ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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小説13巻まだですか(小声)

今回オリ設定(特に国名)多めです。仕方ないんや…主要参戦国以外の殆どが表記があいまいだったりひどいと情報ゼロなんや…


統一暦1924年9月25日
プロローグ


『…少佐殿、どうやら小官はここまでのようです。短い間でしたが、お世話になりました。では、ヴァルハラd』

『絶対に逃すな!演算宝珠を奪って拘束しろ、間違っても自爆を許すなよ!』

『暴れるな!クソッ、この野郎…フンッ!…よし、やっと気絶したな』

『これがあの九十七式『突撃機動』演算宝珠か。連合王国のよりも何というか…緻密にできているな。おい大尉、ちょっとこれ使ってみろよ』

『了解であります!…うわっ、何だこれ体が軽い!えっあっちょっとまれ止まれ止まれあああああ!』

 

「クソ、クラウスに続いてノイマンまでやられるだと!?どうなっているのだ、ダキア軍は!これでは話が違う!情報部は何をやっていたんだ!」

 

帝国陸軍参謀本部直属、第二〇三航空魔導大隊長ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐は、自責、後悔、焦燥、そして何より深い困惑がないまぜになった表情を浮かべながら、ヴァイス中尉やセレブリャコーフ少尉以下十二名からなる同大隊最後の中隊を率いて、カルパティア山脈上空を帝国領空に向かって飛んでいた。

宣戦布告と同時に越境し、中世さながらの戦術でもってターニャ達に対抗しようとしたダキア陸軍の数はおよそ十五万。装備と兵員の質で勝る七万の帝国軍は彼らを鎧袖一触すると、一路ダキア大公国首都のブールクレスト市へと逆侵攻を行った。

しかし、カルパティア山脈付近に差し掛かったところで、先鋒を務めていた帝国軍第三機甲師団が突如として消滅。その調査も兼ねて、ターニャらには強行偵察命令が下されていた。

 

「しょうさどのっ」

「ここは私がっ」

「お逃げください!」

 

ダキア軍魔導師の猛追撃の前に、どんどんとターニャが手塩にかけた部下が墜ちていく。ここまで戦い抜いた中隊もじわじわとすり減って行き、いつの間にか、彼女の周りを飛んでいるのは副長と副官だけになっていた。

 

「クソッ、糞糞糞!私の手足を、よくも!…兎にも角にも、何とかして参謀本部にコンタクトを取らねばならん。魔導部隊でこれなのだ。場合によっては大陸軍の分派も『少佐殿!避けてください!』うおっ!?」

 

思考の海に沈みかけていたターニャは、何かに強く押し出される感覚で強制的に叩き起こされる。咄嗟に振り返った彼女の瞳に映るのは、土手っ腹と肩口を押さえながら、ゆっくりと地上に落ちて行く副官の姿だった。

 

『しょ…さ…』

「ヴィーシャ!?ま、まて、ヴィーシャ!気をしっかり持つんだ!…放せ、ヴァイス中尉!九十五式なら、まだ追いつける!」

「これをご覧になってください、少佐殿」

 

副長に首根っこを引っ掴まれ、地獄の鬼も裸足で逃げ出す憤怒の表情でヴァイスを振り返ったターニャは、彼の手に握りしめられた機関砲の弾丸を見て動きを止めた。

 

「対魔導徹甲弾…か?」

「セレブリャコーフ少尉の置き土産です。鋼鉄皮膜とタングステン弾芯のフルメタルジャケット型術弾と思われます。…さすが吸血鬼の国といったところでしょう。魔導師の狩り方をよく分かっています」

「連中、私達を戦車か何かと勘違いしていないか?」

 

呆れ果てたターニャが足を止めかけたその瞬間、ヴァイス中尉は首筋に嫌なものを感じ、咄嗟に目の前の上官の尻を蹴り飛ばした。

 

「ヴァイス中尉!」

「申し訳ございません!ですが、少佐殿には、生き残っていただかねば、なりません。生きて、参謀本部に、この事を」

「〜!!…分かった。運があらば、ヴァルハラで会おう」

 

腹から血を流す副長に背を向け、帝国軍南方管区に進路を合わせ、九十五式に魔力を流し込み始めたターニャは、しかしすぐにダキア側の手に落ちた。

 

『よーく狙えよ。三…二…一…撃ェ!』

「主よ、哀れなる仔羊たる私をッ!…ごはっ…」

 

ダキア陸軍兵器廠謹製、70口径40ミリ対魔導師高射機関砲。ネームド魔導師を確実にぶち殺す為に開発されたそれは、砲身長3メートルという機関砲カテゴリーでは規格外の長砲身から生み出される高い初速を存分に発揮し、狙い過たずターニャの背中を直撃した。聖遺物たる九十五式の防殻を貫くまでには至らなかった砲弾は、それでも華奢な幼女ボディを衝撃でボロボロにするには十分だった。

 

『白銀撃墜さる』の報は帝国軍参謀本部に激震をもたらし、パリースィス陥落に沈むフランソワ軍残存兵力の士気を大いに鼓舞したのだった。

 

 

 

 

 

時は、十年前に遡る。

 

ここはどこだ?私は誰だ?

 

最初に芽生えたのはそんな疑問だった。

 

整理しよう。俺は…俺は……根本的なところでつまずいた。確か職場帰りにプラモ屋に寄って、その後…ここも肝心なところの記憶が朧げだ。

 

わざわざ不明瞭な事を思い出すのも面倒くさくなった彼は、ひとまず視界をなんとかしようと強引に目を押し開けると、そこには赤いモフモフとした絨毯があった。

 

「んなっ、うっ、がァッ!熱い、熱い熱い熱い!」

 

ジリジリと炙られるような感覚とともに、肉体に神経が通り始める。

 

腕、脚、口、そして心臓。

 

永遠に続くと思われた灼熱地獄は唐突に終わりを迎え、後には地面に突っ伏した状態の優男が一人残された。

 

「…んぶはっ。はぁ、はぁ、はぁ、死ぬかと思った…」

「どうされました、ミハイ殿下!?」

 

よっこらせと立ち上がってみれば、目の前に立っていたのは完璧に執事服を着こなし、真鍮のモノクルを左眼に掛けた初老の男性だった。

 

「あ、いえ、何でもないです、ハイ」

 

理解が追いつかない脳味噌から誤魔化しの言葉が吐き出せたのは奇跡に近い。訝しむような視線を向けながら、彼は部屋から去っていった。

 

「…ふぅ、危ない危ない。…とにかく、現状を整理しよう。そうでもしないと、やってられん」

 

名字は不明だが、この肉体の元々の持ち主の名前はミハイ。殿下呼ばわりされるあたり王族の類だと推察できる。

 

「だが、かといって第一王子というわけでもなさそうだ」

 

根拠は部屋の調度品と大きさ。おそらく、継承権は下の方だろう。所詮は部屋住まいの身。大した権力は握っていないに違いない。

 

「だが、腐っても王族だ。おそらく衣食住には困らない…と、信じたいな。多分、没落国家じゃないだろうし。少なくとも、社畜時代よりはマシだろう」

 

そんな楽天的な思考と共に、彼の新生活は始まった。

 

 

 

 

 

 

そして、半年の歳月が過ぎた。

 

「お わ っ た」

 

ダキア大公国首都ブールクレスト市の中央、クルツラスク宮殿のバルコニーにて、ミハイことミハイ・エムロエイ・シュルフリンゲンは、一人虚ろな目で絵の具のバケツをひっくり返したように真っ青な、澄み渡ったダキアの空を見上げていた。

 

この半年間で何があったのかと言えば、要するに現実を知ったのである。

転生より一ヶ月後に行われた、隣国であり大陸最大の陸軍国家である帝国の公開軍事演習にダキア側代表として参加した頃は、まだ少し夢を見ていた。何せこの男、生粋のミリオタである。大陸で最も進んだ軍事国家の演習を、食い入るように見つめていた。

 

しかし、その二週間後に行われたダキア陸軍演習において、彼は絶望のどん底に叩き落とされることになった。

 

「二次大戦時のドイツ軍と戦列歩兵なんて、どうやっても勝負にならないじゃないか…」

 

装備だけが連発式ボルトアクションライフルになった、ダキア陸軍ご自慢の戦列歩兵と、III号戦車D型で固められた機甲師団を多数擁する帝国軍の対比は残酷だった。帝国がダキアの仮想敵国だと彼が知ったのは、そのわずか三日後である。

 

現在の日付は統一暦1911年の6月10日。西暦世界と比べるならば、大体戦間期の半ばあたりである1930年ごろに相当する。いわゆる『大ドイツ帝国』に相当する範囲、すなわち帝国の母体であるプロイツェン王国(プロイセン王国)に加えて、アウステリア=パンノニア二重帝国(オーストリア・ハンガリー二重帝国)フランドル連邦共和国(ネーデルラント連邦共和国)そしてオストポルスカ地方(東部ポーランド)からノルデン王国(デンマーク王国)までと言えば、おおよそ帝国の版図が見えてくるだろう。

 

それに対する、いわゆる連合国あるいは協商に相当する勢力は何とも心許ない。

 

北はノルウェーとスウェーデンを合わせたレガドリア協商連合、西はアルビオン連合王国にフランソワ共和国。南はイルドア王国がいるが、コイツはどちらかと言えば帝国寄りだ。東のルーシー帝国は…正直、何とも言えない。帝政派の人間は帝国に好意的だが、共産主義者は何を考えているのかがイマイチわからない。

 

我がダキア大公国の経済は、帝国を仮想敵国としている事も相まって、内海航路を通じての連合王国や共和国、南の隣国南ルメリア連邦やトルキア共和国との貿易に依存している。万が一世界大戦に発展した場合、ダキアは共和国ないし連合王国の参戦要請を断れない。まず間違いなく、ダキアは帝国に瞬殺され、プロシュティやモルニと言った油田地帯は帝国の養分と化すだろう。

 

「正直、帝国に占領されたところでデメリットがあると思えないが、何だか癪だな」

 

ホーエンツォレルン家もどきに統治される第三帝国である。クソッタレたナチズムに付き合わされる心配がない以上、おとなしく降伏しても一定のメリットはあるだろう。

 

しかし、戦わずして降伏するのも何だか癪だ。何より、国内外の世論がそれを許さない。ダキアの国民は、勝ち目のない無謀な戦争に肯定的だ。

 

「となれば。この国を育て上げるしかチョイスはないか」

 

『ダキア大公国を、どうにかこうにか帝国とやりあえるくらいの国家に成長させる』しか、選択肢は残されていなかった。

 

幸い、最低限経済基盤となりそうな産業はある。ダキアの小麦は高品質として大陸でも有名だ。南ルメリアやトルキアへの輸出高は、かなりのものである。

そして、最大の切り札がオイルマネーと金鉱山。年間4300万バレルの生産量を叩き出すプロシュティ油田は高品質で知られているし、金鉱山もまた然り。ギリギリのラインを見極めれば、帝国に高値で売りつけることも可能なはずだ。内海航路経由よりも、輸送コストが安く済むし。

 

「武器を買い、機材を買い、リバースエンジニアリングをし、工場を建てていけば軍需産業は何とかなる。後は…鉄鉱石か」

 

これもまぁ、内海航路で他国から輸入すれば何とかなるだろう。製鉄所も技術者を招聘すれば建設だけは出来るはずだ。

 

「とにかく、やるだけやってみよう」

 

ヤケクソ気味に右手に挟んだ葉巻をグリグリとモルタルの手すりに押し付けて携帯灰皿に捩じ込み、ミハイはバルコニーから大階段を降りて、宮殿正面の出口へと歩いて行った。

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