ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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第三十一話

「「この海戦は、おそらく今大戦の分水嶺となるだろう」」

 

くしくも同じ時刻、ミハイとゼートゥーアは各々の執務室で、側近らにそう零した。

 

「連合艦隊が勝利すれば、ダキアはアドリア海を制圧したも同然。あとはガスマン軍の領域に戦略機動軍を流し込み、帝国軍を包囲するのみ」

 

でっち上げられた数多くの軍事設備によって不夜城と化したブダぺスベルク市街を窓越しに眺めながら、ミハイは呟く。

 

「わが艦隊が勝利すれば、地中海は帝国のものだ。黒海を新造の空母部隊と戦艦隊で制圧し、ブールクレストを東から直撃するのみ」

 

地上の星が輝く灰色の帝都ベルンを三階の窓から眺めながら、ゼートゥーアはレルゲンとウーガに語り掛ける。

 

「「要するに、この一戦は賭けだ。勝てば、勝つ。負ければ、負ける。最善は尽くした。かき集められるものはすべてかき集めた。我々にできるのは、ただ勝利を信じることだけだ」」

 

夜半に出撃し、煌々と輝く月の下で、その黒々とした巨体をシシリー共和国人に見せつけるようにイオニア海までやってきた帝国海軍の主力艦隊を、夜明けとともに出撃したダキア海軍艦隊が迎え撃つ形で、後世『地中海最大の海戦』と称されるイオニア海海戦は始まった。

 

フランソワ亡き今、曲がりなりにも列強に名を連ねる三か国が干戈を交えた決戦だけあり、参加兵力も両軍合わせて百五十五隻にのぼる。これほどの艦隊が地中海において真正面から激突するのは、実にレパン()の海戦以来である。

 

参加戦力の内訳は以下の通り:

 

連合艦隊

 

 

サルミゲトゥーザ級戦艦二隻(紀伊型)(艦隊総旗艦サルミゲトゥーザ含む)

オデーサ級戦艦一隻(長門型)

ブールクレスト級巡洋戦艦二隻(天城型)

コンスタンティン級航空母艦一隻(元金剛型戦艦)

ヨークタウン級航空母艦二隻(合州国製)

イラストリアス級航空母艦一隻(連合王国製)

ミハイ級航空母艦三隻

アルミナ級重巡洋艦六隻

ペトレ級軽巡洋艦四隻

パルプニェヌ級駆逐艦十五隻

 

テゲトフ級戦艦二隻

ケーニヒ級戦艦二隻

巡洋戦艦ブリュッヒャー 一隻(元装甲巡洋艦)

ライプツィヒ・マグデブルグ両級軽巡洋艦計六隻

Z1級駆逐艦三隻

Z5級駆逐艦五隻 

 

ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦三隻

フランチェスコ・カラッチョロ級戦艦三隻

アクィラ級航空母艦ニ隻

ザラ級重巡洋艦四隻

ルイージ・カドルナ級軽巡洋艦二隻

アルベルト・ディ・ジュッサーノ級軽巡洋艦二隻

マエストラーレ級駆逐艦三隻

ソルダティ級駆逐艦六隻

 

計戦艦十三隻、巡戦三隻、空母九隻、重巡十隻、軽巡十四隻、駆逐三十二隻

 

 

 

 

帝国海軍

 

 

 

ヒンデンブルグ級戦艦二隻(艦隊総旗艦ヒンデンブルグ含む)

ビスマルク級戦艦二隻

アドミラル・シェーア級戦艦二隻

バーデン級戦艦六隻

バイエルン級戦艦六隻

ザイドリッツ級巡洋戦艦二隻

ヴュルテンベルク級巡洋戦艦二隻

シャルンホルスト級巡洋戦艦二隻

グラーフ・ツェッペリン級航空母艦二隻

アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦五隻

ドイッチュラント級重巡洋艦六隻

ケーニヒスベルク級軽巡洋艦七隻

ライプツィヒ級軽巡洋艦三隻

マグデブルグ級軽巡洋艦三隻(史実M級)

Z31型駆逐艦七隻

Z23型駆逐艦六隻

Z35級駆逐艦六隻

Z46級駆逐艦五隻

 

計戦艦十八隻、巡戦六隻、空母二隻、重巡十一隻、軽巡十三隻、駆逐二十四隻

 

主力艦の総数ならば同数だが、空母をはじめとする航空戦力となると、空母六隻に満載した艦載機に加え、陸上からの航空部隊を動員できる連合艦隊は帝国海軍を大きくリードしている。

 

が、連携という点では連合艦隊は帝国海軍のそれに大きく水を開けられており、戦艦の質も帝国が上だ。どう転がるかは神のみぞ知る、というやつである。

 

「テゲトフ・カイザー両級は空母部隊の護衛!残余の艦隊は複縦陣を形成し、帝国海軍を挟撃する!」

「第一次攻撃隊、及び護衛戦闘機部隊は発艦せよ!邀撃部隊は別命あるまで待機!」

「パイレーツ連隊、総員発艦!第三大隊の第三・第四中隊は戦艦隊の観測支援、残余は私に続いて雷撃隊の援護だ!ジャガイモ共に海賊の流儀を見せてやれ!」

 

「戦艦並びに大型巡洋艦*1を中心に速力25ノットで輪形陣を形成、のち距離二万五千で右舷側に回頭!敵艦隊に包囲の隙を与えるな!陸から距離を取りつつ、接近戦で封殺する!空母部隊は距離三万五千で待機だ!」

「全邀撃戦闘機部隊を発艦させろ!対空砲と邀撃隊で、敵航空隊をすり潰してやれ!」

「魔導部隊、発艦!近接防空戦に備えろ!パスタ野郎とライミーと吸血鬼が組んだところで、双発宝珠に勝てるはずがないと今一度教育してやれ!」

 

双方の空母部隊は三十キロの距離を保って遊弋し、帝国は戦艦隊と巡洋戦隊がそれぞれ輪形陣を、そして連合艦隊が戦艦・重巡を中心とする第一戦隊と、巡戦・軽巡を主軸とする第二戦隊に分かれて複縦陣を形成し、お互いほぼ等速で接近を続ける。

 

やがて、その時は訪れた。

 

『『敵艦隊、距離一万八千!』』

「「全艦隊、砲撃用意!…交互打ち方、始め!」」

 

くしくもタイミングを同じくして、両軍は砲撃を開始。帝国海軍艦隊ではヒンデンブルグ級とアドミラル・シェーア級の16インチ砲とビスマルク級以下の15インチ砲が轟き、連合艦隊では少年のように目を輝かせる秋津洲海軍の観戦武官の前で、ダキア海軍艦の16インチ砲と、イルドア海軍艦の15インチ砲が唸りを上げる。

 

第一射は両軍ともに全弾狭叉ながら命中無しという締まらない結果に終わったが、どのみちこれは観測射撃。第二斉射より、両軍の命中精度は加速度的に上がり始めた。

 

「命中です!ザイドリッツがやりました!」

「でかした!帰投したら、ザイドリッツの乗組員にはスコッチの特配だな!」

 

一発目を当てたのは、シシリー沖遭遇戦でヴュルテンベルクと共に散々な目にあったザイドリッツ。速力三十ノットで爆走するルイージ・カドルナ級の軽巡洋艦アルマンド・ディアスの後部主砲付近に主砲弾が一発命中し、誘爆と速力の低下こそ何とか免れたものの、後部砲塔は完全に使用不能になった。

 

が、今度はお返しだとばかりにイルドア海軍が命中弾を立て続けに叩き出した。アルマンド・ディアスの姉妹艦であるルイージ・カドンナがバーデン級戦艦テューリンゲンの副砲塔に徹甲弾を、アクィラの艦載機が重巡ドイッチュラントの艦橋に爆弾をそれぞれぶち当て、仕上げとばかりに戦艦クリストーフォロ・コロンボの38.1cm砲が、輪形陣の前衛の一翼を担っていたライプツィヒ級の軽巡ベルクホーフ前部主砲の弾薬庫に直撃。乗員の必死のダメコンにより撃沈こそ免れたものの、同艦は落伍を余儀なくされた、

 

しかし、艦隊防空戦ではやはり帝国海軍は強い。ハリネズミのように機銃を増設した主力戦艦群を軸に、輪形陣と邀撃艦載機のコンビで確実に連合艦隊の航空戦力を削いでいる。艦爆型オリオンIVでも外周の艦艇に航空攻撃を当てるのが精一杯であり、主力艦への雷撃など夢のまた夢だった。

 

 

 

そうこうしているうちに両艦隊の砲戦距離は十五キロまで縮まり、戦艦砲に加え、先ほどまでは狭叉に留まっていた軽巡や駆逐艦の主砲弾も続々と命中し始めた。

 

艦隊防空戦の激しさもいや増し、連合艦隊の航空隊のローテーションの隙間を縫って、帝国海軍の艦載機もちらほら飛んでくる。弾着観測任務に当たるドレイクら海兵魔導師も一部を防空に当てざるを得ず、最序盤で空母の護衛に戦艦四隻を割り当てた連合艦隊は、砲戦火力で次第に劣勢になり始めた。

 

戦隊旗艦として戦列の先頭を突っ走るサルミゲトゥーザとヴィットリオ・ヴェネトには砲撃が集中しており、被弾と火災で濛々と煙を上げる様は、側から見ればまるで活火山。連合艦隊も負けじと主砲を唸らせ、先ほど損傷したベルクホーフを大破撃沈に追い込み、さらに追加で重巡ドイッチュラントを中破させる。そして、開戦から三時間が経過した午前10時半、航空隊が大金星を上げた。

 

「こちらイラストリアス航空隊!戦艦ビスマルクに雷撃が命中!繰り返す、戦艦ビスマルクに雷撃が命中!同艦は急速に速力を減じつつあり!

 

空母イラストリアスから発艦したダキア海軍航空隊の雷撃が、なんの因果かビスマルクの右舷後部に直撃。複数の魚雷を立て続けにぶち込まれたことで同艦は右舷側に大きく傾斜し、機関部も損傷。リンネマン提督の素早い判断によって同艦は左舷側への注水を急がせるとともに空母艦隊の方へと後退したものの、その後の執拗な航空攻撃によってじわじわとダメージが蓄積し、最終的にビスマルクは浮遊しながら副砲を撃つのがやっとな鉄屑になってようやく解放された。

 

が、直後に帝国海軍は手痛い反撃を加える。

 

「のがっ…何の音だ!?状況報告!」

「戦艦ローマの左舷中央部、および本艦の左舷前方に航空爆弾が直撃!急速に傾斜しています!」

「ただちに一番・二番主砲の弾薬庫に注水!全てのポンプを叩き起こせ!」

「後部主砲は射撃を継続!弾幕を切らすな!」

 

「ただちに右舷側のポンプを稼働させろ!右舷隔壁に注水!ここでローマを、15インチ砲艦を失うわけにはいかん!何が何でも立て直せ!」

「右舷側ポンプ、八割が復旧!直ちに注水開始します!」

「でかした!ローマからヴィットリオ・ヴェネト、及びサルミゲトゥーザへ!本艦は戦列より離脱し、後方にて援護射撃を継続する!全主砲は安全確認が取れ次第、直ちに砲撃を再開しろ!…なるほど、これがミハイ閣下のおっしゃっていた、『フリッツX』か」

 

出撃直前、いやな胸騒ぎに苛まれたミハイが、念のために戦艦イルドアとローマの艦長に含めておいた、帝国空軍が保有する大型滑空爆弾。フリッツXの名で後世呼ばれるそれが、イルドア海軍の戦艦二隻に炸裂したのだ。的確なダメージコントロールで両艦は安定を取り戻したが、両艦は指揮官らが迷っている間にもヒンデンブルグ級二隻の集中射撃によってさらに損害を被っており、最早戦列に立つことができないのは乗組員の目にも明らかだった。

 

度重なる改装によって不沈戦艦と謳われるまでになったサルミゲトゥーザ級の二隻も、ここまで真正面から16インチ砲に殴られれば相応に傷つく。舷側には数えきれないほどの弾痕が作られ、副砲もすでに半分は機能を停止。対空兵装と五基の連装主砲こそ健在だが、速力もじわじわと低下していた。

 

戦闘開始から既に五時間が経過しており、ここまでの損失は帝国海軍が戦艦1大破、1中破、3小破、巡戦2大破、重巡1撃沈、3小破、軽巡1撃沈、2大破、1中破、駆逐3撃沈。対する連合艦隊は戦艦1大破、2中破、2小破、重巡2中破、軽巡1大破、駆逐6撃沈となっている。双方相応に損傷しているが、戦列に並ぶ戦艦の数では、帝国海軍が圧倒し始めていた。

 

しかし、連合艦隊の損失も決して無駄ではなかったのである。かなりの数の帝国海軍前衛、即ち駆逐艦や巡洋艦、巡洋戦艦を戦闘不能に追い込んだことによって、帝国側の防空網にちらほら穴が開き始めたのだ。

 

それに気がついたコンスタンティンは、無理に主力艦を狙わせるよりも、防御力の低い前衛艦への集中砲火を指示。突如として大口径榴弾の集中豪雨に襲われた前衛は大混乱になり、続々と損失を出し始めた。

 

「重巡洋艦ケーニヒ・ヴィルヘルム大破!前部主砲の弾薬庫に引火した模様!」

「ぐはっ…こ、こちら軽巡マグデブルク、喫水線下に敵駆逐艦の雷撃が!浸水が止まりません!」

「Z44、轟沈!繰り返す、Z44、轟沈!乗組員の救援許可を!」

「クソ、クソ、クソ!こちら大型巡洋艦プリンツ・アーダルベルト!喫水線下に多数の航空魚雷を被弾!これより進路を南西に取り、シシリー共和国沿岸に擱座させる!大巡一隻失うよりはましなはずだ!」

 

航空攻撃と猛烈な砲撃による一連の攻撃により、ドス黒い重油と防空網にぽっかりと開いた穴を残して、巡戦から駆逐艦に至るまで、合計二十隻の艦を撃沈ないし落伍に追い込んだ連合艦隊は、ここで最後の余力を振り絞り、今まで待機させていた部隊を含む全艦載機と陸上部隊を全てその穴に投入。同時に艦隊そのものも、テゲトフ級とカイザー級を空母の護衛から剥がし、落伍した戦艦の穴を埋めた上で、帝国艦隊へと急接近した。

 

All planes in the air, NOW(ありったけを空に上げろ)!ポテト野郎をマッシュにしてやれ!」

「最大戦速まで加速せよ!ここが正念場だ!総員、腹を括れ!」

 

「敵艦隊、突っ込んできます!」

「全砲門開け!連中を近づけるな!」

 

空を埋め尽くすほどの銀翼の群れ。単縦陣を組み、最大戦速で一直線に突っ込む連合艦隊の頭上には、何人たりとも手出しを許さないと言わんばかりに、ダキア・イルドア両国の最新鋭戦闘機がその翼を連ね、その後ろには魚雷や爆弾をペイロードギリギリまで抱えた攻撃部隊の群れが続いている。

 

近づく帝国海軍機は片っ端からオリオンのモーターカノンやイルドア空軍が誇る新鋭戦闘機、Re.2001アリエテのMK151機関砲*2の餌食になり、艦隊防空を試みようにも、連合艦隊の擁する軽快な航空機群の前では穴だらけの防空網などザルに等しい。護衛艦隊を集中させようにも、激しい砲火の合間を縫って突撃する連合艦隊の水雷戦隊に集結する側から魚雷を投げつけられては、恐れを知らぬ大洋艦隊の襲撃部隊も手の出しようがなかった。

 

「のがっ…て、提督!これ以上の進撃は危険です!旗艦が轟沈しては、寄せ集めのわが艦隊はバラバラに!」

戦艦が簡単に沈むか!一番主砲は左舷側軽巡洋艦、二番主砲は前方の巡洋戦艦にそれぞれ射撃!副砲は各個射撃に移行しろ!秋津洲海軍とウチの技術者を信じるんだ!」

「…なんですか、それ?」

「知らん。閣下から教わった呪い(まじない)のようなものだ。どれだけのピンチに陥ろうと、これを言えば、戦艦は沈まんのだとよ」

 

呪いの真偽はともかく、これまで散々敵弾を耐え抜いて来た戦艦サルミゲトゥーザの前方装甲は裏切らない。周囲の護衛艦隊を叩きのめしつつ着実に連合艦隊は前進し、やがて帝国艦隊との距離が8キロにまで縮まったところで急速回頭。側から見れば無謀な賭けだが、実のところ連合艦隊の狙いは砲戦距離の短縮による命中率のさらなる上昇ではなく、限定的な数的優勢の確保であった。

 

単縦陣で真正面からの戦闘を挑む連合艦隊に対し、圧倒的な航空戦力を前に輪形陣を維持せざるを得ない帝国艦隊は、至近距離では友軍誤射を避けるために一方向への砲戦火力がガタ落ちする。加えて、連合艦隊には帝国海軍の魔導師より圧倒的に練度の面で勝る、連合王国海軍の海兵魔導連隊が随伴していた。

 

「第一大隊は私とジャガイモ共の相手だ!残余はウィリアム、貴様が率いろ!対空砲と副兵装を打ち壊せ!」

「クソっ、貴様らは所詮義勇魔導師だろう!どうして共戦国でもない艦隊のためにそこまでする!?」

「生憎、友人のために命を懸けられないほど、人間をやめていないもんでなぁ!」

 

交戦距離によって正面戦力を強制的に制限され、航空機や戦艦砲よりはるかに攻撃精度の高い魔導師に長所である副兵装と対空火器まで嬲られては、接近戦を得意とする帝国海軍といえど立つ瀬が無い。これまでセーブを余儀なくされてきた連合艦隊の航空戦力と水雷戦力が、帝国海軍の主力に一斉に牙を剥いた。

 

「アウグスト・フォン・パーセヴァル、喫水線下に被雷!これ以上の継戦は…」

「大型巡洋艦フォン・デア・タン*3、艦橋に被弾!司令部要員、全滅した模様!…っ!?だ、弾薬庫が!マッケンゼンの弾薬庫が!パーセヴァルも巻き込まれました!」

「こちらヒンデンブルグ、応答せよ!メルヒン、メルヒン!…クソッ!旗旒信号用意!マッケンゼンとパーセヴァルに総員退艦命令!」

 

「最先任殿、ヒンデンブルグより総員退艦命令が!」

「やむを得んか…こちら最先任将校、砲術長ミュラー少佐。メルヒン艦長が戦死なされたため、これより小官が指揮を取る。旗艦より総員退艦命令が降った。総員、直ちに機関を停止させ、キングストン弁を解放。救命ボートに退避せよ。繰り返す、総員…」

 

「駄目です、ダキア海軍艦載機、本艦の防空網を突破!」

「敵爆弾と機銃掃射、来ます!」

「総員、何でもいい!何かの後ろに伏せろ!」

 

次から次へと投げつけられる航空爆弾に、シャワーのように浴びせかけられる大口径徹甲弾。戦艦の装甲相手では豆鉄砲どころかクラッカー程度の威力も持たない戦闘機の機関砲弾も、度重なる攻撃でカバーを失った司令部要員の肉体にとっては、なまじ即死できないがゆえに戦艦砲より恐ろしい。わずか一時間弱の間に巡戦フォン・デア・タン、戦艦マッケンゼン、アウグスト・フォン・パーセヴァルの三隻が大破し、うちマッケンゼンは総員退艦命令の後に、フォン・デア・タンはそれすら出す間もなく、多数の乗員と共に轟沈。総員退艦命令後もキングストン弁の不調と破断からの海水の流入によって奇跡的に生き残ったフォン・パーセヴァルはダキア海軍の後続に捕獲されたが、帝国海軍にそれを止める余力は残っていなかった。

 

その後もエルツヘルツォーク・カール、フリードリッヒ・デア・グローセ、バイエルン、バーゼル、ティルピッツと、旗艦となりうる艦艇が続々脱落し、やがてヒンデンブルクのみが生き残る。総員退艦と無理のない範囲での艦の放棄を優先した結果、かなりの帝国海軍艦が連合艦隊に捕獲されたが、燃え盛るむき出しの艦橋で呆然と佇むリンネマンには、もはやどうでもよくなっていた。

 

やがて、決着の時は訪れる。

 

「帝国海軍中将、エルンスト・フォン・リンネマン中将とお見受けする。小官はダキア・イルドア連合艦隊所属、連合王国海軍義勇海兵魔導連隊長、サー・アイザック・ダスティン・ドレイク大佐だ。いま降伏していただければ、総員の命は軍旗に誓って保証するが…」

「…ああ、私がリンネマン中将だ。…理解した。艦長、各艦に通信を繋いでくれ。…よし。旗艦ヒンデンブルグより全艦隊へ。今より本艦隊は、連合艦隊に…降伏する。小官は各員に、最後まで栄光ある大洋艦隊の名を辱めぬ振る舞いを期待するものである」

 

統一歴1927年、帝国海軍大洋艦隊は連合艦隊の前に惜しくも敗北。大洋艦隊第二旗艦である戦艦アドミラル・シェーアと、連合艦隊第二旗艦であるサルミゲトゥーザ級の戦艦トゥルヌ・セヴェリン両艦の轟沈で幕を閉じた一連の大海戦は、大艦巨砲主義の時代の最後を華々しく飾ると共に、新たなる欧州の覇者の誕生をも祝するかのようであった。

*1
帝国海軍では他国における巡洋戦艦を大型巡洋艦と呼称していた

*2
ダキアが帝国からパクったはいいものの、オリオンIVの配備前倒しによって余剰と化した同機関砲の生産ラインをイルドアが引き取り生産したもの

*3
同名艦の代艦にして、ヴュルテンベルク級巡洋戦艦三番艦。初代は既に退役済み

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