モンスターハンター 蝕霞の禍神   作:EpoMeta

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第3話  「瘴胞種」

第3話 「瘴胞種」

 

 「瘴胞種」とは、ゾルバトギリ群峰において新たに確認された生物の分類種である。しかし、現時点での調査においては不明瞭な点も多くこの生物分類自体が暫定的なものであることは否定できない。特徴としては糸状の器官を持ち、それを用いて多種多様な形態をとること、生殖において胞子を用いること、生態系においては生産者あるいは分解者の地位を占めること、などがあげられる。特に既存の菌類と比較して、菌糸のようは糸状器官の扱いに長けた種族であると言える。

 現段階において瘴胞種、狭義における瘴胞目はいわゆるカビに似た「黴束下目」粘菌のような形状を取る「群胞下目」キノコのような形状を持つ「造茸下目」の大きく三つに分類できる。以下にその特徴及び代表的な生物群を挙げる。

 

 「黴束下目」は他の二群と比較しても原始的な特性を残した分類である。基本的に固着性の生態をとり、動物あるいは植物に寄生し、そこからエネルギーを取り出し生活している。形態としては自己の菌糸を単純に縦横に伸ばしそれを寄生対象の身体の内外に伸ばしエネルギーを取り出し、また胞子を放出する。形状としては、広葉樹のように菌糸を三次元的に広げるもの、あるいは芽胞のように球状にまとまるものが代表的である。他の二群と比べて、他の種族に寄生あるいは共生するものが多いことも特徴である。

 代表的な生物群として、空中に広く菌糸を伸ばし、その強度は大型モンスターが乗っても壊れないほどの菌糸集合体を形成する「ソラノスカビ」、肥沃な森林の土壌に生え、微細な栄養分を摂取する白い団子のような大型の菌糸集合体を形成し群生する「ハヤシダンゴ」、コケ類と共生し瘴気を浄化して清浄な空気を取り出すため、多くの生物の呼吸器付近に共生する地衣類「ヒゲヅラゴケ」、生態系上位の飛竜の翼部に共生し、その独自の胞子を以て飛竜の狩りをサポートし自らの生存と生息域の拡大を行う「ドゥギラソリウム」などがある。

 

 「群胞下目」は、常に群体で行動し、一定しない不定形の形状を持つことが特徴的な分類である。普段はそれほど高速では動かないが、捕食時などには一時的に機敏さを見せる。食性においてはバラエティを見せており、枯れ木や死体からエネルギーを取り出すものもいればある程度能動的な捕食行動を見せるものもある。個体それぞれが微細な糸状器官を伸ばし合い、連絡を行うことで、群体でありながら個体生命の高等種のような動き、すなわち高度な知性によるものと推測されるような行動をすることもある。個体それぞれは小さいが、場合によっては大型モンスターに匹敵するサイズを持つこともある。

 代表的な生物群として、ゼリー状の肉体を持ち地表を素早く移動する「ハヨズィール」、樹木などの表面に生息し、表面に無数に生えた棘のようなアンテナで周囲を探知し触れたものを刺激性の粘液で溶かし捕える「スマグリモ」、水中に生息しパイプ状の器官を形成しそこからの発光で捕食対象を誘引する「ダクキイレ」、鉱物食を行うために岩石の表面に寄生、網目の籠のような子実体を形成し有害な煙を吐きながら鉱物を分解する「アミグスモ」、ほとんど動くことがなく岩盤を柱のような形成体で貫いて鉱物食を行う「ハシラホコリ」などがある。

 

 「造茸下目」は、他の二群と比較して最もバラエティに富んだ生態を持つ分類群である。全体的な特徴はキノコに似るが、糸状器官を用いて多種多様な子実体を形成することが特徴である。生態も固着性だけでなく自ら能動的に動く種も存在する。そのため、菌糸集合体を筋肉のように用いていわゆる動物のような運動を行う種も存在する点に置いては、他の二群とは一線を画す。

 固着性の種において代表的なのは岩石に近いほど硬化した「バケモノカイダン」や「キリキリマイタケ」、崖のような不安定な所に生育し透明な子実体を形成する「ガケノメダマ」、巨大で入り組んだ子実体を持つ「ヨウサイシメジ」、動物の死体にどこからか生えてくる「ニクゴロシ」、空気を取り込む際に独特の音色を出す「フエタケ」、家屋よりも大きく生育する「イエノカサ」などがあげられる。

 自立移動する種においては、生物の腐敗ガスを溜め込むことで飛行し、強靭に発達した鞭毛をスクリューのように動かし自在に飛行する「サマニタリア」、車輪状の菌糸集合体を自在に操作し陸地を自走し、能動的に捕食行動をする「マシュラボルカ」などがあげられる。これらは他の大型モンスターと引けを取らない大きさを持ちながら自立移動する、特異な種と言えよう。

 他の二群と比較して食用になる種が多いのもこの群の特徴である。最も、生食では毒性を持つので適正な調理を行うことが大前提である。

 

 瘴胞種は生態系において、動植物の死体を分解する分解者の役割を占めることが多い。特定の種の死体にのみ寄生するもの、環境さえ合えばどこにでも固着できるものなどバラエティに富む。一方、彼らを捕食する生き物もまた数多く存在する。しかし、大型モンスターに匹敵する大きさに成長し、また自立移動できるタイプは自ら能動的に摂食行動を行う上位捕食者としての位置を持つものもある。だがそれらは例外的な存在であり、基本的には他種に寄生あるいは共生して生活するものが多い。ヒゲヅラゴケがいい例である。瘴気を浄化し清浄な空気を取り出すこの種は、猛毒の瘴気が常に立ち込めるゾルバトギリ群峰においては数多くのモンスターと共生しており、その多くが口元にヒゲヅラゴケを群生させている。こうすることでモンスターは清浄な空気を取り込むことができ、またヒゲヅラゴケも生育に必要な養分を手に入れることができるのだ。

 

 ゾルバトギリ群峰においては瘴胞種の生育は特に著しく、「地形」を形成するほど巨大に生育した種が多くみられる。生態系においても本来ならば植物あるいは小型の腐肉食動物が入る位置に潜り込んでいる種が多数存在しており、他種を駆逐するに至ったと言っても過言ではない。それほどまでに生態系における場所を占有するに至ったのかと考える時、ゾルバトギリ群峰における他地域と比較した差異を検討する必要がある。

 

 まず第一に閉鎖的な環境である。ゾルバトギリ群峰は群峰というだけあり多数の山々の集合体だ。だがその位置関係がやや特殊である。いわゆる主峰が一つあり、それを中心に周囲を取り巻くように同心円状に山々が並んでいることだ。ゾルバトギリ群峰は歴史的に火山とされてきた。こうした火山において地形の成因は溶岩やマグマなどが大きい。しかし、マグマが一方向に並ぶならまだしも、綺麗な円形状に流れるものだろうか。しかも一つの山を取り囲むように。何より、火山地形としては奇妙すぎる山の形状が、何か別の成因を想起させた。その形状というのも、まるで崖を下から見たように反りかえった、それこそキノコを無数に重ねたような歪な形状であるからだ。溶岩よりも硬い物体がどんどん積み重なったように思える。陸路はもちろん空中から行こうにも、反り返った返しの部分を超えられなければ乗り越えることすらままならない。最も傾斜が激しい所では地面と平行に山頂が存在するのだ。この反り返った山々が物理的な壁として様々な外来種の渡来を妨げていると考えられる。

 

 第二に特別な土壌成分だ。ゾルバトギリ群峰各地の地面を掘るとある特定の岩石分を多く含んだ土壌に行き当たる。この成分の結晶体を「ゾルバタイト鉱石」と呼ぶ。鉱石化した鉱床となっているところもあるが、地表面近くでは細かな土の形で存在している。この鉱石は地中の栄養分を独自に引き寄せる力を持ち、植物よりもさらに細く根を伸ばすことができる瘴胞種にとっては抜群の栄養源である。なおかつ、この成分は鉱物食を行う生物にとってある程度の毒性を持つ。この土は現段階ではこの地域特有の物であり、このために瘴胞種の成長がより促進されているのではないかと予想する。この「ゾルバタイト鉱石」は非常に面白い形状をしており、拡大してみるとまるで他の瘴胞種あるいは菌類とよく似た構造を取っているのだ。ひょっとしたら、生命体のルーツを探る点でも大きな発見かもしれない。

 

 第三に気象などの環境条件がある。常に分厚い雲に覆われたゾルバトギリ群峰は砂漠のような過酷な日射とは無縁であり、また強風は反り返った山々にはじき返されてしまう。分厚い雲は適切な湿度を保ち、地熱が適切な温度条件を作り出している。これにより多くの瘴胞種が育ちやすい環境が保たれているのだ。

 

 これら三つの条件が、ゾルバトギリ群峰において瘴胞種がとりわけ発達・進化した理由であると推測できる。もし、ゾルバトギリ群峰以外で瘴胞種が多く生息している地域があれば、その地域の環境とゾルバトギリ群峰を比較し、瘴胞種に適した環境、そしてその発育条件についてより理解が深まることが期待できる。しかし、今のところ他地域における類似の生物の発見例はまだない。まだまだ人類の学びの未熟さを恥じ入るばかりである。

 

 ゾルバトギリ群峰に生息する瘴胞種について、現地に生息する獣人種であるシェヴルーに尋ねてみたところ、特に「ヒゲヅラゴケ」については生存に不可欠な必須の素材の一つである。彼らは毒性を持つ瘴気から身を守るために特殊な仮面を身につけるが、ヒゲヅラゴケをその仮面の内側に組み込むことで、浄化された大気をその身に取り入れている。その群生地は彼らの住む村のすぐ近くの森の中にあり、また岩が露出している場所など様々な場所に群生している。その生命力も旺盛であり、ある程度残しておけば一月程度で元通りの植生に復元するほどである。他にも、山間に住む一部のシェヴルーの部族は「イエノカサ」の内側をくりぬいて家屋とするとのことだ。

 また、瘴胞種の一部は食用となるらしい。「フエタケ」は加熱処理すれば毒性がなくなり、分厚い食感と淡白な味が特徴的な食材となる。「ニクゴロシ」はその生息場所こそ他の中型モンスターの死体であるが、これも水に一日程度漬けこんでよく水気を切り加熱すると毒性が抜け食材として利用できる。細かく刻んで使われる事が多い。また一部は薬として使用される。これはゾルバトギリ群峰に残存する遺跡に記された過去の文献から伝わるものである。特に「クグツダケ」と呼ばれる種類の物はいかなる病気も快方に向かわせる万能の霊薬であると称されるとのことらしい。だがその生育環境は山頂近い極限環境であり、また周囲には獰猛なモンスターが多数生息しており、見つけるだけでも至難の業である。しかし、それでも一部のシェヴルーは蝕霞症候群の対策として、伝説的なそれを求めている。そうした不幸と幸福の両方の側面を持つクグツダケは、シェヴルー達の言葉で「痛みの死」を意味する「ギルスペイン」の別名でも呼ばれている。

 

―続―

 

用語:瘴胞種

 モンスターの分類カテゴリーの一つ。ゾルバトギリ群峰における発見により新設された分類である。大型化した菌類のような形態をとるのが特長であり、その形状や生態はバラエティに富んでいる。

 

用語:ヒゲヅラゴケ

 瘴胞種に分類される小型のモンスター。地衣類のような外見をしており、蝕霞胞子やゾルバトギリ群峰に漂う瘴気を浄化し、清浄な空気を取り出す生態を持っている。そのため群峰に生息する多くのモンスターがこれと共生、あるいは利用して生活している。

 

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