リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
型破り、と銘打った結婚式だったが、拍手で出迎える中、よもや花嫁が花婿の手を引いてくるエスコートしてくるとは思いもよらず、来賓誰もが目を丸くし、なでしこの性格を知るものは、『なでしこらしい』と苦笑する。
形式上敷かれたヴァージンロードを二人連れ立って歩いていく。その終着点たる主祭壇を目指して。
そんなのっけから厳かさ皆無な雰囲気で始まった結婚式。主祭壇前に二人で並び立ち、牧師服に身を包んだ千明(付け髭付き)が聖書みたいなものを広げてそれらしい感じを作っていく。
「新郎新婦の二人に、春うららかな桜が舞う今日の良き日。このように結婚式を挙げることが出来たことを心よりの祝福を。
先ず新郎新婦シマケン。貴方はここにいる新婦なでしこを、病める時も、健やかなる時も、キャンプの時も、飯を食う時も、風呂の時も、寝る時も、貧しき時も、富める時も、フィバーする時も、妻として慈しみ、敬い、愛することを誓いますか?」
「ん?なんか変なの混じってないか?」
「うっさい、ち か い ま す か?」
「ち、誓います」
クレームを入れようとしたが、圧で誓わされた。圧迫宣誓みたいである。
最初こそ、おっ!それっぽい!と思っていたらコレだ。
「次に新婦なでしこ。ここにいる新郎シマケンを、病める時も、健やかなる時も、キャンプの時も、飯を食う時も、風呂の時も、寝る時も、貧しき時も、富める時も、フィバーする時も、夫として敬い、慈しみ、愛する事を誓いますか?」
「ふふっ……!はいっ、誓いますっ」
堅くなりすぎないよう、ほんの少し?のアドリブと、『らしさ』を入れてくる千明の神父振りがなでしこには可笑しかったらしく、思わず吹き出しながらも誓う新婦。
「よろしい、ならばキャンプ神の御前で指輪の交換を……」
「なんだ、キャンプ神て……」
「多分キャンプの神様じゃないかなぁ?ほら、管理棟ってキャンプ場の神様祀ってそうだし」
「……なでしこ、順応性高いな……」
なでしこが、これからどんな式に盛り上げてくれるのだろう?とワクワクしながら左手のグローブを外して、介添人代わりとして待機していたあかりに手渡し、ゆっくりと二人向き合う。
そして千明から差し出された一対の結婚指輪。まずはケンがそれを手に取り、差し出されたなでしこの左手を、自身の左手でそっと下から支え上げる。
相変わらず白く、綺麗な細い手指だ。その薬指に、ゆっくりと、不備の無いよう確実に、少し震えながら右手に持った指輪を入れていく。
指輪交換と言えば、結婚式で一二を争う重要どころ。ミスは許されない。
十秒ほど掛けてようやく定位置まで入れ終えたケンは、一息吐き出す。そんな彼になでしこはクスリと苦笑い。
「緊張しすぎだよケン君」
「し、仕方ないだろ。大切な場面なんだから」
「……そうだねぇ、言われてみれば、少し緊張してきたかも」
次はなでしこの番だ。差し出されるはケンの左手。男性特有の少しゴツゴツ目の手指。今まで手を繋いでその大きさと違いは知っていたが、こうしてマジマジと見る事はあまりなかった。ケンがしてくれたように、自身も左手でその手を下から支え上げ、ゆっくりと指輪を薬指に通していく。
確かに緊張するのは致し方ない。
厳かさは抑えた自分達らしい結婚式にしたにせよ、この瞬間だけは同じだ。
「ふぅ……や、やっぱり緊張した……」
「だから言ったのに……」
ケンと同じくらい時間を掛けて通し終えたなでしこも、思わず一息吐き出してしまう。
だが千明はそんな二人に休む暇など与えない。
指輪交換の次と言えば……
「では、二人には誓いの熱いキスを!」
(や、やっぱりか!)
キスそのものは問題ない。今までに幾度となく重ねてきた唇だ。慣れてきた以上、互いに今更恥ずかしがるものでもないだろう。
だが親族や友人、知り合いが見る目の前でするというのは今まで経験したことなかった為、二人に緊張と羞恥心が吹き出してくる。
なでしこもなでしこでヴェール越しに顔を赤らめているのが見て取れる。
それはケンも同様で、顔が熱くなってきているのが確かに感じる。
でもこれは皆の前でしっかりとなでしこを愛していると言うことを、言葉ではなく行動で示す誓いだ。恥ずかしがっていては何も始まらない。
ゴクリと固唾を呑み、なでしこの顔を覆い隠すヴェールをゆっくりと捲り上げる。頬を染め、恥ずかしがりながら上目遣いに見つめるその瞳に、胸の鼓動が高まる。このまま近くで見る花嫁姿のなでしこに、改めて今一度惚れてしまう勢いだ。
「なでしこ」
「う、うん……」
ケンが呼びかければ、一息大きく吸い込み、そして吐き出す。深呼吸、という典型的な落ち着かせ方だが、それゆえ効果は織り込み済み。
意を決したなでしこは、ケンの顔を見上げる形でそっと目を閉じる。準備万端というところか。
ならばあとは花婿次第。
そっとなでしこの肩に手を添え、ゆっくりと顔を近づけていく。
いつも以上に緊張してしまうが、もう止まらない。
薄い口紅が塗られた潤いある唇。
そこにゆっくりと、
そっと自身の唇を重ねる。
瞬間、
ドッと湧き上がる拍手の嵐
中には指笛でも吹いてるやつがいるのか、ピューピューと冷やかしにも聞こえる甲高い音も混じっている。
「や、やっぱり恥ずかしいね、皆の前だと」
「う、うむ。するなら……二人きりだな」
その後、結婚誓約書にサインを済ませ、これで終わりだろうか?と思っていたのもつかの間。
「さぁ!お次は新郎新婦によるケーキ入刀です!!」
「「えぇっ!?」」
「あ、アキちゃん、そういうのって披露宴でやるんじゃ……!?」
「そんなもんは無い!」ドヤァ
「「えぇっ!?」」
「型破りって言ったろ?まぁ任せとけって!てことで!ケーキの入場です!」
ガチャリ、と音を立てて開けられる管理棟の扉。
なんだろう?と覗けば、
「ぐぬ……結構重いんやけど……」
「は、張り切って大っきいの作っちゃったからねぇ……」
あおいと恵那。二人が大きな何かが盛られた皿を両側から持ちながらゆっくりとこちらへ運んできている。
「て、手伝おうか?」
「ええでリンちゃん、今日はリンちゃん親族なんやから、ゆっくりしといて〜」
「気持ちだけでお腹いっぱいで、お昼御飯食べらんなくなるよ」
「おいまじか」
そして主祭壇の横にいつの間にか設置されていた折りたたみ式のウッドテーブルにゆっくりとソレを下ろす二人。
二人が運んできたもの。それは一メートル四方はあろうかという巨大なウェディングケーキだ。流石に高さ何段にも……と言うのは無茶というものだが、その代わりにたっぷりのホイップとフルーツで彩られ、真ん中には『HAPPY WEDDING』のチョコ文字と、その傍らには桃色の髪をした白いドレスを纏う女性と、白いモーニングコートを着た青紙の男性を模した砂糖菓子が立っている。
「すっごい!これ、手作り?」
「おうよ。五人で必死こいて作ったんだぜ?」
「五人?」
「そう、遠路はるばる、お前らの門出に華を添えてぇって来てくれたんよ……泣かせる話じゃねぇか!」
「遠路はるばるって言ってもリンちゃんよりは近いっしょ?アキちゃん。静岡なんだし」
「あぁ!」
声の主たる管理棟から出てきた女性はドレスの上に着けていたエプロンを外し、細かい作業を終えて凝った肩を解すのは小豆色の髪の人物。
それは、ケンやなでしこ、リンにも馴染み深いヒト。
「「アヤちゃん!!」」
「やほー、今日は二人共おめでと〜。いや〜一緒に出迎えたかったけど、ケーキの仕上げに難航しちゃってて……でも、ギリギリ間に合って良かった〜」
「それでさっきまで管理棟に籠ってたの?」
「まぁね」
「流石に主役もそうだが、来賓出迎えに出ない訳にもいかんからな」
「それでアヤちゃん、『ここは私に任せて先に行け』って言うから、任せてたんだよ」
「結婚式で死亡フラグ建てんなよ……」
「でも、予想以上に仕上げてくれて、ホンマありがとうな〜アヤちゃん」
「いいよ〜、せっかくの二人の門出だしね〜」
なんだかんだ、出会うことは少なく、出身は違えども、キャンプ好きが講じて皆が仲良くできているのは良いことだ。
「なでしこ」
「ん?」
「綺麗にしてもらったじゃん。ま、なでしこは元がいいからね〜」
「えへへぃ……そうかな〜?」
「……幸せになりなよ」
「……うん」
この中で付き合い年数が一番長いのは綾乃だ。それだけになでしこの結婚と言うものに思うところがあるらしい。その証拠に、祝福しながらも、少し目尻に涙を浮かべていたのがケンの目には強く焼き付いていた。
「ケン君」
「ん?」
「なでしこのこと、幸せにしてよ〜?」
「……あぁ、もとよりそのつもりだから」
「ならよし!」
さて、話がまとまった所で、リンからとある物が二人に渡される。
「じゃ、共同作業の方、よろしく」
「あぁ!じゃこれで……コイツを刀の錆にすればいいんだな?」
ムッコロ顔でリンから手渡されたもの……ナタを構えるケン。
「違うよケンくん!これはね!こう構えるの!」
ケンからナタを奪い取ったなでしこは、野球のバッターのように構えて、広島のプロ球団マスコットキャラのような顔芸。
「ごめん、間違えた。こっちだ」
……わざとだろうか?ナタをリンに返却し、リボンで装飾されたウェディングケーキナイフを手渡される。
やれやれ、ネタを仕込まねば死んでしまうのだろうか?とケンは心中嘆くが、彼もネタを挟まなければどうにかなりそうな人種だとここに記しておく。
「じゃ、なでしこ」
「うんっ」
互いの手を重ねるように握ったナイフ。
その刃をしっかりとケーキに向ける。
「それじゃ!どうぞ!」
千明の音頭と共にゆっくりとケーキに刃が沈んでいく。
その共同作業を写真に収めるべく、カメラやスマホでパシャパシャとシャッターをきる音がキャンプ場にしばらく木霊していた。
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