ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

27 / 48
幼女要素が消し飛んでたことに気づいたので補充しときます


幕間 シュルフリンゲン城の地下牢にて

「どうだ、ヴァイス?」

「ダメです、少佐殿。外れるどころかピクリともしません」

 

アンネリーゼの居座る城の地下十五メートル、明かり取り用の格子窓がいくつか空いた半径二十メートルほどの板張りの円形広間に、やたらと小さい人影を中心にして、十数名の若い帝国兵達が肩を寄せ合って何事かをボソボソと話し合っていた。

 

「セレブリャコーフ中尉殿も心配です。いくらロンディニウム条約調印国とはいえ…敵国の兵士ですからね。まともな治療を受けられているかどうか」

「気にしても仕方ないさ、タイヤネン。ケーニッヒも、ヴァイスも、そこまで固くなるな。今の我らには、ここでひっくり返っていることしかできないからな」

「…歯痒いものですな」

 

城の地下に厳重な監視と共にぶち込まれているのは、何を隠そうターニャ・フォン・デグレチャフ帝国軍魔導少佐を筆頭とする、帝国陸軍参謀本部直属、第203臨編遊撃航空魔導大隊の面々。機関砲弾の直撃を食らって治療や埋葬が行われているものを除く、二個中隊強三十人が監禁されていた。

 

「とりあえず、今我々が置かれている状況を整理しよう」

 

ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐率いる第203航空魔導大隊は、1924年9月24日のダキアによる対帝国宣戦布告とほぼ同時に越境して来た、ダキア軍の先鋒集団約十万人を蹂躙し、散り散りに撤退する敗残兵を放置して首都に接近。灯火管制一つ為されていないブールクレストを目視圏内にとらえたはいいが、そこで訳の分からぬ対空砲に文字通りどてっぱらをぶん殴られ*1、十人が死亡、残余もターニャ含めすべて重軽傷という大敗北を喫し、大隊は装備もろともすべてダキア軍の手に落ちた。

 

あれよあれよという間にターニャらの身分は共和国ライン方面軍のライブラリに照会がかけられ、ラインの悪魔だということは速攻でバレた。共和国軍の上層部は彼女らの身柄の引き渡しを強くダキア軍に求めたが、我らの獲物だとダキア軍はこれを真正面から拒絶。彼女らは無事に行方不明扱いとなり、こうして城の地下に放り込まれているというわけである。

 

「まったく、宝珠が手元に存在しないという事実が、こんなにも堪えるとはな」

「しょうがないでしょう、ヴァイス中尉殿。それより、早く脱獄の手段を考えましょう。幸いにも、このフロアに警備兵はいないようですし」

「『警備兵が詰める必要がない』が正解だな、中尉。何せ、ここから上階に出る道は螺旋階段ただ一つだ」

 

直径2.5mほどの、螺旋階段が中に収まっている石造りの円柱。明かり取り窓の頑丈な鉄格子を除けば、唯一と言っていい地下牢からの出口である。地下牢階とその上の階に、それぞれ頑丈な鉄扉が据え付けられたそこを突破するのは至難の業だ。

 

「食事時を狙うのはどうでしょう?当番兵をフローリングの板なり拳なりで無力化すれば、鍵と武器を奪えるやも」

「悪くはないが…連中が持っているのはソードオフでもないただのボルトアクションだろう?螺旋階段で長物ライフルは悪手だな。宝珠がない以上、ラジオに雑音を起こせる程度のただの不思議人間たる我々では、ピストルと短機関銃相手では分が悪いぞ」

「では、ベタですがトンネルは?石壁が綻んでいる箇所もあります。そこからならば掘れるかと」

「あのなぁ…貴様ら、ここにぶち込まれるときに見ていなかったのかね?ここは城だかなんだか知らんが、水堀で囲まれているんだ。かなりの距離を掘ることになるし、掘り当てたとしても水が入り込んでの溺死が良いところだろう」

 

ちなみに、仮に地上に出たとしても、昼だろうが夜だろうが即座に飛んでくるモーゼル弾とピストル弾の嵐でハチの巣だ。帝国軍一個増強連隊をわずか一個大隊で足止めできるその戦力は伊達ではない。ましてやこの城に配置されているのは、旧第六師団の面々で構成されたダキア軍の最精鋭と言って差し支えない珠玉の中隊。どれだけダキアがラインの悪魔を警戒しているかがわかるだろう。

 

「とは言え、この爆発音です。帝国軍の部隊も到着していますし、そろそろ解放されるのでは?」

「だがなぁ、我らはともかく少佐殿とセレブリャコーフ中尉を墜とせる軍だぞ?あまり舐め腐るのは…」

「ぶつくさ文句を垂れていても仕方ない。今の私達に出来るのは、解放を待つことくらいだ」

 

不安を抱えつつも、彼らはとりあえず様子を見ることを決めた。帝国軍がダキア相手に敗れるはずもないと言う若干の慢心もあり、彼らはこの時点では勝利を疑ってはいなかった。

 

しかし、数日後に彼らはどうもおかしいと気づき始める。

 

「なぁヴァイス、この振動はどっちに移動していると思う?」

「はっ、小官の感覚が正しければ、東から西へと移動していると思われます」

「だよなぁ。

 

 

 

どうして、装甲戦力が、それもこんな規模で東から西へと移動しているんだ?」

 

事前情報では存在しないか、あってもごく小規模だと聞かされていたダキア陸軍の装甲戦力。しかし、小一時間鳴りっぱなしのの車列の振動は、どう足掻いても師団規模はいるとターニャらに伝えていた。

 

「タイヤネン准尉、少し肩を貸せ。西側のホールの窓から外を覗けないか見てみたい」

「分かりました。それでは中佐殿、小官らは一旦これで」

「分かった。ヴァイスもタイヤネンも、せいぜい怪我をしない様にな」

 

小走りで城外に通ずる明かり取り窓があるホールに向かっていった彼らは、しかし十分としないうちに、過去に類を見ない様な慌て顔でターニャのもとに駆け込んできた。

 

「し、し、師団が、魔導師も、機甲も…!」

「お、落ち着けタイヤネン!ヴァイス、どうしたと言うんだ?」

 

そこでもたらされた情報に、203魔道大隊の面々は揃って腰を抜かすことになる。

 

「し、師団規模です。魔導師も、戦車部隊も、ハーフトラックも、トラックも…我が方のIV号戦車の最新型と、同等かそれ以上の戦車を数百両確認いたしました」

「なに?我が方の偽装の可能性は?」

「砲塔側面にダキア陸軍の徽章を確認しました。魔導部隊の軍服も我が方とは一致しないブレザータイプですし、キャタピラ側面に鉄板を貼り付けた戦車は帝国軍機甲部隊には存在しません」

 

にわかに騒がしくなる地下牢だったが、喧騒は唐突に中断された。

 

「ターニャ・フォン・デグレチャフ魔導中佐、参謀本部からの尋問要請だ。貴官を参謀本部まで連行する。異存はないな?」

「……は、はぁ」

 

大隊長その人が、唐突にダキア軍の参謀本部に召喚されたのである。

 

 

 

 

 

「よく来たな、ターニャ・フォン・デグレチャフ中佐。私の城は気に入ったかね?」

「……えぇと…」

「名乗りが遅れたな。ダキア軍統合参謀総長、ミハイ・エムロエイ・シュルフリンゲン元帥だ。噂には聞いていたが、本当にこんな子供だったとはな」

 

目の前で兵隊タバコを片手に安い豆を使った泥水のようなコーヒーを啜り、黙々と万年筆を動かす男。本当にこいつがダキア軍の最高司令官なのかと、ターニャはやや訝しんだ。やけくそ気味にデスクの上に放り出された帽子も、雑にハンガーラックにひっかけられている上着も、何ならブレザータイプの服も身に纏うものすべてが薄汚れている。少し鼻をきかせれば、汗のにおいに混じって血と硝煙、そして機械油と航空機用エンジン特有のガソリン臭が漂ってくる。

 

「まぁ座れ。泥水なら出せるが、どうする?」

「ありがたく。カフェイン不足に喘いでおりますので」

 

チコリコーヒーよりはマシ程度の味わいに顔を顰めながら、形式だけの尋問は始まった。

 

「貴官は帝国陸軍参謀将校にして第203航空魔導大隊長、ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐で相違ないな?」

「はい。小官が『白銀』デグレチャフ少佐です」

「貴官の部隊の作戦目標は?」

「ダキア陸軍先鋒部隊の殲滅であります」

「先鋒部隊と一当たりした感想などは?」

「随分と弱兵だなと。近代軍としてあるまじきレベルだと感じました」

「否定出来んのが悲しいところだな。タングステン弾の味はどうだったかね?」

「最高に美味でしたよ、それこそ、腹を貫くほどに」

「結構、結構。それでは、質問の種別をずらそうか」

 

真面目腐った顔で尋問を続けていた彼は、そこで唐突に雰囲気を弛緩させると、数年来の友人と話すような口調で、ターニャに語り掛けた。

 

「出ない出ないと言われていた某ロボゲー、十年越しに新作出たぞ。闘争を求め続けた甲斐があったな。元号も平成から令和になったぞ」

 

「は…はぁ!?」

 

何を聞かれるかと思いきや、あにはからんやミハイの口から飛び出してくるのはターニャも前世で散々聞きなれた秋津洲語。語られる内容も、いやに聞きなれたものだった。

 

「ちょ、おま、まさか…え、日本人?」

「その通り。お前は災難だったようだが、俺はまぁまぁ話の分かる神様にお情けを貰った感じだな。不治の病だったんだと」

 

顎が外れるほどに口をあんぐりと開けるターニャを、愉快そうな顔でミハイは眺めていた。

 

「……その神様とやら、白いローブなりなんなりを被ってはいなかったか?」

「いや?どこにでもいそうなセーター羽織った爺様だったぞ。たぶんお前がやられたのは爺さんの敵、話の通じないほうの神だ。どうも俺らはトロイア戦争に巻き込まれた一般の人間ポジらしいぞ」

「それでいいのか、仮にもキリスト教っぽい宗教のある世界の神よ」

 

半ば呆れた口調で話しているが、その実彼女の顔は喜色満面と言って差し支えない。もはや一生天涯孤独の身であろうと覚悟していた世界で、ようやく見つけた同郷人なのだ。いくら敵国の人間とは言え、これを喜ばないはずがない。日が暮れ、時計の短針が天頂を指し示した後も、彼等は馬鹿話に耽っていた。

 

 

 

 

 

日付が変わり、太陽がでこぼこのブールクレストの地平線にその姿を現したころ、ふとターニャはミハイに聞いた。

 

「そう言えば、なんでお前はこんな戦争に片足を突っ込んだんだ?それほどの手腕があれば、中立を保てたろうに」

 

貴族どもの仕業だとミハイは板についた口調で目の前の幼女に語るが、生憎それで誤魔化されるほどターニャは精神的に若くはない。

 

「参戦理由はわかるが、単独講和での一抜けくらい出来るだろう?何故こんな不毛な騒動に、大層な戦略攻勢を立案してまで付き合ってやっているんだ?」

 

さすが転生者、なかなか鋭いところを突くなとミハイは内心舌を巻く。そう、帝国軍を圧倒する技術力と軍事力をこれでもかと見せつけ、戦線を旧国境まで押し戻した現在ならば、いまだ共和国相手に優勢な帝国相手に単独講和をし、技術と資源を輸出するビジネスパートナーとして、関係を再構築することも可能なのだ。短いスパンで考えるならば、それが最善手と言っていい。しかし、ミハイにはミハイなりの理屈があった。

 

「それだと何も解決しない。帝国は欧州の覇者になるだろうが、それを見過ごす連合王国じゃない。間違いなく彼の国は欧州覇権国家を潰しにくるし、時間をかけてウダウダと戦争をしていれば合州国と連邦が首を突っ込んでくる可能性もあるからな。俺の命の恩人に課された使命だ。死んでも義理は果たすさ」

「だが、それならば何故帝国を完全に滅ぼさない?その戦後計画では、何も解決になっていないように見えるぞ?」

「だが、欧州のバランスは保たれる。我が国と連合王国の利害は一致し、帝国と共和国は団結せざるを得ない。それに…」

 

そこで一回ミハイは言葉を切ると、その視線を寂しげなものに切り替えた。纏う雰囲気もがらりと変わり、ターニャはミハイの抱える彼なりの孤独を悟った。

 

「ようやく日本での記憶を思い出して、大切なモノも手に入れた。俺は、今度こそ家族を守りたい」

 

彼がまだ日本で学生だった頃、彼は両親を失った。

 

そこそこの家の出だった故に学費に困る事はなかったが、親の遺産は相続する間もなく分家筋に奪い取られ、大学卒業後の生活はみるみる悪化。貧乏リーマンとして本人も気づかぬ持病を抱えながら過ごしていたある日、唐突にこの世界に飛ばされたと言うのが事の顛末だ。

 

「一番上の兄は国外に亡命、重病を患っている一つ上の兄は会ったことすら数えるほどだ。先代大公も大公夫人も、秋津洲から帰国した頃には死んでいた。向こうさんがどう思っていようが、俺にとってはゼートゥーア家がたった一つの家族なんだよ」

 

哀愁漂うミハイの視線に、然しものターニャといえど何も言えなくなってしまった。

もし目の前の彼が先ほど耳打ちした計画を本気で実行するならば、それは茨の道どころでは済まないだろう。彼が樹立せんと動いている平和は、圧倒的武力による平和の対局にあるものであり、維持管理も難しく、何より築き上げるには今は亡き帝国の鉄血宰相並みの能力を必要とするのは疑いない。

 

「お前は、ビスマルクに成り代われると?」

「やるか、やらないかじゃない。やるしかないんだ。欧州平和のためにも、俺の老後のためにも」

 

いかにも主人公らしい台詞を平然と言い放つミハイだが、ターニャにそれを茶化すことはできなかった。

 

「…そうか。まぁ、私にはなにも言えん。所詮この身は長く生きただけのリーマンであり、一介の中佐だ。元帥の視点は、私には分からんよ。まぁ、クソッタレの存在Xの思惑をぶち壊す計画は、応援させてもらう」

「それで十分だ。それと、この書類を持っていけ。うちの城の中であれば、自由に動いて構わないぞ」

 

第203大隊総員のシュルフリンゲン城内における監視付きの自由行動を許可する旨と、現状でのセレヴリャコーフ中尉をはじめとする負傷兵らの容体を記した数枚の書類の束を受け取ったターニャは、そのまま憲兵の運転する車に護送され、首を長くして待っていた大隊各員に、歓声でもって迎え入れられた。

 

なおその数日後、三か月ぶりに居城に帰参したミハイが、げっそりとやつれた顔で対照的に艶々としているアンネリーゼに連れ回されている光景が目撃されたとか、目撃されなかったとか。

*1
ほぼ直下からの砲撃だったため、腹部に直撃を食らった魔導師が多かった




アンネリーゼさんはタフに見えて、育った環境のおかげでかなりの寂しがりであり、同時に割と独占欲も強めです。そんな彼女が数ヶ月放置された挙句、態々自分の居城から女性捕虜を参謀本部に呼び出したとあれば…

あとは、皆さんのご想像にお任せします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。