達は先に行ってるね」
「いってらっしゃい、二人共気を付けてね」
台所で両親があれもこれもとバッグに詰め込むのを横目で見ながら出発の準備をすすめるケンとリン。
「でもまぁ……キャンプなんて何年ぶりかしらね?」
咲のそんなぼやきを尻目に、自身の荷物を今一度確認する。
各種ギアは問題なし。
スマホ、財布もよし。
(アレも……あるな)
コイツを忘れては話にならない。しっかりとバッグに仕舞われているのを入念に確認してチャックを閉じる。
「もう大丈夫なの?」
「あぁ。必要なものはバッチリだ。……そろそろ行くか」
「うむ!」
と、互いの相棒に跨ってキーを回す。いざエンジンを……という時だった。
トライアンフの速度メーターの片隅に灯る警告灯がリンの目に飛び込んできた。
「あ……」
そんなリンのつぶやきが、二人の出発に待ったをかける事となったのである。
「エンジンの警告灯か……念の為整備に出さねぇと危ないか」
「高下……行くの、どうしよう?」
「……フム、俺の後ろ……ってのもアリだけど、リンは乗れても荷物は流石にな……」
「だな」
「あれ?二人共、まだ出発してなかったのかい?」
車に荷物を載せようと出てきた渉が、未だ玄関先にいる二人を見て首をかしげる。
「実は……」
未だ状況が飲み込めない父に事情を説明して、リンの高下までの足がないことを相談する。
説明を聞くうちに、何か考えついた渉はおもむろに家の影の駐車スペースへと足を運ぶ。何かあるのか?と二人もついていくと、彼の行く先にシートが被せられた何かがぽつんと鎮座していた。
「だったら、久しぶりにコレに乗ってみたらどうだい?」
シートを剥がす渉。
その下に隠れていたもの。
それは水色と白のボディ。
コンパクトなその車体は、リンにとって長く親しみ、数多の旅に連れて行ってくれた相棒。
あれから長い年月を経て車体は所々汚れてはいるが、まだまだ走れるのがよく分かる。
「よし、久しぶりにビーノとのツーリング。行こうぜ、リン」
「……うんっ」
働き始めて専らトライアンフを乗り続けたリン。長い年を経て、こうしてまたビーノと走れる。その現実にリンの中でどこか高揚感が溢れてくる。
「いざ、高下っ!」
荷物を載せ替え、ビーノにまたがったリンはアクセルを全開にして、皆が待つ高下目指してケンとともに出立していった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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