ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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陸、空と来て、今度は海軍回です。一章の地味な伏線を回収しているので、よければ探してみてください(ダイマ)


第十七話

ここはトルキア共和国の首都コンスタンツァヴール対岸のエズメト湾に存在する、トルキア海軍最大のエズメト軍港。常日頃は帝国製の旧型巡洋戦艦と少数の準主力艦が舳先を連ねる、規模に比してスッカスカな港に、今日はトルキアのみならず、ダキアや南ルメリアからも数万人を数えるギャラリーが集まっていた。

 

『マイクチェック、ワン・ツー…紳士淑女の皆さん、長らくお待たせ致しました。

 

これより、記念すべき1922年度の黒海条約機構海軍第一回観艦式を執り行います!皆様、是非とも拍手で艦隊をお迎えください!』

 

万感の思いに浸り、今にも人目を憚らず泣き出しそうなダキア海軍長官の声とともに、湾外から水平線の彼方まで届かんばかりの凄まじい汽笛が響く。単縦陣を組んだ大艦隊が黒海側からゆっくりとエズメト湾内に現れ、戦艦を中心として定規で測ったかのように等間隔に並んだ輪形陣を組み上げた。

 

どよめきと礼砲で迎えられた艦隊を前に、黒海条約機構軍の首脳陣は高揚した雰囲気のまま、バシバシお互いの肩を叩きながら笑い合っていた。

 

 

 

時は、統一歴1918年に遡る。

 

「今、なんと?」

 

秋津洲海軍艦政本部の応接室にて、予期せぬ客人の来訪に悪態を吐きかけていた艦政本部長藤岡久典中将は、ダキア大公国軍最高責任者たるミハイの顔を、俄には信じ難いとばかりに顎が落ちそうな程に口をあんぐりと開けて見つめていた。

 

ですから先ほど言った通りですと、さも当然のようにミハイは繰り返す

 

「貴国の保有する海軍艦艇の一部を買い取らせていただくとともに、大規模な艦艇の発注を行いたい。要求の明細はこちらに」

 

ススス、と差し出された発注書を握る久典中将の手は、興奮と驚愕でワナワナと震え、握りしめた紙に深い皺を作った。

 

『既存艦の買取

・長門型戦艦一隻

・天城型巡洋戦艦一隻

・金剛型巡洋戦艦一隻

・妙高型重巡洋艦一隻

・古鷹型重巡洋艦一隻

・球磨型軽巡洋艦一隻

・峯風型、吹雪型駆逐艦より二隻づつ

 

建造発注

・紀伊型*1戦艦一隻

・最上型()巡洋艦二隻

・川内型、長良型軽巡洋艦それぞれ二隻

・初春型駆逐艦三隻

 

以下、オプション要望

・秋津洲海軍造船技術者のダキアへの派遣

・ダキア海軍建設部門の技術者らの秋津洲海軍各工廠への派遣』

 

「船舶の買取・発注は一律で建造費プラス改装費用の二割増しでお支払いします。回航に関しては、スェーズまで回していただければ結構です。回航にかかる燃料費と人員の帰国もこちらで請け負いましょう。どうです?少なくとも、悪い話じゃないでしょう」

 

自国の艦艇を売り払うような話を、誇り高き秋津洲海軍が諸手を挙げて歓迎する現状に至った理由を説明するには、時を秋津洲戦役直後まで巻き戻す必要がある。

秋津洲ならぬ史実の大日本帝国が日露戦争に費やした戦費は二十億円余りだが、これは第一次世界大戦以前のレベルの兵器で戦争をしていた頃の話だ。史実より時代が進み、戦間期に相当する兵器が使用された秋津洲戦役において、秋津洲政府が費やした戦費は驚くなかれ四十億秋津洲円に上る。この想像を絶する額を外債で乗り切ったツケは、膨大な財政赤字となって秋津洲に降りかかっていた。

 

当然軍事費は削りに削られ、陸軍は大規模な軍縮を断行せざるを得なかった。そこに、死体蹴りのごとく発生した首都直下地震が追い打ちをかける。もはやどれほどの強硬派将校であろうと大規模軍縮に抵抗しうる状況にはなく、秋津洲の誇りたる聯合艦隊の命脈も風前の灯火となった。

 

しかし、秋津洲海軍の主力級艦艇を購入できるような国は既に自前の艦隊を揃えているか、黄禍論が猛威を振るっていて取り合ってもらえない。かと言って、水上の鉄塊は処分するにも莫大な金がかかってしまう。もはや海軍内では誰の首が飛ぶか、何か安上がりに船を処分出来る手はないかで持ち切りになっていた。

 

そこに降って湧いたような今回のオファーである。おそらく五億秋津洲円規模になるであろう打診は、秋津洲にとってはまるで天の救いのようであった。

 

迅速に秋津洲中央政府に回された案件は、海軍側が一も二もなく首を縦に振ったことであっという間に受諾され、ダキア側は秋津洲財務省側の要求通りに全額耳を揃えてダキアレウで支払った。普段は軍事関連の出費に良い顔をしない財務担当者がホクホク顔で帰って行ったと言えば、どれだけ国際的信用の高い外貨を秋津洲が切望していたかが分かるだろう。

 

およそ二年ぶりの巨大艦建造は、たとえそれが他国のオファーに応えた形であっても、横須賀や呉、佐世保といった大規模な海軍工廠に活気を呼び戻した。そして、震災発生以来沈んでいた帝都にとっても復興の為の心の支えとなった。

 

自国の復興を優先してほしいというダキア側からの希望もあって、特に戦艦や重巡の建造はゆっくりと進んだ。平行して、スェーズへと回航される艦隊の整備や回航のための乗員の募集とその訓練も開始された。いつしかダキアへの輸出艦艇建造は、復興と並んで国家を挙げた事業の一つとなり、帝都に溢れた百数十万の失業者たちは我先にと国家事業に群がってゆく。

 

一方ミハイは、秋津洲に話を持ちかけたその足でトルキアと南ルメリアを訪れた。彼は、この大艦隊をダキア海軍として運用するための、新しい軍事同盟を提唱したのである。

 

それが、数十年の時を超えて生き続けるEMTO(東地中海条約機構)の前身である、BSTOこと黒海条約機構だ。

 

黒海沿岸の中小国の同盟による、ルーシー連邦の黒海利権独占防止とダーダコルネオス・フォスボラス両海峡の中立を守ることを目的に提唱されたこの条約機構の条文には、加盟国家が有する軍事船舶の両海峡における自由通行権の確立も含まれていた。

内戦終結とその後の軍事力の増大により、頻繁に領海侵犯を行う連邦籍船舶の跳梁跋扈に辟易していた両国の外務省は、過去の因縁*2も忘れてこの話に飛びついた。

 

そして、時間は現代に巻き戻る。

 

元秋津洲海軍紀伊型の二番艦、尾張改め戦艦サルミゲトゥーザを総旗艦と仰ぐダキア海軍の第一主力艦隊は、回航後にダキアのガラテア造船所で、いずれもかなりの大規模な改修を受けた姿でエズメト湾に浮かんでいた。

秋津洲海軍から派遣された技術者の下テコ入れが行われたガラテア造船所では、既存艦の改修だけでなく、実験的ながら秋津洲海軍の艦艇をベースに設計にアレンジを加えた、準国産の艦船の建造も行われている。ちょうどサルミゲトゥーザの前に位置する艦がそれにあたり、パルプニェヌ級駆逐艦は特III型駆逐艦、軽巡洋艦ペトレは夕張型、重巡洋艦アルミナは妙高型に似たフォルムとなっている。数隻が浮かぶパルプニェヌ級は、クリッパー型の鋭角な船首を導入して特III型から一回りほど大型化した船体に、対空兵装がこれでもかというほど搭載されている。のちに秋津洲側に逆輸入されて夕張型代艦と呼ばれることになるペトレ級は、フォルムを保ったまま船体がかなり大型化され、ダキアお得意の砲身長延伸改装によって射程もそこそこ強化された。

 

そしてアルミナ級は原型こそ妙高型であるが、その実はキメラそのものだ。クリッパー型の船首に置き換えられた大型船体は連合王国風の平甲板となっており、上に乗っかっているのは合州国海軍のアストリア級重巡洋艦に良く似た前部艦橋だ。搭載されている主砲は秋津洲海軍の20.3cm連装砲であり、三脚型のメインマストや後方に傾斜した煙突も秋津洲海軍のそれを踏襲しているが、後部艦橋の作りはイルドア海軍の巡洋艦ボルツァーノそのものである。艦尾は生産性を意識した箱型で、将来のヘリコプター運用を見越してそこそこ広めになっており、四番主砲より少し後ろに位置するハッチからは魔導師を展開可能だ。

 

戦艦隊の主砲はすべて41cm45口径連装砲(製造・修理機械含めて秋津洲にまとめて発注)に換装されており、その投射火力はすでに列強海軍の水準に達している。

 

仮想敵である帝国海軍の保有する戦艦部隊に比べれば、保有数こそ劣るものの、性能では互角かそれ以上だ。帝国海軍の数的主力であり、それぞれ九隻と五隻が就役しているバーデン級とバイエルン級弩級戦艦、それぞれ四隻が就役している巡洋戦隊を担うザイドリッツ級、並びにデアフリンガー代艦ことヴュルテンベルク級巡洋戦艦に対しては、射程と火力で少なくないアドバンテージを有している。さすがに帝国の最新鋭超弩級戦艦、すなわちビスマルク級やバイエルン代艦級ことアドミラル・シェーア級、ヒンデンブルグ級などには41cm級同士のチキンレースとなるが、連中は大抵高海に引きこもって出てこない。それに加えて、足掛け十年以上の時間と莫大な金を引き換えに、連合王国で長い間扱きに扱かれた海軍人員の練度は折り紙つきだ。帝国艦隊を相手に回したとして、巡洋戦隊や並の打撃艦隊なら余裕で殴り合える。

 

合州国や連合王国に対する艦船の建造や設計図の購入の打診も既に行われており、合州国はともかく、連合王国海軍担当者の反応は上々だ。彼らにとって、帝国包囲網にその名を連ねる国家の軍事力の強化は、歓迎こそすれ妨害する理由などないのだから。後にこの時提供した設計図に基づいて建造された艦隊が、連合王国海軍の一部隊と複雑な事情が存在したにせよ正面衝突寸前にまで発展する事態になるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

ロールアウトしたばかりの巡洋艦を見送る傍ら、ガラテア造船所では早くも軽巡洋艦や駆逐艦に混ざって、一際目を引く全長二百メートル強の大型船体の建造が始まっていた。

 

既に戦艦四隻、重巡五隻を擁するダキア海軍に不足しているものは何かと言われれば、それは洋上での航空打撃戦力の運用法、すなわち航空母艦だ。

連合王国とイルドアのいいとこ取りであるIDAシリーズを擁するダキアではあるが、その洋上展開能力はほぼゼロに等しい。黒海の制海権を握るにせよ、イルドアと共同で動くにせよ、連合王国との交易路を守るにせよ、海洋航空兵力の確保は喫緊の課題だった。いまさらながら大陸国家のダキアが海に出る意味はあるのかとか言ってはいけない。

 

西暦世界アメリカの原子力航空母艦をベースとする『ミニ・フォレスタル級』をコンセプトに開発された航空母艦の設計は、一体型の全通式甲板、アングルド・デッキや秋津洲由来の大出力機関、専用のボイラーとセットになっている蒸気カタパルトに横索式アレスティング・ワイヤーと言った先進的な要素を当然のように取り入れており、艦橋は連合王国風にまとめつつ、側面と一体化した傾斜煙突で視界をうまく確保している。その特性上大馬力が求められる秋津洲海軍航空母艦の機関をそのままライセンスしただけあって、最大速力は推定28.5ノットにもなった。蒸気カタパルトの実用化に成功している為、機関室には主機関の他に中型のボイラーが設置されていた。

 

「本当にこのカタパルトには苦労させられましたよ。なにせ、カタパルトというものを開発した経験なんぞ当時は誰にもありませんでね。連合王国の火薬式でも良いと進言したんですが、どこぞの参謀総長閣下は一切耳を貸してくれませんで」

「自国生産もおぼつかないエンジンを搭載している機体だ。火薬式で無闇に負荷をかけるわけにはいかんのだよ」

 

連合王国からの工作機械の輸入で急ピッチで生産体制が整えられているグリフォンエンジンだが、精密機械の生産というのは一朝一夕に成り立つものではない。ローマは一日にして成らずである。

 

「進水はいつになりそうだ?」

「現在のペースだと……1923年の終わりから1924年の頭になりますかな。その後の艤装に半年ほど要するので、閣下が乗艦できるのは1924年の終わりになるかと。慣熟航海もありますれば」

 

浮ついた雰囲気を漂わせながら、ミハイは並み居る技師連の専門的な話にニコニコと聞き入っていた。

 

その余裕が十数分もすれば粉々に粉砕されるなど、知りもせずに。

 

 

「……おや、あれはクルツラスク宮殿の宮廷典書官の」

 

「閣下、帝国のゼートゥーア伯爵閣下から閣下にお手紙が。

 

 

 

 

 

おめでとうございます。お見合い話ですぞ」

 

 

 

 

 

「は?」

*1
八八艦隊計画艦にして、天城型戦艦の発展型

*2
トルキア共和国の前身であるオトマン・トルキア帝国は、過去に南ルメリア領全土を支配していた歴史があり、そこから独立した南ルメリアと、直接の原因ではないにせよそれによって帝政崩壊に追い込まれた両国の確執は根深かった




次回、修羅場(大嘘)
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