バンドリ短編集   作:匿名スタッフくん

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湊さんと美竹さん好きです


湊さんと美竹さんと今日のシェイクスピア

「……湊さん、何しに来たんですか?」

 

「いえ、たまたま美竹さんを見かけたから話したくなっただけよ。隣、失礼するわね」

 

 ──都内某日、羽丘女子学園の食堂にて。

 

 Roseliaが誇る実力派ボーカリスト、湊友希那とAfterglowの一匹狼ボーカリスト、美竹蘭は初っ端から思い切りピリピリしていた。

 

 事の発端は、月に一度だけのスペシャル学食だった。それは、生徒の要望から生まれたその日限定でいつもはないバラエティ豊かなメニューが提供される夢のような日。

 

 それを生徒会長である氷川日菜が見つけ出し、学校に提案したところ見事実現。しかもなんということか生徒たちに大好評、つまりは大盛況。皆学食のメニューを求め食堂に集っていたのであった。

 

 そんなことになれば、いつもは屋上で幼馴染たちと仲良く昼食を共にしている美竹蘭も、この日だけは幼馴染たちが食堂へと行ってしまうので泣く泣く自身も来ざるをえなかったのだ。

 

 これでまたいつも通りみんなで昼食を……と思っていた蘭に思わぬアクシデントが。なんと蘭の幼馴染全員にいきなり予定が入るというある意味ミラクルな出来事が起こり幼馴染との仲良しランチが一人寂しいぼっち飯に変わってしまったのだ。

 

 そんな蘭を見かねて隣に座ってきたのが湊友希那だった。実は彼女、友希那も幼馴染の今井リサと昼食を食べるつもりがなんということかそのリサにも予定が入ってしまい、はたまた蘭と同じくぼっち飯になりかねていたのだ。

 

 友希那はひとり己のプレートを運びながら食堂の片隅で学食を見つめる蘭を見た時、全てを理解した。ああ、きっと彼女も自分と同類だ──と。

 

 それと同時にこんなアイデアが浮かんだ。自分が、彼女と昼食を共にするという、そんなアイデアが。

 

 彼女と共に食事をすれば、ボーカルとしての技術や、お互いの音楽性について語り合えたり、美竹蘭という存在に眠る友希那の周りにはない新しい刺激をもらえるかもしれない。

 

 そしてなにより、友人と食べる生徒が多い中ひとりだけぼっち飯を食べて周りに白い目で見られるという精神的苦痛を回避できる。そんな数多のメリットを考える間に、友希那の足は蘭の元へ歩みを進めていた。

 

「てか、なんであたしの隣に? 今井さんとかいなかったんですか?」

 

「リサは忙しいみたいなの。美竹さんは? あなたはいつもAfterglowの人たちと一緒にいるイメージがあるのだけど」

 

「そ、それは……あたしも似たようなものですけど!」

 

 あまりにもぎこちなさすぎる会話。きっとそれもお互いがあまりコミュニケーションを得意としない故の結果なのだろう。

 

 いつもは彼女たちの周りにひまりやリサと言ったコミュニケーション力の高い、いわゆる会話の潤滑油的存在がいるから成り立っていたものの、今はどうだろう。二人の会話を例えるなら硬い歯車が無理やり噛み合おうとしてお互いが削れてしまっている……そのようにしか見えない。

 

 この聞いている方が辛くなるようなぎこちない会話において、友希那はそんな現状を抜け出そうと新たな話題を振る。

 

「そういえば美竹さん。あなたはハンバーグにしたのね」

 

「そうですけど……」

 

「私はこのネギ生姜うどんにしたわ。ネギと生姜は喉に優しいらしいの。ボーカリストなのだから、きちんと食事にも気をつけないといけないと思って……」

 

「なんですか? それって、あたしのおかずを下に見てるってことですよね!?」

 

「ええと、美竹さん。それって……どういうことかしら?」困惑する友希那。ざわつく食堂。それを包み込むなんとも言えない空気。つまりは地獄のような時間。

 

 もともと友希那から振られた話題の時点でお互いのコミュニケーション能力のなさは痛いほど分かるのだが、問題はその返しだ。

 

 上手く会話を繋ごうとして咄嗟に出たこの珍ワードに発言者である蘭自身も今自分が何を言っているのか分からなかった。蘭はソラモヨウや幼馴染とのキズナは繋げてもこの場での会話は繋げなかったらしい。

 

「い、いや……別に何も……すみません……」

 

「そ、そう……でもハンバーグって……美味しいわよね……」

 

 もうこれ以上は無理だと悟ったのか、お互いもう何も触れようとせずに食事をし始めてしまった。でも、先ほど辛すぎる会話が効きすぎてしまったのか、もう学食の味が分からなくなってしまっている二人。

 

 穴があったら入りたい……そう思う蘭。なんでもう少し話題を考えなかったのか……と後悔する友希那。二者二様の感情は周りにいる生徒たちにもひしひしと伝わってくる。

 

「そ、そういえば! あたし、喉に効くハチミツ料理の作り方をつぐみに教えてもらったんです」

 

 この状況を打開しようと、新たな一手を繰り出したのは蘭であった。

 

 友希那の「それは本当?」という反応からして、このまま上手くいけばまともな会話ができるかもしれない。蘭は心の中で盛大につぐみに感謝した。先ほど日菜に連れられ何処かへ行ってしまったつぐみに感謝した。

 

「でも、あたし自身あんまり料理が得意じゃないから上手く分からなかったんですけど……良かったら後日つぐみにレシピを聞いてそのレシピ、湊さんに送りましょうか?」

 

「ありがとう、ぜひお願いするわ。それにしてもボーカルであるあなたのためにハチミツ料理の作り方を教えてくれるなんて、素敵な幼馴染を持っているのね、美竹さん」

 

「ただでさえ生徒会やバンド、家の手伝いで忙しいのに……つぐみはすごいですよね。でも、そういう面ではリサさんもすごいと思いますよ。いつも周りに気を配って、空気を和らげてくれるところとか」

 

 やはり、友達思いの彼女たちにとって幼馴染の話になると盛り上がるのだろうか。気づけば会話も弾み出し、互いの表情も柔らかくなっていた。

 

 少女たちの心の距離が、幼馴染の存在によって少しずつ近づいてきたその瞬間。

 

 突如、やっと和やかになってきた二人の空気をかき消すようにエレガントな音楽が食堂中に鳴り響いたのだ。

 

 誰だって予告もなしにいきなり流れ出すエレガントな音楽を耳にしたら何事かと思うだろう。固まる蘭。固まる友希那。ピキリと空気が凍る音がした。

 

『ごきげんよう子猫ちゃん達。美味しくランチを食べているかい? お待ちかねの儚い時間がやってきたよ』

 

 エレガントな音楽に次ぐようにスピーカーから流れるのは彼女たちと同じ羽丘女子学園に通う、瀬田薫の声。

 

 今自身のコーナーにより、二人の少女の会話が見事に凍りついてしまっていることなど、放送室にいる瀬田薫が知る由もなく。そのまま彼女は言葉を紡ぐ。

 

『瀬田薫の今日のシェイクスピア。子猫ちゃん達に届ける儚いひと時……この放送に耳を傾けてくれると嬉しいね』

 

 今会話をしたらもっと空気が凍ってしまう……それに感づき、悟りを開いた蘭と友希那は静かに耳を傾ける。いや、むしろ耳を傾けるざるを得ない、現実から逃げるという選択肢しかなかったと言った方がいいか。

 

 その後、瀬田薫による放送は続き……まあ、その内容についてはとにかく虚無であった。もし二人が彼女のファンであるなら今日も最高だったね、かっこよかったね、と語り合えたかもしれないがあいにく蘭も友希那もそういう世界とは程遠く、ただ綺麗に食べ切られた学食の皿を見つめることしかできなかった。

 

「空って……儚いですね……」

 

「ええ、とても儚いわね……」

 

 先ほどの生気に溢れた笑顔は何処へやら。死んだような目で空の感想を語らい合うボーカリストたち。

 

 ──どうやら、二人がまともに会話を交わせるようになるまでにはまだ時間がかかりそうである。

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