ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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ほんっっっっとうに投稿遅れて申し訳ありません。諸事情あって燃え尽き症候群に陥っており、なかなか筆が進まず…



なお、次回の更新は未定(オイ


第二十二話

ブールクレスト攻防戦三日目の朝、アーネスト大佐率いる連隊の面々は、指揮官から末端に至るまでたった一つの問題に頭を抱える羽目になっていた。

 

『戦車が来た』

 

第七師団の高射砲部隊が気持ちよく吹っ飛ばしたはずの戦車が、なぜかブールクレストに現れてしまっていたのだ。

 

帝国の国章たる双頭の龍をその砲塔に帯び、橋に繋がる通りを疾走してくるのは、灰色に鈍く輝く、帝国軍が誇るLT-38軽戦車。その高い機械的信頼性と生産性を武器に、IV号・III号と共に改造を受けながらも、長くライン戦線でソミュアS35やルノーB1 を擁する共和国軍機甲師団と渡り合ってきた車両である。

ダキア陸軍の秘匿兵器たるゲオルゲ中戦車の前では豆鉄砲と紙屑同然の戦車ではあるが、たとえわずか口径37mmでも砲は砲。最大火力が二十ミリ機関砲であるダキア側にとっては凄まじい脅威であり、榴弾の一つも叩き込まれようものなら軽い遮蔽は隠れていた兵士もろとも吹っ飛ばされる。

ダキア陸軍における戦車砲口径のインフレのせいで一時期感覚がバグっていたアーネストらではあるが、ここに至って彼らはようやく正気を取り戻した。

 

首都防衛隊に配備された対戦車兵器は多くない。ペリスコープ狙いの弾幕に賭けるか、20mm機関砲で履帯を狙うか、魔導適性持ちを引っ張ってくるかの3択だ。

しかし、最有力候補の三番目は、根こそぎ主力同士の殴り合いに発展している官庁街戦線に引っ張られてしまっている。故に、アーネスト率いる連隊は、無謀を承知で必死に戦車に弾幕を集中させていた。

 

「先頭車両、履帯破損!動きがありません!」

「20mmでも、なんとかなるもんだな。次は砲身を狙え!戦闘能力を潰してやる!」

 

戦車というのは精密機械だ。いかに信頼性の高いLT-38であろうと、履帯をやられればただの的。アーネストの作戦は的中し、帝国軍は早々に戦車一両を喪失した。

 

しかし、ハーゼンクレファーにとってはこの程度織り込み済みである。居場所の割れている20mm機関砲陣地への攻撃を命ずると同時に、彼は後続の車両にさらなる突撃を命令した。

 

「二号車、三号車は一号車を盾に前進継続、乗員脱出用のカバーを作れ!歩兵部隊は戦車の後ろで弾幕を避けろ!八号車、七号車はビルの裏を回り、ヴェスヴェナ橋の援護に急行!もうダキア軍に余裕はないはずだ!」

「効いているぞ!次は左側の機銃陣地だ!榴弾装填……撃ぇ!」

 

「クラウツ共め、的確にこっちの弱点を突いてきやがるな。馬鹿正直にノルデンに全軍をぶち込んだくせに、戦争だけはお上手なことだ!」

「大佐殿、それ我が国に思いっきりブーメラン刺さってますよ」

 

機関砲が制圧されているなら対戦車ライフルだと、帝国軍の突破部隊から鹵獲した亡命スオミ人技術者製のL-23対戦車ライフル*1や、帝国サイドのポラニエ系技術者が作ったNkm wz.22を活用した狙撃部隊によって、ダキア軍は断固として戦車の渡河を拒絶する。

幾度かの工事を経て、ライン川にかつて存在したレマーゲン鉄橋並みの長さを手にした橋は、その長さと強度でもって、なりふり構わぬ抵抗を続けるダキア軍を陰ながら支援していた。橋が落ちてはマズいと迫撃砲や戦車砲を満足に橋上で帝国軍がぶん回せずにいる中、工兵隊の爆薬を弾き返した鉄橋がその程度で落ちるわけがないと端から把握しているダキア軍は、その火力に一切の制約を受けずに射撃が出来るというアドバンテージが存在したのである。

ダキア製銃砲弾のほぼすべてが帝国と同規格で製造されているため、タワーディフェンスゲームのようにウェーブ形式で襲い掛かる帝国兵をシバきまわし、常に鹵獲する側に回っていたダキアが片っ端から鹵獲した小火器を投入できたのも大きかった。

 

半自動小銃を持たされているとはいえ、ほとんどのライフル兵にとってボルトアクションは昔取った杵柄も同然。鹵獲したKar98Kは性能は昔懐かしVz.13に劣り、双方激戦の連続故に整備具合も微妙だが、彼らにとっては銃口から弾が出るか否かの方が問題だった。

 

「戦線、安定しています!直近の脅威は見当たりません!」

「よぉし、狙撃兵をヴェスヴェナ橋の部隊の援護に回せ!ここはもう、重機関銃と小銃で支え切れる!」

 

アーネストは戦車の破壊によって手すきになった狙撃兵分隊を、二両の戦車が向かった別の橋の防衛に差し向けようとする。しかし、それを見逃す帝国軍ではない。

 

「敵狙撃兵部隊、西に向かっています!」

「行かせるな!八号車と七号車を守るんだ!」

「弾幕を張れ!奴らを遮蔽物から動かすな!」

 

アーネストの直卒部隊に向いていた弾幕は、移動を始めた狙撃兵部隊に集中し始め、彼らは頭一つ満足に出せない状況に叩き落された。当然、ダキア側も彼らの援護に走るのだが、いかんせん彼らは寡兵であった。

 

「狙撃兵の送り狼だ!始末しろ!」

「手が足りません!安定しているとはいえ、こっちは歩兵部隊の阻止で手一杯です!」

 

止まらない帝国軍歩兵部隊の弾幕。着々と進む戦車部隊。

 

「申し訳ありません、元帥閣下。私は、命令を守れなかった…」

 

そう、アーネストが空に零したその時、異変は起きた。

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

「だ、第一大隊の第三・第四歩兵小隊壊滅!?石壁が粉々に粉砕されました!中口径以上の榴弾による砲撃です!」

「どこから撃たれた!?わが軍の迫撃砲か!?」

「どうだっていい!砲撃だ、砲撃が来たんだ!家屋の陰に隠れろ!」

 

「な、なんだ!?どこからの砲撃だ!」

「帝国軍の迫撃砲だ!退避しろ!」

「吹っ飛ばされたのはクラウツ共だぞ!西側の部隊から、増援が来たんだ!」

「うちの軍に大砲なんて贅沢品があると思ってるのか!寝言は寝て言え、いいからさっさとその頭を下げろ!」

 

先ほどまで元気に小銃弾を放ち続けていた帝国陸軍の小隊陣地。それが、どこからともなく撃ち込まれた榴弾によって突如として粉々に粉砕され、籠っていた兵士達がミンチと化した。

 

これ幸いと狙撃兵たちはヴェスヴェナ橋に駆け出し、両軍が訳も分からぬまま手近な遮蔽に飛び込んだことで生まれた奇妙な沈黙は、ドゥンボヴィツァ川の北岸から聞こえる、LT-38とは比べ物にならないほどの重低音によって破られた。

 

フランソワや帝国のいかなる戦車とも一線を画す凄まじい重低音。目の前に存在するあらゆる障害物を踏み潰すそのパワー。そして何より、二発目の着弾に先駆けて響いた、軽野砲並の砲撃音。どれもこれも、ダキア軍にとっては馴染み深いものだ。

 

「戦車だ!我が軍の戦車部隊が来たぞ!連隊諸君、この戦、我らの勝利だ!」

 

後に大陸諸国を恐れ慄かせ、ダキア軍を欧州最強と言わしめるゲオルゲ中戦車が、この日、世界の戦史に初めて姿を現した。

 

 

 

 

…と、勢い込んで出撃したはいいものの、実の所このゲオルゲ戦車、乗っているのは戦車戦の経験などないただのど素人である。車両そのものも機甲師団が装備している量産型とは少し異なり、シュルツェンは未装備で、75mm砲も短砲身型。従って装甲も正規型と比べて相応に貧弱であり、57mm戦車砲ですら防げるか怪しいものがある。

 

緊急整備後のジャンク同然な性能をしているこの戦車だが、はっきり言って無理もない。何を隠そうこの車両、第一回試験以来ブールクレスト参謀本部の倉庫に眠っていた、ゲオルゲ中戦車の試作一号車両なのだ。

 

一切の騒音対策のされていない航空機用大馬力エンジンは、あたり一体に凄まじい騒音を撒き散らす。現行生産型ですら、デチューンと騒音対策がなされた上でなお常時機関銃の様な爆音を撒き散らすのだからさぁ大変。半径三十メートル以内の人間は軒並み聴覚を制圧され、兵士たちは手当たり次第に布の類を耳に突っ込んで自己防衛を行う羽目になった。

重量の最適化がなされていないため、通った後の石畳にはしっかりと轍が残っている。激戦地に一直線に繋がる通りを走っていると言うのに、そのルートはほとんど直線走行だ。砲の照準もゆっくりとしたものであり、砲塔旋回は必ず停車してからと言う徹底ぶり。新型兵器の試作型に、ど素人丸出しの戦車兵とは、何とも末期戦な光景である。開戦一ヶ月でこれかよと、アーネストは自軍の惨状に情けなさすら覚えた。

 

橋の袂に到着した車両は、その巨体をゆっくりと停車させると、装甲に任せて小銃弾を弾き返しながら、榴弾で橋に居座る帝国軍陣地の制圧を開始した。ど素人が動かしていようと、砲は砲。一昔前の軽野砲程度の口径を持つ主砲は、瓦礫を組み合わせて作られた機銃陣地を吹き飛ばすには十二分の威力を有している。数回橋上の陣地に向かって砲撃を繰り返したのち、戦車は橋を渡らんと動きだす。鼓膜を破られてはかなわんと、兵士たちは応援するだけ応援し、後は彼奴に任せておけとばかりに元の配置に戻ろうとした。

 

しかし、そこでアーネストらは誰が戦車に乗っているかを悟り、大慌てで随伴歩兵を差し向ける羽目になった。

 

エンジンを再始動し、橋に向かって動き出した単独の戦車。対戦車ライフルを帝国兵が発射しようとしたその時、にわかに戦車の周りの空間が歪みだしたのだ。そしてそれに、アーネストら参謀将校らは見覚えがあった。

 

ダキア陸軍の中枢に努めていれば、誰もがちょくちょく目にするであろう馬鹿げた強度の魔導防御膜。40mmを小銃弾か何かのように塵に返し、120mm砲をはじき返し、150mmすら半ばで止める、べトンで固めたトーチカのような防御力。火力こそないものの、近寄る魔導師すべてを魔力酔い地獄に叩き込む、他の誰でもないダキア軍元帥ミハイ・エムロエイ・シュルフリンゲンの展開する、ある意味世界で最も凶悪な防御膜だ。

 

「閣下だ!あの戦車には、閣下が乗っておられるぞ!魔導適性があるもの以外は戦車に随伴!川を渡り、帝国軍陣地を制圧するぞ!」

「橋の袂の機関銃陣地に制圧されかねませんよ!?」

「そのための閣下の防御膜だ!履帯に巻き込まれない程度に戦車に密着しろ!タンクデサントしても良いし、最悪、私が戦車の中に怒鳴り込んで防御膜の範囲を広げてもらう!総員、突撃!ここで押し返せなければ、援軍の到着までに戦線が食い散らかされるぞ!」

 

無茶を言ってくれるとぶつくさ文句を言いながら戦車の後ろについた兵士達だったが、ここで彼らは思ってもみなかった事実に遭遇する。存外、ミハイの防御膜の中は快適だったのだ。

 

よくよく考えてみれば、彼の防御膜は要するに小銃弾どころか砲弾すらはじき返す動く防御壁なのだ。おまけに、そこらの重戦車にすら引けを取らないほど堅牢である。外と違って騒がしいだけで命の危険がそこまでない防御膜の中は最高の安全地帯であり、タンクデサントをしている兵士の中には、戦車の上に機関銃や機関砲、対戦車ライフルなどのバイポッドを展開し、戦車をにわか陸上戦艦に仕立て上げる者もあらわれた。

 

やがて、その時は訪れる。

 

「全部隊、撤退だ!戦車を背後にクルツラスク宮殿まで撤退せよ!」

「…了解です。軽機関銃の回収の準備を進めさせます」

「頼んだぞ。兵員の脱出が最優先だ。必要とあらば、装備は放置で構わん」

 

「クラウツ野郎が逃げていくぞ!」

「追撃戦は厳禁!ここでこれ以上兵力をすり減らすな!」

「了解であります、閣下!」

 

1924年十月十二日の夕方、帝国陸軍の独立旅団は、師団長の許可の元ドゥンボヴィツァ川から撤退。クルツラスク宮殿に陣を置き、周囲の要塞化を進めるとともに、後続部隊を待って、首都を包囲する構えを見せた。

 

同時期に、魔導適性持ちの将校らの奮戦の甲斐あって、師団本隊も官庁街方面から撤退。ブールクレスト防衛戦は、ダキア軍の辛勝で幕を閉じた。

 

 

その後、到着した機甲師団と魔導部隊によって、帝国軍は完全にブールクレストから叩き出された。新型兵器を目撃した帝国人はことごとくが口封じのために殲滅されるか捕虜になり、新型装備を受領した動員兵で構成される歩兵部隊が残存部隊をカルパティア山脈に押し戻したことで、戦線は完全に膠着。続々と到着する新式歩兵装備を受領したダキア軍は頑強に抵抗し、彼らが時間を稼ぐ間に山岳地帯ならではの冬季の自然休戦期を迎えたことで、帝国軍のダキア大公国侵攻作戦は画竜点睛を欠く形で幕を閉じたのだった。

*1
フィンランド製ラハティ L-39対戦車ライフルが元ネタ

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