裏・♂の子
―――――その日は雨が降っていた。
目が覚めると、私は病院にいた。
「―――――」
まるで飛行機の離陸音が響いているかのような轟音が、私の耳に届いた。
それも何度も、何度も。
そしてそれが収まると身体がふわりと浮かんだ。
「―――――」
ノイズが奔った。
思考もまとまっておらず、とても苦しい気持ちでいっぱいだった。
「―――――」
ノイズが奔った。
そのノイズは美しい旋律を描いているかのようだったが、しかし私の耳にはノイズにしか聞こえなかった。
とても惜しいことをした、と思ったのだった。
―――――これが私の二度目の生の始まりであり、謎の世界へ呼び込まれた瞬間である。
それから数年後、今の私である。
親は何と魔術師であった。
それもあまりよくない感じの。
魔術と言ってもマジックのようなそれではなく、どちらかと言えば研究を繰り返して結果を出す感じのそれであった。
そんな中で私の身体も実験に使われたりしたわけだが、どうにもうまくいかなかったらしい。
いつも父は怒ってばかりだった。
失敗作呼ばわりされてた気もする。
母はそんなことなく、いつも優しく私に接してくれていた。
よくよく考えると、母は魔術師ではなかったのかもしれない。
魔術を使っている様子もなかったし。
それが崩れたのが、私が5歳の頃だ。
私に魔術を文字通り叩き込んでいた父が、包丁で刺されて死んだ。
犯人は母であった。
何度も何度も謝りながら、私のことを抱きしめながら自身も死んだ。
父に魔術的な呪いでもかけられていたのだろう。
苦しんだ様子がないのがせめてもの救いだろうか。
母は最期に言った。
「貴方の自由に生きて」
それだけ言って、母は眠るように息を引き取ったのだ。
私の親類はひとりだけで、その親類もほとんど家に来ることはないのでほぼ一人暮らしをすることになった。
子供を放置して仕事とは……と思ったが、私的には逆にありがたかった。
ちなみに親類は母方であり、父の方はひとりもいなかったようだ。
お金は十分渡されているし、住む場所もある。
料理もまあ割とできる方だったので問題はない。
ここまで来て、私は漸く自由を手に入れたのだった。
さて、魔術師という存在がいる世界だ。
何かそれっぽい世界観の目印になる物は存在しないかと、新聞やテレビを完備させてて情報を漁った。
そして、アイドルの死亡記事を見て気付いた
―――――この世界が、「推しの子」の世界であることに。
「魔術関係ないじゃん!!!」
まあ、こんなことを叫んだのは仕方のないことだと思う。
翌年。
私は小学校に入った。
制服はあるが、正直本当に男子服がダサい。
というか短パンを履きたくない。
「なので女子制服を着ます」
「やめてください……」
というわけで教師に直談判したのだが、駄目らしい。
こっちはちゃんと可愛いのに、ずるくない?
半ズボンヤバくない?
でも駄目なようなので、仕方なく男子服を着る。
それだけ半ズボンには抵抗があった。
スカートなら平気なのか、という疑問には、平気なのだと答える。
男だけど。
前世的なものも男だったけども。
理由はまあ、母である。
母はなんだかんだ愛情を注いでくれたが、なんかやっぱり歪んでいた。
母は娘が欲しかったらしく、ちょくちょく私に女物の幼児服を着せていたのだった。
それも影響しているのかもしれない。
あと女の子の方が服のバリエーション多いよね。
まあ、公立の学校に通う以上贅沢は言っていられない。
お金は大事。
私立でもちゃんとしたところなら意味もあるのだろうけど、私の能力ではその差異を調べることはできないのだった。
中学生になってからの話。
先生からの勧めでとある中学校に通うことになった。
校風も自由で、制服が可愛い。
何より男の子が女の子の制服を着ていてもいい。
そんな学校だった。
「ふんふふーん、ふんふーん」
ライトブラウンのストレートロングヘアを靡かせて。
赤い瞳を輝かせて。
148cmの小さな身体で風を切って。
女子制服を着た少年が走り出す。
まあ私なんだけど。
髪は母から譲り受けた自慢の物。
赤い瞳は父から受けた魔術の影響らしい。
その影響は身長というか体格にも及んでいて、あんまり大きくならないようだ。
女子制服は趣味。
既に学校では有名人だ。
目立っている自覚はあるが、私は自分を出すのを躊躇う人間ではないのだった。
それに利点もある。
私はとても目立つので、情報の方から寄ってくるのだ。
「……ふぅん」
貰った情報を吟味する。
うんうん、なるほどそういうことか。
中学2年になった私にも後輩ができる。
その中に、凄いキラキラネームの双子がいるらしい。
これはつまりそういうことなのだろう。
「ありがとう先輩」
「いえ! 胡桃様の為ならなんでも!」
何か感激している先輩を笑顔で送り出し、私は魔術を解く。
少しだけ私への好意を強める
それが父が私に残した、私の武器だった。
興味本位で寄ってくる連中を軽く魅了して情報を仕入れる。
これを繰り返して校内での地位を高めていったのだ。
「さて……どうしようか」
別に干渉する必要は、ない。
だけど、気になりはする。
何せこの世界の主人公達だ。
気にならないと言えば嘘になる。
「まあ、ちょっとくらい崩してみても、いいかな?」
環境を。
生活を。
その結末から少しだけ。
私という異分子を孕んだ物語がどうなるか。
「……ふふっ」
私は魔術使いの
父の成した魔術を使い潰して、母の苗字を受け継いで。
稀代の陰陽師のように。
ところで。
父は胡桃という名前に違和感を覚えなかったのだろうか。
くるみ、くるしみ。
苦しみから死を抜くと、胡桃になる。
言葉遊びだけど、きっと母の悪戯だろう。
何せ蘆屋の名は母から受け継いだのだ。
父の家は既に断絶。
私以外は誰もいない。
なら、母を殺した父のことなんて。
父の悲願だってどうでもいい。
ただただ私は、母が最期に残した言葉を貫こう。
……うんまあ、父を殺したのは母なんだけど。
「さてと……」
色々考えてみたけれど、やりたいことは単純明快。
自由に生きること。
それを達成するために。
ただそれだけだった。
蘆屋家の秘術を使ってDOMANを呼んだ本編と違って普通に両親がいます。
男の娘になった理由はまあ、ノリです。