リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
「ごめんなでしこ。せっかくのクリスマスイヴなのに立て込んで……」
「いいよ〜、だからこうして迎えに来たんだし」
会社の玄関口で待たせてしまっていたなでしこ。クリスマスイヴにデートを、という約束を立てていたが、どうしても今日に最高の記事が書けそうな流れを感じてしまい、しっかりと打ち込んだら少し残業する事となってしまった。予め休みをとっていたなでしこには連絡していたのだが、まさか迎えに来るとは思いもしなかった。おかげで残業している奴らから冷やかしを受けたのは余談なのだが。
「それで、どこ行こっか?」
「そうだな……腹も減ってるし、甲府の店で晩御飯にするか?」
「うん!」
ご飯と聞いて満面の笑顔を浮かべるなでしこ。相変わらずの健啖家である。
「折角だし、ちょっとお洒落なレストランにしようか」
「ん〜……お洒落なトコか〜……なんか緊張しちゃいそうだよねぃ……」
苦笑いしながら煮え切らない返事を返すなでしこ。
「ケン君とご飯食べるんだし、肩肘張らずにゆったり食べれたら良いなぁ〜、なんて……」
確かに彼女の言うことも最もだ。緊張して食べるご飯よりも、気軽に気楽に食べるほうが美味しいだろう。変に形に拘るよりも味に拘って、『美味しかったね』と笑ってもらえるほうが、ケンとしても嬉しいものだ。
「よし、じゃあ千明に教えてもらった飯もうまい居酒屋に行くか!」
「おぉ!何だかすっごい楽しみ!」
という事で、クリスマスイヴはいざ晩御飯デートと相成ったわけである。
聖夜の雰囲気などどこ吹く風。
二人で楽しくて美味しければそれでいい。
今日は食べて、呑んで、盛り上がろう。
そのために今日は二人共電車なのだから。
「じゃ……」
「「かんぱ〜い!」」
互いに頼んだチューハイのグラスをかち合わせ鳴らし、二人だけの宴が始まった。普段酒を呑まない二人も、今日は特別だ。
フルーツの甘さとアルコールの苦さが混同したチューハイを煽り、焼き鳥や刺し身と言ったおつまみを肴に、楽しいひとときが始まる。
「すいませ〜ん、カシスオレンジお願いしま〜す!」
「すごいななでしこ、四杯目だぞ?」
「うへへ〜……存外私、お酒に強いのかも〜」
未だケンは二杯目なのに、倍はグラスを空けているのだから、驚きもする。
テストキャンプの時は、千明の池池一杯でベロンベロンになっていたが、チューハイだとそうでもないのだろうか?
酒のあても少し減ってきたので追加すれば、それに比例してなでしこもチューハイを頼んでグラスを更に空ける。……存外酒豪なのだろうか?
「いや〜、こんなに呑んだの、おじさん初めてだよ〜」
「いやおじさんて……その一人称は色々ツッコミ受けそうだぞ」
七杯目を飲み干した辺りで目つきがトロンとしてきた。少し深酔いしてしまったのだろうか?お冷を頼んでなでしこに渡せば、ゆっくりと飲み干して『ぷはぁっ』とややおっさん臭い息を吐き出す。
ひとつリフレッシュした所で再びチューハイを飲み始めたなでしこは、ゆっくりと机に伏せて、指でグラスの縁をなぞりながら剝れた声で話し始める。
「ケンくんはさ〜……」
「ん〜?」
「いつまで私を待たせるんじゃろうか〜?」
「ん、ん〜?」
青りんごチューハイを口に含みながら、なでしこの『待たせる』の意味を考える。
求婚も婚約もした。結婚式もそろそろ考えていこうかと言う話も出ているし、待たせるようなことはないはず……
疑問符が浮かぶ中、ウトウトし始めたなでしこ。どうやら酔いで眠気が出てきたらしい。このままでは帰宅に支障が出てしまう。
「大将。勘定を」
「毎度!」
手早く支払いを済ませ、机に伏せて寝息を立てるなでしこの肩を揺らせて起こしにかかる。
「ほら、なでしこ。そろそろ帰ろうか?」
「ん〜……」
荷物を纏め、覚醒しきらない彼女に上着を着せて背負い、ゆっくりと甲府の街へ。
やれやれ、クリスマスだからって羽目を外しすぎたのだろうか?結構な勢いで呑んでたし。
兎にも角にも、ケンもケンでアルコールが入ったことで少し身体が熱い。そしてそれは、背中に当たる柔らかな感触と、耳元をくすぐるなでしこの吐息も相まっているから尚の事。
早く駅に向かって電車に乗らないと理性が保ちそうにない。
「ん……ケン君」
駅まであと百メートルほど、という所でなでしこが目を覚ましたらしい。未だ呂律の回らない声だが、少なくとも覚醒したことでケンはなでしこをゆっくりと下ろす。
「大丈夫か?結構飲んでたみたいだし……」
「ん〜……大丈夫、だと思う」
「そっか、なら良かった。歩けるか?もうすぐ駅だけど……」
なでしこの手を取り立てるか促すケン。
だがなでしこは立とうとしない。酔いが回って歩けないのか?そう推測する中、
「……やだ……」
「へ?」
「今日は、ケン君と一緒にいるの」
頬を膨らませ、若干涙目になっている。……なんだか少しだけ幼児退行しているように見えなくもない。
「一緒って……もうすぐ終電だぞ?」
「いいもん、ケン君とお泊りするから」
「お、お泊りって……!?」
お泊り。
そんな言葉にケンは過剰に反応してしまう。
クリスマスとお泊り。
その2つの言葉がもたらす相乗効果は、『聖夜』を『性夜』にジョグレス進化させるという事。なでしこはそれをわかって言ってるのか?
「帰らなかったら、家族の人が心配するぞ?」
「泊まってくるって言って出てきたもん」
「もんって……しかも根回し済み!?」
ちなみに、
父母たる修一郎も静花も、なでしこのお泊りには反対するどころか、滅茶苦茶応援していたとここに報告しておく。
「それに……」
徐に立ち上がったなでしこは、目の前で目を白黒させるケンの首に腕を回してそっと抱き着く。先程よりも強く感じる柔らかさと吐息、そしてなでしこの匂いがケンの心臓を更に跳ね上げさせる。
「ケン君からの……クリスマスプレゼント、欲しい」
「そ、それはもちろん用意して……」
「もうっ、鈍いですぞ、ケン君」
なでしこの膨れた顔がケンの視界を覆ったかと思えば、慣れ親しんだ唇に感じる柔らかな感触。それがなでしこの唇であることを察するのにそう時間は掛からない。
「私からも、クリスマスプレゼント、あげたいんだよ?」
「う……なでしこ……さん?」
初めての恋人としてのクリスマスプレゼントはお互いのファーストキスだった。
だが今は時を経て婚約している二人。キスよりも、もっと大きなクリスマスプレゼントをなでしこは所望している。
酔いもあってトロンと蕩けたなでしこの目と紅潮した頬。普段の幼さを残した物ではなく、どこか扇情的で、オトナの女性としての色気と魅力がそこにはあって。
「なでしこ……ホントに、いいの?」
「うんっ、だって私達、婚約したんだよ?私、ずっと待ってたんだから……」
ケンの理性に亀裂が入りだす。
待たせてしまっていた罪悪感と、なでしこの魅力がそのヒビを徐々に大きくしていくのが彼自身実感できる。
「だから……ケン君、もう私を、待たせないで欲しい……」
切なそうに呟いたその一言が、ケンの理性を粉々に打ち砕いた。
「……わかったよ。なでしこ、行こっか?……その……泊まりに」
「……っ!うんっ!」
そして二人は駅とは違う、クリスマスで賑わう夜の街へと消えていったのだった。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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