オルコット家の執事さん 作:フジノ
IS学園への登校初日。
もしも視線が物理的な力を持っていたら、もう1人の男子生徒も自分も、今頃体が穴だらけになっていただろう。それだけクラスメイトたちが、1人目と私に興味を持っていた。
副担任の山田真耶先生による自己紹介と挨拶から始まり、出席番号の順に自己紹介が進んでいくことになったが、何処か気が抜けていると言うか、自分のことより先に2人の事を教えろよ、と言う考えが見て取れた。実際、自己紹介している生徒も、それを聞いているはずの生徒も、何故か妙に目が合うのだ。
そんな空気感の中、いよいよ1人目の男性IS操縦者の順が回ってきた……が、あまりにも緊張していたらしく、山田先生に何度か呼びかけられて、漸く自己紹介を始めた。
「織斑一夏です。よろしくお願いします。……以上です!」
だが、彼が発した情報は名前だけであった。
その事に空気は一気に弛緩、ギャグ漫画の如くずっこける生徒もいる中、クラス担任の織斑先生がご登場なされ、1人目の頭に拳骨をプレゼントしたり、黄色い音響兵器が火を噴いたり、1人目と先生が兄弟である事が露呈したり、織斑先生が1人目の頭に拳骨をプレゼントしたりしたが、詳しくは割愛させていただこう。
「……はぁ。お前らももう1人が気になって仕方がないだろう。御影、自己紹介をしろ」
「はい、織斑先生」
織斑先生の指示により立ち上がって一度教室を見渡す。ここでしっかりと自己紹介せねば、お嬢様の顔に泥を塗ってしまうというものだ。
小さく深呼吸をして、心を落ち着かせてから自己紹介を始める。
「皆様初めまして。オルコット家の当主であらせられるセシリア様の執事を勤めております、御影雪兎と申します。趣味はお菓子作りを少々。皆様とは共に切磋琢磨し、高め合える事を願っております。以後お見知り置きを」
一礼をして着席した瞬間、予想だにしなかった黄色い音響兵器の第二波が放たれた。
「執事!? 本物!?」
「きゃーっ! セシリア様ですって!」
「見た目おっとり系なのに中身はしっかり系!?」
「これはすけべの気配を感じますな……えっちですぞ」
「お嬢様って呼ばせ……呼ばれてみたい!!」
「執事でお菓子作りが趣味とかあざとすぎてえっちだね」
あまりの音量に少々動揺したが、概ね好評をいただいているようで安心した。好評には間違いないだろう。お嬢様と私に実害が無ければまあ良い。
そう自分に言い聞かせつつ、チラッとだけお嬢様の方へ目を向けると、どこか誇らしげにしていらっしゃる様子だった。先ほどの自己紹介で問題なかったと言う事だろう。周りの反応も……まあ含めてヨシとしておこう。
「よろしい。さて諸君、私の仕事は半人前の君達を一人前にする事だ。良いなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ」
織斑先生の言葉に従い返事をする。
同じく周りのクラスメイト達もしっかりと返事をしていたことから、流石は超高倍率のIS学園に入学してきた猛者達かと感心した。
おそらくだが、普通の高校やらそこらのハイスクールではこうはいかないだろう。もしかすると織斑先生のカリスマあってこその可能性もあるが。
そんな織斑先生から引き継ぐ様に、山田先生IS学園についての説明が行われ、オリエンテーリングが締められた。
「それでは、今日から3年間、しっかり勉強しましょうね」
それはそうとまったくの余談になるが、私も大きいのは好きである。この言葉に他意はない。
全くもって他意はないが、山田先生は大きい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
オリエンテーリングも終わり業間休み。
IS学園はカリキュラムの都合上、初日から授業が行われる。その為こうして今、業間休みがあるのだ。
そんな休み時間に彼はやってきた。
「本当に、本当に居てくれて助かったよ! 男が俺1人だけだったらどうなってたことやら……っと悪い挨拶が遅くなったな。織斑一夏だ。一夏って呼んでくれ」
矢継ぎ早に言葉を紡ぐ彼に若干気押されるが、本当に精神的に参っていたことが窺えた。
彼の希望としては一夏と呼ばれることだが、こちらにも立ち場がある。
お嬢様の使用人である為、他人を呼び捨てにしたり、下の名前で呼ぶのは好ましくない。
何か特殊な事情がない限りは、苗字に敬称の様を付けて呼ぶのが基本だ。
「改めまして御影雪兎と申します。どうぞ私のことはお好きなようにお呼びくださいませ、織斑様」
「おぅ、じゃあ雪兎って呼ばせてもらうよ。俺のこと一夏で良いのに……と言うか同い年なんだから敬語も要らないぞ」
「恐縮ですが、なにぶんこう言った性分なもので……。それに私、セシリア様の執事ですので」
「そう言うもんなのか?」
「ええ、そう言うものです」
性分なのも本当だが、セシリア様の執事を名乗った以上は、人目があるところで砕けた人との接し方はするつもりは一切無かった。
兎も角、こうして織斑様にも納得してもらえた筈なので、この問答は終わりとしよう。
「ところで織斑様。どうやらお客様がいらしたようですが?」
「え? 客? ……ああ! 箒!」
近付いてきた女子生徒は、ISの生みの親である篠ノ之束様の妹である篠ノ之箒様だった。
織斑様とどう言った関係かはわからないが、どうにも織斑様の様子を見るに、昔馴染みと言ったところか。
そんな篠ノ之様は、織斑様に用がある様だ。
「御影、すまないが一夏を借りていっても良いか?」
「ええ、勿論です。篠ノ之様」
既知の仲ということで積もる話もあるのだろう。
自分にはそういう相手はいないので、ほんの僅かに羨望の様なものを覚えつつ、織斑様を貸し出す。……貸し出す?
そうして連れ立って教室を出て行く2人を見送りつつ、次の授業の準備を済ませておく。
教室移動も無いので、準備はすぐ完了だ。
さて、時間まで余裕があるので教科書でも読んでおこうか。
お嬢様からは事前に、業間休み毎に側に控える必要は無いと指示されているので、この時間は、何も無ければ勉強しておくのが良いだろう。
「ねぇねぇユッキー」
と、そこに声をかけてきたのは、大きめのサイズの制服に身を包み、しゃがみ込んでこちらを覗いてくる小柄な少女、布仏本音様だった。
「いかがなさいましたか? 布仏様」
「お菓子持ってない……?」
「少々お待ちください」
何の用事かと思ったら、まさかの揺りだった。
いや、揺りは言い過ぎだが。
兎も角、こうして求められた以上は、対応できるならば対応したい。
そう思い、今朝詰め込んでおいたキャンディを取り出す。昔から休憩時間に良く舐めていたものだ。
「キャンディでよろしければどうぞ」
「わーい! ユッキーありがとー! うまうま」
受け取るや否や、早速キャンディを口に放り込む布仏様。それだけ美味しそうに食べていただけるならば良しとしようでは無いか。
「勉強とか学園生活とか、困ったことがあれば言ってね-」
「はい。お心遣い痛み入ります」
そう言って、彼女は去っていってしまった。
どうにも不思議な雰囲気の方だ。
彼女なりの打ち解け方だと思っておこう。
もっとも、お嬢様に対しても同じ様にお菓子をねだることがある場合は、それは全力で止めなければなるまい。お互いの為に。
それは心のうちに留めておき、それ以降来訪者は無かったので、授業が始まるまでもう少しの間に僅かでも自習を進めることにした。
クラスメイトに比べ、ISに関する理解がまだまだ追いついていないのだから、頑張ろう。
ところで、これは大して重要なことでは無いしあくまでも私の推測に過ぎないが、もしや布仏様はで
補足?
①主人公が思考の中でも様付けなのは、気を抜いてる時にポロッと様付けを外したりしない様にする為です。
彼はポンの者だです。
ムッツリスケベなポンの者です。
②最後は、「で」でわざと途切れさせています。
この後に続く言葉は…ね。