悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい   作:エテンジオール

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 プリキュア見ながら料理してたら土曜日に200文字しか書けなかった(╹◡╹)


A8.崩れる前提の幸せは、崩れることで意味が生まれるものだからね。だれが悪いのか、それは君が悪いんだよ。巻き込まなければこんなことにはならなかったんだからね

 賢者街に来てから数年が経った。冒険者としての仲間もできて、自分で生計を立てられるくらいには収入も得ているが、わたしはまだモニカさん達のおうちでお世話になっている。

 

 本当はもう独り立ちして、迷惑をかけないようにしようと思っていたのだけれど、お金は節約できる時に節約しておきなさいと言われて、きっかけがなかった。最初こそ賢者の寵児として優しくしてくれていたけど、次第に本当の家族みたいに接してくれるようになった二人と離れたくないということもある。

 

 そうして過ごしているうちに、わたしはどんどん成長していって、でもお金の使い道がなかったから、たくさん溜まっていった。そうして、一緒に冒険者をしている仲間からそろそろ活動する街を移して、学校で魔術を学ぼうと言われて、どうするか迷うことになった。本当は一緒に勉強しに行きたい気持ちもあるのに、どうしてもこの街から離れたくない理由があったのだ。

 

 それは、わたしにやさしくしてくれたモニカさんたちに訪れた幸せな知らせ。わたしにとって家族みたいに大事な二人の間に、本当の家族が一人増えるということ。本当の家族ではないわたしとしてもとても嬉しい話しで、生まれてくるその子のことが気になって仕方がない。

 

 生まれてくるのは妹だろうか、弟だろうか。血のつながりは無いけれど、それでもきっとそう呼んでもいいだろう。わたしは一人っ子で、里には年下の子はマルヤちゃんしかいなかったから、ずっとお姉ちゃんになることに憧れていた。

 

 それが、叶うのだ。優しい二人の間に生まれる子は、きっと二人と同じくらいやさしい子になるだろう。わたしに事をおねえちゃんと呼んで慕ってくれるようになるかもしれない。

 

 きっと、それは幸せな時間だ。その子の事を見守ってあげたいし、その子のことを守ってあげたい。いろいろなことを教えてあげたい。二人がわたしのことを愛してくれたみたいに、わたしもその子のことを愛してあげたい。

 

 少し大きくなってきたモニカさんのおなかを触らせてもらって、その中に小さな命が宿っているのだと感じて、わたしはそう思うようになった。この街から出たくないと、この家から離れたくないと、そう思ってしまっていた。

 

 ここにいたい。でも、一緒に冒険者として活動してきた仲間とも、離れたくない。みんなで一緒に頑張ると決めて、この街で勉強できることは学びつくした。もっと成長してみんなの夢を叶えるためには、学園で勉強するのが一番だ。賢者様、師匠がかつて作ったという学園で、世界中の知恵が集まるという学園で学ぶのが一番だ。

 

 わかってはいるのだ。モニカさんたちも学園のためにお金を貯めると言ったら応援してくれたし、エルフよりも短い寿命しか持たない人間にとって、生まれてくる子を見守る数年という時間は気軽に待てるものではない。一緒に過ごした数年の関係は容易く捨てられるものではない。

 

 仲間と別の道を進むには、わたしはもうチームの一部になり過ぎていた。わたしがいなくなってしまったらバランスがおかしくなってしまう。それなのに自分の都合で抜けるなんてことは、とても自分勝手だからできない。

 

 結局、わたしは皆と行くしかないのだ。生まれてくるこの子とは、学園にあるという休みの時に会うくらいになってしまうだろうが、それでも仕方ない。頭ではそうわかっているのに、どうしても未練を感じてしまう。

 

 

 そんなことを思いながら生活していたある日、街でおかしなことが起きた。街の中で不審火が起きたり、森のなかで魔物の惨殺死体相次いで発見されたり。

 

 火は、魔王の使う悪い力だ。すべてを消し去ってしまって、世界を終わらせる恐ろしい現象だ。わたしは料理などにも使えるものだと知っているが、この賢者街では一切使われることのないものである。

 

 そんな中で起きた不審火、それは不審火などではなく、街の住民にとっては放火、それも無差別的に行われるテロ行為である。すぐにいろんな人が協力して対応に当たることになり、その中にはわたしたちも含まれていた。

 

 

 みんなで一緒に、街の中をパトロールする。不安そうにしている住民に声をかけたり、なにかおかしなものがないか探したり。できることはあんまりなかったけど、そのおかげか関係ないのか、街の中での放火はすぐに止んだ。

 

 不安そうにしていた街の人の多くはそれである程度安心してくれたが、わたしたちのように実際に警戒していた人や、街の中でも力のある人、偉い人などは、安心できなかった。だって、毎日警戒していたのに、誰一人として怪しい人や物を見かけなかったのだ。

 

 それはつまり、原因が不明のまま自体が終わったということ。またいつ同じことが起きるのかわからないままで、そのことを警戒し続けなければならないということ。それはとても嫌な事実だった。わたしたちはもうそれほど警戒しなくていいと担当から外されて、本当に力のある一部の人だけが後日森をくまなく探索することが決まる。

 

 わたしたちは、力不足だったのだ。街のために犯人を捕まえたくても、役に立ちたくても、参加しても邪魔になるだけだと判断されてしまった。悔しくて、みんなで俯いた。

 

「僕は反対だ。モニカ、君のおなかには今、子供がいるんだ。いくら君が強くて、その状態でも危なげなく戦えるとはいえ、お腹の中の子のことを考えたら、無理はしないでほしい。君が行かなくても、街には強い人がたくさんいるんだから」

 

 悔しい気持ちのままみんなと別れて、お家に帰る。玄関を開けると、ラリーさんとモニカさんが話をしていた。

 

「ラリー、お前の言うことはわかる。けれども私は、この街のためにも何としてでもこの事態を解決したいのだ。今度の捜索はみんなが手練れで、危険も最小限に抑ええられている。それに、街の者だって私の体のことは知っているのだ。心配はいらないさ」

 

「でも、君にもしものことがあったらと考えると、気が気じゃないんだ。なあ、頼むよ。僕のためだと思って、僕のわがままを聞いてくれ」

 

「お前は心配性で、やさしいな。私のことをここまで心配してくれるのはお前くらいさ。だからこんなにも愛おしいのだろう。けれどラリー、私はな、怖いんだよ。こんなにも優しいお前が、お腹の中のこの子が、もしかしたらこの騒動の犯人に害されるかもしれない。そして、今私が行けば、そうなる前に止められるかもしれない。そう考えてしまうと、じっとしていられないんだ」

 

 モニカさんが、ラリーさんのことを優しく抱きしめる。ラリーさんは泣きながら折れてしまった。

 

「モニカさん、わたしも、モニカさんには行ってほしくない」

 

「アリウム、そんなところで見ていたのか。少し恥ずかしいな。でもな、私には力があるんだ。この街の中でもトップクラスの力が。それは、このラリーや、お腹の中の子供、街のみんなのために鍛えてきたものなんだ。こんな街の大事に、おとなしく待機していることはできないのだよ」

 

 それに私は、アリウム、お前のことも守りたいのだと言って、モニカさんはわたしのことも抱き寄せる。

 

「みんな大事だから、みんな守りたいんだ。今回行けなくて悔しい思いをしているお前の分も、守らないといけない。大丈夫だ心配するな、私が強いことは、他ならないお前たち二人が一番知っているだろう?」

 

 温かい手、温かい言葉、温かい感情。モニカさんは卑怯だ。そんな風に言われたら、心配していても何も言えなくなってしまう。その優しさを否定できなくなってしまう。

 

「……わかった、もう止めないよ。ただ、絶対に無事で帰ってくるって約束してほしい」

 

「わたしとも、約束して。ちょっとでも危なくなあったらすぐに帰ってくるって」

 

「ああ、約束するさ。誰にも怪我をさせず、みんな無事に帰ってくると」

 

 

 止めることはできなかった。でも、その言葉はわたしたちのことをとても安心させてくれた。だから、わたしたちは行かせてしまったのだ。

 

 そしてその翌日、慌ただしく帰ってきた捜索隊の中に、モニカさんの姿はなかった。

 

 

 

 

 その知らせを聞いたのは、何か少しでもできることがないかと思って、仲間たちと自主的に街の見回りをしていた時だった。

 

 帰ってきた探索隊が、モニカさんが魔物に捕まったと言っていた。森の中で突然一人現れたわたしのことを追って、その先で魔物に捕まったのだと。

 

 いきなり捜索隊の人につかみかかられて、あそこでなにをしていたのだと、モニカさんに何をしたのだと問い詰められる。そんなの、わたしは知らない。知るわけがない。だってわたしは、何もできないからせめてとパトロールをしていたのだから。この人たちが何を言っているのか、さっぱりわからなかった。

 

 一緒に行ってくれたみんなが証言してくれたおかげで、何とかわたしの無実は証明されて、そして話を聞く。何を追いかけたのか、何に捕まってしまったのかを。

 

 モニカさんを捕まええた魔物は、ローパーだったらしい。この街において、絶対に戦ってはいけないと言われている魔物。切っても、魔法を撃っても、周囲に被害が出てしまうから近寄ってはいけない魔物。火を苦手とする、恐ろしい生態の化け物。

 

 安全に倒そうとするなら、遠くから火の魔法を撃つしか方法はない。一度捕まってしまったら、もう助ける方法はない。被害を広めないために、被害者は魔物と一緒に燃やすしかない。それも、幼体が寄生先から離れて一人立ちするより先に。

 

 モニカさんを取り戻すことはできない。どれだけ幼体を取り除いたとしても、万が一卵が残されていて、街中で孵化してしまえばだれにも止められなくなってしまうから。みんなのためにも、燃やしてしまうしかない。

 

 

 そしてそれには、火の魔法が必要になる。それか、森全体を焼き払う覚悟で火を放つか。

 

 火を放つのは、あまっりにも影響が大きすぎるからできなかった。そうすると今度は魔法で焼くしかないのだが、この街の住民に火の魔法を習得しているものはいなかった。一番できる者でもせいぜいが、手元に火種を作る程度。仕方がない、だってこの街で活動していて、火を使う機会など一度もないのだから。

 

 そうすると、外部の人を呼ばないといけない。でもそれにはたくさんの時間がかかって、そのころには森全体がダメになっているかもしれない。わたしに残された手段は、一つしかなかった。

 

 わたしは、みんなの前で自分が火の魔法を使えることを打ち明けた。だって、そうじゃないと街が危ないから。守るためには、そうするしかなかった。そうして、街のお人のわたしを見る目から、親しみが消えた。残ったのは、おぞましい存在を見る目。

 

 化け物を見る目で見られながら、わたしはモニカさんの元まで連れていかれる。どんなものでも、今必要な事だけは事実だからだ。モニカさんと対面する。傷がほとんどなくて綺麗だった体にはいくつもの触手が刺されていて、手足は体の下に落ちていた。体のいたるところから細長く赤い何かを生やしているのは、師匠から聞いたローパーの被害者の特徴だ。

 

 こみ上げてくる感情を抑えながら、モニカさんに、モニカさんだったものに火の魔法を飛ばす。そうするしかないから。これ以上このままにすることは、モニカさんの尊厳を貶めることになるから。

 

 放った火が、ローパーに着いた。よく燃える体の全てが、体液が、周りの空気ごと燃えていく。ぬらぬらしていた触手が、水分を奪われて小さく縮こまって、丸まっていく。

 

 モニカさんの体に刺されていた触手が抜けて、真っ赤な血がどくどくと流れ出す。それで火が弱くなったように見えたのはほんの一瞬。すぐにまた火にあぶられて、モニカさんの口から悲鳴が聞こえた。

 

 苦しそうに身じろぎして、空いた穴から丸まった触手がこぼれる。何かを伝えようとしているのか、悲鳴の中に聞き取れない言葉が混じる。

 

 体が丸まって、黒くなっていった。真っ黒になった生き物の名残だけが、そこに残った。わたしはそれを、ただ見ているしかできなかった。見ていないといけなかった。もしかしたら、火が消えてローパーの幼体が逃げ出してしまうかもしれないから。そうなってしまえば、モニカさんを焼いた意味がなくなってしまうから。見守って、見届けなければいけなかった。大切な人が、大好きな人が焼かれていくのを、また。

 

 なみだが、止まらない。気分が悪くなって、もう何も残っていないのに吐き続けた。それでも、それを見るのはわたしがやらないといけないことだった。

 

 

 

 完全に火が消えるのを待って、熱が冷めるのを待つ。ローパーに犯されて、そのままわたしが火葬したそれは、もうどこにもモニカさんの面影なんて残っていなかった。煤で汚れた鎧が、剣がなければ、だれもこれをモニカさんだとは思わないだろう。

 

 せめて街に持ち帰って、お墓に入れてあげたかったが、賢者街に焼死体を持ち帰ることはできない。ここに埋めるのが、今できる唯一の供養だ。誰も手伝ってくれない中で一人土を掘って埋める。手伝ってくれる人はいなかったが、それを止める人もいなかった。

 

 埋め終わって、壊れた鎧と剣を持って帰る。誰も、手伝ってはくれなかった。当然だ、この街の人にとって、賢者教団にとって、火はそれだけの禁忌なのだ。近寄ることも嫌で、その名残りに触れるだけでおぞましい、忌むべき力。あんなにみんなのためにたくさん働いてくれたモニカさんだったとしても、焼かれてしまったらこの扱いだ。それをしたわたしの扱いなんて、考えるまでもないだろう。

 

 

 家に帰ると、憔悴した様子のラリーさんが一人で座っていた。わたしはそこに、声をかけなければいけない。モニカさんがどうなっていたのか、どうなってしまったのか、どうしたのか。それは、モニカさんを終わらせたわたしが果たさないといけない責任だ。モニカさんのことを誰よりも心配していたラリーさんに、話さなくてはならない話だ。

 

 ラリーさんは、表情を変えることなくわたしからの話を聞いた。それは、何も思わなかったのではない。どんな顔をして聞けばいいのかが、わからなかったのだろう。

 

 

「……そうか。教えてくれてありがとう。申し訳ないんだけど、少しだけ一人にさせてくれるかな」

 

 絞り出すように言われたのは、そんな言葉。表情のない顔にあるのは、感情がぐちゃぐちゃになった目。

 

 そこには、悲しみがあった。大切な人を失った悲しみ。そこには、感謝があった。もうどうしようもなくなった大切な人を、終わらせたことへの感謝。そこには、怒りがあった。何もできなかった自分への怒り、約束を守らなかったモニカさんへの怒り、そして、他に方法がなかったとはいえ、モニカさんに焼死というあまりにも非道な結末を与えた、わたしに対する怒り。

 

 わたしには、それを受け入れるしかなかった。自分がしたことも、その結果も、そのせいで、街のみんなから腫物のように扱われることも。

 

 必要だったとはいえ火を使ったわたしには、もうこの街に居場所は残っていなかった。

 

 





 ちょっとした補足

 この街(教団)の人間にとって、火葬は最も忌むべき弔い方。火を使う時点で異端で、それで戦うのは外道の所業。極悪人の処刑でも火炙りは可哀想って止められるレベルの尊厳凌辱なので、必要とはいえそれを恩人に対してやった幼女はどこに行ってもおぞましいもの扱いを受ける。石を投げられないのが奇跡レベル。

 かわいいね(╹◡╹)
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