ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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第二十四話

ダキア陸軍が帝国に対して保有しているアドバンテージとは何だろうか?

 

性能に優れる兵器群?

堅牢な産業基盤?

豊富な石油資源?

国土に比して精強な海軍?

フランソワから詐欺紛いの手法でむしり取った大量の列車砲?

 

確かにそれもあるだろう。しかし、本当の優位点はその『機械化比率』だ。

 

装甲軍集団は全兵士がハーフトラックなり戦車なり引っ張り出された試作型のIFVなり何かしらの装甲車両に搭乗しており、歩兵師団ですら兵員を輸送するためのトラックを大量に保有している。大陸諸国との貿易で掃いて捨てるほど金をため込んだ国家の金満具合は伊達ではなく、フォードのトラックを輸入するだけでは飽き足らず、ライセンス購入や工場の誘致、国営工場の設立など、ありとあらゆる手段でもってダキアはトラックを戦前から今に至るまでひたすらかき集め、その副次効果として自国のモータリゼーションを進めていた。

 

他国と異なり、砲兵を帯同していない*1ダキア軍の機甲師団の脚は速く、他方機械化師団はハーフトラックを改造した自走榴弾砲を多数装備。歩兵すら、自部隊の歩兵と野戦砲を全て運べるだけの車両を有している。

 

また、『黎明と払暁』が実行に移される頃には、ブールクレスト攻防戦の戦訓をフィードバックし、歩兵には一個大隊につき二十丁の12.7mm重機関銃と、三基の20mm連装対空機関砲がそれぞれ専用のトラックに搭載されて配属されると言う過剰火力ぶりであり、対歩兵殲滅力を上げると同時に、大隊単位での装甲戦力や航空戦力に対する反撃手段も有していた。

五十人で構成される歩兵分隊には二人一組で運用される五丁の汎用機関銃と二十丁の短機関銃が配備され、半自動小銃を装備する通常のライフル兵は全体の半分ほど。ボルトアクション銃を装備するのは選抜射手三名と狙撃兵二名のみに絞られており、分隊あたり予備も合わせて七両程のトラックが配備されている。

 

これに相対する帝国軍は、数こそダキア軍の梯団一個と同等なれど、その内実は二線級も良いところ。歩兵のほとんどはボルトアクションで武装しており、短機関銃は分隊支援火器、半自動小銃は選抜兵の狙撃銃扱い。機関銃の大半はMG18(MG34)やそれ以下であり、ほとんどは小隊支援火器だった。演算宝珠や航空機の生産を外部に委託してまで少数精鋭主義を頑強に貫き通し、また国家動員法の甲斐あって人口の割に工業力が異常なほど高かったダキアとは異なり、ライン戦線の出現以来雪だるま式に師団を膨れ上がらせざるを得ず、また工業地帯が西部に存在するゆえに生産能力にリミッターが掛かった状態の帝国な為仕方ないと言えば仕方ないが、その違いは死体の数となって如実に現れていた。

 

装備体系の違いもまた主な理由だろう。戦車だけで何種類も存在し、マイスター級の技術力を生産に要する兵器も多々存在した帝国とは異なり、ダキアは戦車もハーフトラックも火砲も各試作型から派生させて実戦でテストなどという悠長なことはせず、量産開始時点からベースとなる個体は一種類のみ。使用されている部品も厳格に規格化され、最低限の技量と知識を持つ人間ならば、誰が作ってもそこまで個体差が出ない様に心を配っていた。

 

また、合州国のフォード社の製造工場をベースに流れ作業方式も大々的に採用しており、特に戦車など月産百五十両に突入している。

鉄道網はいわずもがな、車両自体も連合王国からの輸入で有り余るほど蓄えてある。制空権が帝国側と拮抗した場合の予防措置だったが、制空権が完全にダキア側の手に落ちた為、本来予備だった車両も容赦なく第一線での物資輸送に投入されていた。

 

故に、軍全体に対する馬鹿げた無茶振りが実現できる。

 

『ひたすら止まらず、ただ封殺』と言う古代帝国じみた戦法が、統一暦1920年代において実現できてしまう。

 

本当ならば今頃連合王国とフランソワの海外利権をイルドアと山分けしているはずだったという未練がましい愚痴はさておき、この攻勢に際し、ダキア軍は戦後に資料を公開された諸国が瞠目するほどの無理をしていた。

 

陸海空三軍への動員率、実に全国民の20%。民需・軍需の生産力の割合はおおよそ2:8。自国の食糧の実に八割を南ルメリアやトルキアといった同盟諸国からの輸入に頼り、軍需物資も自国だけではやりくりできず、かなりの割合を合州国や秋津洲、連合王国から輸入した。

帝国や共和国相手のこすい商売で儲けた金を惜しげもなくつぎ込み、連日連夜コンスタンツァを始めとする海港都市に滑り込んでくる輸送船を捌き切った成果が、この『黎明と払暁』、ひいては『新秩序』なのである。

 

さて、ここまで散々準備をしていた戦略攻勢『黎明と払暁』だが、意外や意外、その作戦目標は大変にシンプルである。

 

『帝国南部の大都市、ニュルンベルクを陥す』

 

これだけだ。帝国野戦軍の撃滅も、共和国の救援も、西方航空戦への貢献も何一つ書かれていない。これは、ダキア軍のダキア軍によるダキアの為の戦争なのだ。

 

が、これは言うは易く行うは難しの典型例である。パンノニア州都ブダペスベルク(ブダペスト)、アウステリア州都ウィエナ(ウィーン)、帝国領ヴァヴァリア(バイエルン)公国首都ミューニッヒ(ミュンヒェン)など、越えなければならない大都市は数知れず。市街戦を制し、アウステリアのアルプスと、二度の大河ダーナウ越えを短期間に果たさなければならない困難な道のりだ。

 

ダキア軍は、その道のりを3フェーズに分割した。

 

第一フェーズはすでに果たされたダキア本土奪還戦。これは比較的容易いフェーズであり、ダキア軍はその道程を一か月ほどですでに完遂している。予想に反し、本土奪還戦はカルパティア山脈を越え、丘陵地帯と平野部とを機甲師団で蹂躙するだけの簡単な仕事だった。

 

しかし、帝国軍がここで一息つけるだろうと想定した帝国=ダキア間国境線は、ダキア軍にとってはただの通過点に過ぎない。三日間の指揮系統の再接続と進軍に要した物資の補填期間を挟んだのちに、五個機甲師団と六個機械化歩兵師団で構成される戦略機動軍主力部隊を主軸とする第二悌団四十五個師団が、歩兵師団を主力とする第一悌団に代わって、パンノニア大平原へと進軍を再開した。

 

サルトマーレ、アラデア、そしてアラルド。帝国との重要な交易拠点だった三都市を発起点として、ダキア陸軍の機甲師団はようやく塹壕線らしき何かを整えたばかりの帝国軍部隊を無慈悲にも蹂躙。歩兵の足で必死に撤退しようとする部隊の退路を機械化歩兵師団が塞ぎ、側面をトラックで展開した歩兵が固め、帝国南方方面軍は再び壊滅状態に陥った。

 

戦場において、気軽に代替の利くトラックや装甲車はその存在自体が大きなアドバンテージだ。素早く兵士を展開し、また突撃時には歩兵の頼れる移動障害物になりうる。機関銃や高射砲を搭載していれば尚更だ。

 

さらに、ここでダキア軍は新たなる兵器を投入した。現在進行形で帝国空軍をその機動性で翻弄し、蠅のように叩き落としているオリオン戦闘機に次ぐ新たなる軍用機、双発急降下爆撃機リヴラと双発戦闘爆撃機サジタリウスである。

 

二機ともに連合王国謹製の大出力エンジンと、西暦世界の末期イタリア王国空軍譲りの先進的な設計を有しており、これに相対する帝国空軍の戦力は、ライン戦線に使える機体を根こそぎ奪われた帝国空軍の第七航空艦隊。ロートルと化して久しいBf109E型と、イマイチ機動性に難がある双発のBf110であり、大馬力機関由来の高い機動性と重武装を兼ね備えるダキア空軍相手では格下どころの性能差ではなく、劣化版とはいえダキア産航空機の派生機をようやく生産し始めたイルドア空軍にすら劣る有様であった。

 

そして、ダキア軍はここで切り札と言える外交カードを切る。

 

「…イルドア軍、宣戦布告。わが軍の守備隊はすでに突破された模様です」

「わかってはいたことだが、やはり来るものがあるな。…海軍に内海艦隊の降伏を打診してくれ。イルドア方面軍と南方方面軍を統合し、東部軍と合わせてチェチア、アウステリア、オストラントを守りきるぞ」

 

未回収のイルドアの併合を条件にした、イルドアのダキア側での参戦。ちょうどフランソワ陸軍残党がイルドア=フランソワ国境付近に集結しているタイミングの事であり、イルドア経由で流れ込む連合王国や合衆国の支援物資によってフランソワ軍は息を吹き返し、帝国軍はさらに長期間大陸軍を拘束される羽目になった。

 

厳冬期にも関わらず、いやだからこそ悪路と悪天候に強いダキア軍は矢のような勢いで第二フェーズの到達点であるアウステリア地方を越え、一月には何と第三フェーズの要であるミューニッヒ包囲を実現。バイエルン地方はほぼ陥落し、ダキア軍の先鋒部隊はダーナウ河を突破した。帝国本土に雪崩れ込む部隊の勢いはいや増し、戦略攻勢の完遂ももうまた鼻の先。

 

イルドア軍に側面防御の一部と後方の防衛、レジスタンスに対する警戒とアドリア海の絶対的な制海権を任せられるようになったダキア軍の進撃速度はさらに増し、帝国の命運は完全に尽きたかに見えた。

 

 

 

 

一方そのころ、ここは帝国陸軍参謀本務戦務参謀次長室。本革張りの鈍く輝く二組の応接ソファとオーク材の執務机、それに少しばかりの書類棚が壁際に設置されているばかりのその部屋には、部屋の主を含む四人の男たちが集まっていた。

 

「まったく、盛大にやってくれたな、貴様の娘婿殿は。対応策の準備はできているのか?」

「延命措置なら打ってある。そこのレルゲン大佐にでも聞くがいい」

 

部屋の主人に話を振られ、鼻髭面の男にジロリと睨まれたレルゲン大佐は、しかしさらりと拒否を言ってのける。

 

「申し訳ありません、ルーデルドルフ閣下。ゼートゥーア閣下より、作戦の委細に対する緘口令が敷かれており、閣下と言えど開示はできかねます」

 

デグレチャフ少佐にビビっていた頃の彼は何処へやら、随分と図太くなったものだとルーデルドルフは内心レルゲンに対する評価を上げつつ、仏頂面で再び部屋の主人にーーゼートゥーア中将に向き直った。

 

「貴様に言われた通り、反攻計画は立てた。全部隊は作戦行動開始を待機しているぞ。あとは貴様の号令如何だ」

「感謝する。あとは私がなんとかしよう」

 

そのほっそりとした背中に全責任を抱え込み、ゼートゥーアは静かに微笑む。付き合いの長いルーデルドルフは、彼の語らない姿勢を察し、レルゲンとウーガを伴って、参謀本部の会食堂へと歩き始めた。

 

 

「レルゲン大佐、ウーガ中佐。貴官らから見て、最近のゼートゥーアはどうだ?」

 

不味い飯を代用コーヒーと水で流し込みながら、ルーデルドルフはふと目の前の二人の佐官に疑問を投げた。

 

しばし言葉を濁したのちに、躊躇いがちにレルゲンは上官の質問に答えた。

 

「どこか…その、不気味だと感じています。確かに閣下は小官らと同じく帝国のために戦ってはいますが、帝国を見ている我々とは違い、閣下は……帝国の、その先を見ているというか」

 

我が意を得たりとばかりに、それにウーガが続く。

 

「それです、大佐殿。回転ドア以前のゼートゥーア閣下は、帝国軍の未来を見据えておられた。しかし今は、帝国ではない何かを……はるか未来を見据えているように感じます」

 

占領地の縮小と民政移管、そして参謀本部の大規模な権力拡大。皇帝陛下とそれに忠義を誓う臣下によって治められるライヒというお題目とは異なり、今の帝国は半分以上が参謀本部のコントロール下にある。必要人員の削減という形で大きく帝国に貢献した占領政策も、ゴネる最高指導会議を参謀本部側が黙らせて成立させたものだ。

 

「ゼートゥーアのお陰で、今や我々は帝国を牛耳る軍事独裁主義者だ。戦後、軍の政府他機関との関係はシルドべリアよりも冷え込むだろうな。……だが、それが妙だ」

 

二人は無言で頷く。軍民間の折衝と兵站整備に心血を注いできた彼らの上司(ゼートゥーア)が、軽々しくそのような愚行に手を染めるはずがないと彼らは骨の髄から理解していた。

 

「おそらく、奴は帝国の勝利を見てはいない」

「それは、どう言う…」

 

いつの間にやら火を付けていたお気に入りの銘柄の葉巻を顔を顰めながら一息吸うと、ルーデルドルフは自虐的に嗤う。

 

「奴が見ているのは、おそらくライヒの『存続』だ。帝国そのものや帝室が滅ぼうと、ハイマートを国家として存続させるのがやつの目標だろう。実に明快かつ単純だ。対して、私や貴官らは曖昧な『勝利』を追い求めている。何を以て勝利とするのかもわからず、ただひたすらに暴走列車のように前に進み続けているだけだ。そうでなければ、あのバランス感覚が服を着て喋っているような人間が、わざわざ帝室と政府に喧嘩を売りに行く筈がない」

「しかし、では、何故ゼートゥーア閣下はダキアに対する防衛計画を?」

 

レルゲンの指摘に、ルーデルドルフは素直に分からないと告げる。

 

「さっぱりだ。我俺の仲だと思っていたのだが…案外やつも食えん。だが、ただ一つ分かっていることがある」

 

 

 

「だ、第三機甲師団より救援要請!ゲオルゲ中戦車が、帝国軍の機甲師団に撃破されています!

「馬鹿な!?大陸軍の機甲師団はフランソワで昼寝をしている筈だろう!?情報部の連中は、何をやっていたんだ!」

「そんな事はどうでもいい!この出現箇所は不味いぞ…機甲師団の突出部だ」

 

「何なんだ、あの戦車は!六号車と八号車がやられちまったぞ!」

「つべこべ言うな、少佐!あれは、敵だ!とにかく砲弾をぶち込んで黙らせろ!」

「全車両、一旦敵部隊から距離を取れ!火力は同等でも、車台は間違いなくIV号だ!交戦距離を開ければ、まだこちらに分があるぞ!」

 

「情報部からのレポートが届きました。どうもIV号戦車に我が国と同等性能の75mm長砲身砲を搭載している模様です。撃破射程はこちらに分がありますが、何にせよ連中がゲオルゲとまともにやり合える戦車を手にしたことには変わりないかと。それと、気になる報告が。第六十五歩兵師団が、歩兵携行型のロケット兵器を帝国軍部隊から鹵獲しました。写真は、こちらに」

「これは…パンツァーシュレックとパンツァーファウスト!?クソッ、帝国はもう1942年に入ったか!」

 

「ダメです、持ち堪えられません!ハーフトラックの装甲では、あの対戦車兵器を耐えきれない!」

「師団に死守命令!機甲師団に撤退命令は出ているんだ!ここで我らが踏ん張らなければ、主攻部隊が丸ごと包囲されるぞ!」

「イルドア軍の増援が三時間後に来ます!イルドア外征軍のガスマン大将が確約しました、それまでの辛抱です!」

 

「ノーヴェンヴァー連隊よりアルバトロスへ、ジャガイモ共の航空隊に蹂躙されている!いつになったら忌々しいシュトゥーカを叩き落としに来るんだ!?」

『アルバトロスよりノーヴェンヴァーへ、貴隊の空域への到着時間は不明!現在ライン方面の第三航空艦隊所属と思しき帝国空軍部隊と交戦中!キルレシオはまだ勝っているが、キルマークも練度も、レベルが違う!我々は、あまりにも短い間に進みすぎたんだ!』

「第三航空艦隊!?情報部の報告では、帝国本土で装備転換中だった筈ですが…」

「何にせよこのままでは抜かれる!可能な限り早く支援を寄越してくれ、アウト!」

 

 

 

「奴ある限り、少なくとも帝国は負けないと言うことだ」

 

統一暦1927年一月十八日、ダキア陸軍はニュルンベルクを目前にして、帝国軍機甲師団の強烈な横撃を受けてダーナウ河以北から完全撤退。ようやく主力部隊がフランソワから帰還し、補給と再編を済ませた大陸軍がダーナウの北岸にびっしりと展開した事で、ここに戦略攻勢『黎明と払暁』は完全に頓挫した。

*1
主力戦車の砲口径が軽榴弾砲並みな為、下手にノロマな砲兵を同行させて機動力を殺すよりは威力の高い榴弾を開発した方が良いと判断された

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