バンドリ短編集 作:匿名スタッフくん
「だーかーら! 僕はやらない! 小説を投稿なんてしない!」
目の前で僕のスマホを覗き込んでくる赤の悪魔から画面に映る小説投稿サイトのマイページを隠すように、僕はスマホを伏せる。
始まりは、放課後のことだった。迷っていたら、それをクラスメイトである宇田川巴に見つかった、それだけの話。よりによってそういうのに一番理解がなさそうなこいつに見つかるなんて、僕は本当についていない。
「というか、なんで関係ないアンタが僕の問題に口出ししてくるわけ!? 僕の小説と宇田川、何も関係ないじゃん!」
「いや〜、暁人がかれこれ一時間ここで悩んでるのが気になってさ! アタシは小説? とかよくわかんないけど……クラスメイトの挑戦なら、誰だって応援したくなるだろ?」
「ならない! それからカジュアルに名前呼びするな!」
しかもこの宇田川巴という女、理解がない上に僕の気持ちなんて一切考慮せずに応援だのなんだのとほざいてくる。しかも、ケロッとした感じで!
僕が今どれだけ辱めを受けているかもわからないようなその表情、ムカつく!
「アタシは暁人の小説、読んでみたいけどな。むしろなんでそんなに気にするんだ?」
「……宇田川にはわかんねーよ。駄文書きの気持ちなんて」
僕がそう言うと、宇田川はそうかなぁ、と不思議そうな顔をする。その顔がなんて言うか、理解のない陽キャというか。
それに、僕は知っている。こういう人間は、無責任に背中を押すだけ押して、僕が大恥をかいたらくるりと手のひらを返して僕のことをバカにするんだって。
宇田川だって、きっとそうだ。アタシは応援してるぜ、なんて言いながら、内心は僕のことをバカにしている。……だからこそ。
「面白いとか面白くないとか、暁人が決めることじゃないとアタシは思うぞ」
「それに、やってみなきゃわかんないだろ? やる前から諦めたらさ、きっと後悔するよ」
「アタシは暁人の夢、応援してるよ」
その無責任な言葉が、どうしても許せなかった。
「綺麗事ばっか言うなよ! どーせ宇田川は知らないよ、踏み出すことの怖さなんて! 僕はそれで何度も痛い目を見てる! 何も知らないくせに、僕の気持ちを勝手に語るな!」
わかってる、わかってるよ。僕の小説なんて、所詮くだらない承認欲求とくだらない自己顕示欲の産物だ。伝えたいメッセージも届けたい思いもなんにもない、空っぽな何か。
そんな時。宇田川は、そんな僕の背中をぽん、と押してニカッと笑うんだ。
「そうだな。アタシは、暁人の気持ちがわかんないよ」
「わかんないけどさ、暁人が本当の気持ちに嘘をついてる気がしてさ」
「それって、もったいないと思うんだ。なんか暁人って蘭みたいな意地の張り方するし、ほっとけないんだよ」
なんだよ、天性の姉御肌かよ。こんなたかがクラスメイトをほっとけないなんて、本当にいい性格してるな、宇田川って。
……本当の気持ち、か。
「アタシはさ、信じてるよ。暁人の小説が、いろんな人に読んでもらえるって!」
信じてる、って本当に無責任な言葉だ。その言葉だけで、こんなにも元気が出るのだから。
こうなったら、しょうがない。宇田川がこのボタンを押させたのだから、これくらい言ったって許されるだろう。
「責任、取れよな」
僕は投稿完了! と書かれたスマホ画面を宇田川の前に突き出す。今宇田川の目を見たらどうにかなりそうだから、目は逸らしてるけど。
そう言ったら、宇田川は急に肩を組んできてもちろんだ! とか言いながら肩を揺らしてくる。ああもう、これだから陽キャは!
でも、こう言うのも悪くはない、よな。揺れる視界の中、教室の窓をふと見ると、そこには綺麗な夕焼けが映っていた。