ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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まずはお気に入り登録者数九百人突破、本当にありがとうございます。章の初めから登録者二倍以上になって、もう乾いた笑いしか出てきません。

というわけでルビコン旅行に行ってきます(おいこら)


第十三話

まさかここまでとは思ってなかったと、後にミハイは必死の形相で自己弁護する。

 

大前提として、ミハイはその気になればゼートゥーアとタメを張れる大酒飲みだ。多少強かろうがグイグイ行くし、ある程度の度数以下は水扱い。

そんな彼がそれと知らずに下戸同然のアンネリーゼに勧めたのは、本人感覚では『程よく』アルコールが感じられるらしい、度数35度を誇る合州国直輸入のバーボンを贅沢に使用したオールド・ファッションドであった。

 

何かと適当な理由をつけて行われるミハイ主催の飲み会に参加するメンツが、いつもほとんど変わらない理由の八割方がこれである。主催がとんでもない酒豪なせいで、並大抵の酒飲みでは彼のペースについて行けないのだ。なんかやたらフランクとは言え上司は上司、勧められた酒を断るのは少々厳しいため、仕方なく飲む。そうすると常識がぶっ壊れているミハイはさらに勧めてくるため、無限ループに突入した挙句たいていの場合潰れるまで飲まされる。地獄への道は善意で舗装されているとはこのことだろう。

 

ではとびきりの下戸であるアンネリーゼに、飲みやすいと称して高アルコール度数のカクテルを与えればどうなるか?答えは明白である

 

飲みやすいというミハイの言葉を馬鹿正直に受け取り、オールド・ファッションドを一気飲みした彼女は、その後十分と経たないうちに、ヘラヘラといつもの貴族調子からは考えられないような下品な声で笑いながら舟を漕ぎ始め、やがて慌てて受け止めたミハイの肩に寄りかかる様にしてすやすやと眠ってしまった。

 

しばらくミハイはそのままチビチビとグラスを傾けていたが、二人が座っているのは背もたれの無いスツールだ。耳元で可愛らしい寝息を立てる彼女がいつバランスを崩すかに気を回さねばならず、酒の味なんてわかったものじゃない。渋々ミハイはカウンター席から少し後ろのソファ席に移ることにした。

 

「起きてください、フロイライン。ソファ席に移りますから」

「んぅ…分かっら。…あれ、お祖父様がふたりいる…?」

「重症だな、こりゃ」

 

ぼんやりとした瞳をのろのろと擦りながら彼女は立ちあがろうとするが、完全にアルコールにやられているらしく、呂律も頭も足も回っていない。

やむなくミハイはアンネリーゼの脇に手を回し、彼女の左手を自分の肩に引っ掛かると、どっこいせと年寄り臭い掛け声と共に立ち上がる。自分より一回り小さい彼女の身体は、驚くほど軽かった。

のそのそと進んでソファに腰掛け、寝ぼけ眼のアンネリーゼをナチュラルに隣に座らせたミハイは、空になったグラスをカウンターに居座っているバーテンダーに掲げてお代わりを頼んだ。

 

三年前の船上のように、大分夜も更けてきたバーには年若いバーテンダーの振るうシェイカーの他には誰一人としてソファ席に目を向ける者はいない。…少なくとも店内には。

数百メートル先の窓で野次馬が大騒ぎしていることなどつゆ知らず、いつの間にやら再び寝息を立て始めたアンネリーゼの頭を右肩に乗せたまま、ミハイは再び満たされたグラスを傾け続ける。煌々と電灯が灯る官庁街の風景を、ここ最近休む間のなかったミハイはゆったりと眺めていた。

 

「んゅ…ここはどこ…?」

「おはようございます、フロイライン」

 

十数分もすると、再びアンネリーゼが目を覚ました。が、相変わらずの寝ぼけ眼で、アルコールが浸透してきたのか先ほどよりさらに瞳が蕩けており、犯罪臭が凄まじい。その上、チリチリと炭火と化してなお燃え続ける暖炉から離れたテーブル席は帝国出身のお嬢様には少し肌寒いらしく、だんだん肌の密着する面積が増えている。

知った事かとばかりに胸元から取り出した葉巻を吹かせるミハイの主観はともかく、端から見れば二人の様子は仲の良いカップルのそれ。ぼんやりと外を眺める彼に、窓の外とカウンターからの視線が突き刺さる。

 

「…けほっ、けほ。御祖父様、また吸ってるの?タバコは控えてと言ったでしょ?」

「え?は?…え?」

「惚けても無駄、私の鼻は誤魔化せないよ。ほら早く仕舞う仕舞う!」

 

どうもゼートゥーア大将とミハイのタバコの趣味は似通っているらしい。口元からもぎ取られ、まだしばらく吸えたであろう葉巻が灰皿に押しつけられるのを、彼は呆然とした目で見ていた。

おもむろに立ち上がり、ミハイの反対側のソファにだらりとかけたアンネリーゼは、赤らんだ顔に不満そうな表情を貼り付け、アルコールの力で剥がれた鉄仮面の下の本性を──帝国貴族トップクラスのワガママお嬢様な面を曝け出した。

 

「なんか寒い。お祖父様、毛布とか持ってない?無いなら、温かい紅茶を淹れて」

「あー、これは…そう言うことか。チクショウ、恨むぞゼートゥーア(父)とゼートゥーア(祖父)閣下…!」

「何してるの!私は寒いって言ってるでしょ!上着でもなんでもいいから、は〜や〜く〜!」

「俺はドラえもんじゃないし、この上着脱いだら俺が寒い!あと俺はお前の祖父様じゃない!」

「ぬ〜、訳の分からないこと言って…こうなったら、えいっ!」

「あっ、コラ思い通りにならんからって脱がすな!絵面が最悪だぞ!」

 

側から見れば美少女に襲い掛かられているように見える状況は、しかしその実酒乱の気がある酔っ払った部下に絡まれている上司のそれに近い。

その後も彼女のワガママは止まるところを知らず、やれ椅子が硬いだの上着が何となく臭う*1だの自邸に帰って本が読みたいだのと言いたい放題。もはや敬語を使う余裕すらなくなり、付き合いきれなくなったミハイが最終手段としてテーブルの上に置いてあったスコッチを彼女に飲ませ、再びアルコールにやられてダウンした彼女をホテルマンが部屋に送り届けるまで、彼女は散々ミハイを振り回した。どさくさ紛れに奪い取ったミハイの上着を羽織り、何事もなかったかのようにスヤスヤと眠るアンネリーゼが自室にドナドナされると、レストランにはハイライトの消えた瞳で虚空を見つめるミハイと、憐憫の目で彼に自分のジャケットを貸すバーテンダーだけが残された。

 

「…すまん、少し寝かせてもらってもいいか?」

「ご自由にどうぞ。…お疲れ様です、閣下」

 

最後の一杯にと、サービスで出されたコニャックを流し込んだミハイは、ソファ席に疲れた身体を横たえて眠りに着いた。

 

 

 

 

 

彼ら彼女らの上司がソファに沈む少し前、宮廷軍事局の南翼には追加で呼ばれた狙撃兵部隊や双眼鏡持参の連中が詰めかけ、その後ろで秘蔵のボトルを引っ張り出した参謀達によるどんちゃん騒ぎが繰り広げられていた。

 

「とうとう閣下にも春が来たか…」

「本当にやることヤッたんですかね?あの閣下ですよ?」

「アンネリーゼ嬢のような美女に酒の席で押し倒されたんだ、もうほぼ確定だろ!」

 

男女関係なく下世話な話題で盛り上がる将校達は、翌日どんな顔でミハイが出勤してくるかでギャンブルに興じる始末。

ちなみにオッズ最大は腰痛を患う、ついで枯れ果てて帰ってくる、そして大穴が何も無かったである。

 

実際のところ盛大な勘違いであるが、実際に内情を覗き込み、緋という言葉を窓から投げ捨てたような会話内容を聞いていなければ無理もない。なにせ、酒の席で男が女に押し倒されたのである。狙撃兵たちは、アンネリーゼがカウンター席でカクテルを一気飲みするところまでばっちりとスコープに捉えていた。酒カス将校らがカクテルの種類を正確に見抜き、帝国社交界の噂話になぜか精通していた将軍がアンネリーゼが酒にすこぶる弱いことを思い出し、これはもしやと思ったところにこの惨状である。一周回って、盛り上がらないほうがおかしいのだ。

 

が、しかし彼らの期待はすぐに裏切られることになる。

 

「…どうやら、賭けは私の勝ちですね。アンネリーゼ様がホテルマンに抱えられて部屋に向かってますよ。閣下は…ソファで高鼾ですな、こりや」

「んなっ…は?おいおい嘘だろ!?閣下は本当に男なのか?」

 

大多数の人間にとって運の悪いことに、ミハイの理性は強力だった。それに加えて、メンタル面に大きなダメージを叩き込まれたことで狙撃スコープ越しでもわかるほどの傷心オーラを纏ったミハイは、彼らをして何があったのかを察させるに十分だった。

 

閣下は酔っ払いの相手でシンプルにお疲れだという情報は瞬く間に参謀連の間で共有され、翌日に毎度毎度酒の席で酔っ払ってはミハイに迷惑をかけている連中を筆頭に、相当に態度が軟化したとか、しなかったとか。大量の賭け金を巻き上げ、小躍りしながら酒保に駆け出していく連中を恨めしげに眺めながら、参謀たちの夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

 

「…よ。…羊よ。哀れなる我が子羊よ」

 

謎の髭面爺が、軍服姿のミハイに話しかける夢を、彼は見た。

 

「ほう、私を爺呼ばわりするか。度胸のあることだ」

 

バレていた。いったい何なんだこいつは、とミハイは思った。

 

「信心のかけらもないようだな…いっそすがすがしいほどだ。気に入ったぞ、貴様」

 

前世の記憶と経験から察するに、おそらく神か何かなのだろう。しかし、その現実を受けいれるには、目の前の老爺の格好はあまりにもフランクだった。

 

「貴様らの想像するような神々しい服装などしていては、委縮させてしまうからな。こちらの方が話しやすかろう」

 

そういって、老爺はワイシャツの上から着ていた毛糸のセーターをよっこらせと脱ぎ、右手に握る黒檀のステッキに掛けた。

 

老爺いわく、前世では秘めたる持病が暴発して早逝するはずだったミハイがこの世界にやってきたそもそもの理由は、彼の意趣返しのためだとか。信心を増やすための努力もろくにせず、のんびりと箱庭感覚で世界を眺めては日がな一日昼寝にいそしんでいたところ、唐突に世界の管轄権を奪われ、今はほろんだ世界の後始末を行う役割を担っているそうだ。

 

「連中は人類の殺し合いによって信心を増やすという腹らしいがな、私にとってはクソ喰らえだ。大体、霞を食って生きていけるわれらが、なぜそこまで熱心に手を出さねばならんのだ」

 

他の神なぞ知ったことではないが、ずいぶんと話の通じるタイプだなぁとミハイは勝手に思った。

 

「そいつは重畳。それで、私が貴様をこの世界に放り込んだ目的だが…そうさな、必要とあらばいくら殺してもかまわん。貴様の世界でいうところの…世界大戦だったかな?そいつを阻止してもらいたい」

 

暴力をもって事に当たる平和の使者というわけだ。彼曰く、戦争を可能な限り短く済ませるためなら、何をやってもいいらしい。帝国と組んで協商を踏みつぶそうが、協商側について帝国をフルリンチにしようが、戦争が短く済めば問題ないと彼は言い切った。

 

「もともと私がお遊び程度に作り上げた世界だ。いくらでも似たようなものは作れるし、なんだったら貴様をそこに放り込んでやってもかまわん。だがな、私は連中の、自らの目的のためならば何をしてもかまわないというその姿勢が気に食わん。奴らが散々罰してきた連中と、それでは全く同じではないか!」

 

「なぜこのタイミングで俺の枕元に?」

「簡単な話だ。そろそろ連中の遣わした使徒とやらが、この世界に降りてくる。前世での年頃は貴様と同じころだったかな。…ああなに、別にぶち殺せというのではない。なんでも、連中に妙な言葉尻の捉えられ方をされて、性転換されたうえで子供になって転生させられたのだと。別に私も坊主憎けりゃ袈裟まで憎いというわけではないのだ」

 

坊主のさらに上の人間が言うのはいかがなものかという慣用句とともに、見かけたら仲良くしてやってくれという老爺の頼みを、ミハイは快く引き受けた。

 

「む、そろそろ貴様が目覚める頃だな。それでは、機会があればまた会おうぞ」

「ちょっと待ってくれ、どうやってその精神年齢おっさんのクソガキを見つければいいんだ?」

「簡単な話だ。そいつには魔術の才覚が備わっている。戦争になれば、勝手に有名になるだろう」

 

まるで戦争が既定の事実であるかのような言葉に見送られ、ミハイは痛めた首をさすりながら目を覚ましたのだった。

 

 

「帰るか、職場へ」

 

*1
かいしん の いちげき!




ミハイの夢枕に立った爺様は存在Xとは別人ですのであしからず。それと、次回はそこそこ時間が飛ぶため、アンネリーゼ様の出番は作者の脳内で暴れださない限りしばらくないと思います。やっと章タイトルの回収ができる…
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