リンの双子の兄は、静岡の猛獣に振り回される 作:ロシアよ永遠に
ケーキの入刀を終え、更に切り分けて来賓者それぞれに配膳し終わった辺りで、管理棟の屋根、その縁にいつの間にやら増設されたタープが伸ばされていく。あおいと恵那によってその支柱を立てられ、あっと言う間に来賓席を覆いそうなほどの広さの日差しが出来てしまった。
「い、いつの間にこんな……」
「これも一つの改装ズラ。まぁそれはそれとして、酒の肴ならぬケーキの肴に一つの催しをと思ってな」
続いて綾乃が展開するのはプロジェクタースクリーン。主祭壇の前にどんと広げ、リンが丁度いいくらいに離れた所でプロジェクターを設置する。
ケンは自身の背筋にいや〜な汗が浮かんできた……気がした。
「ではここで、新郎新婦のメモリーを公開いたしますっ」
「えぇっ!?」
「キイテナイヨ〜!」
「当たり前だ!知らせてなかったからな!」
そしてプロジェクターにリンが持ってきたノートパソコンを接続。USBメモリーを接続するとサムズアップし、準備が出来たと千明にサインを送る。
「それでは皆様、私、大垣千明の解説とともに、二人の心温まる?エピソードをご覧下さい!」
そして始まる高校時代から撮影された何気ない日常の写真。
野クルとして初めてのテント設営
麓キャンプ場の担々餃子鍋キャンプ
笛吹公園、ほっとけや温泉、ンプ場での野クル初キャンプ
風邪をひいてお互いにお見舞いに行ったときの写真。
「……いつの間にコレ撮ったんだよ?」
「不肖、この大垣千明と、シマシマ兄妹の母君の協力の下だ!」
「か、母さん、いつの間に……」
「だって、あんたを女の子が訪ねてくるなんて初めてだったし、記念にこっそりね」
「と、盗撮……」
「敢えて言わせてもらう!隠し撮りであると!」
「どっこいどっこいだわ」
パパラッチでも目指せばいいのでは?と内心愚痴るケンを他所に、スライドショーは継続していく。
朝霧高原でのクリスマスキャンプのとある写真が表示された時、会場に居た半分以上の人が吹き出す。スクリーンに映っていた写真、それは……
「これも撮ってたんかい!」
死んだ目をした真っ赤なお鼻のトナカイシマケンだった。
「インパクトが何となく映えるからな!ちなみに……」
「撮ったのは私だよ〜」
恵那だった。
そう言えばこいつはイジりネタになる面白そうなものを見ると、結構な頻度で撮影していた事を思い出す。
そして映し出されるのは、恐らく告白を終えて手を繋いで戻ってきた二人。
「そしてこの夜、シマケンのクリスマスの夜を熱く溶かすような告白で、二人は恋仲へとなったのです」
誇張されている様な説明だが大方間違っていなくもないので言い返せない。ちなみにこの写真はリンの撮影だと容易に理解できた。
「と、ここで前半戦終了です」
「え〜、まだ半分かいな」
「ふっふっふー、チビイヌコよ、もうギブアップか?」
「……なんか甘いケーキよりお腹空いてきたんやけど」
あかりの言うことも最もで、それは来賓者全員に当てはまることだ。
事実、坦々餃子鍋やら、とんこつカレー、高級肉のすき焼きと見るだけでお腹が空きそうな料理が立て続けで映し出されたので、腹の虫が刺激されてそろそろお冠になりそうだ。
「まぁもう少し我慢しとけ〜、なでしこ〜お前も花嫁らしくここは抑えとけ〜。シマケン、嫁さんの手綱を握っとけよ」
「うい〜」
隣で目を輝かせて自身が口にしてきた料理を見つめるなでしこ。このままではよだれとかダラダラ流れ、花嫁らしからぬ表情をして飛び出していきかねないので、しっかりと手を握って抑制させる。
続いて始まる後半戦
まず年末年始に行った年越しキャンプにて、なでしこの祖母の家に寄った際の寄り添い合ってコタツに入る二人の写真だ。
「これ、アヤちゃんが撮ったの?」
「そうだよ〜。食欲魔神のなでしこのカレシを記念に撮っとこうって思ってね〜」
「むぅ……食欲魔神って。私は食べるのが好きなだけだもん」
「ま、この後にリンちゃんとケン君が拾った餅を十個も食べたなでしこには説得力ないけどね〜」
「そ、それは……!」
「いや、あそこでなでしこが少しでも餅を消費してくれて助かったよ」
「うむ、あの後おじいちゃんにおすそ分けしたけど、それでもまだ流石に食いきれるかわかんなかったもんな」
「ケン君、小姑様……!」
「誰が小姑だ!?……ま、立場上そうなっちゃったけど」
付き合い出したクリキャンからちょくちょくそう呼ばれてたけど、今となっては否定できないことになんとなく感慨深さを覚えるリン。
「それに、餅って炭水化物凄いからポンポン食べれんし」
「うむ……一度アベカワ、きな粉、アンコで作って食べたんだよな……どれも美味かったけど、その後体重が……!」
リンどころかケンまで当時の大惨事を思い出して顔を青ざめる。妙なトラウマになっているみたいだ。
「そうかな?私、そんなに変わらなかったよ?」
あれだけ一気に平らげたのに体重変化がなかった彼女は、どれだけ燃費が悪いのだろうか。流石、胃の中に猛獣を飼ってるだけあるようだ。
「ケン君、あんまり甘やかしてなでしこをまるしこに戻さないでよ〜?」
「それはまぁ……気をつけます」
そしてスライドショーが進み、野クルの部室の入り口からこっそり撮影されたと思われるシーン。よくよく見れば、壁に追い詰められたなでしこに壁ドンするケンの姿。
「「なっ!?」」
「え〜皆様、これが高校一年のバレンタインで起こった甘々な壁ドン事件です。部室内に漂う砂糖を煮詰めたかのような激甘臭に私とイヌコはコーヒーのブラックデビューを果たしたほどです」
「こ、こいつ等、隠し撮りばっかりじゃね―か……」
「あえて言わせてもらう!盗撮であると!」
「さっきと言ってることが真逆だよぅ……」
顔を真赤にする当事者二人。なでしこに至っては赤面を隠すために手で顔を覆ってしまった。
「……ケーキ、外からの甘みが強すぎて味が薄くなってきたんだけど」
「桜さんの言うとおりや……明日、血糖値ヤバいことになりそう……」
桜とあかりがゲンナリするのもわかる。それはスライドショーを見せられている誰もが思っていることで、どこかしら皆が胸焼けを隠せない様子であった。
「自分でやっていてナンだけど、アタシ自身、後悔してる。胸焼け的な意味で」
「手の混んだ自爆やな」
気を取り直して再開するスライドショー。どうやら伊豆キャンの時期へ入ったようだ。
「そして始まる高校一年最後の一大キャンプ、伊豆へのキャンプが始まるんですが、信じられますか?まだ始まって半年も経ってないんですぜ?」
どれだけ濃厚な高一後半だったのか?今までで少なくとも高二が終わるくらいまでのスライドショーを味わった感覚に陥るが、未だそんな所を彷徨いていたらしい。
「そして我々は伊豆への旅路を行く。道中、前日に寝られなかった愚か者に制裁を加えつつ……」
「あぁっ!こんな写真いつの間に!?」
次いで映されるのは、初日の道中に爆睡をキメ、その寝顔写真にイタズラ書きをされたものだ。
「あの時隣に座ってたのって……恵那ちゃん!?」
「お、なかなかいい推理だねぇなでしこちゃん」
そして次に映し出されるは三筋山。
次の流れを察したケンはゴクリと固唾を飲み込む。
予想通りの流れを千明が辿るのなら、おそらく……
「そして三筋山……ここで一つの事件が起こります。とある出来事でシマケンに対してなでしこがヘソを曲げてしまったのです!」
おぉっ!と何故か結末を知らぬ女性陣が期待の声を上げる。おそらくは女性が大好物の修羅場った展開を期待しての事なのだろう。
ケンの額に嫌な汗がにじむ。
「そんななでしこに、なんとこの男、優しく抱きしめて耳元で腰を抜かす程の甘〜い言葉を囁いてオトシたのです!」
『キャーっ!』
まるで漫画かアニメのような甘々なやり取りに、黄色い声を上げる女性陣。その中には新郎新婦の母も紛れ込んでいる。年を考えてほしいものだ。
そして場面は流れ、映画鑑賞で怖い?映画を見たなでしこが、疲れから寝落ちしていたケンに怖さのあまり抱き着いたり、翌日には恋人岬の存在と意味を知り、オーバーヒートするなでしこの姿。
ちなみに、
恋人岬からの祝電は管理棟横の掲示板に掲示しているのでご覧ください。
次はトンボロ。海を渡るために岩場を歩く中、バランスを崩したなでしこの手を握り、颯爽と助ける王子的な行動もそうだが、その後はトンボロでの撮影が続く限り手を繋ぎっぱなしだった二人に、女性陣はがやがやと盛り上がってきている。
そしてその夜はなでしことあおいの誕生パーティー。記念撮影をした時にはしっかりとケンになでしこが抱き着いて密着して撮影されており、これだけ密着イチャイチャ振りだけを映していては、そこそこ節度ある付き合いをしていたのにどんだけ甘々熱々だったのかと勘違いされてしまいそうだ。
頭を抱えるケンを他所にスライドショーの場面は進む。どうやら三日目に入ったらしく、二人だけの誕生祝いはバレてないようで、そこは一安心する。
「ここで以前お世話になった伊東に住んで居られる飯田さん親子のお店へと足を運びます。そんな中……そこで飼われているコーギーのチョコちゃんが初対面のシマケンに甘えまくっているのに嫉妬したなでしこが、自分も撫でろとせがんで行きます」
そして撫でられてご満悦ななでしこの写真。三度赤くなった顔を覆って俯く本人。公開処刑とはかくも残酷である。
「次は大室山。ここではリフトに乗って山頂に上ることができ、我々も無論それを利用。二人は当然のごとく二人乗りリフトにカップルで乗り込みます」
話している内容は本人達にしかわからない。
だがリフトに乗った記念撮影兼ドッキリで撮られた写真。それに映っていたのは顔を真っ赤にして目を丸くする二人の姿。無意識なのか何なのかわからないが、とっさになでしこがケンに思い切り抱き着いている。
「とまぁこんな感じで二人きりになればイチャコラ甘々する展開がままあり、自販機でブラックコーヒーを買い溜めしとこうかと思うほどでした」
そして次は大室山山頂
二人に加えてあかりが競争で先んじて到着したことで、記念撮影。あかりの策略により、二人密着での記念撮影
「……なんでこの写真が流出してんだ?なでしこのスマホで撮ったのに……」
「私がねだって送ってもろたんやで〜ネタになる思ってな〜」
「なでしこ……」
「あ、あはは……」
まぁ多分、なでしこ的にテンションが高かった時を狙ったのだろう。そうでなくとも深い意味もなく、ぽや〜っと言われるがままに送りそうなものだが。
「そして訪れるはサボテンパーク。ここで温泉に入るカピバラを見に我々は足を運びました」
何故か孔雀が頭の上で求愛行動しているケンの写真もシレッと混ぜながら、園内道中常に隣り合わせで歩く二人。だが手をつなぐようなイチャコラ要素はない。
そんな中、不意にケンの方からなでしこの手を握りに行く。そんなシチュエーションになでしこは照れながらも嬉しそうで。その影で何故かズッコケる最中でブレて映り込んでいたリンが妙に印象的だった。
「そして訪れるカピバラ温泉。その何とも言えない癒やし空間で和み終えた後は、各々自由行動。当然のように二人は共に行動してデートに洒落込みます。そして園内レストランで撮影されたのがこちら」
自身のタコライスをなでしこにあ〜んさせて食べさせるケンの写真。次は逆になでしこからケンへ。こんなとこまで撮られていたのかと、撮影者を探せば、こちらを見ながらニコニコして手を振っているのは鳥羽先生だった。アンタもか。
「とまぁこんな感じで高校一年最後の一大キャンプを終え、日常に戻ったわけですが……」
当の本人たちにおいては、恥ずかしさから顔がもう真っ赤である。
「まだまだ残ってはいますが、皆さんの体力的にもそろそろ終わりとしておきましょう」
こうして、主役二人の公開処刑はなんとか終了となったわけである。
ちなみに
ストックはまだ半分も終わっていなかったとか。
というわけで、当小説のイチャコラシーン総集編でした。
余談ですが、この投稿で累計話数が100話となりました。皆様のおかげでここまで続けてこれたこと、カンシャノキワミアッー!です。
番外編を書くにあたり、こーゆーのを読みたい!っていうリクエストを募集します!
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