ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話 作:舞葉
あ、ちなみに私は東側のMig-21やSu-17などが大好物です。あの土管ボディからしか摂取できない栄養素が必ずある、私はそう信じてる
1928年三月九日、誓約同盟の首都ベル
軽戦車と騎兵で厳重に警護されたパレードの先頭を行く二組の車列は、ダキア代表とイルドア代表。いずれも主要交戦国かつ最大貢献勢力ゆえに代表が多く、動員された車両は六人乗りリムジンが四台二列の合計八台。両国ともに掲げられた旗は銀糸のフリンジで彩られている。
その後に続くのはもう二カ国の戦勝国たるフランソワと協商連合代表。車種こそ同じなれどこちらは代表が少なく、車両も二列二両の計四台。しかしせめてものプライドか、掲げられた国旗は金糸のフリンジと純銀製の竿頭付き。軍人達の礼装もダキアや帝国に比べて古風な伝統が残っている分華やかであり、中にはダブルブレストのフロックコートに三角帽を被っている伊達者までいた。
誓約同盟軍の騎兵小隊を挟んだ後ろには、オブザーバーとして招聘された四カ国の代表がその旗を連ねている。四台の車に合州国、連邦、連合王国、そして秋津洲の代表団がそれぞれ分乗しており、いずれも会議の格式に相応しい礼装姿。諸事情でかなりの不機嫌ヅラを晒している連邦代表はともかく、ほとんどは大戦の講和条約という数百年に一度あるか無いかという機会に張り切り顔である。
そして最後尾、飾り気のないシンプルな黒い旗竿に、見るものが見れば揃って唸らせるほどの上質な生地で織られた国旗を掲げ、三台のリムジンに分乗しているのは帝国代表連。大礼装姿の軍人はいずれも真っ赤な襟を覗かせる外套姿で、詰襟ジャケットの襟に輝く金色の
大通りの両側を埋め尽くすように並ぶ赤地に白十字の誓約同盟軍旗と、帝国風の華やかな警護段列は、この日のために貸し切られた連邦院へと吸い込まれていった。
1923年の開戦から1927年の停戦まで、欧州大戦に参加した諸国はみな平等に星の数ほどの屍を積み上げた。数多くの劇的な勝利を掲げるダキア軍や、後発参戦組のイルドアでも、この点だけは変わらない。
最大戦死者数の座に燦然と輝くフランソワ軍の百五十万七千人を筆頭に、帝国は百二十万、総人口約一千万人の協商連合は人口の5%にあたる五十六万。比較的少ないダキアとイルドアも、それぞれ二十五万と二十三万。単位は両でも機でも隻でも台でもない。むしろそれらならばどれほど良かったことか。志半ばで散った士官学校の主席。将来を渇望された優秀な経済学部の学生。息子が生まれたばかりの母親。愛を誓い合ったその日に徴兵された男女。祖父になったばかりの歩兵大佐。四半世紀から半世紀時を生き、命令書一枚で国の名の下に散っていった男女の屍がその数字には込められている。
「…だからこそ、世界はその分の配当を求めるのだ」
石畳の上をゆっくりと進む車内で、ゼートゥーアはそうひとりごちた。
「どこもかしこも犠牲、犠牲、犠牲。なまじ理解できるだけにタチが悪い。ここまで兵を死なせて勝ったのだ。勝利の配当を求めるのも、当然だろうな…」
特に帝国に、そして意外にもイルドアやダキアにとって厄介なのは、協商連合と共和国の世論だ。親類縁者が大地のシミと化し、国土の隅々まで軍靴に踏み荒らされた両国人の復讐の炎は、並大抵の制止では消し止めるどころかベクトルを変えてさらに燃え上がってしまう。
「『欧州の敵』になった我が国が、果たして何を言われるやら」
「少なくとも『世界の敵』よりはマシだろう、次官。合州国と連邦を押さえ込んだのが誰かは…まぁ大体見当はついているが、とにかく感謝だな」
百数十メートル前方、車列の先鋒を進む車両の中で盛大にくしゃみをした誰かさんの見るところ、昨年末の停戦合意の段階において、合州国と連邦はどちらも参戦する気満々であり、連邦に至っては1927年12月には宣戦布告が可能だとされた。十年後に判明することだが、連邦側が参戦時期とみなしていたのは1928年の三月頭、すなわち大体今日。帝国の正式な停戦合意が12月なので、本当にギリギリもギリギリである。本人曰く、「ぶっちゃけ帝国軍が首都まで来た時より焦った」とか。
とはいえ、今回の交渉で悩んでいるのがなにも帝国だけとは限らない。フランソワと協商連合の代表は、こちらはこちらで国力と民意の深刻なジレンマに悩んでいた。
口先で何を言おうとも、両国政府の首脳たちは本音では帝国領の割譲などほとんど望んでいない。フランソワも協商連合も身をもって学んでいるのだ。ナショナリズムとレジスタンスの跳梁跋扈する他国の土地を治めるということが、どれほどの金、人、時間を吸い込むのかを。
さっさと戦争を終わらせたい連合王国と、だらだら戦争が続いて欲しい合州国という両極端のパトロンからかなりの支援を受け取っていた両国のレジスタンスは、帝国側が民政移管を決意するまでの二年間、とにかく国土のありとあらゆるところで暴れに暴れまくった。駐屯軍の兵器庫を焼き、キューベルワーゲンの燃料タンクにガラクタをぶち込み、ダイナマイトで装甲車両を吹き飛ばし、頻繁に通信網や鉄道網を破壊する。やりたい放題を推進した両国だからこそ、彼らはレジスタンスの恐ろしさを身に染みて知っているのだ。自分たちがその対処に駆けずり回る側になりたいなど思うわけがない。そもそも一度降伏した身、そこまで発言権の強くない彼らは自然とダキアとイルドアの判断を待つ形となった。
「何か、適当な言い訳が見つかるといいんだが」
「まさか、わざわざチューリヒくんだりまで来て帝国に都合のいい講和を結びましたでは、うちの有権者は納得せんだろう。そうなっては、最悪また帝国と戦争だ。あんな地獄、もうウチも向こうさんも懲り懲りだろうに…」
「ダキアさんとイルドアさんに期待だな。うちは草案だけ出して、あとは部屋の隅っこで丸くなっているのがお似合いだろうよ」
オブザーバーとして招聘された諸列強代表も、同じように『連合国待ち』の状態であることには変わりなかった。連合王国はイルドアに次ぐ欧州きっての親ダキア国家。欧州におけるパワーバランスと秩序の確立を目指すミハイの思惑は、大陸国家の成立を許さない連合王国の方針と見事に合致している。合州国の封じ込めや戦略資源の輸出という形で、連合国の継戦を陰ながら支えてきたのも彼の国だ。常日頃から他国を信じない姿勢をとっている彼らも、偶には誰かを真っ当に信じることにしたのである。戦艦の買取と建造で大きな恩のある秋津洲は言わずもがなダキア寄りで、容共的な節のある前大統領がぼっくりと死に、変わって反共を掲げる大統領が急遽就任した合州国も好意的中立を保っている。反連合・親帝国のスタンスをとっているのは連邦程度のものだ。そうなるようにミハイが仕組んだ。
『ここまですべて計算通りなのか、ミハイ?』
『正直、ルーズベルト…もといロースベルトがここまで早く死んでくれるとは思ってなかったな。渡洋作戦能力の誇示と対連邦戦線の貼り付けくらいはやる予定だったよ』
講和会議の少し前、多忙な中の時間を割いて、帝国側のメッセンジャーとしてやってきたターニャに、ミハイは日本語でそう零した。
『開戦と同時にロンディニウムからワシントンにグランドスラムをぶち込める略爆が二百五十機、ウォーソウ=モスコー便ならうちの術爆とランカスターも併せて約一万機。動員可能な師団が連合王国二百個、ダキア百七十個イルドア百五十個の五百二十個でだいたい七百万人。護衛空母構想をぶん投げたりマーリンやらグリフォンやらのエンジンまわりで散々ケツをひっぱたいた連合王国軍は強い。帝国海軍あたりを突っつけば、潜水艦隊も動かせるはずだ』
欧州大戦が明らかに連合有利に動き出した1926年から、ミハイは軍の予算からかなりの割合を割き、大西洋と広大な連邦西部の荒野を乗り越え、西はワシントン、東はエカテリンブルクまでの広大な範囲を焼け野原にできる能力を求めて動き出した。世界大戦への拡大を、武力の誇示をもって食い止めるためである。最悪のケース、つまり外部からの軍事干渉や直接宣戦などの横槍が入った場合、連合王国は連合国と同盟を組み、欧州同盟軍として外部干渉を叩き潰す手はずだった。
『来週にはうちの略爆が誓約同盟での航空ショーにお邪魔する予定だ。天気が良ければ、トールボーイの投下ショーもできるだろう。隠し玉も用意しているから、お前も楽しみにしておけよ』
自慢げなミハイに適当な答えを返し、会談が終わったと見るや突っ込んできた参謀連に取り囲まれた彼を尻目に部屋を辞したのがちょうど一週間前。何のかんのと文句を言いつつ時間を稼ぎ、自国の介入の隙を作ろうと奔走する他列強代表らを横目に、帝国代表の護衛としてやってきたターニャを含む主要交戦諸国の代表連とその護衛連中は、上空で繰り広げられる連合国のエア・ショーを、驚きと一滴の安堵とともに眺めていた
航空隊の先陣を切ったのは、低速帯での見事な安定性と機動力を見せつけるイルドア空軍の第四航空団。機種は最新鋭戦闘機のヴェルトロとサジタリオである。エースパイロットを多数抱え、最終決戦であるニュルンベルク攻防にも投入された同航空隊の屋根スレスレの低空飛行や見事な戦闘機動に、沿道の人々だけではなく、歴戦の軍人ですら僅かに身をすくめさせられた。
その後に続くのはイルドア空軍の戦術爆撃機隊。こちらもエース級を数多く揃え、弾痕や損傷を丁寧に修復した機体に部隊エンブレムを掲げ、ついでに塗装も塗り直したカント社製の三発爆撃機アルシオーネと、双発爆撃機レオーネが参加している。両機ともに改良を重ねつつ開戦からイルドア軍の空を支え続けた機体であり、連合王国とダキアの協力を得て馬力を伸ばした1700馬力級空冷星型14気筒エンジンを装備している。
そのあともロールアウトしたばかりのライセンス生産型マーリン搭載のサジタリオの艦上戦闘爆撃機型や、試作三号機までの完成にこぎつけていたピアッジョ社の四発戦略爆撃機レオーネなど、各種新鋭機がその機種を連ねたイルドア空軍は、列席者を大いに愉しませ、またイルドア軍の精強さを内外に成功裏にアピールした。特に大型の戦略爆撃機の存在は、開発にかかわった連合王国の担当者をして誇らしげな視線をその銀翼に向けさせ、また他列強の代表らを狙い通りに警戒させるに至った。
しかし、航空パレードの本番はここからだった。イルドア空軍の活躍ですっかり来客気分に染まっていた各国の出席者に、ダキア空軍の誇る世界最先端の航空機群が襲い掛かったのである。
まず先陣を切ったのは、大柄の胴体に本来爆撃機用の2000馬力級グリフィンエンジンを押し込み、モーターカノンの空砲を礼砲代わりに轟かせながら爆音とともにやってきたオリオンIV。いずれも最新鋭のリボルバーカノンを、モーターカノンとして機種に30mm型を一門、翼内武装として20mmを一門ずつの計3門装備し、翼下に対地ロケット兵装を懸吊、胴体下には250kg航空爆弾を吊り下げている完全武装姿だ。強大なエンジン出力と、優れた機体設計のなせる業である。航空戦力の脆弱な連邦や、後継機の開発が大幅に遅延し、新機軸を盛大ぶち込んだハ45系列や、工業力に見合わない改造を施したハ140の不調に延々と悩まされ、いまだ軽武装(ダキア比)の零式五二型系列や、問題を抱えたままの四式戦などを運用している秋津洲担当者は、ここで盛大に警戒レベルを引き上げさせられた。海の向こうの合衆国や、永久条約一歩手前まで関係を深化させている連合王国は涼しい顔であり、この後に何が来るかをすべてを知っているイルドアは遠い目である。
続いて現れたのは、本能的にほぼすべての帝国軍将校に無意識に体をこわばらせる、急降下爆撃機リヴラと双発戦術爆撃機サジタリウス、そして四発略爆のはずが今やAWACS専用機と化した早期警戒・空中管制機。最後に関しては、ミハイから直々に『セントリー』の異名を貰っている。高高度から見事なダイブ機動を見せ、地上百メートルで上昇に転じたその姿に、群衆は歓声を、軍人は緊張交じりの唸り声を上げた。
しかし、各国代表が本当に目を剥いたのはここからだった。
「…ん?何の音だ?」
「戦術爆撃機のエンジン音じゃないか?さっき去っていっただろう?」
「いや、さすがに距離が離れすぎているだろう。…って、オイオイオイ、どんどんデカくなっているぞ!?」
「このエンジン音、グリフォンじゃない!なんなんだあれは!?」
「おい、空を見ろ!駅の方角!」
ベルリン中央駅の直上、地上50メートルという超低空飛行でぬるりと姿を現したのは、わずか十数機ですらを埋め尽くせるほどの、巨大な戦略爆撃機の群れ。ダキア空軍が大戦中期から末期にかけて、構想をぶち上げるところから作り上げ、しかし戦争終結に伴ってその出撃の機会を失った、二種の巨人爆撃機を擁する第一戦略打撃航空団、その最先鋒たる第一戦略航空艦隊である。
最も低空を飛行している一番機以下のデルタ陣形を取る六機は、戦略航空艦隊において数的主力を務める四発戦略爆撃機IDA-B-50『スカイ・フォートレス』。僅かな期間とは言え世界最大の爆撃機の座にその名を刻んだ、全長30メートル、全幅40メートルの超大型機である。合州国が誇るP&W社に追いつけ追い越せと開発された、3000馬力級の空冷星形二十八気筒エンジン『アイアン・コーン』を四基搭載しており、そのペイロードは機内機外合わせて破格の11トン、航続距離は9,000キロ。同機を改装した空中給油機を合わせれば12,000キロを誇る。少々ペイロードを妥協した代わりに装甲と防衛火器も充実しており、セントリーと同等の堅牢さを保持している。
そしてその後ろ、大胆なことにグランドスラム(のレプリカ)を胴体下にひっさげ、高度100メートルで更なる爆音を上げるのは、スカイ・フォートレスに次ぐ次世代機と見做されているIDA-B-36『ピースメイカー』。アイアン・コーン六発に加え、なんとしてでもこの航空ショーに間に合わせろとギャーギャー騒いだミハイの圧力でギリギリ完成した、十二段軸流圧縮機とアフターバーナーを備える西暦世界のJ-47と遜色ないターボジェットエンジンを四基装備した、世界にまだ三機しか存在しない十発戦略爆撃機である。全長50メートル、全幅に至っては前代未聞の70メートル。ダキアからロンディニウムとモスコーを、連合王国からワシントンをそれぞれ無補給で焼ける爆撃機の出現に、合州国空軍士官は制帽が落ちたことにも気が付かぬほどの衝撃を受け、覚悟をしていたはずの連合王国代表ですら紅茶を吹き出した。連邦代表に至ってはすでに顔面蒼白である。ただドヤ顔で説明を続けるミハイ以下ダキア代表団と、ここまでの技術開発史すべてをダキアと共に見てきたイルドア代表だけが、人間らしい表情を保っていた。
そこにとどめを刺したのが、ダキア空軍の第一実験飛行隊である。サイズも形も様々な航空機で構成されたその部隊は、その共通点として、ジェットエンジンで駆動する航空機のみで構成されていた。
「さぁさぁ皆さんお立合い。まず先頭を行く大口と後退翼の機体がTR-F-86*1『セイバー』。現行のジェット戦闘機であり、ある意味全てのテストベッドともいえる機体です。その後ろが次世代型のTR-F-21『バラライカ』と、その発展型である戦闘爆撃機TR-FB-17『フィッター』。デルタ翼のがバラライカで、後退翼のデカブツがフィッターですね。我が国にあと五年後に喧嘩を売れば、彼らが襲い掛かることになるでしょう。それに続いているのがTR-FB-111『アードヴァーク』と、ある意味兄弟ともいえるTR-F-14『トムキャット』。どちらも可変翼を装備しており、空中で変形可能です。あと十五年もすれば、こいつらが戦列に並ぶでしょう」
合州国も連合王国も連邦も、もはや声もなく呆然と空を見上げるばかりである。特に合州国と連邦は、自国で開発中の新型『次世代』ジェット戦闘機と本当によく似たものを、あたかも現時点で実戦投入可能かのように説明されたのだからさぁ大変。ましてやそれらをあとわずか五年そこらで旧式化すると言い切られた上に、一部の機体に至っては未来の産物とされている可変翼まで装備しているのである。
「あぁ、まだ視線を地上に戻すには早いですよ。多分そろそろ…そら来た!これらが今回の目玉、次々世代型航空機です!」
アードヴァークとトムキャットの後ろ、今度こそ終わりかと胸をなでおろしかけた代表連に盛大なカウンターをぶつけたのは、もはやこの世のものとは思えないような、二種類の爆撃機と見まがうサイズのジェット戦闘機だった。
「ご紹介いたしましょう。左から順にTR-F-15『イーグル』、その派生型であるTR-FB-15『ストライク・イーグル』、TR-F-27『フランカー』、そしてTR-FB-24『チェマダーン』。今はまだ完全な試作機ですが、近々開発中の新型ジェットエンジンに換装し、実戦投入される見込みです」
ここまで来ると、もはや会場は阿鼻叫喚。軍人連は誰も彼も護衛や代表としての任を放り出し、仲間内でチラチラと空を眺めながらぼそぼそと輪になって話し込むばかりになってしまった。アードヴァーク以降は全機本当の本当に実験機で、可変翼兄弟はフライ・バイ・ワイヤ技術がヘボ臭く、トドメとばかりに次々世代型はそれに加えてエンジン出力も絶望的に足りていないというダキアとイルドアのみが知る密かな事実はさておき、示威行動としては武力の誇示の段階を超え、『手ぇ出したらそのそっ首千切るぞ』というダキア側のメッセージは、十分に合州国と連邦に伝わったといえるだろう。これより十年、連邦首脳部が突発的に暴走を始めるまでの間、欧州には平和が訪れることになる。
「さて、それでは時間も押していますし、燕尾服に着替える前に、講和会議を始めましょうか」
そういい残して連邦院に歩み入るミハイを、止める者はもう誰もいなかった。