ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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日刊ランキング九位……………?さては壊れたなハーメルン(錯乱)


三十四話

シュルフリンゲン城の自室に放り込まれた彼女を迎えたのは、いつの間に身体の寸法を計測したのやら、二等魔導士官章と少しばかりの野戦勲章、そして古い軍服から移し替えたのであろう銀翼突撃章の略綬の入った、サイズピッタリのダキア陸軍魔導少佐の男性用制服*1だった。

 

数日前に妙な夢を見た原因を遅まきながら理解した彼女だったが、生憎と捕虜の身の上、別に人権を侵害するわけでもないダキア軍側からの命令を断る権利は存在しない。そもそも前世リーマン、今世軍人の身故に急な出頭命令など慣れたものであり、必要最低限の持ち物をトランクケースに放り込んで城を出るのに十五分とかからなかった。

 

「『トゥレル・テクレティウス』少佐だ。すまんが、ブールクレスト中央駅まで車を回してもらいたい」

「承りました。委細は承知しております。中央駅に着きましたら、ロンディニウム・タイムズを持っている准将閣下をお探しください。彼が説明してくれる手筈です」

 

今ではすっかりダキア軍高級将校の足となったフィアット社製の4ドアセダンに揺られること30分、敬礼と共に駅で降ろされたターニャを迎えたのは、平坦な胸元の銀翼突撃章の略綬に視線を注ぐ、壮年のダキア軍准将だった。

 

「テクレティウス少佐だな?よろしい。この件はほかの捕虜や非関係者には?」

「一言も。部下には参謀本部からの尋問と説明しております」

「大変結構!私はダキア軍技術部門所属、魔導准将のゲオルギウスだ。本件の最高責任者は私の上官だが、私にもそれなりの説明はされている故、しかるべきタイミングで説明する。ひとまず、この列車に乗りたまえ。あとで合流しよう」

 

数多あるブールクレストの観光名所の一つである、中央駅の駅舎に据え付けられた大時計の見下ろす広場のど真ん中で手渡された切符に記されているのは、戦時下にも関わらず運行される上等列車の名前。定刻通りに十三番線に滑り込んできたブールクレスト=コンスタンティン間を結ぶ急行『ランドゥニカ()』のデザインは、どこかの誰かさんの趣味を明確に反映しており、黒地と白ラインでまとめられた牽引機のデフレクターには、白い燕がくっきりと染め抜かれていた。

 

「17B、17B…おお、すでに居たか、少佐」

「運よくこの車両に乗れましてね。それで、要件についてお聞かせ願いたいのですが……?」

「まぁ待て待て。貴官も晩飯はまだだと思ってな、駅弁を買って来た。食いながら話そうじゃないか」

 

どれほど軍務に忠実な将校であろうと、すきっ腹を抱えたところに差し出されたホカホカと湯気を上げるシチューの魅力に逆らうのは難儀なものである。腹の虫が騒ぎ出したのを感じたターニャは、おとなしく食欲に従うことにした。

 

「これは…!まさか戦時下の、それも食堂車ですらないただの弁当でここまで…」

「うまいだろう。この駅は出征する兵士たちもよく利用するのでな、多少の無理をしてでも、質のいい温食を提供しているのだよ。ああ、容器は捨てずに取っておけよ。向こうで回収するからな」

 

ターニャを驚かせたのは、戦時下にあってなお保たれている急行列車、それも国外便ではなく純粋な国内便におけるサービスの質だった。多大な人手を前線に取られているというのに線路はガタつき一つなく、時折訪れるボーイも頼めばカップになみなみとコーヒーを注いでくれる。車窓を流れる都心部の景色も、帝都ベルンのように灯火管制がなされることもなく、欧州系に混ざって中東系や南方大陸系の顔ぶれも溶け込む街並みは極彩色。どれほどの血量によってこの繁栄が購われているのかと、彼女は少し薄ら寒くなった。

 

やがてブールクレスト北西の田園地帯に突入したころ、お代わりのコーヒーを飲み込んだ目の前の将軍は、思い出したようにターニャに問いかけた。

 

「それで、貴官を拉致した要件だったか。その前に確認なのだが…貴官は、九十五式演算宝珠をまだ動かせるのかね?」

 

 

 

 

「…????」

 

想定していなかった質問に、彼女の脳は三秒ほどフリーズさせられた。なにせ、1924年の秋に捕虜になって以来、三年間指を触れるどころか目にしたことすらない個人用装備を、技術畑の敵国将官からいきなり動かせるかと聞かれたのである。とっさに間抜けな音を口から吐き出さなかっただけ御の字だろう。

 

「…少佐?」

「ああいえ、失礼を。少々困惑しておりまして…動かせるか否かと言われれば、まず間違いなく動かせるでしょう。詳しくはあまりにも荒唐無稽なので伏せますが、あれは私の個人用のようなものですので」

「大変結構。これで話が進むと言うものだ」

 

そう微笑んだ目の前の准将は、彼女に一枚の青図面をライターとセットで差し出した。

 

それは、一本のボルトアクションライフルだった。

 

口径や射撃機構は昔懐かしVz.13小銃と全く一緒だが、銃身長は1メートル強とかなり延長されており、先端には大きなマズルブレーキが取り付けられている。銃床もピストルグリップが増設されたトリガーより前は全金属製になっており、重量十五キロは下らないだろう。

 

そして、何よりターニャの目を引いたのは、その奇妙なストックの形状だった。

 

「色々言いたいことはありますが、とりあえずこの穴は一体なんでしょうか?別に規則性がある訳でも構造上の意味があるようにも思えませんし…演算宝珠を格納するにしても、三つも必要な理由が理解できません」

 

某FFのマテリア穴に良く似た、一直線上に配置されたサイズの微妙に異なる三つの窪み。素直に白旗を上げた彼女の膝上に広げられた青図面の上に、さらにポンと放り出されたのは、一つ頭A4で十五ページはあろうかと言う三冊の分厚い連合王国語の報告書だった。さて一つ目のタイトルは…と目を向けたところで、彼女は目を大きく見開き、つい無礼を承知で目の前の技術准将の挑発的な微笑をまじまじと眺めてしまう。

 

「…『九十五式演算宝珠における機械的構造と魔導プロテクト破壊法について』?…閣下、無礼を承知で申し上げますが、アレは並の人間が使うことなどままならない劇薬なのですよ!?そんなものを動かしてどうしようと言うのです!?」

 

しかし、周囲を憚ることも忘れたターニャの叫びに目の前の将軍は一切の耳を貸さず、ただ読み進めろと視線で促すのみ。渋々彼女はびっしりとタイプされたゴシック体のアルファベットに目を通し始めた。

 

『……

 

本演算宝珠における最大の障害は、執拗なまでに施された防護である。元々の使用者であった帝国軍ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐(当時)以外のいかなる魔導反応をも吸収し、機構から排除するものであり、当事者以外による起動は事実上不可能。

 

……

 

しかし、使用者本人の魔力保有量は平均かそれ以下程度であり、にも関わらず他の宝珠を圧する大威力を発揮できる要因は、魔力貯蔵機能や四核同調構造のみならず、そのプロテクトが関与しているものと見られる。プロテクトを回避し、かつその威力増強機構を保持できれば、彼女よりも魔導適正の高い魔導師の手によって、今まで以上の出力を発揮できるであろう。

 

……

 

上記の計測結果により、元々魔力保有量のそこまで高くない魔導師を想定して作られた都合上、オーバーロードする迄の魔力量は想定より多くないことが確認された。しかし、オーバーロード後の挙動が想定できない上に、威力の大幅な低迷が見込まれる為、この方策は中止となった。以上を持って、技術開発廠魔導技術開発局は一時的に本宝珠の研究を凍結するものとする』

 

知らず知らずのうちに、ターニャの額には冷や汗が滲み始めた。目の前の長椅子に腰掛ける男とその部下達は、本気で九十五式演算宝珠を、あの多大なる精神汚染を使用者にもたらす呪われた聖遺物を動かすつもりなのだ。

 

「…だが、何のために?」

 

ぽつりと漏れた呟きは拾われる事はなく、彼女は好奇心の命ずるままに二つ目の紙束に目を通し始めた。

 

『九十五式演算宝珠における魔力保有量と出力の関連性、及び解析の成果について』

 

『一号報告書でも述べた通り、九十五式演算宝珠の大出力はその使用者の保有魔力量には依存しない。が、プロテクトを別にすれば、機構自体は純粋な四核同調式演算宝珠であり、相応なる魔力量を必要とするものの、九十七式同様に、一般の魔導師にも動かせると考えられる。

 

 

以上の試算により、本来四発宝珠を動かせるのはターニャ・フォン・デグレチャフ少佐の1.5倍以上の魔力を保有する者に限定される。されどこれ自体は大した基準ではなく、四核同調式の機構を解析すれば量産が可能と見込まれる。これ自体は連合軍に於ける多大な魔導戦力の向上に繋がると判断した。

 

 

九十七式演算宝珠のリバースエンジニアリングによって体得した同調技術の詳細は以上の通りである。帝国における製造不良の多発はクリーンルーム技術の不足と精密工作機械の精度によるものと推定された。事実、DSO*2基準クラス3、製造公差±0.005*3の設備を使用する本国魔導兵器廠での01式双発宝珠の製造不良は1/1,000に抑え込まれており、試作品の製造精度を鑑みれば、四発宝珠の製造も不良品を1/500程に抑え込めるであろう』

 

今度こそターニャは戦慄した。あれほどの高みへと手を伸ばし、不承不承ながらも帝国最高峰の魔導技術者とターニャですら認めるドクトル・シューゲルとエレニウム工廠ですらどう頑張っても五十個に一個は不良品を出している双発演算宝珠を、その二十倍の精度で最低でも一千個単位で生産しているどころか、超常存在の手を借りねば製造どころか安定すら許されなかった四核宝珠を、ダキアは安定した大量生産の確立まであと一歩という所まで漕ぎ着けている。これでは押し込むことはできても勝てないわけだと、ターニャは痛感させられた。

 

最後の報告書は、満足に紙の用意をする暇もなかったのであろう、藁半紙十五枚に筆記体の手書きで書き記された、酷く読みづらい物であった。

 

『魔導反応実験と九十五式の活用について』

 

『…

 

今回の実験で発見された事実を端的にまとめるならば、九十七式演算宝珠に既存の連合王国製宝珠から魔力を流し込むことによって、詳しい原理こそ不明ながら、個人の魔導特性を排した完全ニュートラルの純粋な魔力することに成功した。この結果を受け、本開発局では九十五式の機動実験を再開。ニュルンベルク防壁の突破という直近の課題を克服するべく、新型大威力宝珠の開発に着手した。

 

 

前提条件としては使用者をミハイ閣下に限定することで宝珠三基の同時稼働という魔力量上の問題を解決し、また閣下自身の出力制限を大幅に拡張することを目標とする。九十五式のプロテクトの突破という課題は存在するが、これは下記の計画で解決可能という試算が出ているため黙殺する。拡張と起動が成った場合に想定される出力は、本来の使用者である…』

 

「『ターニャ・フォン・デグレチャフ少佐が使用するときの…概算で六百倍の出力、七百倍の貫徹力』!?これはまた…それほどのものなのですか、あのニュルンベルクの防壁は?」

「閣下から許可が出ているからな、貴官には特別に教えてやろう。つい先日の話だが、520mm列車砲二門のべトン弾と、トールボーイ三発の同時攻撃が弾かれた。特性上最も有効なのはタングステンなどの重金属弾頭術弾による飽和攻撃だが…」

 

苦々しい顔と経験から問題を察したターニャは、そのあとを引き取った。

 

「重金属弾頭の魔導術弾の大量生産はそもそも現実的ではなく、多点同時攻撃が有効かは不明。故に、一点に瞬間的に最大火力をぶち込む必要がある。違いますか?」

「さすがラインの悪魔、大正解だ。と、いうわけで、貴官には魔力バイパス形成のための起動実験に付き合ってもらう。散々に振り回されるだろうが、まぁ運がなかったと思って諦めてくれたまえ」

 

いっそ清々しいほどに申し訳なさのかけらも籠っていない声に内心苦笑しながら、ターニャは顔に抑えきれない笑顔を形作る。

 

「私の出自にはあの防壁を形成した連中がかかわっています。あのクソッたれ共の鼻を明かせる機会ならば、どのような困難であろうと耐えて見せましょう。…ただし、一つ確約していただきたいのですが…爆発事故は想定されていますかな?」

「…無いとは言えない。が、貴官らには可能な限り無茶な実験は課さないと約束しよう。エレニウム工廠のような真似はせんよ。…少なくとも、貴官らにはな」

 

今度こそ本当に申し訳無さを滲ませた目の前の将軍に、しかし彼女は引っ掛かりを覚える。

 

「ちょ、ちょっとお待ちください。今、()()()と仰いましたか?」

「ん?ああ、言い忘れていたか」

 

ポリポリと頭を掻きながら、彼はこともなげにターニャに爆弾を放り投げる。

 

「運用実験には、貴官の古巣の航空魔導大隊も招待しておいた。楽しみにしておけよ」

 

顎が外れて戻らないターニャを放置し、准将はいつの間にか手元に引っ張り出していた小説を読み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

天気は快晴、風は微風。手元の演算宝珠は陽光を反射して神々しく白銀に輝き、ダキア東部の乾いた青空は手を伸ばせば掴めそうなほどに透き通っている。

 

死んだ魚も逃げ出すどす黒く濁った眼で青空を眺めるのは、逆三角形の鉄パイプに雑に取り付けられた三つの演算宝珠を首から下げるターニャ・フォン・デグレチャフ少佐。彼女は現在、自大隊の面々と共に、ダキア東部に位置する魔導技術局管轄下の第百五十七実験連隊の駐屯地に来ていた。

 

「これより第一次試験を敢行する!デグレチャフ少佐、起動を!」

「了解。第一宝珠、起動!」

 

全力で防御術式を展開した部下らが遠巻きに見守る中で、彼女は正面から見て左上の角に溶接された連合王国製ウォーラス単発宝珠に魔力を注ぎ始める。魔導師としては平均より少し柔いくらいの防御術式が展開され、同時に50メートル前方に配置された計測機器に緑色のランプが点る。

 

『第一段階、クリア!続けてバイパスへの魔力注入を!』

 

成功を確認したターニャは、続いて防御膜を切った後にウォーラス演算宝珠に増設された新たな魔導回路に魔力を注ぎ込む。ウォーラスの上に浮かんでいた防御膜の術式は新開発の魔力伝達術式に切り替わり、鉄パイプの上辺が俄かに輝き始めた。

 

「これより九十七式の起動試験に移ります!」

『了解した!医療班、出動準備!』

 

行き場を失い、荒ぶり始めたバイパス術式をそっと九十七式に接続し、双核宝珠に命が吹き込まれる。何かを持っていかれる様な感覚と共に体内の魔力残量がごっそり消し飛び、危うく彼女は膝をつきかけた。

 

『大丈夫か、少佐!?』

「ハァ…ハァ…問題ありません!計測機器は!?」

『オールグリーン!貴官の判断でいつでも次段階に移られたし!』

 

ゴーサインを確認したターニャは、続いてウォーラス宝珠を経由して九十七式で防御膜の形成と、空気濾過術式の応用である魔力濾過術式を起動。九十五式でもかなりの負担となるレベルの多重展開だが、開発側の狙い通りターニャにかかる負担はそこまで酷いものとはなっていない。

 

トラブルなく稼働しているのを確認した彼女は、生成された無色の魔力を用いてさらなるバイパス術式を展開。遠方で白衣姿の男たちが慌ただしく駆け回るのを眺めながら、そっと魔力を技術班の居座るデスクとケーブルで繋がれた九十五式に押し込んだ。

 

『データ転送!解析します!』

『確認!プログラム書き換え、開始!』

 

ケーブルが魔導の光できらきらと輝き、緊張で冷や汗を浮かべた技術者たちが、その荒れ果てた手でビシバシと粗っぽくキーボードを叩く。彼らにとってこれは九十五式のプロテクトを確実に組み替えられる最初で最後のチャンスであり、ぶっつけ本番のプログラミングにもかかわらず一切のバグと遅延が許されない。自らの魔力と密接なつながりのある演算宝珠から莫大な情報が引き出され、組み立てなおされて送り返される感覚は、彼女曰く『腹の中で蛇が暴れまわっている様』であった。

 

やがて、その時は訪れる。

 

『…っしゃ、プログラム完了!送信可能です!』

『よくやった!デグレチャフ少佐、テンカウント後にそちらに最後のデータを転送する!九十五式への魔力侵入を確認次第、全力でコードを引っこ抜いてくれ!』

「了解しました!」

 

始まるカウントダウン。合計七核の連続運転は彼女にとってはすさまじい負担であり、すでに意識はもうろうとし始めている。とっくの昔に絞り出せる魔力をほとんど絞りつくした彼女は、ほぼ気力だけで魔力供給を保っていた。

 

『五!…四!…三!…』

『転送準備完了、エンターキー一発で送信可能です!』

 

『二!…一!…送信!』

『担架を持って来い!医療班は念のため血液パックとドレーンを!』

 

いやに大きく聞こえたエンターキーのタップ音と、それに合わせてにわかに輝きを増す九十五式。やがて術式の発現を確認したターニャは、コードを引き抜くとともにその意識を手放した。

 

 

 

 

 

「……をしろ、少尉!これでは………が……んだろうが!」

「だって、使っててホントに楽しいんですよ、この宝珠!」

「だからって…隊員を…していい……………ならんだろうが!」

 

「…ぬぐ、ここは…あぁ、実験連隊の駐屯地か」

「お目覚めになりましたか、少佐殿。いまコーヒーをお持ちしますね」

 

次に彼女が目覚めたのは、演習場に隣接された実験連隊の駐屯地。医務室で目を覚ましたターニャがまず初めに感じたのは、ガラス窓から駄々洩れになっている強力な魔導反応であった。

 

「私はどれくらい眠っていた?」

「完全に魔力切れになっておりましたから、一日と少し。もうお感じになったでしょうが、演習場の方では少佐殿の部下が大暴れしておりますよ」

 

声で何となく察していたが、現在大暴れしているのはセレブリャコーフ少尉。窓からこっそり覗いてみれば、雑に鉄パイプに溶接されていた三つの演算宝珠はターニャが列車の中で見せられたあの青写真の銃に綺麗に収められており、頼もしい副官は細身の銃身に腰掛けながら、おとぎ話の魔女のように濃密な弾幕を展開し、一切の容赦なく大隊員を蹂躙していた。

 

「アッハハハハ!ほらほらどうしました副隊長殿ぉ!?」

「なんか別の意味で精神汚染発生してないか、これ?」

「馬鹿、そんなことを言っている場合じゃ「ほいさっと」お゛ぅ゛っ!?」

「「「中尉殿ぉぉぉぉ!」」」

 

「結局、あの実験は何のためだったんだ?」

「ああ、あれは九十五式のプロテクトを少しばかり弄って、だれでも使えるようにするための代物ですよ」

 

白衣姿の彼は軍医であると同時に技術研究員でもあり、何を隠そうあの実験場で最後にエンターキーをたたいた男である。彼が言うには、九十五式を動かせる様にしたカラクリは、二つの宝珠を使って生成された色のない魔力に有るのだという。

 

「あの妙なプロテクトをすべての魔導反応に対応させるのは、正直言って不可能でした。登録できる魔導反応自体が一つに限定されていたし、下手に弄れば威力増強術式がかき消されますからね。なので、使用者を少佐殿から色のない魔力を持つ何某かに差し替えたんです。そうすれば、宝珠二つと術式二つを同時稼働させられる人間ならだれでも動かせますから」

 

が、そんな芸当を長時間できる人間はそうそう存在しない。現に、二人の目の前では今まさに調子に乗ってかっ飛ばしすぎたセレブリャコーフが案の定魔力切れに陥り、とっさにヘルプに入ったダキア側の魔導師に抱えられて、羞恥で顔を真っ赤に染めながら地面に降下していた。

が、のんびり部下の痴態を眺めていたターニャはすぐに残酷な現実を告げられる

 

「少佐殿も他人事ではありませんよ。意識も回復したようですし、貫徹力試験に付き合っていただきますからね」

「…なんだねそれは」

「言葉そのままです。なあに、防御膜を展開して突っ立っていればいい話ですよ。さぁこちらをどうぞ、ダキア軍謹製魔力回復強壮薬オ〇ナミンMです」

 

ターニャは激怒した。必ずあの邪知暴虐の元帥のケツに九十七式の一撃をぶち込まねばならぬと決意した。

 

「無駄ですよ。あの防御膜じゃ九十五式の全力でも波立ちすらしませんから」

 

ターニャの怒りは一周回って乾いた笑いになった。あの邪智暴虐の元帥はどれだけ頑丈なのだと呆れ返った。

 

それから三日間の間、ターニャ含む大隊の面々は睡眠や休息の一切を許されなかった。

 

「ほら魔剤だ、これ飲んで目を覚ませ」「魔力切れ?それは辛い。ほれ栄養ドリンクだ」「寝てる暇はないぞ!あと十五分で次段階だ!」「ヴァイス中尉、そこで最大出力の防御膜を展開してくれ!セレブリャコーフ少尉は五キロ先からそれをぶち抜いてくれ。…なんだその目は。安心しろ、ちゃんと胴体を避けて撃てば被害はない。なんのための防殻だと思っている?」「ふむ、このレベルの魔力量でも150mmを耐えるか。よし、次はノイマン准尉で砲口径203mmだ。水平射撃用意!」「とりあえず最大速力で飛べるだけ飛んでくれ。各員の魔力量の数値化がしたい。何、魔力が切れたら?安心しろ、背嚢にパラシュートと予備のオ○ナミンを突っ込んである」

 

延々と続くデスマーチ。幸いエレニウムの時とは異なり爆発事故は発生せず、また安全装置に関しても信頼性の高い堅牢な代物が支給されていたが、それはそれとして三日間ぶっ通しのハードスケジュールはシンプルにキツい。積年の恨みをぶつけるチャンスということで張り切っているターニャはともかく、ほかの大隊員にとっては本当に地獄だった。一個連隊分の魔力回復剤約半分と、酒保に積み上げてあった高度数のアルコール類がほぼ根こそぎ消えたといえば、その激しさがわかるだろう。

 

ともあれ、以降二週間グロッキーになった大隊員と、彼らが迷惑料としてせしめていった大量の高級酒類の犠牲と引き換えに、ダキアは戦争を終わらせる切り札を手に入れ、連合軍は大戦最後となる攻勢を立案した。

 

作戦名と切り札の両方に冠せられたその名は『ダウンフォール』。帝国の落日が、始まった。

*1
基本的にダキア軍の男女制服の違いは左前か右前か程度

*2
Dacian Organisation of Standard、ダキア標準化機構

*3
環境・精度共に半導体並み




存在Xの御技を技術ゴリ押しでねじ伏せるの図

Q. なんでターニャはともかく他の大隊員は逃げ出さないの?
A. ダキア側が帝国軍捕虜十万人を人質に取っているので逃げるに逃げられない
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