モンスターハンター 蝕霞の禍神   作:EpoMeta

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第5話 「市街地遺構」

 ゾルバトギリ群峰に住む獣人種「シェヴルー」たちの協力を得て難病「蝕霞症候群」の解明に向かう我々調査隊の拠点があるのが、かつてこの地域に住んだ人類の痕跡が色濃く残るフィールド「市街地遺構」である。もはや人類は住んでおらず、石化した遺骸にその生活ぶりの名残を残すだけである。だが、わずかな手掛かりを求めて、私は協力的なシェヴルーの一人「ビシャク」と共に街中を探索していた。

 

 大量の本がある、とビシャクに言われ私たちがたどり着いたのは、どうやらこのフィールドにおける「図書館」であるらしき建物だった。早速中に入ってみる。幸い、看板や注意書きのような文字列は我々の使う文字とよく似ており、読むことには問題なさそうだ。シェヴルー達の話す言語も我々における「古文」とよく似ており、それゆえ何とか意思疎通ができている。歴史的に我々の住む国とシェヴルー、そしてかつてのゾルバトギリの都市について言語的な関連性があるのかもしれない。

 そうこうしているうちに、大きな書庫にたどり着いた。かつてこの地を襲った古の蝕霞症候群について、先人のヒントが残されているに違いない。そう思い私は、早速書庫の中に入った。本も生物と同様に菌糸の影響下にあり、読み取れる本はあまり多くはなさそうだが、それでも読める本を探し、一冊の本を手に取ってみた。一冊目のタイトルは「ゾルバトギリの伝説・民話集」。流し読みして気になるところを探す。

 

『まだこの世の中が混沌としていた頃、どこからか巨大な木が生まれて、下にあるものを踏みしめ、上にあるものを押し上げた。そうして踏みしめられた重いものが大地に、上に押し上げられた軽いものが空になった。木はどんどん成長し空は高く大地はより分厚くなっていった。だがある時疲れた木がふと周りを見渡すと、あまりに何もない。寂しく思った木は二つの分身を作った。一つの分身は山や湖、森や谷などの自然を作った。もう一つの分身はそこに住まう生き物たちを作った。そうしてものが増え始めると、最初の山は満足して眠りについた。

 自分たちを生み出した山が眠りにつくと、二つの分身はこの世界に生まれたものたちを導き、より良い世界を作ろうと考えた。自然を生み出した分身は「ローガ」、生命を生み出した分身は「シャンナ」と名乗り、協力して豊かな地を作り上げていった。水が欲しいと言われると湖を広げて水を貯められるように、食べ物が足りないと言われると作物がより大きく育つようにした。

 しかし、いつしか生き物たちは自然を好きなように利用しはじめた。草を折り取り、大地に穴を掘り巣として無理やりに開拓するようになったのだ。これにはローガは我慢できない。シャンナに対しどうにかならないかと尋ねたが、シャンナはどうにもならないと返した。そこで二人は自分たちを生み出した木に今後を相談することにした。木は、生命の寿命は短く自然の寿命は長い。いずれ生命も自然と共に歩めると諭した。

 しかし、怒りに満ちたローガは巨大な火山を作り噴火させ地震を起こし生命を全滅させようとした。それに対しシャンナは森に向かい、木々にはその根で大地を支えるよう、キノコにはその傘で噴石を受け止めるよう、そして生き物たちには森と共に歩み生きるよう話し、森に力を与え大きくした。この時ローガが作った山が今のゾルバトギリ山つまり死の嵐を起こす山であり、シャンナが訪れた森がゾルバトギリ市の周りの樹海である。

 火山が噴火し地震が起きてもシャンナのおかげで生き物たちは生き残った。ローガは怒りが収まらずこの地を去った。それからというもの、砂ばかりの山の上にも多くの花が咲き、燃えるように熱い泉もその熱がなくなり魚が住めるようになった。生き残った人間はシャンナに感謝を忘れないため、そしてゾルバトギリ山を鎮めて貰えるように山に神殿を建てて丁重に祀ったのである。以降、シャンナは善なる神を意味する「ユム」とも、ローガは悪なる神として「ゴル・ダ」とも呼ばれるようになった。』

 

 これはゾルバトギリに伝わる創造神話だろうか。登場する固有名詞は恐らく現地の神々を指しているのだろう。次に手に取ったのはどうやら新聞のような情報誌のような冊子だった。またパラパラとめくっていくとある見出しが目に留まった。

 

『【各地で謎の病気増加 新薬の完成待たれる】

 頭痛や咳、呼吸困難や幻覚を引き起こす新型の症例がゾルバトギリ市全域で確認されている。確認例はこの一週間で3倍に増加しており、感染防止に有効な手立てがないまま感染者数・死亡者数ともに増加している。一方、重病の患者に対し「クグツダケ」から抽出された成分を多く含有する薬品を投与することで症状が大幅に改善されたという報告が臨床医学の分野で報告されており、これを用いた新薬の完成が待たれる』

 

 これは記された日付を見るに数百年程度前の情報らしい。それまではここに人が住んでいたということは我々も知ることだが、この本に書かれている病気はまるで今の蝕霞症候群と同じに思える。「クグツダケ」という存在から抽出された成分が、どうやらその症状に対し有効な効力を発揮するらしい。次はクグツダケに関する本を私は探した。次に開いたのは分厚い本、この地の医学事典のようなものだ。索引を開き、クグツダケに関するページを探す。

 

『【クグツダケ】

 主に高地の荒涼とした岩場に生息する。強い解熱鎮痛、鎮咳作用を持ち、特に菌類による感染症に対する薬品として使われる。副作用として軽度の倦怠感、眠気が挙げられる。』

『クグツダケを基質とする薬品を投与した場合の、ゾルバトギリ周辺での流行病に対する効果の表れは大きい。流行病の初期症状である頭痛や咳に対して効くことは感染初期から知られていたが、皮膚が硬質化する後期症状に対しても一定の効果を得られることが臨床分野で分かった。投与後一日程度で皮膚の硬質部が減少していき、一週間ほどで皮膚の硬質化が収まる例が報告されている。』

 

 数百年前における蝕霞症候群に対し「クグツダケ」からなる薬品の効力、そして製法がさらに続いていた。この薬品の効力は感染症に対して高いことが事細かに記されている。しかしならばなぜ、今この地域に人は住んでいないのだろう。克服できる病気ならば今でもここに人は住み、そして今我々がこの病気に悩まされることなどないだろうに。

 同行しているシェヴルー「ビシャク」にこの疑問をぶつけてみた。この地に長く住むシェヴルーならば、何か知っていることがあるかもしれない。

『クグツダケ……「ギルスペイン」のことだな。単純にアレはほとんど行けないところに生えてるし数も少ない』

 そう言うと彼は図書館の窓から遠方のゾルバトギリ群峰の山頂付近を指で示した。地面と水平なまでにねじ曲がった波のような形状の山。その頂は遠目にも荒涼さが伝わってくる。

『それにあの付近には太刀打ちできない「化け物」ばかりがうようよいてそう簡単に近づけない。昔の人間もそうだったらしい。ルバーブの奴も、あそこに行かなければ……』

 ルバーブ、とは我々がシェヴルーの村にたどり着いた時、感染して暴走したシェヴルーの一人だ。シェヴルーの中でもクグツダケの効力が浸透しており、半ば伝説的な霊薬として語り継がれている。そして、その伝承にすがりたい一部のシェヴルーたちは、クグツダケの生息地に向かい、ほとんど帰らず、帰ってきても満身創痍で死を待つしかない状態になっている。

 だがしかし、だからこそこの未知の物質を手にすることが、蝕霞症候群に対抗する数少ない、いや唯一の手掛かりのように私には思えた。ところで、なぜ彼はクグツダケをギルスペインと呼んだのだろう。

「ところで『ギルスペイン』とはどういう意味なの?」

『オレたちシェヴルー達の言葉で「痛みの死」という意味だ』

 あらゆる痛みに死をもたらす特効薬としての力と、手にしようとするものを痛めつけ死に至らしめる、その二面性が言葉には込められていた。

 蝕霞症候群に対するクグツダケなるものの効力。このことをアミカ隊長へと報告しようと図書館を去ろうとするとき、ゾルバトギリ古語に関する辞典を見つけた。シェヴルーの言葉はかなり訛りの入った古語と共通点がある。これがあればシェヴルーとのコミュニケーションも円滑に進むかもしれない。そう思い、私はその辞典を懐に入れた。

 

 図書館を出た我々はそのまま街の中を探索する。この街の繁栄ぶりと言ったら我々の国の都市と引けを取らない。街路に沿ってずらりと立つ高い建造物。そのどれもにかつては人が住んでいたと考えると、大量の人口を持つ大都市、あるいはゾルバトギリに栄えた旧文明の首都だったのかもしれない。ふと眼前に走るすばやい影、この土地特有の鳥竜種「フルシュカ」だ。口元には魚だろうか、獲物を咥えている。彼ら一匹一匹の戦闘力は他種のモンスターと比べ決して高くはないが、その攻撃性と群をなすことでの総合的な戦力の高さは、群れからはぐれたモンスターには脅威となる。走っていくフルシュカたちを、私たちは物陰に隠れてやり過ごした。彼らは動くものとみれば、その手に伸びた長い爪を武器にすぐ襲い掛かってくる獰猛で攻撃性の高いモンスターだ。装備の整っていない今は、むやみに刺激せずやり過ごすしかない。

 フルシュカたちは過ぎ去ったようだ。彼らが走ってきたのは街を取り囲むように茂る森からのようだった。現在遺構となっている街は次第に森に呑み込まれ、その境目は明瞭ではない。そうした不明瞭な境界に、「ヒゲヅラゴケ」の群生地はあった。瘴気を分解し清浄な空気を取り出す特殊な地衣類の群生地こそ、我々調査隊が初めて調査らしい調査をした場所だ。それはこの街にたどり着いた翌日、シェヴルー達に案内された所でもある。このヒゲヅラゴケを素材としたシェヴルー達の仮面を参考に、私たちはこの地域調査のために防毒効果のある簡易的な装衣を作ったのである。おかげで、素のままでは生きていけない蝕霞の前でも、こうして活動を行うことができるのである。この装衣の作り方をサポートしてくれただけでも、シェヴルー達は我々の恩人だ。彼らのためにも蝕霞症候群の解明を急がねばならない。

 

 我々調査隊の拠点はシェヴルー達の住む集落のはずれにある大型の施設である。かつての文明でどのような扱いをされていたのかは想像の域を出ないが、広いわりに入り組んだ構造、中心的な街から離れた立地から城、あるいは刑務所のように使われていたのではないか個人的には思う。その一室に調査隊の司令部はある。我々調査隊の隊長であるアミカはその部屋の中で書類の処理をしていた。

「アミカ隊長、よろしいでしょうか?」

「ん、エリン教授。何か新しい発見でも?」

「はい、蝕霞症候群の対抗策として、古い文献に類似した症例とその対抗策が残されていました」

 そう言うと私はさらに図書館で見つけた文献についての解説を続けた。その報告をアミカ隊長は黙々と聞いていた。

「なるほど、教授としてはその謎の『クグツダケ』が病気の治療に重要ということだな?」

「私としてはそうですね。頼るとしたらこれに頼るしかないと。危険ですがやる価値はあると思います」

 私の中で「クグツダケ」の効能についてはほぼ確信に近かった。シェヴルー達の対応、歴史的な観点から考えて、少なくとも「全く効果がない」という事態だけはないと思ったからだ。そして未開の地に放り出された我々調査隊には、芥子粒のような小ささでも希望が必要であると考えたからでもある。

「……教授がそういうのならそうなのだろう。調査隊の一部をクグツダケに関する調査に充てようと思う。指揮は教授に任せても良いか?」

「はい、それでお願いします。必ず成果を出して見せます」

 新たに得た手掛かりに研究者としての私の心は躍起になっていた。必ずこの蝕霞症候群の原因を解明し、病気を治してみせようと、強い使命感に燃えていたのである。

 

―続―

 

フィールド「市街地遺構」

 かつてゾルバトギリ群峰に栄えた文明の廃墟。家屋や商店街、邸宅や要塞といった古代の建造物が形を保ちながら残存している。他のフィールドと比較し、蝕霞の影響は少ないが、所々に瘴気を吹き出す小型の瘴胞種が見られるため、油断はできない。気候としては温暖かつ寛容、生態系も穏やかである。また、フィールドの半ばには巨大なゾルバトギリ外輪山が存在しており、フィールドを二分割している。

それ以外の地形は基本的に平面的だが、多くの建造物が存在することで人工的な立体構造を取っている。

 全域には「旋角族」シェヴルーや小型の鳥竜種「フルシュカ」が生息している他、周辺を取り囲む森林から大型モンスターが流入することもままある。

 

モンスター

・ビアドン

 種族:草食種(偶蹄目 ビアドン科)

 生態・特徴

  太い四肢が特徴的な草食種。背面の皮が厚く発達しており、その内側や全身にエネルギー源である脂肪を多く蓄えている。口元には「ヒゲヅラゴケ」と共生しており、浄化された空気と蓄えた脂肪によって長い距離を移動できる。常に群れを作って移動しているが、性格は大人しく温厚である。

・フルシュカ

 種族:鳥竜種(竜盤目 鳥脚亜目 吼竜上科 フルシュカ科)

 生態・特徴

  黒い羽毛が生えた体に白い頭部が特徴的な鳥竜種。常に数頭のグループを作って行動しており、鳴き声を盛んに出すことが特徴。性格は非常に攻撃的。高い敏捷性と長く伸びた爪で、外敵に対し積極的に攻撃してくる。

 

アイテム

・ゾルバタイト鉱石

 ゾルバトギリ群峰全域に存在する特殊な鉱石。地中の栄養分を独自に引き寄せる力を持ち、植物よりもさらに細く根を伸ばすことができる瘴胞種にとっては抜群の栄養源である。なおかつ、この成分は鉱物食を行う生物にとってある程度の毒性を持つ。また、まるで他の瘴胞種あるいは菌類とよく似た生物的なミクロ構造を取っていることが特徴である。

・ゾルバトギリの伝説・民話集

 古代ゾルバトギリ文明における伝説や民話を編纂したもの。「はじまりの巨木」のような創造神話、「角のある人」「シャンナとローガ」「欲しがりな王様ゾルバ」のような実際の出来事を元にしたと思われるものなど様々な物語が収録されている。

・ゾルバトギリ古語辞典

 古代ゾルバトギリ文明において使用されていた言語に関する辞典。シェヴルーの言語との共通点が多く見られる。

・守護神の石像

 岩を削りだして作られた石像。四肢と翼を持つ龍を模ったものであり、街の随所に見られる。

・朽ちた道具

 蝕霞の影響を受けた古代の道具。元々何に使われていたものなのか判別はつかない。

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