ダキア大公家三男に転生したので帝国を理解らせに行く話   作:舞葉

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まずはお気に入り200人&8000UA突破、本当にありがとうございます。いったい何が起きてるんだ(混乱)
今後とも首をかしげながら、期待を裏切らぬよう、そして可能な限り誤字脱字を出さぬようのたうち回りながら更新していきますので、よろしくお願いたします

追記
カド=フックベルグ様、誤字報告ありがとうございます


プロシュティ油田
第五話


実に二ヶ月半ぶりにブールクレストに降り立ったミハイを待っていたのは、『大公崩御』のビッグニュースだった。ミハイが到着するちょうど一日前の事で、大公は死の直前まで精力的に執務をこなしており、コーヒーを取りに行こうと席を立ち上がった瞬間に心臓が止まるなどと、誰もが予想だにしていなかった。道理で平時ならば賑わっているはずの首都が、心なしか沈んだ雰囲気に覆われている訳である。

 

厳粛な雰囲気の元、黒いビロードを被せられた棺が首都の大通りを馬車に引かれてゆっくりと通り過ぎてゆくのを、黒地に上下の白線二本と、ダキアの国章が染め抜かれた喪章を礼服の袖に付けたミハイは、折から降り出した小雨の中で見送った。ブールクレスト大聖堂に流れる葬送行進曲は、先代国家元首への追悼を示すとともに、ミハイの戦いの始まりを告げていた。

 

急逝にも関わらず、大公位の継承はスムーズに行われ、ダキア大公国の名門ドラクレイシュ家の血を継ぐ、ミハイの二つ上の兄が新たなるダキア大公国の国家元首に就いた。フェルディナンド一世の誕生である

 

先代大公の時代から仕える宮廷の人間は、口々にミハイに対して亡命を勧めたが、彼は「それでは秋津洲で雪と泥に塗れた意味が無くなる」とこれを一蹴。フェルディナンド一世に現在の軍事局長の公金横領や士官学校裏口入学に纏わる収賄などを囁いた上で、堂々と宮廷軍事局長の座を要求した。最初は渋っていた大公フェルディナンドだが、秋津洲観戦武官団に所属していた高級将官の後ろ盾や、ミハイ自身は一切関与していないにも関わらず次から次へと明らかになる数々の罪状の助けも借りて、彼は無事に先代を局長の座から引き摺り下ろし、旧態依然としたダキア軍のトップに立った。ここまで先代大公の逝去から僅か一ヶ月足らずである。

 

局長就任から1912年末までの一年間、彼の仕事は御膳立てに終始した。

 

連合王国の軍務省にコンタクトをとった彼は、手始めに欧州大陸諸国と合州国を時計回りに訪問した。

 

「……なるほど、つまり、こう仰りたいわけですか。1914年度を目処に設立されるプロシュティの国営石油企業から安く石油を流すから、我が国に将校団を派遣させろ、と」

「ええ。『懐中時計』と『トラクター』のライセンス、それに鉄鋼の件の確約を追加でいただければ、合州国より二割…いえ、四割は安くお譲りします」

 

帝国人からお得な話と引き換えに、比較的新しい二種類の精密機械の設計図と教科書を買い付け、

 

「魔導師の軍事顧問団派遣…ですか」

「ええ。出来れば、アンソン・スー少佐が望ましい。一度見かける機会がありましたが、彼はいい将校だ。その上、運用予定の連合王国製演算宝珠にも精通している。ウチの軍に欲しいくらいですよ。それと、ヴォフォース社の件もお忘れ無く。こちらとしても相応のリスクを冒すのですからな」

 

レガドリア人からは、仲のよろしくないお隣さんの秘密の代わりに、古なじみの有能な懐中時計の使い手を派遣させ、

 

「ほう、我らが王立海軍の顧問が欲しいと?しかし、こう言っては何ですが…貴国の海軍は、大変興味深い編成をしていらっしゃるとお聴きしているのですが」

「これは手厳しい。しかしご心配なく、ハード調達の()()はありますので。ついでと言っては何ですが…我が国の各省庁外局の局員をそちらにお送りさせて頂きたい。それと、これは個人的なお願いなのですが、ドレイクという魔導将校をご存知ではないですか?」

 

アルビオン人からジョンブル魂の結晶を学び取り、

 

「我が国のグランダルメに範を取りたいと?」

「聞いたところによれば、秋津洲皇国の軍隊は貴国のそれを模範としているとか。我が国の観戦武官連中が絶賛しておりましたよ」

 

フランソワ人の情熱にあふれた喧嘩のルールブックを手に入れ、

 

「我が国の山岳歩兵師団から顧問を派遣、ですか?」

「ええ。有事の際には山岳に籠る国家同士、学べる事があるのではないかと。例の件の事もありますので、蝙蝠同士、仲良くしていきましょう」

 

秘密のお約束と引き換えにイルドア人の登山術を教わり、

 

「いいでしょう。その条件であれば、我が国も石油技術者を派遣するにやぶさかではありません。しかし、帝国に輸出する石油の額を引き上げろと言うのは…?」

「そちらに関してはオプションの範囲です。が、呑んで頂けるのならば最低でも『精密懐中時計』の件はお約束いたしましょう」

 

最後に、競合相手から拝借した企業機密を貸し出し、代わりにアンクル・サムの油ギッシュなシルクハットをお借りした。

 

無論、ジョンブル共を筆頭に、一部の国家がダキアの多重舌を嗅ぎつけることなどミハイは織り込み済みである。蝙蝠外交など、現状のダキアの国力では絹糸の上の綱渡りに等しいが、一定以上の国力さえ育てば鋼鉄のワイヤーくらいにはなってくれるはずである。今のダキアにとっての最上位課題は、列強同士の外交テーブルにおいても無視できない規模のアクターになること、そしてそのための強力なパトロンを、可能であれば複数獲得することであった。

 

長男が貴族の友人を集めては日がな一日贅沢三昧に明け暮れ、病弱な次男がジワジワと死の淵に歩んで行くのを横目に、着々とミハイは官僚の支持を集め、国営企業設立のための準備を進めていった。

 

そしてやってきた十二月二十五日のクリスマス、首都はどこか浮足立った雰囲気を纏っていた。出歩く者もいない静かな首都の、ここだけは馬車馬のごとく働き続ける鋼鉄の心臓ことブールクレスト中央駅では、欧州各国に散らばってゆく官僚と軍人たちを、ミハイ自らプラットフォームまで見送りに出かけていた。

 

「忠勇なるダキア軍人諸君、そして勤勉なるダキア省庁外局の官僚諸君。私は君たちに、我がダキア国家を背負うに足る人材に育ってもらいたい。現状、我がダキア大公国は欧州有数の弱国だ。極東の秋津洲皇国でも、おそらく我が国の数倍の国力を有している」

 

一部の軍人が深くうなずき、官僚と技術者が悔しさに唇をかみしめ、そしてほとんどの軍人が憤懣やるかたないといった顔でミハイを見上げている。

 

「もはや我が国に極東人を嘲笑う資格などない。いや、今や我らこそが嘲笑われる側となった。…しかし、私はそれを良しとはしない。私とともに秋津洲を訪れた者はすでに分かっているだろう。ダキアは、そのようなところで終わる国家などでは断じてない!イスパニア内戦に向かう諸君、貴官らは国家を追い出されるのではない。教科書の中での戦争ではなく、本物の塹壕戦から、戦争というものの本質を学ぶ機会を与えられたのだ」

 

今日もゼートゥーア譲りの演説は絶好調である。転生前から、彼は講釈を垂れさせたら社内一とまで言われるほどの弁舌家であった。

 

「祖国に栄光…いや、最良の時代を。一年後の諸君の成長に、私は大きく期待しているぞ」

 

男達はそれぞれの列車に乗り込んで行き、閑散としたプラットフォームには、ミハイと駅員だけが取り残された。

 

 

 

 

ダキア使節団が帰国するのは一年後。その間、ミハイは内務省の手を借りて、陸軍内の改革に乗り出した。

 

「過去六年間、士官学校の裏口入学をした連中から、そんなものに頼らなくても入学できたであろう連中と、本物の馬鹿を分類しておいてくれ」

「よろしいのですか?そうなると、かなり旧態依然とした人間が残りますが…」

「ボタ山の中から出て来たからと言って、石炭じゃないとは限らない。今のダキア軍には、圧倒的に士官クラスになれる人材が足りないんだ。たとえどんなに粗かろうと、磨けば光るならば構わない。面倒だろうが、よろしく頼むぞ」

「……了解いたしました」

 

分類された貴族のうち、上澄みと判断された人間はミハイ自ら厳格に選別。作戦立案能力のほかに、機密保持能力や人間としての品格、射撃・格闘などの実技能力、そして何より長距離行軍訓練過程の結果などをすり合わせた結果、裏口入学の該当者二千五百人弱のうち、僅かに十五人ほどの人間がふるいに残される。彼らに加えて、平民出身という事で人事的に差別されていた連中や、外様に置かれていた将軍達を、ミハイは纏めてダキア陸軍宮廷軍事局の作戦課に放り込んだ。彼らは、第一次使節団の帰国が完了次第、交代で情勢のきな臭くなってきたルーシー帝国で近いうちに勃発するであろう内戦に、帝政勢力側の観戦武官として塹壕に送る予定である。

 

「上澄みの残りは…そうだな、イルドア軍に倣ってウチ直属の連隊に所属させておこう。人員プールの隠れ蓑にはぴったりだ。さて、残りに始末をつけるぞ」

 

ダキア陸軍の大規模人事改変が公表されたのは、一週間後のことだった。何のことはない。役に立たないと判断した人間を、第一近衛師団および新設させた第二近衛師団にまとめて投げ込み、使えると判断した一部の人間を根こそぎ上層部に引っ張り上げただけのことである。悪影響を及ぼしそうな連中を隔離するとともに、これから激減するであろう既存の軍服の需要を、最低限確保するための措置だった。

 

不穏分子の隔離を終えたミハイが次に取り掛かったのは、ダキア陸軍の軍服の一新である。既存の軍服は、閲兵式にはこの上ないほど適性が高いが、野戦となると目立ってしょうがない。灰色、カーキ色、そして深い緑色の三色が候補に選ばれ、最終的にベースとなる色は、西暦世界のドイツ軍に倣ってフィールドグレーに決定。台襟ボタンを廃した生なり色の折襟シャツと、灰色のブレザータイプの上着、それに冬季戦およびカルパティア山脈での防衛線を想定して、真っ白な雪原迷彩と灰色の二種類のコートが制定された。

 

ブレザーの襟には連邦共和国時代、すなわち現代ドイツ軍風に、階級を表すオリジナルの襟章――ペリカンの羽と月桂樹の葉をモチーフにしたデザインをベースに、意匠、色、数の差で階級を表す――を装着。肩章はシンプルに佐官以上は編み込み式、それ以外はただの線と星とした。制帽は礼装のみ伝統的なカルパック帽の意匠を取り入れたデザインであり、それ以外は帝国に範をとった略帽、制帽、それに加えてせっかくなので、将校用略帽として西暦世界ポーランド陸軍のチャプカを導入。帽章を銀色に輝くダキアの国章に変更しただけのものである。ヘルメットは、仮想敵の装備のデザインを参考にするといろいろマズいことになるため、連合王国陸軍の物を丸パクリした。

 

こうして出来上がったのが、新生ダキア軍の野戦服である。礼装は今まで使っていたものを割り当てればよかったため、デザインコストも安く済んだ。オリジナリティーがないと言われればそれまでだが、今はスピードが何よりも重視されていた。

 

陸軍トップのごり押しということもあって、直ちに生産ラインに乗せられたダキア陸軍の13年式野戦軍服シリーズは、軍内でもかなり物議をかもしたが、ミハイの狙い通り不満が表立って噴出したのは新設された二個の近衛師団からのみであり、そのほかの野戦部隊での評価はおおむね好意的であった。

 

並行して、ミハイはダキア国内の鉄道の整備計画の立案を開始した。現状、ダキア国内の鉄道はほとんどが首都から国境へ向かうものであり、輸送手段はいまだに馬車がメイン。連合王国に送った技術者達が帰国した時に備え、わずか三か月の間に、人海戦術を駆使して鉄道建設に適した地形の細かい測量や、購入する機関車の目度を立てるところまで漕ぎつけた。いざ建設となると、鉄道設備の自国生産が困難な現在のダキアでは莫大な量の金が消し飛んでゆくが、プランニングするだけなら機材などの初期費用と人件費以外はタダなのである。先代の宮廷軍事局長が金庫が破裂するほどため込み、今はそのままそっくりミハイ率いる宮廷軍事局の予算に流れた額に比べれば、はした金に等しかった。

 

企業設立のための労働者の確保、民間企業の買収と国営化、海外からの優秀な技術者のヘッドハンティング、そしていつどんな風に横合いから首を突っ込んでくるかわからない守旧派貴族の無力化ないし排除など、精力的にミハイは下地を整えていく。一年後に始動するダキア国家改造計画という名の急行列車を確実に目的地に届けるための路盤の準備は、日進月歩の勢いで進むのだった。




ダキア大公国公室列車

外見はオリエント急行の食堂車を四両連結した急行車両、中身は両サイドにコンパートメントが並ぶホグワーツ急行的なアレ。元々は金銀細工で装飾された、動くヴェルサイユ宮殿と言っても過言ではないほど成金趣味な車両だったが、公族が国外に出ることがなくなって久しい現在、ブールクレスト中央駅の車両基地で埃をかぶっていたところをミハイが引き取った。外装を引っ剥がして欧州各国の博物館やら美術館やらに一切の躊躇なく売り飛ばし、減った重量分の装甲を壁面に仕込んだ頑丈な代物。なお改装時に使いきれず余った金は、全てミハイの懐に消えた模様。

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