ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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今回突貫工事なので少し文章が荒めなのと、やりたいこと詰め込もうとしたらやたら長くなってしまいました。何卒ご容赦を…

水上風月様、桶の桃ジュース様、誤字報告ありがとうございます


軍備拡張
第十四話


酒の席で全部バレたことによってヤケクソ気味になり、開き直ってミハイを引き連れダキアの西半分を散々暴れ回ったアンネリーゼが、年を越えた一月半ばにようやく帰国したのももう三年半前。月日が流れるのは早いもんだと、今年で二十七歳になった彼は思う。そして、彼女は果たして本当に中立維持のメッセージを届けてくれたのかとも。

 

統一暦1918年の秋、もうすっかりこなれて小癪にもクラッシュキャップを見事に着こなすミハイは、制帽を手にパタパタと顔を扇ぎながら、今年もやってきた一年ぶり三回目の新規師団の結成式典に立ち会っていた。

 

この三年半の間、正式に歩兵装備の制定を終えたダキア軍は、急速にその規模を拡大させていた。

 

第六歩兵師団ただ一つだった新式軍制の常設歩兵師団、すなわち志願兵による部隊は、今や十二個師団にまで拡張されている。装甲連隊と魔導師団も、生産力を鑑みて規模をかなり限定してはいるものの発足できた。

1913年に端を発する国家動員法は既に第三次が発布され、二十五歳から四十歳までの男性には、三年間の兵役が昨年から義務付けられている。帝国に範を取り、魔導部隊は男女平等だ。

 

ここまでの急速拡大の裏には、解散された第六師団と第一魔導連隊の影がある。彼ら全員を無理やり士官クラスに昇格させたミハイは、総勢一万五千人の士官をばらけさせ、各師団の中核として送り込んだのだ。

イスパニア内戦やルーシー内戦に義勇兵として小分けに送り込まれた彼らの実力は折り紙つきであり、派遣先諸国の人間からも、揃って第一線級だと太鼓判を押されていた。その精鋭部隊を中核としたことで、ダキア軍は短期間でそこそこの部隊の大量養成に成功したのだった。

 

新式銃は、数多くの失敗作を経てようやく完成したWz.1916半自動小銃と、オーウェン・ガンことオーウェン短機関銃が採用された。ただし、それらは今年の春にようやく量産体制が整ったばかりで生産が追いついておらず、大半の兵士は未だVz.13ボルトアクションライフルを握っている。そのため、今は納入された在庫をローテーションさせて順繰りに射撃訓練を進めている最中だ。なんとも貧乏くさい話だが、いざ戦時となりWz.1916を手渡された時に、マガジンリロードの概念すら覚束ないようでは話にならないのだ。

 

とは言え、まだ慌てるような時間でもない。それに、想定外のハプニングも起こっている。兵士が各個に携行するWz.1916が七千丁ほどの納入に留まるのに対し、分隊支援火器と目していたオーウェン・ガンは既に一万丁が納入されている。従来のライフルよりかなり多くのパーツの製造が要求されるセミオートライフルに比べ、元設計からしてティーンエージャーでも作れてしまうオーウェン・ガンの生産力は圧倒的であった。*1

しかし、だからと言ってそれを主力にしてしまえば、今度は弾薬の生産体制が崩壊する。元々モーゼル弾を主力と定めている関係上、9mm弾の生産はモーゼル弾の3/4程度に抑えられているのだが、ワンマガジン十発のWz.1916に対し、オーウェン短機関銃では一度に三十発のパラペラム弾がぽんぽん消えていく。合州国ほどの化け物でもない限り、弾薬の供給が追い付かないのだ。

 

ならばモーゼル弾が使えりゃいいんだろうとばかりに、血迷った連中がモーゼル弾仕様のオーウェン・ガンを勝手に設計する一幕も存在したが、結局はオーウェン・ガンに割り当てられていた人員と工場用地の約半分をWz.1916に割り当てることで決着がついた。それでも完全週休二日制で月産千七百丁を叩き出し、大量の在庫の始末で平時の軍を悩ませることになるのだが……。なお、勝手に設計された銃はオーウェン・ガンの基本構造はそのままに銃身を延長、プレス加工の補強材と木製ストックを備えたオーウェン=スヴロジョブカ・マシンカービンなる代物だった。この時代を先取りしたアサルトライフルもどきは、1926年になってマガジンを下から差し込む方式にさせた上で正式採用されることになる。

 

そんな裏事情を頭の片隅に追いやり、ミハイは師団長訓示を聞き流しながら、今年の師団の出来を眺めていた。

 

イスパニア、ルーシー両内戦を経験済みである第一世代、すなわち旧第六歩兵師団と新設第一~第三歩兵師団と比べれば幾分見劣りするが、新規編制にしては上々であるとアンソン中佐*2は太鼓判を押してくれた。ちなみに、ダキア軍魔導教官の片割れにして連合王国海兵魔導中佐たるドレイクは現在不在だ。教官職の任期延長交渉と、本人曰く降って湧いたと言う見合い話のために、ロンディニウムで皮肉と嫌味と毒舌が飛び交う優雅なティータイム中である。飯も待遇も土地の雰囲気も本国より気に入ったドレイクと、彼を本国艦隊勤務に戻したい海兵魔導部隊司令部の水面下での鍔迫り合いはかなり激しいものになっているらしい。

 

糊を効かせた礼装に身を包み、緊張の隠せない面持ちで敬礼に対して答礼を返す彼らを満足げに見つめていたミハイは、胸元から取り出した懐中時計をパカリと開くと、何事かを思い出したような顔で立ち上がり、連合王国から個人で購入した新型演算宝珠を手にして一人西方へと飛び立った。

空間を歪ませる程の強力な防御膜をさも当然のように展開する最高司令官の姿に、師団長以下三個師団四万五千人の将兵達は今更ながら呆れさせられる。ベテランでもああはならんのだがなぁ…と呟くアンソンに全力で同意しつつ、彼らは地面スレスレの低空飛行を楽しむミハイが地平線の彼方に消えるまで、その姿を敬礼で見送った。

 

「そう言えば、閣下に護衛はつかないのですか?」

「閣下の航続距離に追いつける魔導師がいるとでも?それに、あの防御膜に巻き込まれたらタダじゃすみませんよ。飛行術式を乱されて、漏れなく地面のシミになってしまいます」

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ諸君、元気でやっているかな?試作品が完成したと聞いているが」

「これはこれは、非常識な魔導反応が接近してきたと思えば、やはり閣下でしたか。ささ、こちらへ。まぁとりあえずご覧下さい」

 

飛行時間にしておよそ一時間、キッシナ市の閲兵場から北北西に位置する技術開発部門のバーティー支部に、ミハイは勢いよく降り立った。他の技研と比べてミハイの滞在時間が圧倒的に多いこの研究所で、ミハイはとある銃の開発を行っている。

 

厳重なロックが掛けられた鉄扉を抜け、曲がりくねった迷宮のような通路にカツコツと革靴の音を響かせながら、案内役の白衣姿の男とミハイの二人がたどり着いたのは地下保管庫。二重防護のかけられたこの部屋は、ダキア軍小火器開発の最先端だ。

カコカコと小気味良い音を立てる真っ白なボタンを操作し、2人がかりで扉を開いた先には、百丁を超える多種多様な銃器が専用の台座の上に鎮座していた。

 

「それで…先週の失敗作はどれだったかな?」

「K023ならこちらに。重機関銃としての採用も検討しましたが、いかんせん性能が中途半端でして。おそらく、このままここに眠ることになるでしょうな」

 

白衣姿の男が名残惜しげに眺めるのは、モーゼル弾を使用する40口径の大型機関銃。ブローニング機関銃によく似た機関部を持つが、中身はローラーロック式を採用するまったくの別物だ。汎用機関銃としての採用を目指し、軽量化と威力のトレードオフを試みたものの、最終的に失敗した一丁である。

 

「50口径化は試みたか?」

「もちろんですとも。それがこちら、k113試作重機関銃です。ローラーロックをそのままに、銃身長を伸ばした上で機関部を大型化させ、威力も大きく増加しています。ですが…その…」

「ベローニングM1913(M1919)を生産した方が早いな、これは」

「そういうことです」

 

二人そろって溜息をつきながら、それでも足は止まらない。やがて、彼らは倉庫の最奥部に鎮座する、なぜかライトアップがなされた一丁の機関銃の前にたどり着いた。

他とは異なり、マホガニー製の台座に据え付けられたそれは、全長1.2メートル強、銃身長約60センチほどの機関銃だった。

列強諸国の軽機関銃とさほど変わらない全長ながら、機関部の形状は大きく異なる。長方形に近い機関部には、他国のそれとは異なり横向きの開口部が存在する。ボルト閉鎖機構はBARの物を踏襲しているが、機関部そのものは明らかに量産性を意識したプレス加工製だ。

機関部の前方には親指が程よくフィットするサイズの丸ボタンが、銃身には真横に伸びたレバーが取り付けられており、銃身交換を非常に容易にしている。ストックこそ木製だが、明らかにマガジン用ではない開口部といい試作とは思えないほどに洗練された形状のピストルグリップといい、昨今の機関銃とは大きく異なる形状である。

 

はっきり言おう。ミハイは、二十年ほど早くFN MAGに匹敵する汎用機関銃を完成させたのだ。

 

「こちらが閣下のアドバイスをベースに開発された、7.92×57mmモーゼル弾を使用するK202型試作機関銃です。重量を十二キロ以内に抑え、高い銃身の交換速度とかなりの信頼性を達成しています。おそらく…」

 

そこで技術屋は言葉を切り、ポケットから紙切れを取り出した。

 

「『おそらく、現状の試作品でも実戦使用に耐えうるでしょう。合州国の重機関銃よりも軽量ながら、その性能は既存の歩兵火器とは一線を画しています』」

 

開発にかかわったダキア陸軍旧第六師団将校らのコメントを聞いたミハイは、満足げにうなずきながら目の前の汎用機関銃を眺めていた。

生産単価は既存のWz.1916小銃の2.5倍に上るが、その性能は圧倒的だ。比較的簡単に前線に展開できる重量と、重機関銃に比肩する射撃能力と、西暦世界の歴史が証明している高い信頼性、そして数年前ならいざ知らず、現在のダキアが有する高い工作精度とそこそこの生産力をもってすれば、主力機関銃としての採用も夢ではない。ミハイ自身、この機関銃を量産、配備するために小銃の生産力の割り当てをやや過剰気味にしていた節すらある。

 

「量産態勢に移る目処は?」

「再来年の後半を。製造機械まで完全自国生産ともなると、どうしても時間が掛かります」

 

機関銃一丁に何をそんなにと思ってはいけない。現在ダキアの工業生産能力は第三次国家動員法の発令によって再度の増加を始めたばかりであり、ゲオルゲ中戦車と二種類の小銃、および各種歩兵装具の生産でカツカツだ。ただでさえ生産コストの高いセミオートライフルの倍以上のコストの兵器など生産出来たものではない。なんなれば、生産の優先順位では亡命ルーシー人技術者とダキア軍技研が共同開発している各種口径の野戦砲(と言っても10.5cmと15cmしかないが)の方が上に位置付けられているのだ。

 

鉄の採れないダキアでは、銃一丁作るだけでも大ごとだ。財力に物を合わせて輸入した蒸気機関車に牽引される国産貨車満載の帝国製鉄鋼は、しかしトラックの運用が始まったばかりのダキアでは工場に運ぶだけで一苦労。しかもその工場は銃器製造の一歩手前、銃器製造機械の製造工場であることが多い。人はいる。素材もある。なんならカネは腐るほどある。しかし、機密のヴェールに覆い隠された銃器を作るための製造機械が足りないのが現状だった。それに、モーゼル弾の供給も怪しくなってしまう。

 

「そういえば、同僚から閣下への贈り物を預かっております。なんでも、腕によりをかけた特注品だとか。大切にお使いいただければ幸いです」

 

そういってミハイに差し出されたのは、ほの暗い地下室の裸電球の明かりを受けてボンヤリと輝く、二丁の銃だった。

 

まずミハイが受け取ったのは機関銃。折りたたみ式の金属ストックはオーウェン・ガンと同様だが、逆に言えばそれ以外に似通ったパーツが存在しない。シンプルブローバック式の機関部は一点もの故かプレス加工を使用せずに製造されており、形状は後ろから見ると八角形。サイズはだいたい五十センチほどだった。

銃身はK202機関銃と同様の機構で交換可能になっており、その長さはおよそ十五センチほど。既存のオーウェン・ガンと比較しても、かなりコンパクトにまとまっている

 

「閣下のスケッチを元に、こちらのできる範囲で再現した物です。うちの連中がテストしましたが、反動はかなり抑えられています。閣下でも扱えるでしょう」

 

全金属製にも関わらず重量はかなり抑えめで、文官であるミハイでも振り回されることはない。地下二階の射撃場に行き、実弾を装填して射撃してみると、確かにフォアグリップとストック形状のおかげで、フルオートでもなんとか抑え込める程度の反動で収まっている。

 

中遠距離用の長銃身に変えて何度か射撃したところで、今度はもう一丁の武骨に黒く輝く半自動拳銃を手に取った。

全長約二十五センチと、拳銃としてはかなり大きい部類にあるそれは、見た目相応に重量もある。しかし、前後でバランスがうまく取れているため、書類仕事で鍛え抜かれたミハイの手なら、そこまで保持に苦労はしなかった。

手によく馴染むグリップの後ろにはアタッチメントを装着するためのアダプター的なパーツが存在し、ストックを取り付けられるようになっていた。

 

十二発装填の縦長マガジンを装填し、ガチャリとスライドを引っ張る。狙いを定めて引き金を引けば、かなり強い反動が腕に伝わってきた。

 

「随分とクセが強いな、こっちは」

「そのためのショルダーストックてす。いかがでしたか、我が技研の傑作は」

 

ミハイは両方とも大変に気に入った旨を伝え、長いこと空だった腰のホルスターに拳銃をしまい、短機関銃にベルトを装着して肩に引っ掛ける。そして演算宝珠に魔力を込めながら再び曲がりくねった迷宮を抜け、階段を登って地上に出た。

 

「コイツを使う機会がないことを願っているよ」

「同意いたします。それでは、また」

 

軽い挨拶と共にミハイは飛び立ち、それを眺めていた白衣姿の男達も、やがて三々五々に散っていった。

*1
史実とは異なり、製造の容易な金属フレームのストックを採用していることも大きい

*2
1917年六月付で昇進




短機関銃はピカティニー・レールと上部サイト用のレールを撤去してパーツを一部木製にしたMP5、拳銃はシンプルに一回り大きくなったM1911です。あと地味にダキアがローラーロック式の特許を独占したことで、帝国は将来的なMG42の開発を封印されています
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