ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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多分あと十話以内には終わる…終わるといいな…


第二十六話

その日、ダキア・イルドア連合軍の中でも特に後世『魔女のばあさんの大鍋』と称される地中海軍集団は、ダキア側の軍集団司令官であるアディネル上級大将の戦死により、急遽その代理を務める羽目になったイルドア外征軍の総司令官であるイゴール・ガスマン大将の指揮の下、絶望的な撤退戦に従事していた。

 

「全戦域に防空アラート、帝国空軍の反復攻撃が来ます!機種は変わらずJu188とDo217、およびBf109!相変わらず殺意がすごいな、畜生!」

「機関砲、野砲、重機関銃、それに…ええい、とにかく防空能力を持った全部隊は対空攻撃を開始しろ!後十分で航空隊が援護に来るはずだ!弾幕を張り続けろ!歩兵部隊は、足を止めるな!南西へ順次撤退せよ!くれぐれも気取られる訳にはいかない、撤退の偽装には最大限の注意を払え!」

 

対空砲と歩兵銃、それにトラックのエンジンが好き勝手に戦場音楽を奏で、合間を縫って帝国軍機が、糞忌々しいエンジン音をかき鳴らす。そして上空から襲いかかる戦術爆撃機の編隊をありったけの防空戦力で迎撃する間にも、ガスマンの居座る野戦司令部付近に進出した帝国軍部隊はじわじわと司令部付近に圧力を掛け始めている。司令部付の魔導部隊が防空に駆り出されている現状では、ガスマン自身も歩兵銃を肩に提げることを余儀なくされた。長らく軍政としてキャリアを積んできたガスマン大将にとって、この欧州大戦はおよそ十数年ぶりの実戦であり、ダキア製の新式歩兵銃であるWz.1926も、およそ十年ぶりに手に取るライフルであった。

 

「砲兵部隊は歩兵の撤退支援と、対空弾による対空砲部隊の援護!ゆめゆめ忘れるな、『前を向きつつ、退がる』のだ!」

「ここまでやっても、あとはわれらがボスに将校伝令が届くか否かの賭けとは、わが軍も貧乏になったものですな」

「嘆いていても仕方なかろうて。アンゲラッシュ中将、君もウチのカランドロ准将と早く下がりなさい、私は後から追いかけよう」

「アイサー」

 

帝国軍の意趣返しから約一か月強、イルドア遠征軍総司令官のガスマン大将がなし崩し的に指揮を取り始めたイルドア軍十二個師団とダキア軍十七個師団の合計三十個師団弱からなる部隊は、現在連合軍のいかなる指揮系統とも接続されていない独立部隊と化している。トリエステをはじめとする地中海沿岸の海港都市群に向かってじわじわと撤退する彼らは、同時代の帝国軍将兵の誰が見ても、総崩れをなんとか免れつつも撤退する、孤立無援の部隊だった。

 

「ルーデルドルフ閣下、地中海沿岸のダルマティア地域において、大規模な敵部隊を半包囲したとの報告が。現在南部軍の残存部隊が、南ルメリアを用いた包囲の確立と、海港都市及びダキア側同盟国への連絡等遮断を進行中です」

「フゥ…だ、そうだぞ、ゼートゥーア。すでに我が方の先鋒はダルマティア地域の過半を奪還し、パンノニアに歩を進めている。このままいけば、あと一か月のうちにブダペスベルクまで奪還できるだろう。チェチアの旧要塞に籠っているのが少し気がかりだが…まぁ、三十個師団ばかりも置いておけば問題ない。あそこは山岳地帯だ、ダキアお得意の機動戦も少しは鈍る。このままダキアを下し、欧州は帝国の天下だ。何を不満に思うことがある?」

「少し、いろいろな。まず間違いなく連合王国は我が国に宣戦布告するだろうし、東部の特殊偵察小隊からの報告も気がかりだ。イルドア参戦によって間接的に共和国残党は完全に殲滅できたが、その代わり今の我々は二方向のアルプス戦線を抱える羽目になっているんだぞ?列強最弱とはいえ山岳戦には強いイルドア軍と正面衝突なぞ、やりたくもないな。それに、ダキアが新しい詐欺を働く可能性も否定できん!」

 

ゼートゥーアのような否定派意見もいるにはいたが、結局はルーデルドルフと同じ楽観論が主流で、事実それはそこまで間違ってはいなかった。何せ、ダキア・イルドア両国の参謀本部では現在進行形で混乱が広がり、首脳陣は秩序を取り戻そうと駆けずり回るのに忙しく、とても反撃など考える隙もなかったのだから。

 

 

 

 

 

さかのぼること二か月前、ダーナウ戦線は河を挟んで完全に膠着し、ライン戦線の再現だと撃ちまくる帝国軍と、それに少ないながらも正確な対抗射撃と、帝国と比べて精強な魔導・航空戦力による砲兵陣地の襲撃でもってそれに応えるダキア・イルドア連合軍は、双方ともにいずれ来る再進撃、ないし反攻作戦に向けての準備を進める傍で、ダーナウの制空権を確保せんと、血で血を洗う航空撃滅戦を展開していた。

 

「来やがったぞ、ヤーボだ!」

「対空砲、展開急げ!三時の方角、戦術爆撃機隊を確認した!」

「ダーナウ・コントロールへ情報を回せ!戦域アラートだ!」

「ヴァイパー大隊は後退し、超長距離光学術式を展開!通信兵、逆探急げ!トータス砲兵大隊を守るんだ!」

 

「トータスよりロメオ03へ、修正射を発砲。効果のほどを求む」

『ザッ………ロメオ03よりトータス、着弾を確認。次弾より効力射に移行されたし』

「了解した。……ッ!?ロメオ03、直ちに離脱せよ!ダキア空軍の対砲兵襲撃部隊が接近中!おい少尉、ダーナウ・コントロールにアラートを出せ!」

 

「あぁもう、何度目の戦域アラートだ、畜生!ダーナウ・コントロールよりモスキートへ、スクランブルだ!接近中の襲撃部隊を邀撃されたし、オーバー!」

『了解!こちらモスキート01、邀撃態勢に移る!敵編隊の座標と推定速度を送られたし!』

 

 

 

「この音…帝国軍の砲撃だ!野郎、この戦域にまで太っちょベルタを持ち出してきやがったな!」

「AWACSにアラートを飛ばせ!それと、手の空いているやつは近隣の魔導部隊にひとっ走り行ってこい!この集積所がやられたらおしまいだ、魔導師共と対砲兵防御線を張るぞ!」

「私が行きます!一番近くのは…ドゥミトル大尉殿の中隊か!三分ください、スクランブルを掛けさせて見せましょう!」

 

「AWACS、第三戦域グリッドA-3において、重砲の着弾を確認した!大至急直近の魔導部隊と戦闘爆撃隊に連絡を!」

『……確認した。こちらAWACSバードアイ、リリー01、およびケベック飛行中隊に伝達。帝国軍重砲が第三戦域のD-15付近に進出し、タンゴ17輜重大隊に砲撃を行っており、これより効力射に移ると思われる。直ちに対砲兵戦に向かわれたし』

『リリー01了解、オーバー』

『ケベック01、同上。オーバー』

『武運を祈る、アウト』

 

「ベーゲン07よりバードアイ、我が部隊は現在独断でタンゴ大隊の対砲兵迎撃戦に当たっているが、限界が近い。近隣に回せる部隊はないか?」

『対抗部隊がすでにダーナウを渡っている。あと十五分耐えてくれ、オーバー』

「了解した。…クソッ、中隊で大隊規模臼砲相手にあと十五分は辛いぞ…!」

 

ダーナウの両岸にはびっしりと塹壕線と沿岸防衛式の陣地が築き上げられ、上空には昼夜を問わず両国の魔導師が飛び交う。帝国軍魔導師は地上の、連合軍魔導師は実験的なAWACSの管制支援を受けつつ、ライン戦線以上の激しい大規模航空撃滅戦を展開していた。このAWACSは、四発爆撃機の試作量産型に大量の電子機材を詰め込んだもので、定期的に空中給油機の補助を受けつつ高度一万メートル弱を常時旋回している。これまでの戦訓によってレーダー技術を飛躍的に向上させた帝国と、十数年の時間と膨大な予算によるゴリ押しによって世界最先端の電子戦技術を手にしたダキア軍の間に発生した一連の電子戦は、この後統一暦1980年代に入ってなお熾烈さにおいて世界一位の座を譲らぬ競争として続くことになる。

 

「十秒後に魔導封鎖!三千フィートから急降下し、一撃離脱する!リリー07、03はチャフを用意!」「了解!魔力注入開始します!」「高度二百フィート!煙幕弾、チャフ発射します!」「目標は砲兵と弾薬備蓄だ!五十フィートまで近づいたら、視線誘導術式を斉射三連、のち最大速力で離脱しろ!あとは、空軍の仕事だ!」

 

「魔導部隊、突入してきます!」「EMCと煙幕を展開しろ!総員、対空攻撃急げ!」「動けるものは防空壕に退避!身を守れ!」「ヴィルベルヴィントはまだ到着しないのか!?もう十五分は前に増援を呼んだはずだぞ!」「この反応…っ、魔導部隊の後ろからヤーボが来るぞ!対空兵器をかき集めて来い!」「もらっt…あぁ糞、またフレアだ!誘導術式が、言うことを聞かない!」

 

魔力を注入することによって、発射三秒後に破片グレネードの要領で炸裂し、鉄片の代わりに魔導反応を放つアルミ箔をばら撒く魔導チャフや、それと同一のフレアガンから発射できるスモークグレネード、そして個々人が数個携帯可能な早爆型の熱源・魔導反応放出型フレアグレネードなど、ダキア軍はミハイの案から派生させる形で、乱戦や格闘戦おいて有利をもたらす数多くの電波妨害兵器を用意している。

 

主兵装となるWz.1926突撃銃は、通常のモーゼル弾はもちろんだが、帝国が二十年前、ダキアが十年前から正式に採用し、Kar98kやWz.1916の弾薬として使用しているモーゼル魔導術弾を使用できる。短機関銃とは異なり長方形の鋼板プレス加工製箱型30発マガジンはやや銃口寄りの下方向に伸びており、ライフル弾譲りの強烈な反動を抑え込むためのフォアグリップが標準装備されるほか、ストックも反動を逃がすためにかなりの小改造が加えられている。西暦世界のカラシニコフやMP40よろしく耐熱、耐火性に優れるフェノール樹脂製のフレームとマガジンを希望したミハイだったが、ダキアではコールタールの原料となる石炭が採掘できないことと、これ以上余計な生産ラインを抱え込むと、肝心の弾薬生産や侵攻の要である装甲戦力の生産に支障が出ると戦務経由で生産サイドからの抗議があり、やむなく鋼板プレス加工に変更された。以降後継となるライフルが開発されるまで、木製フレームと金属プレス加工製機関部が、Wz.1926の標準となった。

 

とはいえ帝国とて指を咥えてダキア軍の躍進を眺めていたわけではなく、それどころかここ数ヶ月で急速にダキア軍の水準に追いつきつつあった。

試作型のアサルトライフルであるMkb27は西暦世界のMkb42同様に成功を収め、既存の短機関銃であるMP24と共に分隊支援火器として配備され始めており、主力小銃と定めたダキア軍ほど配備は早くないものの、それでも順当に行き渡りつつある。

 

装甲部隊も順当に強化されており、つい最近になって配備され始めたVI号重戦車やV号中戦車は、ダーナウ河各所にかかる橋*1やその付近において散発的に発生する戦車戦において、ダキア軍にとってかなりの脅威となっている。88mm砲の対戦車徹甲弾に耐えるように設計されているゲオルゲ中戦車とはいえ、五百メートル以内の至近距離で耐えられるかどうかはかなり怪しい。

 

 

 

 

 

「全魔導師団、いつでも行けます」

 

 

 

 

 

両車両の信頼性がゲオルゲと比較して相当に低い為に現状は優位に立ち回れているが、それならばと頑丈な新型戦車をデコイにし、砲爆撃でぼこぼこにされた地形の陰に、『本命』である信頼性の高いIV号の75mm砲装備型やIV号突撃砲を至近距離に接近するまで隠してぶつけてくる賢しい戦車将校も少なからずいる。完全撃破された車両こそ生存と突貫のバランスを重視した教義の甲斐あって少ないものの、大攻勢開始直後と比べて、ダキア軍装甲戦力の損耗率は跳ね上がっていた。

 

 

 

 

 

「第三・第四航空艦隊、クラクフに到着」

 

 

 

 

 

両軍ともダーナウ戦線から主軍を引きはがせない――引きはがした瞬間に橋を渡って相手の機甲師団が死に物狂いで突っ込んでくるのが目に見えている――都合上、仕方なく両軍が激突する羽目になっているダーナウ戦線だが、これに諸外国は介入しなかったといえば噓になる。連合王国や合衆国、イスパニアに連邦など各国が観戦武官や外交官、はたまた義勇軍を派遣し、介入を試みた。

 

 

 

 

 

「第一〜第七全降下猟兵師団、クラクフ航空基地に移動完了」

 

 

 

 

 

しかし、そのすべてが介入は得策ではないと結論を下していたのである。日に日に激化する戦場は帝国・ダキア両国の新兵器試験場と化しており、列強武官らが彼らの知識で理解できるのはギリギリイルドア軍まで。多種多様な魔導師の装備、ライフル弾を歩兵が携行できるサイズで乱射する突撃銃、リボルバーカノン搭載の戦闘機や汎用航空ロケット弾、各種電子戦設備にAWACSなどは理解の範疇外。

 

 

 

 

 

「全部隊配置完了。あとは閣下の号令を待つのみです」

 

 

 

 

 

ロイヤルの名を冠する連隊や鎮台の名を冠していた頃から存在する歴史の古い部隊を軸に派遣された母国基準では『精鋭』と評される数個師団単位の遣ダキア国際義勇軍や、合州国陸軍と連邦軍が共同で何かを行うと言う前代未聞の事態を引き起こした遣帝国合州国・ルーシー合同義勇軍に至っては、連合王国軍人らしく損切りの判断の早かったドレイク大佐の魔導連隊を残して一週間と持たずに中隊規模すら残さず熾烈な対地襲撃戦の末に溶解した。しかもそれが義勇軍側の指揮官の渡河進撃指示によるだったものだから、直訳すれば『死体の衛生問題も兵站への負荷もゴメンだからそもそも送るな』と言う身もふたもないクレームが派遣先のボスから直々に飛ばされる始末。

 

 

 

 

 

「大変よろしい。よくやってくれた、レルゲン大佐にウーガ大佐。では、定刻通りに発動する。各自、それまで自由にくつろぎたまえ」

 

 

 

 

 

そこには軍事的ロマンチシズムも何もなく、あったのはただただシステム化された戦場のみ。戦訓も何も得られず、ただ兵士だけが闇雲に殺された戦場だった。欧州どころか世界全体で見ても最強格の陸軍国同士の激突に巻き込まれては軍が消し飛びかねんと、人命軽視で名高い連邦軍や、石油貿易のライバル排除を目論んで、旧大陸への介入を強く望む合州国政府ですら匙をn

 

 

 

 

 

 

「…ん?どうした?おい、臨時司令部戦史編纂局、こちらブールクレスト参謀本部、通信を継続されたし。繰り返す、通信を継続されたし…?ったく、また通信障が「大佐殿!緊急事態です!アウステリアのダーナウ方面軍臨時総司令部に、帝国陸軍の大規模空挺部隊が!ダーナウ方面軍司令部は、指揮機能を完全に喪失した模様です!

 

 

 

『作戦参加全部隊に告ぐ。こちらは帝国陸軍戦務参謀長、ハンス・フォン・ゼートゥーアだ。現在時刻一ニ〇〇を持って、作戦『外科医』を発動する。()()()()()()()()()()()()は、所定の行動を。貴官らの稼いだ時間が、帝国の余命となる。アドラー、パンツァー両隊諸君、貴官らはその余命を活かす執刀医だ。貴官らに、帝国の全てが掛かっている。帝国の興廃、この一戦にあり。各員、一層奮励努力されたし、以上』

 

 

*1
ダキア・帝国両軍が橋を渡っての進撃を志向した為、双方が暗黙の了解として橋そのものに一切の攻撃を加えないという、戦史上稀有な状況が生まれていた

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