―――――私こと星野ルビーには幼馴染がいる。
「ふふふ、その辺の女子よりも私の方が可愛いから問題ないでしょ!」
「いや、医療面ではちゃんとした治療がうけられないことがあるから問題が……」
「あーあー聞こえない―!」
……この、男の子なのに女の子の恰好をしているくーちゃんだ。
小さい頃から一緒にいたけれど、いつもこんな感じで。
可愛い自分をアピールしながら男の子であることを忘れさせてくる。
ちょくちょくナンパをされるらしいし、狙っているっポイ。
「……だけど」
こんなのだけど、私が好きな人。
いやまあ? 初恋はあのせんせだけど?
この身体だと初恋はこのくーちゃんになるわけなんだけど?
どうして好きになったかと言えば、まあ最愛のママを助けてくれた人だからというのもある。
あるけど、まあ、その他にも色々あった。
とりあえず女の子のふりして一緒にお風呂入ってたのだけは許さないから。
「そういえば、今日は道満さんいないの?」
「今日はお仕事だって」
ここはくーちゃんの家。
かなり大きな家で、まるでスターが住んでいる家みたい。
いやまあ、本当にスターが住んでいる家は私達の家なんだけど。
それはともかく。
今日はくーちゃんのお父さん、道満さんはお仕事らしい。
何の仕事をしているのかは知らない。
なんとくーちゃんも知らないらしい。
大丈夫なの?
あの人かなり怪しいけど。
「んーまあ、霊媒師とかやってるんじゃない? よくわかんないけど」
「ああ……あの奇怪な術か」
「そう、あの奇怪な術」
「?」
実は、ママがどうして助かったのかよく知らない。
私は見ていないけど、お兄ちゃんは見たと言っている。
まるで魔法のように、ママの傷が塞がったって。
それをやったのが、道満さんだって言う話。
本当かなー?
お兄ちゃんが言うから多分本当なんだろうけど。
「そういえば、お兄ちゃんは俳優目指すんだよね?」
「いや、そのつもりはないが」
「「えー!?」」
今明かされる衝撃の真実!
なんということでしょう!
このままでは私だけがアイドルとして一世を風靡してしまう!
ああいや、その前にママを倒さないとだけど。
「どうして!? 」
「お兄ちゃんの顔と演技力ならトップ狙えるでしょ!?」
「大物になって私にサインくれるんじゃなかったの!?」
「まあ待て。特に胡桃は約束してないからな」
お兄ちゃんに抱き着こうとするくーちゃんを引きはがしながら、私はお兄ちゃんに詰め寄る。
くーちゃんは自分の可愛さに自信を持っているくせにどこか抜けている。
はたから見れば絶世の美少女なのだ。
それが抱き着けば、いくらお兄ちゃんとはいえ動揺する……動揺する?
わかんないけど。
なんかもやもやする。
どうしてだろう。
お兄ちゃんのことは大好きだけど、それは家族として……のはず。
むしろ私はくーちゃんのことが好きなはずだ。
多分。
きっとそう。
自信がなくなってきたけど。
「……とにかく! お兄ちゃんは俳優さんを目指してもらいます!」
「はあ……?」
「これは決定事項です!」
べしべし叩いて納得させる。
ンンンンン横暴とか言ってるくーちゃんもべしべし叩く。
最近道満さんに似てきたよね。
そう言うと怒るから黙ってるけど。
「ンンンン、只今帰宅しましたぞ」
「あ、ドーマン」
「「お邪魔してます」」
いつの間にか、道満さんが帰ってきていた。
気付けばもう外は暗い。
結構長くいたみたいだ。
「あ、えっと、それじゃあお邪魔しました!」
「おや、お帰りですかな」
「……はい、失礼します」
私はちょっぴりこの道満さんが苦手だ。
なんというか胡散臭いにおいがする。
きっかいな術を使うって言うのもあるんだけど、なんか気持ちがもやもやするんだ。
なんでだろうね。
「えーアクアもルビーもどーまんさんのところにいたのー?」
「うん! 楽しかったよ!」
「そっかー。よかったねー」
―――――帰宅した俺達を出迎えてくれる母、星野アイ。
その笑顔は、俺の目の前で失われるところだった。
しかし、何の因果か蘆屋胡桃とその親蘆屋道満が現れて、颯爽と命を救っていった。
その姿はまるで……まるで、正義の味方
『これは内緒ですぞ?』
『内緒だからね』
そう言った彼らの顔が忘れられない。
怖ろしい、そして神々しい何かを見ているかのようだった。
「……? アクアどうしたの?」
「いや、何でもないよ」
思考を戻す。
今はそんなことを考えている場合ではない。
母は今休暇中である。
働き過ぎが原因で、体調を崩したのだ。
それはあの時の悲劇を思い出すところで、その直前で周りのみんなが助けてくれたのだった。
「今日は俺が夕食作るよ」
「え、お兄ちゃんが作るの?」
「やったね! お母さん楽出来るー!」
そんな様子の母と妹を見ながら、少しだけ笑顔になる。
だがしかし、それ以外にも考えなくてはならないことが多いのだ。
『言っては何ですが。拙僧、直接的な行為に及んだ
そう、あの男は口にした。
黒幕。
そうだ、黒幕だ。
あのストーカーは確かに実行犯で、母を殺そうとした。
しかし、その前に俺の前世である雨宮ゴローを殺した男だった。
それがおかしい。
何故ならば、あの病院に母がいたことは殆ど誰も知らなかったのだ。
それを知っている人間はごくわずかだ。
それなのに、部外者であるストーカーが知りえるなどありえないのである。
そう、誰かが漏らした、知らせたのだ。
あの男に。
そして唆した。
『ンンンンンンン。その顔、拙僧が見込んだ通り、良い』
その時の俺の顔はどんなものだったのだろうか。
今では確認することはできないが、きっと、良くない顔だったに違いない。
『良いわけあるか!!!』
『ンンンンっ!?』
その直後に、道満は胡桃に殴られていたからだ。
「―――――」
考えながら、料理をこなす。
黒幕の正体について思考し、考え、考察する。
情報は少ない、だがこれ以上ない情報はそろっている。
何をするのか。
そうだ、復讐だ。
母はきっととても痛かったはずだ。
とても辛かったはずだ。
例えそれは生きていたからよかったね、で済むことではない。
―――――必ず、そいつに復讐を。
俺は、あの蘆屋道満に指南を受けながら、その時を待っていた。
「そういえば」
「ンン?」
食事中、私は道満に聞くことにした。
ずっと気になっていたが、それはそれとして別にどうでもよかったから今まで聞かなかったけれど。
「道満って結局何の仕事をしてるの?」
「ンンンンンンン。15年の時を経て、漸く聞きましたか」
「うん、漸く聞いた」
何となく、今聞かなければならないような気がしたのだった。
その感覚はよく分からないけれど、まあきっと気のせいだろう。
そう思う。
「ンンンンン……しかし、拙僧はただ株を売り買いしているだけなのです」
「無職?」
「いえいえ、これは
聞いてみたところ、結局よく分からなかった。
それ以外にも土地ころがしとかなんとか言っていたけれど、それはそれで分からない。
何か犯罪に手を染めているのかと思っていただけあって、拍子抜けである。
「少し先読みすれば株の行く末が分かる。これほど楽な仕事はありませぬ故」
「???」
「いえ、こちらの話ですぞ」
まあいいか。
とりあえずご飯を食べることに専念する。
今日は私のお手製だ。
道満も満足してくれるだろう。
多分。
「ンンンンンン」
「何?」
何やら道満が唸っている。
なんだろうか。
何か苦手な物でも入っていたのだろうか。
なんだそれは。
安倍晴明以外に敵視するものがあるのか。
「ンンンン。ありませぬぞ。拙僧、食事に関しては好き嫌いなどなく」
「じゃあちゃんと食べてね」
「はい……」
というわけで、結局黙々と食べるだけ。
基本的に食事中はあまり喋らないのだった。
テレビとパソコンだけは置いてある、大きなリビングで2人きりだ。
時々アクア君とルビーちゃんが一緒だけど、今日はいない。
「―――――時に胡桃」
「ん?」
そう思っていたのだけど、何だか真剣な顔で道満が喋り始めた。
なんだろうか。
もしかしたら本当の親の話でもするのだろうか。
なにせ私のことは式神の失敗作だとしか言っていないのだ。
もしかしたら血の繋がった母親がいるかもしれない。
……いや、多分いないけど。
いた、という表現なら合いそう。
「お主があと3日の命だとしたらどうします?」
「んぐ?」
私達星野一家は誰にも気付かれないように、ひっそりと家族旅行を楽しんでいた。
何せアイドル全盛期の星野アイに子供がいるのは秘密であった。
秘密だったというのは……まあ、流石に小学校を越えるとバレる。
その時はかなり大変だったけれど、色んな所からの応援とか援助とかで何とかなった。
それこそあの時のストーカー事件の再来とかもありそうだったけれど、そんなこともなかった。
とはいえそれでも危ないことには変わりがない。
一応人目につかないように帽子とか被って座っている。
私達は後部座席だ。
運転席には社長、そしてその奥さんだ。
「しっかし……田舎の遊園地とはいえ貸し切りにするとは思い切ったことをするなぁ」
「だってーそれくらいしないと一緒に遊べないでしょー?」
ママの台詞に頷く。
何せママは最強のアイドルだ。
どんな場所でも輝く、究極の。
そんなアイドルがその辺にいたらどうなるか。
暴動だ。
大騒動になる。
それは流石に困るので、こうして田舎の遊園地を貸し切りにして私達と遊ぶのだという。
いや本当に豪快だよね!
流石私達のママ!
最高!
素敵!
とにもかくにも、今日はママといっぱい遊べる最後の日だ。
……そう。
明日、星野アイは休養から復帰する。
もっと休んでいればいいという気持ちと、推しているアイドルが活躍してくれることの嬉しさに挟まれてつらい。
それがママなのでなおのことだ。
だけど、明日はやってくる。
必ず、確実に、絶対。
だから、今日は全力で遊ぶのだ。
この思い出を胸に、私達も歩き始めるのだ。
遊んで。
遊んで。
遊び切った。
何がどうとか、何がこうとか。
そう言ったことはよく覚えていない。
ただ楽しくて、ただ嬉しくて。
ただ……ちょっぴり寂しかった。
そして―――――遅れて、それはやってきた。
黒いコート。
それが視線の端に映る。
誰かいるのかな。
そう思ったけれど、おかしい。
そう、おかしいんだ。
だって今日は貸し切りで、業務員さんの服装は青が基調だ。
それなのに黒いコートを羽織っている誰かがいる。
嫌な予感が私の身体を凍らせる。
その黒いコートは勢いよく向かってくる。
手には光る何か。
あれはきっと―――――
そして、バチバチと大きな音がしたと思ったら、目の前が真っ白になった。
何、何が起こっているの。
お兄ちゃんがママと黒いコートの間に入り込もうとして、間に合わなくて。
その前に、何かがママと黒いコートの間に割り込んで……。
……いや。
何かじゃない。
それは……くーちゃんだった。
「くーちゃん……!」
目が開かないまま走り出す。
転んで、転がって、地面に投げ出されるけど。
それでもくーちゃんの方へと向かう。
貸し切りだったとは言っても、私はくーちゃんには遊園地で遊ぶことを伝えていた。
だからここにいてもおかしくない。
いや、車でかなりの距離だからおかしいんだけど、それを考えるのは今じゃない。
「くーちゃん!!!」
目が開く。
何とか見えた光景は、くーちゃんが血塗れになって倒れている姿だった。
―――――そして、蘆屋胡桃の葬儀が執り行われた。
近親者は喪主の蘆屋道満のみ。
小さな小さな葬式は、恙なく終わった。
「―――――」
「……」
お墓の前で、私はずっと立っていた。
雨が降っていたけれど、傘も差さずに。
その横で、じっと待っている道満さん。
ママも近くにいるはずだ。
だけど、それは……今は、どうでもよかった。
「どうして……」
そう、どうして。
どうしてくーちゃんが死んじゃわなきゃいけなかったのか。
犯人はまるでトラックにでも撥ねられたかのように潰れていて、即死だった。
どういうことか、全くわからなかったけど、それはきっと道満さんの用意した何かが私達を守ったからだと思う。
……私達だけを守って、くーちゃんは守らずに。
おかしい。
おかしいおかしいおかしい。
「こんなのっておかしい!!!」
大きく振りかぶって、お墓を叩く。
血が流れるけれど、それはもうどうでもよくて。
お兄ちゃんもママも心配そうに見ているけれど、それもどうでもよくて。
ただ、この感情に任せて狂ってしまいたくて。
「―――――しかしそれは、あまりにも惜しい」
すっと、傘が差しだされる。
道満さんの傘だ。
私なんかの為に、濡れる必要はない。
そう思った。
「―――――この事件には黒幕がいます」
そして、その台詞を聞いて、身体が再起動した。
「くろ……まく……?」
「ええ、ええ。あの
そう言って、道満さんはにこりと笑った。
「拙僧はその黒幕を探し、必ず報復します」
「……」
その目にはどす黒い狂気。
まるで人のそれではないような凄みに、私は怯みそうになった。
「貴女は……どうしますか?」
「わた、しは……」
まるで導かれるように、促されるかのように。
私は、くーちゃんが望まないであろう台詞を口にした。
「―――――殺すよ。殺すに決まってるじゃん」
それはきっとくーちゃんが望まないことで。
私が望んでも叶わないことで。
―――――だけど、ここには道満さんがいた。
「ンンンンンン。それでは……殺しましょう、一緒に」