ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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大変長らくお待たせいたしました


ミューニッヒ戦争 3

まず最初に5.56mm弾に倒れたのは、突撃隊の代替にと史実よりかなり早い段階で武装組織として設立された総統親衛隊の少尉と、その従兵たる一等兵の二人だった。

 

「何の音だ!?少尉、一等兵、応答しろ!」

「アンノウン捉えました。IFF無し、排除します」

「タンゴ分隊は正面左手の小部屋をクリアしろ。資料によれば、あの部屋の先が連中の兵器庫だ。ヴィクター分隊とノーヴァンヴァー分隊は私に続いて二階だ。ヴァイパーは残余を率いて一階を制圧しつつ、ドミトレスク隊との合流を目指せ」

「「「イエス・マム」」」

 

五発ほどダムダム弾を胴体に叩き込まれ、死亡確認のために銃剣を土手っ腹に突き立てられた遺体を後に、三手に分かれた部隊は迅速に施設を制圧してゆく。周囲をぐるりと旅団規模の部隊に囲まれた上、街の要所に検問まで設置されたミューニッヒに、連中の逃げ場はない。

 

真っ先に動き出したのは、目標が一番近いタンゴ分隊、すなわち帝国側では数少ない通常歩兵戦力として参加したトスパン隊だった。

 

「スモークグレネードと同時に突入だ。降伏しても構うな。我々は捕虜は取らない」

「了解です。3…2…1!煙幕投擲!」

 

「?…こいつは一体…?のわっ!?」

「なんだ、花火か!?」

「いや、煙幕だ!総員、武器庫に…っづぁっ!?」

「しょ、少佐殿!?おい、少佐殿が撃たれたぞ!敵襲だ!」

 

「爆発確認しました!」

「突入!突入!掃射しろ!」

「何人か武器庫に取り逃しました!応戦して来ます!」

「タンゴ08、十二秒後に破片手榴弾を投げ込め!他の者は08の援護だ!」

「連中、立て篭もるつもりです!扉を閉じています!」

「所詮は木製扉だ!06、あそこのテーブルを支えに機関銃を展開しろ!02は散弾銃を構えておけ!」

 

スモークグレネードの爆発と同時に突入した分隊は、混乱する室内に5.56mm弾をぶちまけ、瞬く間に室内にいた二十五人のうち十八人を殺傷。特に黒服の親衛隊員には徹底的な死亡確認を行い、かろうじて武器庫に逃げ込んだ連中は、7.92mm口径のMG3汎用機関銃でドア越しに掃射を受けたのち、頼みの綱の錠前をマスターキー(散弾銃)で破壊され、大多数と同じ運命を辿った。

 

「室内クリア。左のドア先の掃討に向かう。総員、援護を」

「了解。06、機関銃を左側に向けておいてくれ」

 

トスパン隊に続いてまとまった量の相手に接敵したのはグランツ隊だ。彼らは異変を察知して飛び出て来た連中を刈り取り、その出口に催涙ガスグレネードを叩き込んで残余を炙り出しながら歩を進めてゆく。やがて褐色館一階の東翼廊に位置する大会食堂にたどり着くと、レルゲン少将隊を牽制している中隊規模の親衛隊員の背後に回り込む形となった。

 

大会食堂の内部では短機関銃やボルトアクションライフルなどを携え、蹴り倒したと思しきテーブルを盾に親衛隊員が抵抗している。彼らは暗がりの中、根元をぶち抜かれて崩れ落ちたシャンデリアの炎と、窓から差し込む月明りを頼りに応戦しているが、命中精度は壊滅的と言っていい。対して暗視装置を装備したレルゲン隊は、的確な個別射撃と機銃掃射で黒服の男たちを逐次打ち倒しており、制圧は時間の問題であると思われた。

 

「だが、時間の問題ってことは、翻せば時間を使わされるってことだ。03、06、08、私に続いて室内に侵入。左側のテーブルを蹴り倒して、連中の後頭部をぶち抜くぞ。残りはここに残って、私の合図で掃射だ。3…2…1…突入!」

 

暗がりから暗がりへ、物陰から物陰へ。赤外線ライトでパッシングを繰り返しながら、グランツと三人の防弾盾持ちの部下は進んでゆく。転がっている薄っぺらいテーブルを蹴り倒すと、ドア周りに展開するレルゲン隊と射線が被らないように位置を調整し、盾を立てかけて防弾性を反保。彼の号令一下、発砲に踏み切った。

 

「標的一名ダウン。死亡は確実です、頭を抜きました」

「摘弾投げます!レルゲン隊に合図を!」

「前方から別勢力接近、パッシングを確認しました。おそらく位置的にグランツ隊かと」

「信号確認!破片手榴弾を投擲する模様!」

「第一、第二分隊は掃射しつつ一時後退!機銃班はバルコニーに移動し、射線を確保しろ!」

「投擲!投擲!Fire in the hole!」

 

「いってぇ!なんだ一体…って、ててて手榴弾!?」

「馬鹿、早く投げ返せ!」

「投げ返すったってどっちに!?」

「ここじゃないどこかだ!貸せ!俺が…」

 

親衛隊の築き上げた即席陣地の後ろ側から投げつけられた破片手榴弾は、中空で綺麗な弧を描き、黒服の男たちがすし詰めになっている蹴り倒されたテーブルで囲まれた一角のど真ん中に落下し、そのまま炸裂。瞬く間に生き残りの四分の三が斃れ、残りも何が起こったか分からず呆然とへたり込んでいたところを、頭に9mm弾を叩き込まれて絶命。大会食堂は完全に制圧され、あとは二階へと進軍するだけかに思えた。

 

が、彼らにも誤算があった。

 

「助かった、グランツ少佐」

「いえいえ。それでは、私たちも二階へ向かうとしましょうか、閣下……っ!?総員、伏せろ!」

 

すべて片付いたと思われたその時、レルゲンの鼻先数ミリを嫌な音を立てて銃弾が駆け抜けた。グランツは咄嗟に四階級は上のレルゲンを力づくで地面に引きずり倒すと、庇うように防御膜を広げて銃弾が飛んできた方向に腰だめの姿勢で汎用機関銃を乱射した。まだ残党が残っていやがったかと忌々しげにトリガーに力を込めたグランツだったが、残党にしてはどうも飛んでくる弾丸の数が多すぎる。突き刺さる銃弾も、簡単に入手できる9mm弾のそれではなく、かといって次点で流通している7.92×57mm弾のそれに比べればやや軽い。グランツ隊に配属されたダーナウ組の魔導師の一人は、ひよっこどもを率いていた時代に何度か後ろから喰らったそれの感覚を、明確に覚えていた。

 

「この威力…間違いありません、クルツ弾です!連中、どこからかMkb26を引っ張り出してきやがった!」

「なんだと!?あれはまだ軍の予備兵器扱いだ!民間に流出することなど…」

「いや、あの軍服は…クソが!ライプシュタルデンテの連中が駆けつけてきやがったんだ!」

 

髑髏の帽章に黒制服、磨き上げられた統一暦29年式帝国軍標準歩兵規格の歩兵装備。旧帝国陸軍ベルリン衛兵連隊の一部を主力として結成された、ライプシュタルデンテ・SS・フューラー総統親衛大隊。並の連邦共和国軍歩兵部隊を大きく上回る練度を誇る彼らが、だれが連絡をよこしたのかおっとり刀で党本部に駆け付け、レルゲンとグランツらの前に現れたのである。

 

「トスパン隊に連絡、今すぐにデグレチャフ隊を追いかけろと伝えろ!こちらのことは構うな!」

「応戦用意!擲弾投射兵、前へ!」

「くぅ、かなり動きがいいな、こいつら!」

「06!?チクショウ、04から01へ、06がやられた!」

「03、応急処置を行え!04は06に構うな、撃ち続けろ!」

「第六分隊はトスパン大佐の指揮で上へ向かえ!スピードを優先しろ!」

 

「総統閣下をお守りするんだ!庁舎からこいつらを叩き出せ!」

「こいつら連邦国軍の装備じゃないな。大ドナウ系の武装勢力か?」

「いや、あの顔には見覚えがある。一部は間違いなく国軍系だ」

「誰であろうと構うな!総統閣下に仇成す者どもを殲滅しろ!」

 

即座にレルゲンは余剰戦力であるトスパンに率いさせた歩兵分隊を、ダキア側指揮官は一個強襲憲兵分隊をそれぞれ抽出し、二階にいるデグレチャフ隊に派遣。ここに大兵力での速攻案は頓挫し、すべては階下での事情を把握できていないデグレチャフ大佐と、トスパン大佐の状況説明の腕に託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

史実より大幅な増改築を重ねている褐色館は、既存の建物に加えて長大な翼廊が東西に追加されており、党集会のための広場に向いている三階正面や、エントランスを兼ねている一階こそシンプルな構造をしているものの、それ以外はまさに複雑怪奇。一階から最上階まで直接行ける階段は存在せず、例えば一階から三階まで行こうと思えば、どちらかの翼廊の南角にある螺旋階段を使って二階まで登り、その後廊下で囲まれた内部の中心にある螺旋階段へと向かわねばならない。

 

なんなれば、二階ですら階段を登った先はいざとなれば機関銃陣地に化ける守衛室の前を通り過ぎ、ベトンで固められた中央区画を抜け、ようやく各種施設や会議室が配置されたエリアに抜けられると言う寸法だ。まるで要塞の類である。一昔前の戦車並みの防御力を持つ壁のみならず、支持体となる壁が多いために大幅に増圧された床もまた頑丈で、対戦車ライフルでもおいそれとは貫けない。

 

が、この庁舎にも一つだけ弱点がある。それは、『銃弾の効かない相手を想定していない』と言う点だ。

 

「だからこそ、銃弾を喰らっても早々死なない我々が先鋒に選ばれたのだがな」

 

せせこましい室内に、装甲車が突入できる道理もなし。要塞と言っても他党の武装勢力との戦いを想定しているものであって、正規軍の特殊部隊が突っ込めばそこまで頑丈なものでもない。火炎術式をぶち込まれた守衛室の親衛隊員たちは火だるまになり、異変に気がついた連中が必死で小銃を手に応戦するも、魔導師相手には効果なし。

 

が、デグレチャフ隊の猛進はここまでだった。

 

「ん?アレは…げっ!?大佐殿、伏せてください!機関銃です!九十七式の魔導反応も!」

「はぁ!?クソッ、総員、あのドアだ!私が牽制する、室内に突入し、橋頭堡を確保するんだ!ヴィーシャ、私が不在の間、指揮権を継承しろ!」

「了解です、大佐殿!」

 

魔導師と機関銃の組み合わせ。導き出されるは、『術弾をぶっぱなす機関銃手』という最悪のコンボである。ましてや、現在の連邦では古戦場から発掘*1された機関銃、特に大戦中期から後期にかけて狂ったように帝国が量産したグロスフス軽機関銃がブラックマーケットに流れ、四六時中公安を悩ませる大問題になっている。毎分1200発で7.92mm弾をたたき込まれれば、さしもの三核宝珠といえどたまったものではない。

 

「Fire in the hole!」

「いまだ、逃げ込め!早く早く早く!」

「04、念のためスモークとポテトマッシャーも投げとけ!」

「合点承知!」

 

破片手榴弾、煙幕、ついで術弾頭入りポテトマッシャー*2をぶん投げられるも、さすが九十七式というべきか、重傷を負った気配はない。多少怯んだ様には見え、また実際に破片の散乱で後続の只人たちがえらい目に逢っていたものの、肝心要の機関銃手が無事では意味がない。

 

「あかん、これ死ぬぅ!?」

「落ち着け、馬鹿野郎!」

「一室制圧しました!大佐殿、お早く!」

「助かった!退け、退け、退け!」

 

命からがら逃げ込んだ室内は、おそらく会議室に使われていたであろう上等な一室。死亡確認が進むその部屋は、上等な白い壁紙やビロードのカーペット、黒檀のテーブルや各種調度品の数々を覆う様にに赤黒いシミが広がり、四個ある電球のうち三個を割られて薄暗くなった照明も相待って、ターニャ視点では完全に某ゾンビゲーの世界である。

 

「この後はいかに?」

「流石に単独ではここが限界だな、室内からの圧力も…「大佐殿!さらに小隊規模の増援が!」…無理そうだしな。あの機銃手を排除して、先程通り過ぎた階段と守衛室を確保、その後レルゲン隊と合流して上を目指すぞ」

「アイマム。擲弾の在庫はおありで?」

「爆裂術式で何とかなるだろう。あの部品も、不本意ながら持って来たしな」

「ほんとに使えるんですかね、あの産廃?」

「何発か撃つだけなら問題無い。…はずだ」

 

ゴソゴソと銃剣を外したターニャが銃身の先端に装着するは、左にひん曲がった鉄パイプ。ドイッチュラント軍ではクルムラウフの名で知られるそれは、大戦末期に帝国が開発した気狂い沙汰を、あろうことか大ドナウ軍が拾い上げて試験運用している屈曲銃身である。

 

「うちの試験ではろくに使い物にならなかったそうだが、果たしてどうなるやら」

 

三十度の緩やかなカーブを描くそれをドアフレームに当てがい、大体この辺だろうと言う当たりをつけて掃射する。魔力で守られた術弾は粉砕される事なく銃身をゴリゴリと削りながら発射され、爆裂術式が廊下にオレンジの花火をぶちまけた。

 

「…思ったよりしっかり動作しますね」

「だが、本国では二百発が限界だったと言う話だ。このまま引くぞ!」

 

タイミングよく階下から増援部隊が到着したため、その火線の下を防殻と防御膜任せで突っ切りながら四人は撤退。輜重兵が持ってきたマガジンをチェストリグに補充し、破損した装具やプレートを交換しつつ、彼らはレルゲン隊が想定外に時間を食っているという事実を知り、いまだ敵味方の鉛玉の応酬が途絶えない廊下を見下ろす守衛室の片隅で、進撃か待機かの決断を迫られた。

 

「手元にあるのは歩兵二個分隊と魔導師一個分隊で、敵方の戦力は推定一個大隊の武装組織か。普通なら待機を選ぶところだが…」

「大佐殿、小官は進撃を進言いたします。戦力比こそ膨大ですが、わが分隊は12.7mm重機二丁と7.92mm軽機三丁を備えており、擲弾投射銃も備えております。閉所という条件を加味すれば、階段まではぶち抜けるかと」

「わが隊も同様です。多少の戦闘は行いましたが、弾薬貯蔵もいまだ十分です。防衛戦力は下に集中しているはず。今ならまだ、間に合います」

「ならば、貴官らを信じよう。三分後に突っ込むぞ!弾薬と手榴弾の補給を終えておけよ!」

 

今回ターニャが持って来た小銃は、Wz.74-416のカスタムモデルの一つ。トルキア共和国国営機械化学工廠製のグロスフス機関銃に範を取ったショートバレル、30連ポリマー弾倉、アングルドグリップに折りたたみ式ストックの、可能な限り反動と重量を抑えることに特化したCQB型だ。今の今まで銃剣を外していたそれに、裸電球を浴びて鈍く輝くアーミーナイフ型のWz.22銃剣を装着すると、彼女は勢いよく飛び出した。

 

弾切れ時のサイドアームとして守衛室に転がっていたStg26を背負った突入部隊が目指すのは、十数分前に押し戻された二階中央区画の入口。先ほどより多少人数が増えただけに見える彼女らには、しかし大ドナウ軍という名の火力バカが付いている。

 

選抜分隊なだけのことはあり、彼らの主武装はいずれも重度のカスタムがなされた散弾銃や、ダムダム弾を込めた短機関銃、果ては汎用機関銃と重機関銃。さらには、全員が全員それに加えて回転式擲弾投射器を装備している。その制圧火力たるや凄まじく、にわか作りとはいえ機関銃陣地やバリケードまで拵えていた室内の通路を、擲弾投射器による統制射撃と重機関銃の圧倒的な火線で持って瞬く間に制圧してゆく。突入段階になれば防御膜と防弾盾を頼りに突っ込んでいくターニャらの側背面をカバーする様に弾幕を張り、進撃が衰えたと見るや、障害物裏に伏せる彼女らの頭越しに再び火線を張って、総統親衛隊の反撃を許さない。散弾銃持ちは防弾盾を借りるや否や瞬く間に側面の部屋を血祭りに上げる始末で、その余りの火力と手際の良さに、思わずターニャは唸らされた。

 

「如何ですかな大佐殿、我が軍の火力は!」

「正直、素晴らしいの一言だ!さすがに、エスカルゴにもライミーにも協商連合人にも落とせなかった我らを、真正面から撃ち落としただけの事はある!」

「お褒めいただき恐悦至極!我らのモットーは、『Barrage and Explosion is Power(弾幕と爆発はパワーだぜ!)』でありますれば!」

「…それ、考えたのは貴官の所の元帥だろ」

「はい!なぜお分かりになったので?」

 

スマートさを信条とすべき特殊部隊にあるまじきモットーと、それを与えた知人に呆れ返りつつも、実際その両者がパワーなのはまぎれもない事実だ。絶大な火力は迅速な突破を可能にし、同時に流血沙汰をぐっと派手にする。余裕のよの字もなかった魔導部隊単独の時とは打って変わって、一応の指揮官であるターニャですら、なんかこれ某ミレニアム大隊の切り抜きで見たなぁ、そしたら私は果たしてどちら側なのだろうかなどと、雑考を巡らせる余裕すらある始末であった。

 

快進撃は継続し、あっという間にターニャらは三階に続くベトンで囲まれた螺旋階段に到着。漆喰を塗って誤魔化して入るが、重厚なレバー開閉式の防爆扉とその横から覗く雑なペンキ塗りの壁の質感といい、明らかにバンカー並の装甲である。

 

本当に要塞の様だと感心しつつ、持ってきた梱包爆薬で直ちに吹き飛ばそうとした強襲憲兵隊だったが、流石に頼り切るのはいけないとセレヴリャコーフ少佐がそれを制止。

 

「熱源術式、発動します。離れて!」

「総員、退避と周囲警戒を!下手に近づけば、軍装が溶けるぞ!」

 

防御膜と防殻に任せて意図的に宝珠の熱暴走を引き起こし、発生する高熱でもって金属ドアをぶち破るこの手法は、戦中戦後問わず特に高性能ゆえ熱がこもりやすい同調宝珠を使う魔導師たちに重宝されている。常人を魔力量において突き放すセレブリャコーフ少佐ともなれば、防爆扉などは朝飯前といったところだ。

 

円形に周囲が溶解した錠前部分を勢いよく蹴り飛ばし、運悪く待ち伏せていた親衛隊員の頭に溶解した鉄をぶっかけながら少佐は突入。螺旋階段の上側、壮絶な死を迎えた同僚に怯んだ親衛隊員を瞬く間に駆逐し、後方で待機している部隊にハンドサインを出した。

 

「…大佐殿の元副官殿も、なかなかにおっかない様で」

「間違っても怒らせるなよ。焦げ尻の一つ二つじゃ済まされんぞ」

 

妙に実感のこもったターニャの嗄れ声を聞き流しつつ、各員は螺旋階段のクリアリングに取り掛かる。信管作動距離に達さないまま転がり落ちてくる恐れのある各種投擲ないし投射爆発物は使えないが、水素ガスの生成くらいならば酸素生成術式の応用で朝飯前。空気より軽い可燃性ガスを魔導師三人がかりで生成し、改めて閉じた防爆扉の外から範囲を細く絞った爆裂術式を螺旋階段にぶち込んだ。

 

締め切られた屋内、充満した水素ガス、そして過剰なまでの熱源。専門用語で水素爆鳴気と呼ばれる現象は、褐色館の密閉された最上階においてすさまじい破壊をもたらす。窓ガラスという窓ガラスは吹き飛び、三階に居た半数以上の人間は肺を吹き飛ばされ、並大抵の軍人では目も当てられない惨状になった。爆発の衝撃は二階を飛び越えて一階まで響き、一時総統親衛大隊と突入部隊の戦闘が途絶えたほどであった。

 

「今だ、突っ込め!制圧しろ!」

「生存者にはトドメを刺せ!一人も生きて逃すな!」

「セリフが悪役のソレなのはどうにかならんのか?」

「まぁ、特殊作戦群ってそう言う仕事ですし」

「吹っ飛ばした本人がそれを言うかね、ヴィーシャ」

 

ちなみに今回ヴィーシャのサブウェポンは欧州規格四ゲージの大ドナウ製大口径散弾銃で、装填されているのは大粒散弾がぎっしり詰まったバックショット。腰のサイドアームはストッピングパワーに優れる.45ACP弾の詰まったコルト・ガバメント。

 

呻き声をあげる暇もなく生存者は殺害され、三階の制圧は最早戦闘というより虐殺の様相を呈した。ここまでする必要があったのかという問いについては、この件が公表された十二年後から2000年代に至るまで議論が繰り返されているが、普段は妥協的な見解を示すドイッチュラント連邦政府は珍しく一貫して強硬な肯定姿勢を示し、この後に起きた()()()()()を含め、一件を過激だったとはいえ政府の管轄内の治安活動だと主張。国内外の右派組織の抗議にもかかわらず、およそ一世紀後のミハイの死去を過ぎてなお、対決姿勢を崩していない。後年マフィアと結びついたファシスト党との半内戦状態に苦しめられたイルドアの歴代政権も、ドイッチュラントの姿勢を強烈に支持している。

 

とまれ、この作戦に参加した誰もが、これで終わったと。そう胸を撫で下ろした。都市のあちこちに配置された部隊も、都市をぐるりと囲むように主要な通りを封鎖した検問部隊も、何一つ異常を訴えなかった。将来の不安要素はひとまず死に絶え、再びドイッチュラントは未来を向ける。

 

誰もが、そう思っていた。

 

だと言うのに。

 

「は…?奴の死体が…無い?」

「そんなバカな!三階にも二階にも逃げ場は無い!総統親衛隊も皆殺しにしたんだぞ!?どこへ逃げると言うんだ!」

「これは…!?閣下、これは地下通路です!このカーペットの裏、微かにですが他所と響きが違います!」

 

運命その人は、未だ彼らに止まることを許さなかったのだ。

*1
終戦からまだ五年と経っていないため、広大な戦線の戦場清掃も終わっておらず、残された兵器はレストアすれば十分使える段階にある

*2
小説版五巻、メアリーとデグ様初接敵時にデグ様がぶん投げたあれ

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