悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい   作:エテンジオール

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A10.あらゆる平穏は壊すためにあるからね。刺激が足りない生活じゃあ、つまらないでしょ?

 昼間は勉強、放課後は先生のお手伝いや復習をする、学生のお手本みたいな学園生活。お手本ではあるかもしれないけど、多くの学生のものとは違う。やっぱりさみしい。先生たちとも沢山お話はできるけど、それは先生と生徒の関係であってお友達の会話ではないからだ。

 

 あまりに寂しくなって、お布団の中でお友達の作り方シミュレーションをする日々。今のわたしがお友達を作れるとしたらこんな感じかな?なんてことを考えながら、色んな人と仲良くできる自分の姿を想像する。本当のわたしはこんなんだけど、きっとそうなる未来もあるのだ。

 

 ストーカー(王子)以外と一緒にご飯を食べたり、ストーカー(王子)以外と会話をしたり、もしかしたらお呼ばれもしてしまうかもしれない。お友達に呼ばれたらどんな服で遊びに行くのがいいのだろう。制服よりもかわいい服の方がいいかな。それに、もし色んな人に声をかけられて、予定が重なってしまったらどうしたらいいんだろう。みんな一緒に遊べばいいのかな。

 

 そんなことになったらどうしようと考えていると、気持ちがふわふわして体がムズムズする。なんだかとても落ち着かない。もう寝なきゃいけないのに、全然眠れる気がしない。

 

 結局この日はあんまり寝れなくて、いつもよりも眠たいのを我慢しながら授業を聞く。普段なら気が散って仕方がない隣のストーカー(王子)のことも、眠気の方が勝ってあまり気にならなかった。気にならなかったこと自体はいいことだし、新しい発見だけどこれだと授業に集中出来ていないことは変わらないから、あまり解決にはならない。

 

 休み時間になって飼い主(王子)の元にやってきたポチがまたキャンキャンしているのが眠い頭に不快だったのでおだまりさせて、空き時間に少しでも眠気を取るために机につっ伏す。平衡感覚がぐにゃぐにゃするような眠気。これまでわたしがすることのなかった行動に王子とポチが戸惑っているようだけれど、今はそんなことよりも眠かった。

 

 休み時間が終わって、次の授業。ちゃんとは寝てないけど少しでも休めたことが良かったのか、眠気はだいぶマシになっていたので授業を受けて、その次の実技の授業。いつも通り組まされることになった王子が心配そうにしているので、人の心配よりも自分の身の心配をするように攻めてやって、集中させる。他の人たちと訓練できないのは嫌だけど、この王子は他の人よりも真剣に対戦に取り組んでいるからそこだけは嫌いじゃない。周りみたいに怪我をさせたことを謝る必要がなく、むしろ怪我をしてしまった未熟さを詫びてくるのは成長に繋がるのでいいことだと思う。大抵の怪我ならわたしが治してあげているのもあるかもしれないが。

 

 体を動かしてストレスと一緒に眠気を吹き飛ばしたら、お昼休憩を挟んで初めての選択科目だ。お昼はいつも通り、王子が当たり前のように横に座ってきて、ポチと話している。

 

「毎度のことだが、お前はいつも美味そうに食事をするな。見ていて飽きないぞ。そうだ、最近近くにいいレストランが出店したのだが、今度一緒に食べに行かないか?」

 

「なっ!殿下!このようなものと二人で食事などいけません!もっと自身のお立場というものをお考え下さい!」

 

 王子に誘われて、返事をするよりも先にポチにダメ出しされる。王子と2人でなんて話は一度も出てきていなかったはずだが、ポチの中では一緒に来るという選択肢は無いらしい。何度も誘われているので1度くらいは行ってみてもいいかと思っていたのだが、ちょっと残念だ。

 

「ポチ、おだまり」

 

 それはそうとして、食事中に叫ぶなと何度言っても覚えないポチを黙らせる。お行儀が悪いし、いつもの事だけど耳も痛い。そのまま静かにご飯を食べたら、ワクワクしながら授業のある教室に向かう。一緒に来て隣で授業を受けようとした王子たちには、今日隣に座ったら二度と口を聞かないと言ったらそそくさと離れていった。わたしのお友達作りの邪魔はさせない。

 

 

 

 実際に移動して、いつも通りの席に陣取る。誰かが隣に座ってくれれば、そこからお話して仲良くなれるはずだ。そのための準備は沢山してきたし、話題もいくつも用意してきた。相手の性格とか考えて話が続きやすそうなものをその場で選ぶ用意も完璧だ。今のわたしなら、きっと知らない人とでも一時間は楽しくおしゃべりできるだろう。完璧だ。我ながら完璧である。準備は間違いなく完璧だったはずなのに、ただ一つ位置取りだけがダメだった。生徒がみんな、後ろの方に座るのだ。後ろじゃなくても真ん中とか、前よりの方とかそんな感じ。わたし以外の人は、1番前に座っている人でも前から三列目だ。

 

 そんなに、前の方で授業を聞きたくないのだろうか。前の人が邪魔になったりしないから、すごく黒板が見やすいのに。どんどん埋まっていく席と、ぽっかり空いたわたしの周り。後ろの方から、覚えのある視線がふたつ飛んでくる。王子とポチだ。やめろ、憐れむようにこっちを見るな。

 

 ふたりの視線にトドメを刺されて、みんなの前で泣きそうになっていると、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた、ハンナの声。新しい友達ではないけど、気心のしれた仲間の声。ギリギリの所でこぼれないでいた涙が、嬉しさでこぼれる。今言われたら、わたしはハンナにお供え物を備えたことだろう。

 

 救世主の登場に、表情が和らぐのを感じる。急いでバレないように涙をふいて振り向くと、そこには声の主であるハンナと、見覚えのない、肌が黒くて耳が長い女の子。みんなみたいな人間とは違う、わたしたちエルフの耳。エルフの里は他にもあると聞いたことがあるから、そこ出身の子なのだろうか。どちらにせよ、里を出てから同族を見るのは初めての事だったので、とてもびっくりした。

 

 一緒にいたハンナが紹介してくれたのだが、このこの名前はセレンさんというらしい。かわいい名前で、わたしに対して悪い感情を示さない同い年の女の子。もう、最後に出会ったのがいつか分からないくらい貴重な存在だ。少なくとも魔術課程に合格してからは、わたしに対してわかりやすく友好的な人はいなかった。王子やポチは友好的な部類ではあるが、このふたりの接し方はどこか友達という枠から外れているように感じられるので別物だ。

 

 思わず嬉しくなって声をかけて、ちゃんと返事をしてくれたのでそのまま少しおしゃべりをすする。おしゃべりらしいお喋りができたのは、随分久しぶりのことだった。わたしのことを避けない人が、ちゃんと話してくれる人がいて嬉しい。

 

 そんな気持ちで少し話しすぎてしまったけれど、セレンさんはわたしが話してる途中で逃げたりすることなく、ちゃんと話を聞いてくれた。ただそれだけの事が、とてもうれしい。

 

 授業が始まってしまって自然と話が終わるまで、わたしは話し続けてしまった。ちょっと一方的に話し過ぎてしまったから、授業が終わってから話すときにはもっとセレンさんに話してもらえるようにしないといけない。

 

 そんなことを考えながら、普段ほどは集中できないながらに授業を受けていると、あっという間に授業は終わってしまった。内容的には授業の導入部分で、だいぶ簡単なものだったけど、それでも集中しきれないのはよくないことだ。もっと集中しなくてはいけないなと思いながらセレンさんとお話をする。

 

 話してみて驚いたのだけど授業の内容が簡単だと思ったのはわたしだけだったらしい。とてもわかりやすくて、丁寧な講義だと思ったのはわたしだけだったのだと。授業の中でわかりにくいものがあったと聞いて、その話の背景を簡単に説明するととても喜んでもらえた。

 

 すごいと褒められて、別の教科もわからないところがあると相談される。どの教科も、ある程度説明できそうだったのでそう話すと、ぜひ教えてほしいと頼まれた。せっかくお友達になれそうなのにそのおねがいを断るわけもなく、二つ返事で了承すると、この後部屋に来てくれないかと誘われた。

 

 もちろん行くと伝えて、ハンナにも来るか聞いてみると、別の予定が入ってしまっているからと断られる。2人っきりというのは少しだけ不安だけれども、ここを乗り越えられなければきっとお友達にはなれない。

 

「ルームメイトがいるんだけど、大丈夫かな?とてもいい子なんだけど」

 

 セレンさんの言葉に大丈夫だと返して、一緒に向かう。どちらかと言うと突然わたしが連れていかれることに対して、ルームメイトの人がどう思うのかの方が心配だ。

 

 それにしても、ルームメイトがいるというのはとても羨ましい。仲良くなれなければずっと同じ部屋というのは辛いかもしれないが、それだけ仲良くなる機会があって、お互いを知れるのなら、きっと楽しく過ごせるようになるだろう。いつも一緒の相棒、そういうものにわたしは憧れる。

 

 

 セレンさんの寮の部屋は、わたしのそれと比べて少しだけ広かった。広かったけれども、その部屋は2人で共同生活する前提のもの。わたしの一人部屋と比べれば、使えるスペース自体は少ないのだろう。魔術課程がどれだけ優遇されているのかがわかる。

 

 セレンさんのルームメイトは、まだ帰ってきていないようだった。誰もいない部屋がわたしたちを迎えて、セレンさんが自分の椅子をわたしに勧めてくれる。

 

 そこに座って、勉強を始める。セレンさんのとっていたノートと教科書を使って、理解出来ていない内容の補填をしていく。あまり成績が良くないのだと話していたセレンさんは、とてもそうとは思えないほどするすると内容を飲み込んでいった。

 

 

 勉強も問題なく進んで、たまに入る雑談も違和感なく、楽しくすることが出来た。きっともう、十分お友達と言えるはずだ。しかもセレンさん、セレンちゃんはわたしと同じエルフ。お耳の話とか、ほかの人たちと違う苦労とかを話すととても話が弾んだ。今日初めてあったけど、もうわたしの一番のお友達だ。

 

 そうやって話しをしていると、セレンちゃんが自分のルームメイトもまたエルフなのだと教えてくれた。どんな子なのかなと思っていると、足音が近付いてきて、それが部屋の前で止まる。

 

 扉が開く音がして、かわいらしい声でただいまと挨拶が聞こえてくる。噂をすればルームメイトが帰ってきたのだろう。お姉ちゃん、とセレンちゃんのことを呼んで、誰か来ているのと尋ねながら入ってきたのは、どこかわたしに似ている、小さなエルフの少女。同じエルフだから似ているのか、それともなにか関係があるから似ているのか。自分の生まれ育った里以外にエルフがいるかすら知らないわたしには、わからないことだ。

 

 友達のルームメイト、しかも珍しい同族ということもあって、悪い印象を持たれないように丁寧に挨拶する。簡単な自己紹介と、突然お邪魔してごめんなさいと。それを聞いた少女は、カバンを落として小さくなにか呟いた。

 

 なにか、おかしなことをしてしまったのかと心配になる。授業で習った通りに丁寧な挨拶をしたので、極端におかしいところは無いはずだ。少なくとも、あまりの酷さに唖然としてしまった、なんてことにはならないはず。

 

 大丈夫だったのか心配になって、ちらりとセレンちゃんの方を見てみると、わたしと同じように困惑した様子だった。ならばたぶんわたしの挨拶がおかしかったわけではないだろうし、残る可能性としてはわたしがここにいること自体がおかしかったのか、セレンちゃんが誰かを呼んでいることがおかしかったのかの二択だろうか。

 

「……お姉さま!」

 

 そんな、少しセレンちゃんに失礼なことを考えていたら、女の子はわたしに駆け寄って、ギュッと抱きつきながら泣き出してしまった。

 

 やっと会えたと、よかったと言いながら泣きじゃくる少女。身に覚えがなければ、この子が誰なのかもわからない。それでも、こんなふうに泣いている子をそのままにはできなくて、背中を撫でてあやす。

 

 わたしもセレンちゃんも、何もわからないまま、女の子が泣き止むのを待つ。どうすればいいのかお互いにわからなくて、言葉にせずアイコンタクトだけでやり取りをしたのは友達っぽくてちょっと嬉しかった。

 

「……ごめんなさいお姉さま、突然泣いてしまって。わたくし、西のエルフの里から参りました、エフと申します。血縁上は、お姉さまの妹にあたりますわ」

 

 わたしの制服を涙でグチョグチョにした少女は、しばらくして泣き止むと目を赤くしたままそう言った。わたしとセレンちゃんが同時にえっと声を出す。全く予想していなかったところから、全く予想していなかった繋がりが出てきたのだ。驚かないはずもない。

 

 とはいえ、いきなりそんなことを言われても全然事情が分からないので、唯一事情を理解してそうなエフちゃんに話を聞く。わたしすら知らない血の繋がりなんて、聞く先は一人しかいない。事情を知っているかもしれないお父様とお母様は、里のみんなは、もう居ないのだから。

 

 エフちゃんの話してくれた内容をまとめると、わたしたちのお父様はエルフの血を絶やさないために、色々なところで色々人と関係を持って、子供を作る役目だったらしい。わたしの後にもお父様は何人も子供をもうけており、その中の一人がエフちゃんだそうだ。

 

 そしてエフちゃんの姉、わたしから見るとこれまた妹にあたる子が、魔王に魅入られて里の子供たちを殺してしまったせいで、エフちゃんは一人になってしまった。そんなところを師匠に助けられて、同じように助けたセレンちゃんがいるこの学園に行くように手を打ってくれたらしい。色んなところで人の事を助けているなんて、なんとも師匠らしいことだ。それにセレンちゃんも師匠に助けられていたなんて、全く知らなかったからびっくりしてしまった。

 

 それに、魔王。わたしがいつか倒さなくてはならない存在。みんなのことを殺してしまった、許すことの出来ない存在。アレが、また不幸な人を増やした。アレが、また土地を焼いた。許せない。許せないけど、まだわたしには何も出来ない。

 

 二人に、わたしの目的のことを話す。バカにされるかもしれないけど、本気として取ってもらえないかもしれないけど、それでも口に出したかった。口に出すことで、自分の気持ちをさらに強く固めたかった。

 

「わたくしは、お姉さまのことを信じますわ。他の誰よりも選ばれたお姉さまなら、お姉さまに流れる気高き血なら、きっと成し遂げられます」

 

 目を潤ませながら、わたしのことを見つめて肯定してくれるエフちゃん。この子のことはまだ何も知らないけど、この目を見ただけで、言葉を聞いただけで、守ってあげたいと思った。大変な目にあってきたこの子を、まだそうとは認識できないけど、わたしの妹を、守ってあげたい。きっと、これまで辛い思いをしてきたはずだから。

 

「私も、アリウムのことなら信じられる。そして、貴女のためならなんでも協力してあげる」

 

 セレンちゃんも、わたしのことを認めてくれる。まだ今日会ったばかりなのに、何故かずっと一緒にいたみたいに馴染む二人。どうしても、このふたりが他人だとは思えなかった。

 

 

 わたしと同じ、エフちゃんの目がキラキラ光るのを見ながら、そう思う。なんでそう思ったのかは、わからない。でも、本当にそうなのだと思えた。

セレンちゃん視点の単発エピソード

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