ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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あともうちょっとだけ続くんじゃ


第三十二話

そこからは、新生ダキア軍の歴史において、最も激動の時代だったと記録されている。

 

海戦の終結後、戦艦十三隻と空母二隻をはじめ大量の艦艇を鹵獲した連合艦隊は、再びブタペスベルクの総司令部からひょっこり現れたミハイの指揮下で、時をおかずしてその戦力をフル活用し始めた。イルドア半島南端のターラント軍港で補給と若干の整備を終えた連合艦隊は、イルドア海軍のペルゴレミーニ大将を提督に据え、未だ戦傷の色濃く残るサルミゲトゥーザ、そして海戦には未参加だったヴィットリオ・ヴェネト級のインペロとカイオ・ドゥイリオ級ニ隻を筆頭に、イルドア・旧帝国両海軍の巡洋艦と、イルドア海軍機を満載したアクィラ級二隻を擁する三十隻ほどの艦隊を編成。同艦隊はマーセイユにある帝国海軍基地の破壊と、イルドア陸軍の砲撃支援任務を帯びて、意気揚々と西地中海に出航した。同時に今度はコンスタンティンの指揮の下、比較的損傷の少ない両国艦艇と()()()()()()()()()五隻を組ませて三十五隻ほどの俄仕立ての打撃部隊が編成された。同艦隊はペルゴレミーニ艦隊の出航から三日後に、比較的海戦での損傷の少なかったアドミラル・シェーア級戦艦の生き残りである戦艦オーディンの後部マストに、ダキア海軍大将旗、ダキア軍元帥旗、そしてドレイクの連隊旗を掲げ、帝国海軍の巣窟であるアドリア海に乗り出した。

 

出くわす潜水艦を徹底的に対潜迫撃砲と投下型爆雷で叩きのめし、小型雷撃艇を艦載副砲と補助艦の主砲で蹴散らしながら前進を続けた艦隊は、定刻より少し遅れてトリエステのU-boatブンカーに到着。鹵獲したイルドア軍重砲を流用したとみられる少数の沿岸砲とわずか三個連隊の帝国軍歩兵が詰めるブンカーの十五キロ沖合で一度足を止めると、砲撃の主役となる戦艦隊と重巡隊は沖合で錨を下ろした。そのほかの補助艦は対潜・対小型舟艇哨戒のために周囲に散開し、これまた帝国のものにダキアのラウンデルを張り付けただけで塗装も全くそのままのアラドAr196と、九七式演算宝珠で武装したドレイクら海兵魔導師を合同で弾着観測任務に上げた。

 

一方のU-boatブンカ―はどうしていたのかと言えば、こちらは沖合に停泊した大洋艦隊の負傷者を受け入れねばならぬと、一兵卒から司令官に至るまで上を下への大騒ぎになっていた。

 

帝国海軍主力艦の設計は、いずれも統一歴1800年代に建造されたバイエルン級から上部構造物に関してはさほど変化しておらず、ダキア海軍戦艦のパゴタマストやイルドア海軍の特徴的な円筒型艦橋とは、十キロほど距離が離れようとまず見間違えない。そして、トリエステの海軍港にも海戦敗北の報は伝わっていたが、なにぶんほとんど戻ってきた帝国海軍将兵がいない為、最高司令部である帝国北辺のキィエール海軍総司令部どころか、最寄りの海岸基地であるトリエステとマーセイユですら『主力艦多数損傷・少数轟沈』程度の情報しか受け取っていなかったのだ。

 

要するに、帝国海軍内海潜水艦隊の面々は、沖合に浮かぶ帝国海軍の艦艇群を海戦の敗残兵だと勘違いしたのである。両軍に都合の悪いことに到着三時間前から雨が降り出し、またアドミラル・シェーア級やバイエルン級、バーデン級と言った名だたる帝国海軍の主力戦艦が揃っていた為無理のない話ではあるのだが、警戒心を解いた代償は高くついた。

 

「どういうことだ!?大洋艦隊の連中、なんだってこっちを撃ってやがる!?」

「まさか…クソッタレ、ダキアとイルドアの海軍旗だ!あれは大洋艦隊じゃない、敵艦隊だ!連中、ウチの主力艦を根こそぎ鹵獲しやがった!」

「総員、第一種戦闘配置!陸軍にも直ちに伝達しろ!全砲台は敵艦隊を狙え!水雷艇も全力出撃だ!」

 

帝国側の対応は素早く、砲撃開始から五分と経たずに第一種戦闘配置が発令されたが時すでに遅し。雨霰と降り注ぐイルドア海軍謹製対バンカー用重徹甲弾を前に、未だその短い歴史の中でグランドスラムもトールボーイも喰らっていないやわらか装甲のU-boatブンカーは紙同然であった。

 

「げほっ、げほっ…大佐殿!ベーゼ大佐殿!」

「ここだ!どうした、少佐!」

「ここにおられましたか!…ザールリヒター大将が戦死なされました。今現在、確認できる限りにおいて、大佐殿が最先任です。…どうか、ご決断を」

「…ハァ。了解した。少尉、全回線で最大出力だ。『我降伏せり』、返答あるまで何度でも打電しろ。少佐、貴官は非武装の小型艇と、海軍旗を一枚用意しろ。私が交渉に向かう」

 

「…ブンカーから通信、『我降伏せり』。最大出力で、全回線で繰り返されています」

「よし。対応は…そうだな、プリンツ・ループレヒト*1のアルトリア少将で良いだろう。副司令、新兵の多い軽巡を五隻ほど見繕ってくれ。それが済んだら反転だ。陸さんの船団護衛と洒落込もう」

「了解いたしました。艦長!二時間後に再度出発だ。準備をしておいてくれ」

「了解です。…っと、ちょうどいいところにいたな。少佐、十分後に航海長と機関長を呼んでくれ。頼んだぞ」

 

時を同じくして、帝国海軍の最新鋭潜水艦たるXXI型潜水艦の一番艦U-2501の乗組員らは、未だかつて見たこともないような巨大な反応を前に、攻撃準備も忘れて呆気に取られていた。

 

「なあリューベック、本当にソナーの異常ではないんだよな?」

「はい、艦長。私とそこの曹長が確認できる限りにおいて、本艦のソナーは寸分の狂いなく正常に稼働しております。だな、ブフマイヤー?」

「こいつが異常ならば、帝国中の全てのソナーがぶっ壊れている事でしょうな。…おそらく、目の前の反応に間違いは無いかと」

 

戦艦ないし空母と思しき多数の大型艦を筆頭に、レーダー反応を飽和させるほど密集した多数の中小艦艇。数多くのU-boatを渡り歩いたアルブレヒト艦長以下のクルーらをして瞠目させる規模の船団が、帝国潜水艦隊の庭と化した海を悠々と航行していた。

 

「最近、妙に同僚の数が減っているような気がしたが…」

「おそらく、これ関連でしょうな。…『狩られた』のでしょう。パスタ野郎はともかく、ダキア海軍は手強い。ウチも他人事じゃありませんな」

 

ダキアが現在保有する装甲戦力は、完全機械化された六個機甲師団と、他国基準ならば機甲師団と呼んでして差し支えない六個機械化歩兵師団の合計十二個師団。今回のガスマン軍の救援では、それに加えてこれまた他国基準ならば機械化歩兵師団に値する後詰めの十五個歩兵師団の合計二十七個師団がはるばるダキア本土から派遣される。陸上輸送でさえ本国から大量の燃料を貨物列車単位で輸送してようやく動かせる規模であり、海上輸送ともなればある程度の船腹を持つ船を百隻単位で動員してやっと半分。

 

一定期間の活動に必要な補給物資も含めば機甲師団なら三個、機械化師団なら六個、歩兵師団ならば十個が限度であり、維持管理には同程度の船団によるピストン輸送も要求される。今回のように揚陸地点から進撃しようと思えば、さらに継続的な補給トラックと鉄道車両の揚陸も必要だ。何をするにも石油を大量に必要とするダキア軍の、アキレス腱とも言える要素が海上兵站だった。

 

当然ゼートゥーアもそのことは把握済みであり、だからこそ最新鋭潜水艦であるU-XXI――この世界では合州国と連邦がやや帝国よりなため、資材や技術も安定して信頼性の高いものを使用できた――を筆頭に、大量の通商破壊部隊を差し向け、最終的には師団の海上輸送そのものを遮断しようと大洋艦隊を差し向けたわけである。

 

が、現実として大洋艦隊は今や半分が連合艦隊の手に落ち、かなりの数がダキア海軍旗を掲げて我が物顔で地中海を走り回り、本格的にアドリア海で暴れはじめたダキア海軍水雷戦隊を前にU-XXIですらたじたじである。

 

命知らずの帝国海軍の潜水艦乗りたちですら尻込みさせるような、近代国家の暴力の研ぎ澄まされた鋭鋒が、今まさに帝国に牙を剥こうとしていた。

 

 

 

 

最後の支援から一週間、最新兵器を手にしながらも、ガスマン大佐率いる二十万弱の連合軍将兵は、百メートル、また百メートルと、着実に海岸へ追い詰められつつあった。

 

雨あられと降り注ぐ重砲弾。友軍の奮闘虚しく、ひっきりりなしにサイレンを響かせる忌々しい急降下爆撃機により、ドカスカとせっかく掘った塹壕にピンポイントでばらまかれる航空爆弾。いくら武器が強くなろうと、数的劣勢という事実は拭えない。

 

「おそらく、あと持って三日です。それ以上が過ぎれば……」

「落ち着け、准将。我々にはただ待つことしかできん。……ミハイ閣下を信じるのだ」

 

一兵卒から総司令官まで、皆そろって等しく泥まみれ。最高司令官であり、綺羅星をぶら下げるガスマンであってもそれは例外ではなく、今も銃口の焦げ付いたライフルを片手に、砲撃でボコボコになった司令部区画の片隅でカンパンをかじっている真っ最中である。レーションは散々届けられたのだが、悲しいかな火を起こしているヒマすら彼らには許されていないのだ。

 

「っ!?狙撃兵です!方位、三三〇!」

「ふむ…見えた!」

「敵狙撃兵、沈黙!お見事です、閣下」

「まぁこの程度、植民地戦争に比べればぬるま湯同然だよ」

 

つい四日前まで飛行場だった港湾都市の外郭まで狙撃兵が浸透しているという事実に内心暗澹とさせられる彼らだが、悲しいかな追加で舞い込んできたのは特大の悲報だった。

 

「……閣下、哨戒艇が沖合に帝国海軍の戦艦部隊を確認しました。規模は推定で戦艦五隻、いずれも超弩級戦艦です」

「…そうか、ミハイ閣下は賭けに負けたか。……発令、沿岸防衛部隊は直ちに内陸に退避し、防衛線南西部に集結せよ。南ルメリア方面への打通を試みる」

「了解いたしました」

 

やがて響きはじめる戦艦砲の重厚な砲撃音。観測射の弾着の水飛沫が嫌にはっきり聞こえるのは気のせいだろうか?やがて効力射と思しき統制射撃の発砲音が響き始め、数秒としないうちに大口径弾が放つシャリシャリとした飛翔音も、火事場の馬鹿力じみた聴力を発揮したガスマンの耳ははっきりととらえた。

 

「どうやら、お迎えが来てしまったらしいね。次席指揮官は……ダキア軍第三歩兵旅団のクライスラー准将に頼もうか。彼の手腕なら、うまくまとめてくれるだろう」

 

秘かに胸の上で十字を切り、すべてを諦めた者のみが浮かべられる安らかな表情とともに、ガスマンはそっと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

しかし、予想に反して砲弾は彼らの頭上には降ってこなかった。

 

「……おや?まだ生きているな。ヴァルハラにしては空気が煤臭いし、何より騒がしすぎるね。おーい、無事なものはいるか?」

 

点呼をとってみれば、なんと司令部要員のすべてが無傷。司令部施設もボロボロのままであり、四十センチ級の大口径弾を食らった痕跡はない。不思議がってぐるりとあたりを見渡してみれば、あれはどういうことだろう?

 

「……どういうことだね、これは。なんだって帝国海軍の戦艦が、帝国軍に砲弾をぶち込むんだ?」

 

一瞬誤射かとも思ったが、放たれる戦艦砲は寸分狂わず片っ端から帝国軍の包囲網を更地に戻していく。重厚な爆発音に交じって帝国語の悲鳴や断末魔が響くさまは、いっそ滑稽ですらあった。

 

訳もわからず目の前で上がる爆炎を呆然と眺める彼らの意識を覚醒させたのは、通信越しに魔導師が上げた勝利の雄叫び。

 

「大将閣下!あれは帝国海軍ではありません!ダキア海軍です!連中、やりやがった!帝国の大洋艦隊に勝ったんだ!」

「最高の報告だよ、少尉!先ほどの命令を撤回、沿岸防衛部隊は一個連隊を残し、全部隊を攻勢発起時の予備戦力とする!沿岸の連隊は艦隊の受け入れ準備だ!全部隊に伝達、反攻の準備を整えろ!」

 

艦隊旗艦である戦艦オーディンの艦橋で艦隊司令官と艦長を従えながら得意げに手を振るミハイを、ガスマン軍の面々は大歓声と共に迎え、パフォーマンスも兼ねてダルマティアに再び降り立ったミハイとガスマンが、そしてドレイクとアントネスクの師弟がそれぞれ固い抱擁を交わした。

 

「攻勢の準備は?」

「今すぐにでも。行きますよ、大将。このクソッタレた戦争劇も、そろそろ終幕の頃合いです。…これ以上死ぬ前に、ケリをつけます」

「仰せのままに、Vostra Maresciallo d’Dacia(ダキア元帥閣下)

 

欧州大戦の終幕を華々しく飾るこの一戦に、ダキア軍は今大戦最後となる新兵器の数々を投入した。

 

本体重量わずか14キロ、サイズにしてM2ベローニング重機関銃の半分強という、オーウェンのツテでミハイが招聘したオースティン人技術者の手で開発された、超小型プルパップ式12.7mm重機関銃。

 

88mm対戦車砲を搭載し、V号戦車と同格の速力とVI号重戦車に等しい攻撃力・防御力を兼ね備えた、欧州最強の戦車たるゲオルゲII。

 

九七式演算宝珠の徹底的なリバースエンジニアリングと、連合王国技術者の協力で開発された01式双発演算宝珠、通称フルガー(雷霆)

 

欧州大戦後も長く使われ続けたこの三種類の他にも、歩兵砲を搭載した装甲兵員輸送車や装輪迫撃砲、さらには余剰となった初代ゲオルゲ*2に開戦劈頭から今の今まで歩兵の頼れる味方となっている40mm対空砲を連装で搭載した対空戦車など、新兵器を定数装備した文字通りの最精鋭部隊でもって、ダキアはここまでの大規模な戦線移動と数多くの戦いで消耗し切った帝国の、それもガスマン軍の明らかな劣勢で相当に油断していた後方部隊に襲いかかった。

 

「掃討完了!歩兵部隊は後方の警備を続けてくれ。車両部隊は前進を再開しろ!」

「全く、88mm様様だな。75mm砲だったらこうは行かねぇぜ」

「第一連隊は側面に展開、後方を固めろ!重機はそのまま装甲部隊と前進!戦車隊の露払いを行え!」

 

「閣下、前線からの報告です。地中海沿岸の包囲地域に、大規模な増援が。……詳しい情報はいまだ不明ですが……大洋艦隊は敗北、それも艦隊の半数以上を失う規模で大敗した模様です」

「そうか……ご苦労、レルゲン准将。辛い報告をさせてしまったな。……手数だが、参謀本部に暗号電文を頼みたい」

「何なりと。文面はどういたしますか?」

「『黎明は近い、だが払暁あり』。ゼートゥーアのアホなら、理解するだろう。貴官も早く麾下部隊を率いて撤退するのだ。帝国の陽は、もう上ることはないのだからな」

 

当然ながら事態に気がついた帝国軍は死に物狂いで抵抗するが、ここで大戦後期の帝国戦車に共通する信頼性の低さが牙を剥く。トラックと鉄道車両による堅牢な兵站網の構築を前提に、弾薬庫と燃料タンクを削る代わりにコンパクトな車体に堅牢な装甲と大口径主砲を捩じ込んだダキア軍戦車は頑丈だ。元となったIII号戦車からして、V号やVI号に比べれば稼働率という面ではかなり上回る。

 

それに対し、国内にダキアほど強力な車両の生産基盤を持たない帝国軍は、未だ機甲部隊や機械化師団の装甲化率もまずまずといったレベルであり、歩兵部隊が攻勢で最前線運用できる重機関銃などもってのほか。戦車部隊も足回りは基本的にサラブレッド同然であり、重戦車はこれに加えて馬力不足も顕著。頼みの綱であった演算宝珠の性能差も、ダキア軍の手によって実用的な双発宝珠が開発された事で無に帰した。

 

「Mayday, Mayday, MAYDAY!ダキア軍の新型戦車を確認!おそらく88mm型だ!VI号の装甲でも、遠距離から簡単にぶち抜かれちまう!」

「通りで連中の戦車、砲塔の割に妙に主砲が小さいわけだよ…」

「この威力…12.7mm!?どうやってあんな嵩張るもんを攻勢の最先鋒に!?」

「知るか、ンなもん!死にたくなけりゃ、頭を下げて岩壁の後ろに隠れてろ!」

「どういう事だ!連中、動きが良過ぎる!一朝一夕でどうにかなるレベルではないぞ!?」

「この反応…まさか!大隊長殿、国産か鹵獲かコピーかは分かりませんが、連中おそらく我が軍と同じ双発宝珠を使い始めたものと思われます。ここのレーダー波形をご覧下さい。クセはありますが、九七式と一致します」

 

道半ばで果てた『黎明と払暁』作戦を再現するかのように、ダキア軍機甲師団は快進撃を続けた。前線には六個師団の機甲師団に加え、軍団規模の航空魔導師が先鋒舞台に常時随伴。多国籍軍の強みを生かし、連絡路の防衛を試みる帝国軍部隊を散々に痛打し、ドレイク大佐率いる連合王国二個義勇魔導旅団と、それに援護されたダキア軍の戦略機動軍十個師団が、上陸からわずか一週間でアウステリアの大都市リンツまで進軍。リンツ郊外に急遽展開した、最新装備を受領したばかりの帝国軍の第一、第二、第三装甲軍との間で、史上最大の戦車戦が勃発した。

 

結果から言えば、リンツ戦車戦は帝国にとって散々な結果で幕を閉じた。リンツ北西と北東からそれぞれ第一、第三装甲軍が、そして真北から主力である三個装甲軍が進撃する形で始まった戦いだったが、ブダぺスベルク前面からリンツまでの強行軍による機械的疲労と、慢性的な機械的信頼性の低さで、V号、VI号戦車はなんとその半分が進撃の道半ばで立ち往生。のちにダキア軍側から『サラブレッドの重騎兵』と皮肉られたVI号戦車はさておき、ヤークトパンターにおいて成功をおさめ、V号戦車にも施されるはずだった減速装置の改良も間に合わないまま始まったこの戦いにおいて、帝国軍の戦力不足は顕著だった。

 

「401重戦車中隊……は、後方で立ち往生か。仕方ない、203重駆逐戦車大隊、地点ユーバームートに展開、敵部隊の側面を狙え!」

「103大隊、前進せよ!……おい、103!応答せよ!ヴィルヘルム04、何をやっている!」

「師団長殿、103大隊は整備中です。もう、予備戦力は……」

「クソッタレ、やっぱりそうか!あんなデカブツを生産しているヒマがあったら、IV号戦車を改良しろってんだ、全く!」

 

「敵部隊の圧力が想定より低いな。この波を乗り切ったら、反撃に移る。軍司令部に増援要請を。そうだな…第六機械化歩兵師団でいいだろう。確か連中は司令部予備だったはずだ」

「第三機甲師団が突っ込んだか。アンソン准将にドレイク大佐、援護を頼めますか?必要なら、アントネスク大佐の連隊も連れていって構いませんよ」

「御下命のままに、元帥閣下。ドレイク大佐、招集を頼めるか?」

「ならば…そうですね、5分下さい。近隣全部隊を招集します」

「…まったく、頼もしい友人を持てたものですね、私も」

 

結果的に帝国軍機甲師団の主力はIV号戦車のH型、J型と、ヤークトパンターやIV号駆逐戦車などに限定された。いずれもゲオルゲIIの装甲を相当の距離から貫徹できる火力を有していたものの、撃破可能射程では圧倒的に劣っており、航空戦力に至っては残酷なまでに天秤はダキアに傾いていた。このような状況では、初めから勝敗は決まっていたようなものだった。

 

そして、決着の時は訪れる。

 

「よっしゃ!第三機甲師団が、チェチア要塞の第百十六師団と接触しました!装甲軍の一部を除き、包囲網を脱出した帝国軍部隊は、今のところ確認されていません!」

「直ちに歩兵師団を注入!イルドアだろうとダキアだろうと構うな!ありったけの部隊を注ぎ込め!」

 

1927年10月27日、ダキア軍の機甲師団はチェチア要塞に立て篭もるダキア軍部隊と接触。帝国軍の主力野戦軍百七十個師団はほぼすべてが包囲され、総司令官たるクルト・フォン・ルーデルドルフ上級大将の指揮の下、事前にかろうじて離脱したレルゲン師団と魔導部隊を除き、大戦終結まで絶望的な持久戦を戦い抜くことになる。

 

なんとか解囲を試みようにも、機甲師団が切り開いた道にはすでにヴェネツィア攻防戦を戦い抜いた歴戦のイルドア軍歩兵部隊と、足の速いダキア軍歩兵師団が展開し、死に物狂いで包囲を維持しようと頑強な防衛戦を築いており、とてもではないが打通など不可能。その後もダキア軍の先鋒集団は誓約同盟方面軍救援作戦、イルドア方面地中海打通作戦と、イルドア半島の付け根から帝国南部に至るまでの範囲を降りしきる雪をものともせずに暴れまわり、やがて年が明けるころにはイルドア軍歩兵、ダキア軍魔導部隊、そして連合王国義勇魔導軍を引き連れ再びダーナウを渡河。少数の後方部隊を蹴散らすと、正規軍と国民擲弾兵師団を呼称する民兵団が立てこもるニュルンベルクの外郭に、かつてのダーナウ戦線とは比べ物にならないほど分厚い陣容で展開した。

 

1928年1月16日、骨の髄までとまではいかずとも、分厚い軍用コートすら貫通する寒さと雪の中で、新設された帝国南部軍の総司令官に任命されたゼートゥーアと、直々に前線に乗り込んで指揮を執るミハイは正面から激突。大戦最後の戦いとなる、ニュルンベルク攻防戦が始まった。

*1
バーデン級戦艦四番艦

*2
戦略機動軍の装備転換で余剰となった75mm長砲身型




・プルパップ式12.7mm重機関銃
史実。元は英国面の継承者たるオーストラリアが開発したSR-14試作重機関銃であり、最終試作型では本体重量わずか14kg(M2は38kg)。もともと『肩乗せ射撃用のプルパップ重機関銃』というとんでもないコンセプトの下で開発されたため、ぶっ飛んだ性能をしています。
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